あの桃太郎が戦国時代にいたら…そん
な構想を元に生まれたSCANPの『桃太
郎狂言記』が名古屋で開幕

2012年まで〈名古屋おもてなし武将隊〉で初代・織田信長役を務め、タレントとしても活躍する憲俊率いるSCANPの第9回公演『桃太郎狂言記』が、7月11日(木)~14日(日)まで名古屋の「千種文化小劇場」にて上演される。
『桃太郎狂言記』は、2015年にSCANPの5周年公演として初演。今回の公演でSCANPを卒業するメンバーの藤田誠樹が初舞台を踏んだ作品でもあることから、藤田の希望で4年ぶりの上演が決まったという。再演にあたり、初演をベースにしながら脚本を改訂、キャストも大幅に変更したブラッシュアップバージョンとして上演することになった本作について、SCANPの代表であり本作の原案者である憲俊と、演出を手掛ける小森耕太郎に話を聞いた。
<あらすじ>
ここは[風松]。農民が貧しく暮らす小さな国。幼き頃、戦によって両親を失った桃太郎は、犬彦・猿吉・雉子という悪友とともに、盗みを行う毎日を送っていた。そんな中、[風松]の新大名となった吉備家が圧政を始め、農民の生活は更に苦しくなっていく…。桃太郎たちは、ライバルの武士・太助を仲間に迎え、城に喧嘩をふっかける! 桃太郎と太助、2人の秘密が暴かれる時、国を巻き込む大戦乱が始まる…! 誰も知らない【桃太郎】戦国絵巻!
SCANP『桃太郎狂言記』チラシ表
── 『桃太郎狂言記』の初演は2015年ということですが、そもそもこの作品を立案されたきっかけから教えて下さい。
憲俊 僕は7年前に〈名古屋おもてなし武将隊〉を辞めているんですけど、当時から「和モノの舞台はいいな」という気持ちが生まれていたんです。めちゃくちゃ単純なことなんですけど、たまたま映画の『アリス・イン・ワンダーランド』と『ジャックと天空の巨人』を続けて観て、童話って面白いな、と思いました。でも、外国のものだから親近感も湧かないし、よくわからない。じゃあ、日本のもので何か考えたいなと思って、「桃太郎」や「竹取物語」で舞台にできるような構想を描き出したんです。そこから、僕の好きな戦国時代に桃太郎がいたらどうなるかな? と考えたことがきっかけです。
── 宮谷さんに脚本を依頼した時は、どのようなオーダーを? 
憲俊 プロットよりはもう少し細かいあらすじや設定を渡したような記憶があるんですけど、何がやりたかったかというと、例えば、700年代に坂上田村麻呂という大将軍に弾圧された東北地方の蝦夷という部族とか、第二次世界大戦の日本もそうですけど、虐げられた側にも正義があって、それが歴史に乗らない隠れた英雄だ、という僕の信念がありまして。2016年のSCANP SIX『壬生浪士無頼伝』でも、新撰組の芹沢鴨という主役ではない、教科書には載らないけど英雄、という人物をクローズアップしました。僕は、弾圧された側の悔しい気持ちや苦しみとか、そこにも正義があった、ということが好きなんです。
稽古風景より
── 以前、取材させていただいた『南方の兄弟』もそういう物語でしたね。
憲俊 そうなんです、そこは変わらないんですね。“力のない者の誇り”が好きなので、そういうものを入れて描いてほしい、というオーダーをしたと思います。
── 初演から4年経って、いまこの作品を再演しようと思われたのは?
憲俊 僕はやりたいことがありすぎて、実は岡田以蔵(“人斬り以蔵”と呼ばれた江戸時代末期の土佐藩郷士)を中心にしたチャンバラ劇もやりたかったんですよ。でも、藤田誠樹がSCANPを辞めることになったので、「何をやりたい?」と聞いたら、SCANPに入って一番最初の舞台が『桃太郎』でそれをやりたいということだったので、じゃあ今回はそのために動こうかと。4年で再演はちょっと早いなと思ったんですけど、演出の(小森)耕太郎さんとも話して、一番絵になる作品だし、いいんじゃないかと。でも、再演してみると勉強になりますね。4年前はエネルギーでクリアしていた部分がクリアできていない今の現状とか。それは自分が大人になったのか、みんなが大人になったのか。悪い風に言うと牙が抜けたのか、芝居に重点を置くようになったのかわからないけれども、いろいろと考えることがあります。
── キャストは当初から今回ぐらいの人数(日替わりゲストを含め、1ステージの出演者は30名。うち6名はWキャスト)で考えていらしたんですか?
憲俊 初演の時は、SCANPで初めての大殺陣をやろうということで23人でした。チャンバラなんで多ければ多いほど良くて、今回は殺陣衆というかアンサンブルとして18名出ますけど、理想を言えば50人~100人ぐらい出てもらえると、もっと面白くなるかなと思います。殺陣ができる人もそうですけど、最近は作品を楽しんでくれる、芝居が好きな人を集めたいですね。
稽古風景より
── 今回の再演にあたって、初演から30分位カットされているということですが、脚本の改訂については演出の小森さんから宮谷さんにお話されたんですか?
小森 そうですね。僕から宮谷に話して、殺陣の分量が増える形にしてもらいました。前回はその部分がバラついていたな、というのと、要素が多かったのでその部分を切って、殺陣が中心の芝居にしようと。要するに、前回は桃太郎が斬らなきゃいけない中心人物がいっぱいいてちょっと手数が多いなと思ったので、中心人物を一人削ってバランスを良くしたというのかな。
宮谷の脚本は面白くて、行間がすごく濃いんですよ。そのまま字面だけ追っかけてやるとペラペラになっちゃうんですけど、その部分をどう埋めていくか、という作業をすると、キャラクターも綺麗に書かれているし、すごく手前に伏線が張ってあったり、言葉一つひとつもそうですけどちゃんと役割が描かれている。今回コンパクトにした割にはその辺を残しつつ、良いバランスで書けているんじゃないかな、と思います。
── 演出的には、殺陣を中心にした、という部分以外で今回試されていることはあるのでしょうか。
小森 今回は一部がWキャストなんですけど、同じ芝居をしてもつまらないと思っているので変えました。この人物が何をする人でこういう人間で、という本質は変わらないけど、役者を見て、「こいつだったらこういう風にやった方が面白いな」とキャラクターを変えたり、その時々に合わせて立ち位置も変えたりしています。固定キャストは2種類の芝居を覚えなきゃいけないから大変かもしれないけど、〈風team〉と〈松team〉の両方を観る人でも楽しめるよう、意識的に変えています。例えば、桃太郎(藤田誠樹)のライバルである太助はWキャストなので、藤原(孝喜)の方は、フレンドリーで爽やかで、積極的に民と交わろうとする男として演じるけど、(岩崎)真の方は、鉄仮面のように無表情で自分に厳しく相手にも厳しい、というようなメリハリをつけています。
稽古風景より
── 脚本以外の部分で、初演から大きく変わったところはありますか?
小森 一番違うのは、メインキャストが若くなったことかな。アンサンブルの数も増えたので迫力はより増していると思うし、今回は殺陣を中心に創っているので、そこの部分はかなり熱が変わってきたかなと。芝居に関しては、敢えて芯を張れるような人たちが脇に回っているので芝居自体が膨らんでいるなぁというのも感じます。前回は憲俊が桃太郎を演じたので桃太郎が仲間を引っ張っている、という感じの芝居でしたけど、今回は犬彦・猿吉・雉子がうまく桃太郎を盛り上げて、この4人も綺麗なバランスでやれている気はします。
あとは初演の時に出来なかった部分を足し算している感じですね。初演の時のアンサンブルは女の子が多かったので、殺陣の部分もこれ以上分厚くすると怪我をするな、というところが、今回はアクションチームや東映で活躍している人が入ってくれたので、そういう部分の層も厚くなっています。殺陣で斬る、斬られるというのは結局お芝居なわけで、斬っている方は喋っているし、斬られている方はそれを受けている。そこで斬られていない人たちもリアクションをするわけなので、その部分を意識するように殺陣をする。ただ単に斬って斬られるだけじゃなくて、相手とどう会話しているのか、この殺陣にはどういう意味合いがあるのか。殺陣にも序列や芝居があるので、それを上手く表現してほしいし、敵わない相手との殺陣と、圧倒的に強くて「どうだ俺は」という時の殺陣は全く違うわけです。それがうまく見せられるとお芝居全体の景色になっていくはずなので、その辺は意識してね、とみんなに伝えています。
── この作品に於いて、一番の要にされているのはどんな点でしょうか。
小森 この作品の主題は、「復讐の連鎖というのは、所詮無意味なことだ」ということなんです。桃太郎は幼い時に親を殺されて、その仇が見つかって復讐しようといざ仇討ちしたら、「復讐で人を殺すことは、こんなに虚しいことなのか」と思う。その連鎖を止めなければいつまでたっても平和は訪れない、ということに気づいてほしい、というすごくわかりやすいテーマなんです。そこに対して小難しい哲学はいらないと思うんですよ。“正義と悪”という勧善懲悪の物語でもあるけど、一番は、人を斬って斬られて、ということでは平和は訪れない。テロリストではダメだということです。そういう普遍的なお話を創ったつもりなので、それを観客にどう伝えるか、ということですね。
それと、大事なセリフとどうでもいいセリフを、どうしたら上手く伝えることができるか。笑いの後に真面目なシーンが来る、というのが宮谷の脚本は多いので、その笑いと真面目な話の空気の切り方を稽古しています。セリフには感情のセリフと説明のセリフの2つしかなくて、実は難しいのは説明セリフなので、景色が見えるような言い方を工夫してくれ、と。例えば、「風松の町は平和になったね」というセリフをどういう間で、どのテンポで言うか。身体の位置や向け方、誰に言うか、というので変わってきて、ただ単に同じ流れで言ってしまうとその説明はフワーッと流れちゃうんですよね。
こういう芝居は殺陣にばかり目がいってしまって、「終わってみたら人だけ斬ってたね」になると非常につまらない。この作品の主役は当然、桃太郎なんですけど、本当の主役は実はアンサンブルと言われている農民と武士の人たちで、彼らがいい芝居ができたらこの作品は面白くなる。だからアンサンブルにすごく時間を掛けて稽古しているんです。『レ・ミゼラブル』みたいな力強いアンサンブルが出来たらすごく面白い芝居になると思うけど、そこがつまらないと言われたら演出の負けになる。俺も負け戦はしたくないから、そこは頼むぞ、っていう感じです(笑)。
SCANP『桃太郎狂言記』チラシ裏
取材・文=望月勝美

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