切ないメロディーと
儚げなヴォーカルが
リスナーの心を打つ
ジェイホークスの名作
『ハリウッド・タウン・ホール』
ジェイホークスというグループ
91年のある日、ツイントーンの代表デイブ・エアーズがデフ・アメリカン(現アメリカン・レコーディングス)のナンバー2で友人のジョージ・ドラクリアスと電話で話している時、たまたまジェイホークスの『ブルーアース』をBGMで流していた。ドラクリアスは「これは誰だ?」とエアーズに尋ね、エアーズは「うちのジェイホークスだよ」と返した。この後、ジェイホークスはデフ・アメリカンと契約することになるのである。念願のメジャー契約を果たしたジェイホークス、この時のメンバーはマーク・オルソン(ギター&ヴォーカル)、ゲイリー・ローリス(ギター&ヴォーカル)、マーク・パールマン(ベース)、ケン・キャラハン(ドラムス)という面子であった。
本作『ハリウッド・タウン・ホール』に
ついて
ドラクリアスは本作のレコーディングにあたり、彼らにキーボードを付け加えるべきだと助言し、ロック界屈指の名ピアニスト、ニッキー・ホプキンスとトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのメンバーで、セッションマンとしても有能なベンモント・テンチのふたりを起用している。彼らの参加により、サウンドに深みが出ただけでなく、より引き締まったサウンドになった。ドラクリアスはドラムの弱さ(ジェイホークスはグループ結成当初からドラムに恵まれず、アルバムリリースごとにドラマーが変わっている)が気になっていたので、著名なセッションドラマーのチャーリー・ドレイトンを呼び寄せ、リズム全体のコーチとしても使っている。
収録曲は全部で10曲(オリジナル盤)。前作『ブルーアース』に収められていた「Two Angels」と「Martin’s Song」の2曲を再録音している。ブレンダン・オブライエンをはじめとする有能なエンジニアたちによって、オルソン&ローリスの儚げなヴォーカルと彼らの繊細な音楽性が緻密に演出されている。傑作中の傑作「Waiting For The Sun」をはじめ、どの曲も名曲と呼ぶに相応しい仕上がりであり、ジェイホークスが90sオルタナティブシーンを代表する名グループであることがよく分かる。彼らのことをオルタナカントリーのグループだと言う人がいるが、彼らの音楽はグラム・パーソンズと同様、狭いジャンルに閉じ込めておけるほど小さくはない。
本作をリリースしてからジョー・ヘンリーの『Short Man’s Room』(’92)に全員で参加した後、キャラハンが脱退し、ドラムが不在になる。ドラクリアスの助言を聞き、女性キーボード奏者のカレン・グロッバーグを迎え、次作『トゥモロー・ザ・グリーン・グラス』(‘95)をリリースする。相変わらずドラムは不在で、昔馴染みのドン・へフィントンがゲスト参加している。内容は本作と双璧をなす名盤で、『トゥモロー・〜』を代表作に推す人も少なくない。マーク・オルソンは難病の妻(女性アーティストのヴィクトリア・ウィリアムス)をサポートするため、このアルバムを最後に脱退することになった。
僕の中ではこの時点でジェイホークスは終わったのだが、2011年にリリースした『モッキンバード・タイム』で短期復帰(このアルバムリリース後、すぐに脱退)を果たし、変わらぬ儚げな歌声を聴かせてくれた。
もしジェイホークスを聴いたことがないなら、これを機会に『ハリウッド・タウン・ホール』か『トゥモロー・ザ・グリーン・グラス』をぜひ聴いてみてください。きっと、何か新しい発見があると思うよ♪
TEXT:河崎直人