『めにみえない みみにしたい』作・
演出を手がける藤田貴大に聞く~子ど
もたちの想像力を信じて

昨年春に上演された、藤田貴大による子どもから大人まで一緒に楽しめる演劇作品『めにみえない みみにしたい』がさらにパワーアップして、2019年7月13日より埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 小ホールで再演されている。また、その後は夏にかけて全国ツアーが行われる。年少の子どもたちでも見られる作品を書き下ろしたきっかけ、作品に込められた思いについて、藤田に話を聞いた。
子ども向けの作品を作った理由
──『めにみえない みみにしたい』は、昨年の4月に彩の国さいたま芸術劇場で初演されました。今回は再演で全国をまわりますが、年少の子どもたちを対象にした作品を書かれたのは、『めにみえない みみにしたい』が初めてですか?
はい、初めてです。でも以前から、マームとジプシーの公演では年齢設定というのは設けてきませんでした。実際に小さな子が観に来てくれることもあります。ただ、ここまで作品をつくってくるなかで、劇場の雰囲気や作品の内容など、いろんなレベルにおいて、なんとなく“大人が観るもの”になっていってしまっているのは感じていました。
そんな時、彩の国さいたま芸術劇場のプロデューサーの方から「子ども向けの作品を作りませんか」と声をかけていただいたんです。ちょうどぼくが30歳になる時期で、つまり、学生時代から一緒に仕事をしてきたまわりの俳優やスタッフたちも30代になっていく、ひとつの過渡期でもありました。マームとジプシーは、その初期から「子ども時代」を描く作品が多かったのですが、ぼくたちの成長とともに、そこから一歩踏み出したいという思いがあったんです。そこにちょうど今回のオファーがやってきた。
ここ数年は中学生や高校生と作品をつくる仕事が増えてきたこともあって、自然な流れのなかで、子どもたちが観に来れる作品をつくることになりました。
『めにみえない みみにしたい』(藤田貴大作・演出) 撮影/細川晋司
子どもたちの想像力を信じること
──『めにみえない みみにしたい』は、主人公の女の子が夜の森へと探険に出かけるところから始まります。
数年前、京都で『0123』という連作を発表したのですが、その時に「ヘンゼルとグレーテル」や「赤ずきん」などの古い童話をモチーフにしたんです。今回のストーリーは、その延長線上にあると言ってもいいかもしれません。つまり、小さな子どもが自分の安心できる場所から外へ出て、なにか大きなことを経験して帰ってくる物語。
たとえば、これを大人向けの作品にしようとすれば、「なぜ子どもを一人で家から出したの?」「どこへ行くの?」という理由づけを細かくしなければなりません。だけど今回は子どもたちに観てもらうということが前提にあったので、あえてそういった説明を省くことにしました。きっと彼らは、自分の知っている物語とつなげて考えてくれると思ったからです。
だからこの作品では、「赤ずきん」のように、おばあさんの家になにかを届けるという具体的な目的があるわけではありません。夜の森をゆくなかで、目に見えない生きものに遭遇したり、聴こえてくるはずのない音が聴こえてきたり……そういう漠然としたイメージのなかを彷徨うわけです。子どもを対象にすると、ある意味で「物語」の部分をすっ飛ばしていいところがあると感じていて、作っていてその調整が楽しかったですね。「物語」ではなくて、「詩」で表現できる部分が多かったというか。
――子どもを主人公にすることで、かれらの想像力を借りて飛んでいくことができる感じ?
そうなんです。だから、「子ども向けにつくっている」というよりは、「子どもたちの想像力を信じてつくっている」という気持ちですね。だから一回一回、客席の反応や雰囲気が違うのも面白いですよ。上演ごとに毎回発見があるので、ツアーで全国各地を回るのがとても楽しみなんです。
『めにみえない みみにしたい』(藤田貴大作・演出) 撮影/細川晋司
ゲーム感覚で森のなかへ
──上演ごとの発見といえば、『めにみえない みみにしたい』では、作品内にゲームを取り入れることで「二度と同じものができない」という面白さがありました。
ここ数年、マームとジプシーはボードゲームにハマっているんです。今回の作品では、舞台の上でのゲーム性をとくに突き詰めて考えました。
たとえば、「じゃんけんぽんの木」のくだり。じゃんけんの勝ち負けで、女の子の進むルートが三通りに変わるしくみになっているのですが、それぞれ台本のテキストが違うので、俳優は何通りものセリフを憶えていなくてはいけないんです(笑)。だけど、そのライブ感というのは子どもたちにも伝わるんじゃないかと思っていて。「もしパーが負けていたらどうなっていたの?」と、想像してくれたら嬉しいし、その時間こそが大切だと考えています。
『めにみえない みみにしたい』(藤田貴大作・演出) 撮影/細川晋司
戦争と遠くにある未来
──ファンタジーともいえる想像力の世界のなかに、劇中では突然、大きな不安としての戦争のイメージが挿入されますね。
ぼくにはまだ子どもがいないのですが、もし子どもがいたとしたら、考えなければならない未来というのがざっと50年は延びるわけですよね。そのなかでいちばん不安かつ、現実に近づいてきてしまっていると思うのが「戦争」なんです。戦争に巻き込まれるだけでなく、たとえば、戦争に自ら行かなくてはならなくなる、もしくは大切なひとを戦争によって失う、というような不安は、いまの政治の話を置いておいても、だれしも想像したことがあると思います。これは子どもたちに限らず、一緒に観にきてくれる大人たちにももちろん考えて欲しいことでもあって。
たとえば、「ヘンゼルとグレーテル」で描かれる“親が子どもを捨てる”シーンというのは、この時代に大飢饉があったからだと言われています。童話はその時代の鏡でもあると思っていて、そういう意味では、この作品のなかに戦争というモチーフが入り込んできてもおかしくない。今回音楽を担当してくれている原田郁子さんとは『cocoon』(今日マチ子原作)という沖縄戦から着想を得て描かれた作品でもご一緒したので、そういうやりとりをさらに重ねながら考えてきました。
戦争をしていた時代を描くにしても、あの時代に生きていたとしたら、自分はどうしていただろうということまで想像しなきゃいけないような気がしています。つまり、過去と現在、そして未来に生きる人も、すべては繋がっていて無関係ではない。それに対して、どうアプローチしていけばいいのか、ということは常に考えています。
今回の作品では具体的な戦争を描いているわけではありませんが、時間にしたら1、2分のあるシーンは、ぼくにとってはとても大切なものです。
『めにみえない みみにしたい』(藤田貴大作・演出) 撮影/細川晋司
生活に追われてる人たちに立ち止まる瞬間を
──では、これから観に来てくれる子どもたち、そして、むかし子どもたちだった人たちに『めにみえない みみにしたい』を通して伝えたいことを聞かせてください。
まずは、ふだん忙しくしているみなさんが、この休日をどうしようかと悩んだ結果、ぼくがつくった作品を観るのを選択してくれたことが嬉しいんです。だから、内容の深いところを読み込まなくても、シンプルに楽しい時間を過ごしてくれたりすればいいなと思っています。演劇はだれがなんと言おうと「エンターテインメント」なんですから。
作・演出を手がける藤田貴大。
取材・文/野中広樹

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