KERAの名作戯曲『フローズン・ビーチ
』プレビュー公演 鈴木裕美の演出で
よりスリリングな会話劇に

数々の名作舞台を生み出してきた劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)の戯曲を、様々な演出家によって異なる味わいで新たに創り上げる連続上演シリーズ「KERA CROSS」の第一弾『フローズン・ビーチ』のプレビュー公演が、2019年7月12日(金)から14日(日)まで、神奈川県の杜のホールはしもと・ホールで行われた。
『フローズン・ビーチ』は、1998年にKERAの作・演出で自身の劇団「ナイロン100℃」の公演として上演、第43回岸田國士戯曲賞を受賞した後、2002年に再演された。今回は、今年4月に新国立劇場にてフルキャストオーディションで上演された『かもめ』が、各キャラクターの個性が際立つ群像劇として高い評価を得たばかりの鈴木裕美の演出で上演。KERAの描いた「サスペンス・コメディ」から、会話のスリリングさがより際立つ舞台になっている。
撮影:桜井隆幸
大西洋とカリブ海の間に浮かぶ小さな島の別荘で、島の開発をしている資産家の娘・愛(花乃まりあ)、愛を訪ねて島に来た幼馴染の千津(鈴木杏)とその友人・市子(ブルゾンちえみ)、愛の双子の姉・萌(花乃の二役)、愛の父の後妻・咲恵(シルビア・グラブ)の5人が、1987年、1995年、2003年と16年にわたって繰り広げる数奇な運命を描いた物語は、先の読めない展開で驚きの連続だ。憎しみや羨み、信頼や信念、それぞれの登場人物がそれぞれの思惑で取った行動が、誤解やすれ違いから思わぬ方向に転がっていく様は、KERA戯曲の真骨頂といえる。鈴木裕美は、戯曲への深い理解を持って物語を読み解き、会話と行動を明快かつ緻密に積み上げていく。

撮影:桜井隆幸

撮影:桜井隆幸
KERAの作・演出作品は、彼自身が得意とするナンセンスコメディの色が濃く出るため、笑いのセンスや、演出手腕がどうしても印象に強く残りがちだが、鈴木が演出することにより、今作の戯曲としての物語の強さがより純度を増して前面に出る形となっている。日本から遠く離れた小さな島を舞台にした虚構の世界が、身近な出来事として生々しさを伴って迫ってくるように感じられた。
観客にとって、1998年の初演時には“未来”だった2003年のシーンが、2019年の上演では16年前の“過去”となる点が、時を経てこの戯曲を上演する面白さの一つになっている。KERAがユーモアを持って描いた“未来”を現在の世相と照らし合わせてみると、案外現実に近いのかもしれないという気もして、うっすらと背筋が寒くなった。
撮影:桜井隆幸
撮影:桜井隆幸
KERA作品への出演経験がある鈴木杏が、運命に翻弄される千津を深刻にならず滑稽に見せ、物語に軽妙さを与えている。これが初舞台となるブルゾンは、映像で見る強烈な個性とはまた異なるエキセントリックさで、市子というキャラクターの底知れぬ不穏さをにじませる。花乃は持ち前の華やかさと清潔感で、したたかで狡猾でありながらも純粋な一面も見せ、役に説得力を持たせる。シルビア・グラブは陽気で明るい咲恵を嫌味なく豪快に演じ、全体的に抑制のきいた演出の中、突き抜けた明るさが見る者の心を和ませる。
撮影:桜井隆幸
KERA戯曲を鈴木裕美演出で見ることにより、綿密に計算された会話劇という面を強く感じ、じっくりと登場人物たちの関係性や駆け引きを楽しむことができた。今回が「KERA CROSS」の第一弾ということなので、第二弾以降もKERA戯曲の新たな魅力を再発見できる企画として続いて行ってくれることを期待したい。
撮影:桜井隆幸
本出演者を代表し、鈴木杏がメッセージを寄せたので紹介する。
「戯曲自体もスリリングですが、少人数で台詞量も多い芝居なので、舞台上にいる私たちもスリリングな日々を送っています。でも、やればやる程KERAさんの戯曲の、面白さ、難しさ、楽しさ、を体感しながら日々過ごせているので幸せです。この面白さを観客の皆様にもお伝え出来たらと思い、私たちも稽古を重ねてきました。これから色々な場所で公演をさせて頂きますが、皆様にお楽しみ頂けるように、更に精進して各地に伺いたいと思います。是非、劇場に足を運んで頂けたらと思っています。宜しくお願いします」
本公演は、橋本プレビュー公演の後、新潟、福島、を経て、7月31日に、日比谷・シアタークリエにて公演、その後、大阪、静岡、愛知、高知、高松を巡演する。
取材・文=久田絢子

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