取材に応じた鈴木敏夫プロデューサー

取材に応じた鈴木敏夫プロデューサー

ジブリの企業CMは「好きなようにつく
る」のが信条 鈴木敏夫が明かすショ
ートアニメ制作の内幕

取材に応じた鈴木敏夫プロデューサー スタジオジブリが制作した企業CMや短編を収めた作品集「ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016」(7月17日発売)。長編制作のかたわら、四半世紀にわたってつくられてきた32にもおよぶ収録作からは、宮崎駿、近藤喜文、百瀬義行らジブリアニメを支え続けてきたクリエイターたちの新たな一面を垣間見ることができる。「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」(文春新書)で長編作品のメイキングを総括した鈴木敏夫プロデューサーに、“もうひとつのジブリの歴史”ともいえるショートアニメ制作の舞台裏を振り返ってもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
 ジブリが本格的に企業CMをつくりはじめたのは、「千と千尋の神隠し」が公開された2001年から。ジブリの映画に協賛する各社などからCMの依頼があっても断り続けてきたが、いよいよ断りきれなくなったことがCM制作に乗り出した正直なところだったと鈴木プロデューサーは苦笑する。
「いろいろな人にお世話になると断りにくいじゃないですか。ジブリの企業CMや短編は、そんな“ギブ&テイク”の関係から生まれてきた作品が多いんです。また、最初は新人研修の役にたつかもしれないと思ったんですが、やっぱり短いものは世間の目が厳しいんですよね。そうなると畢竟(ひっきょう)、上手な人に頼まざるをえなくなる。結果として、腕っこきの人ばかりにつくってもらうことになりました」
「ジブリがいっぱいSPECIALショートショート 1992-2016」ジャケット(7月17日発売/ブルーレイ:4700円+税、DVD:3800円+税)(c) 2019 Studio Ghibli ジブリが企業CMを制作するさいには、異例の条件があった。それは「好きなようにつくる」こと。コンペや細かい調整が必須と思われるコマーシャル制作にも、ジブリ流のやり方が貫かれていた。
「ジブリに依頼してくださった方に丁寧に謝りながら話したのは、ジブリは注文に応じてつくる経験がありませんから、まずは好きなようにやらせてくれませんかということでした。で、それが駄目だったらやめましょうと……態度でかいですよね(笑)。でも、そのほうがいいものができるんじゃないかとも思っていたんですよ。基本的に単独の商品のCMはつくらないというルールも設けていて、だからジブリのCMは企業広告が多いんです。そうなると、だいぶやりやすくなるんですよね」
 アニメーターはあらゆる物事を観察してキャラクターに的確な芝居をさせる、実写映画でいう役者やカメラマンのような役どころ。そんなアニメーターたちに、普段できないことをやってもらう実験的な意味合いもあったのだという。
「アニメーションの究極って、四角と三角だけで描かれたものを動かす単純なものになっていくところがあって、そこに“動く楽しさ”があるんですよね。そうした楽しさこそ子どもがいちばん喜ぶもので、CMや短編ではそうしたシンプルなものをつくっていければとどこかで考えていました。アニメーターも動きや芝居そのものを描きたい人が多くて、キャラクターは別の人が描いてくれたほうがいいとすら思う人が多い。上手な人ほど、そうした傾向にあります」
 「ショートショート」映像集には、高畑勲監督がその才能にほれこみ、「かぐや姫の物語」「ホーホケキョ となりの山田くん」でタッグを組んだ田辺修氏が手がけた読売新聞の企業CM「瓦版編」も収録されている。「かぐや姫」のメイキングを見ると、田辺氏にその気になって仕事をしてもらうことの大変さがうかがえるが、CM制作ではどうだったのだろうか。
「彼は本当に上手いアニメーターですが、なかなかジブリの仕事をやってくれないんです(笑)。こだわりのある上手い人ほどそういうところがあって、当時のジブリには大変な腕をもちながらなかなか仕事をしてくれない人がいました。昔は、他の世界にもそういう人がいっぱいいたと思うんですけどね。細かいことは覚えていませんが、彼のような職人肌の人たちに小細工は通用しませんから、率直に『やって』とお願いしたはずです。CMはギャラが高かったりしますから、そういう意味でも彼のジブリへの貢献度は高かったと思います」
 「となりの山田くん」制作後のジブリでは、こだわりの強い腕利きのアニメーターが集う梁山泊のような新スタジオ(第4スタジオ。通称4スタ)が開設される。田辺氏ら4スタに所属していたアニメーターの仕事を見ることができるのも「ショートショート」の醍醐味のひとつだ。
「僕が言うのもなんですけど、『ショートショート』に収められた作品はどれも品質が高いと思います。長編はいろいろあって早く進めていかないといけませんが、短いものは締め切りがないと、なかなかつくり手が納得する到達点までいかないんですよね。(三鷹の森ジブリ)美術館で上映している短編で、いちばん最近だと『毛虫のボロ』がありますが、あれは14分で3年かかっていますから。それを言うと、宮さん怒るんですけどね(笑)。それぐらい、やりだしたら際限がないものなんです。
 ショートショートをしばらくやって、あんまり実入りのいい仕事じゃないなということも分かってきました。アニメーションはまずキャラクターをつくり、状況や話にあわせて大道具や小道具を考えていきますが、これってショートでも長編でもやることはほとんど同じなんですよね。短ければ早くできるだろうなんていうのは嘘で、そう考えると効率が悪いなと思ったことがあります」
ハウス食品「おうちで食べよう。」シリーズCM(c) 2015 Studio Ghibli 宮崎駿監督が手がけた、ハウス食品「おうちで食べよう。」シリーズCM夏バージョン(2003年。2016年にリメイク)の制作エピソードも語られた。
「宮さんはカメラマンと組んで、都内周辺の古い家を訪ね歩く連載をやっていたことがありました(※「トトロの住む家」)。『おうちで食べよう。』では昭和30年代の風景が描かれていますが、あの連載の影響が大きかったんじゃないかと思います。宮さんの描くキャラクターには必ずモデルがいるという話をよくしますが、建物や風景についても同じです。イメージだけで描いているわけではなくて、自分が見たものを頭のなかで再構成している。彼の映像的記憶力はすごくて全部絵で覚えてしまうんですよね。新しい場所にいくと必ず刺激をうけて、それを血や肉とする人なんです」
 鈴木プロデューサーは、制作中に宮崎監督から「カレーを出さなくていいの?」と聞かれて「困っちゃった」と笑う。
「CMに商品名をださない約束でつくっていて、あのカレーをださないように僕がどれだけ苦労していたかを知っているはずなのに……(笑)。なんだかんだでスポンサーのことも気にするんだから面白い人ですよね」

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