odolは現体制ラストワンマンとなった
自主企画『O/g-10』で何をみせたのか

O/g-10 2019.7.4 渋谷WWW
odolの自主企画『O/g(Overthinking and great Ideas)』。このイベントには“odolがシンパシーを感じるアーティストと共に「思考を超える実感の場を作る」”というコンセプトがあるため、これまでは対バン形式で開催されてきたが、7月4日に開催された『O/g-10』はワンマンライブであった。とはいえ、森山公稀(Pf/Syn)のサウンドインスタレーション作品「Sounds / Threads」が展示されたり、4月の『CROSSING CARNIVAL -visual edition-』でも披露されたKITEによる映像演出が一部の楽曲で再び行われたりと、“音楽以外のアートと交わる”という視点でジャンルの越境が行われていた。
odol 撮影=今井駿介
また、この日は9月30日を以って脱退することが発表されている早川知輝(Gt)を含めた6人で行う最後のワンマンだった。1曲目は、6月19日にデジタルリリースされた新曲「眺め」。<さようなら/いつかどこかでまた会える/その日を待とう>というシンプルだが奥深い言葉に、やはりバンドの現状を重ねて見てしまう。小川みたいに流れていく鍵盤の旋律はやさしく美しいものだ。
odol 撮影=今井駿介
ここでミゾベリョウ(Vo/Gt)が「『O/g』へようこそ。odolです、よろしくお願いします」と挨拶。「眺め」では井上拓哉(Gt)、早川がシンセを演奏する編成だったが、次の「憧れ」でエレキギターに持ち替え、ツインギターのカッティングから「綺麗な人」の疾走感へと繋げる流れだ。垣守翔真(Dr)のプレイをきっかけにアンサンブルの層がもう一段階分厚くなったシーンなど、バンドの情熱的な一面が剥き出しになる。
odol 撮影=今井駿介
一転、打ち込みのストリングスによる3拍子リフも印象的な「人の海で」は、シンセやシンセベース、ドラムパッドを使用したエレクトロニックな編成。そこから「発熱」、「狭い部屋」と続いていく。6人が鳴らすそれぞれ独立した楽器による音色が、じんわりと混ざり合い、互いに侵食しあいながら新しい情景を描いていく。全体的に暗めのトーンで、しかし上部だけはぼんやり明るいという深海を彷彿とさせるライティングも相まって、彼らの表現の深層に潜り込むような感覚に。
odol 撮影=今井駿介
スピード感で言うとややゆったりとした、それなのにバンドが演奏するなかでも平然と映えてくるミソベの歌声は、独自の時間軸を生きているよう。その不思議な歌声でドラマティックなメロディを歌い上げる「飾りすぎていた」が、この日最初のクライマックスとなった。間奏での泣きのギターソロも最高だったし、他のメンバーがそれと同じ熱を持って演奏していた点にもグッとくる。同曲終了後、ミソベが「ありがとう」と一言告げると、フロアから大きな拍手が発生。それまでは曲間でも拍手をする間がなかったというか、会場全体がバンドの演奏に呑まれてしまっていただけに、観客の拍手には万感の想いが託されているような感じがあった。そしてこれ以降、ミソベが各曲の終わりに短く「ありがとう」と言うようになる。
odol 撮影=今井駿介
「愛している」で前半を終えると、垣守がビートを鳴らすなかステージ後方の幕が開き、奥に隠れていたスクリーンが露わになる。「four eyes」以降はスクリーンにKITEによる映像を投影しながらの演奏。例えば「four eyes」では4つの目と口などのコラージュ、「声」では6つの図形、「大人になって」ではメンバーの演奏による波に合わせて揺らぐ6本の線(「Sounds / Threads」と近いものを感じる)がスクリーンに投影された。先述のように映像演出自体は『CROSSING CARNIVAL -visual edition-』でも見られたものだが、バンドの演奏はこの5ヶ月で進化している。映像のアングルが素早く切り替わるなか演奏も次第に激化していく「four eyes」終盤をはじめ、全体的に4月のライブよりも映像とのシンクロ具合が増していた印象。また、ライブならではのアレンジも冴えわたっており、特に4ビートを利用しながら2曲を一繋ぎにしてみせた「夜を抜ければ」~「大人になって」が秀逸だった。
odol 撮影=今井駿介
イントロから続くピアノリフとそれとほぼ同じ動きをするShaikh Sofian(Ba)のスラップベースが特徴的な「POSE」を終えるとMCへ。ここではミソベが、9月末で早川が脱退することに触れ、「早川からのメッセージはホームぺージに載っているものがすべて」と前置きしつつ、「今日は6人体制のodolからみなさんへ、演奏で感謝をお伝えしようと思います。あと2曲お聴きください」と観客へ伝えた。
odol 撮影=今井駿介
「虹の端」を経て、本編ラストに演奏されたのは「光の中へ」。マーチのように軽やかなスネアのロール、メジャーコードの晴れやかな響き、そして<そうやってまた/僕らは変わっていける>という確信に満ちた一節が、“現体制ラストワンマン”という言葉からイメージされる感傷を吹き飛ばしていった。この日のライブは“現時点での集大成”と言って差し支えのない内容だったが、おそらくここが最高到達点ではない。驚くべきアイデアを基に挑戦を続ける彼らならば、まだまだ違う景色を描き続けてくれることだろう。そう思えるほど、ポジティブな空気に満ちたライブだったのだ。
odol 撮影=今井駿介
だからodolや早川の今後に関して特に心配すべき要素はないし、10~11月に東名阪で開催される『O/g-11』~『O/g-13』も楽しみではある。だがやはり、ギタリスト・早川と、彼を擁したodolの姿を10月以降は観られないのだという事実に関しては、シンプルにもったいないなあとは思う。
odol 撮影=今井駿介
アンコールでは、森山から「やっぱお言葉聞きたいよね」と促された早川が「一言で言うと感謝でいっぱいです。見つけてくれてありがとうございます。気づいてくれてありがとうございます。来てくれてありがとうございます。“ありがとうございます”って言葉に集約されてます」と挨拶する場面があった。この挨拶をする前に、早川は喋るのが苦手だと自分で言っていたし、こうして文字に起こしてみるとたどたどしさが拭えない。しかし、この日の彼の演奏は――特にラストの「生活」のギターソロはとても感動的で、ギターの音色は言葉よりも何よりも雄弁で、やはり彼は根っからのミュージシャンなのだと思わざるをえなかった。で、この日のライブは、odolはそういう“ミュージシャン”の集まりのバンドなんだよなあ、そういうところが美しいんだよなあ、ということを改めて実感させられるようなものだったのだ。
odol 撮影=今井駿介
公式サイトのコメントを見る限り、早川は今後、ギタリストとして表舞台に出るつもりはないようだ。残るライブは、Helsinki Lambda Clubとの中国ツアーと国内フェス数本のみだが、タイミングの合う人はぜひライブを観に行ってほしい。今回行けなかった人は、特に。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=今井駿介
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