川本成×喜安浩平が描く、知られざる
声優の世界 舞台『お静かにどうぞ』
対談

時速246億主宰の川本成が原案、脚本・演出を喜安浩平が務める舞台『お静かにどうぞ』が2019年8月22日(木)からシアターサンモールで上演される。現役の演者でありながら、脚本や演出を務める二人。これまで何度も共演し、何かと共通点の多い2人が、令和元年の夏に繰り広げようとしている世界観はいったいどんなものなのか、対談の様子をお届けしよう。
ーーまず、上演を控えている舞台『お静かにどうぞ』はどのように生まれたのでしょうか?
川本:声優のバックステージものをやりたいなって、2年くらい前にふと思いついて、どうせやるなら喜安くんにお願いしたいな……って。
喜安:もうそんなに前だっけ?
川本:そうそう! あの話をしたのはどこだったけな? まあ、どっかの飲み屋か!(笑)
喜安:うん。たしか。いつも通り、飯食いながら話を聞いて……。
川本:喜安くんが二つ返事でOKしてくれて、その場ですぐに内容についての案を出してくれたよね。
喜安:お話を聞いたときに作品そのもののおもしろさはもちろん、声優という題材を扱うとなると劇作上、制限が多いシチュエーションも出てくるだろうし、それをどう作ればおもしろいかなって作る側としても興味が湧いたから、まあ深く考えずに。
川本:たしかに。作り手としては、そこは腕の見せ所というか、おもしろい部分かもね。
喜安:通常のアフレコ中って余計なことはしゃべれないですし、そもそもベースになるであろうアフレコする作品がおもしろくなきゃ、何分間も観客の方を置いてけぼりにしてしまうし。どうやって収録中のおもしろいことをおもしろく演出するかなって、ね。
川本:言いたい放題自由に話したよね(笑)。
川本成
喜安:そうそう。キャストも決まっていなかったから、今と比べてかなり自由に、あーだこーだ2人で話して。でも、そこから構想が大幅に変わることもなくここまで来た気もするな……。
ーーなるほど。そもそも川本さんが声優のバックステージものをやりたいと思ったのってなんでなんでしょうか? もちろんご自身の経験もあるとは思うのですが……。
川本:声優って一括りで説明できないんですよ。アイドル声優だったり、ベテランだったり、若手だったり、僕みたいに芸人出身だったり……。そういうバラバラな人たちが集まることで、繰り広げるおもしろさをスケッチ的に表現していきたいなって思ったんです。
喜安:そうやって、あらためて言葉にすると多様な世界だよね。
川本:あとは「テニスの王子様」で声優を始めたのが、だいたい20年くらい前なんですけど、そこから日本の声優業界とかアニメ業界ってかなり変わったなって思っていて。最近ね、自分の中でなんか考えさせられることがあると、すぐに舞台にしたくなっちゃうんだよね。
喜安:あー、 それはわかるかもしれない。
川本:40過ぎてからかな、自分のことを俯瞰するようになったのかもしれない。
ーーなるほど。劇中にさまざまなタイプの声優が出てくるとお伺いしているのですが、キャストさんも、また豪華ですね。
喜安:「どうせやるなら本物の声優さんでやりたいよね」って2人で話して、出演していただきたい方に声をかけていったんです。しかし、本当によくこんなに個性の強い豪華なメンツが集まったなと、感動しています。
川本:結構長期間かけて、声かけたよね。キャストが決まったのは、去年の10月くらいだっけ?
喜安:そうだね。皆さん、お忙しい方々なので「スケジュールは前もって押さえないと」と思って、かなり前から動き出したね。
喜安浩平
川本:いや、このメンツで、この回数できるなんて、本当にすごいよな……。
喜安:声優さんって、毎週決まったスケジュールで動いていることが多いので、演劇みたいに、ある決まった期間スポッと空けるって難しいだろうからね。
川本:でも「やります」って即答してくれた人がほとんどで。その中には、ありがたいことに、喜安くんと僕がやるというのを盛り上がってくださった方も多くて。嬉しかったな。
喜安:オリジナルだからこそ乗ってくれたのかなとも思いますけど、内容らしい内容もない中で、よくお返事してくださったなって……。
川本:信用してくれているんだろうね。だって、この人(キャスト)たちにとっては、リスクしかないんだから!
喜安:たしかに(笑)。でも、自分たちと共通言語がある、お願いしたかった人たちが次々に乗ってくださったことは、本当に嬉しかった。声優の仕事をおもしろく見せるって、ある意味冷やかす可能性もなくはないわけですから。当然、不誠実なものにはしないつもりですけど。
川本:あと、キャスティングのバランスもよいよね。
喜安:そうだね。演劇って、作品を作るのはもちろん、チームを作ることが大事だと思うんだけど、今回は経験とスキルのある人たちばかりを集めたので、あまりそこの心配はしていません。きっと与えた役が少し難しい、例えば整合性の取りづらい二面性を持ったキャラクターだとしても、その人たちなりに、自分たちらしく演じ切ってくれるのではないかなって、楽しみにしています。
(左から)川本成、喜安浩平
ーーなるほど。その豪華な皆さんが集まって、ここから一つの作品となっていくと……。
川本:一つになるのかね?(笑)
喜安:(笑)たしかに。
川本:なんというか個性を円グラフで表にしたとすると、飛び出しているようなチームだから、無理にまとめないで、大きい円にしていく作業ができればなっては思います。見ての通り、個性が強すぎる人ばかりですから、存分に自分らしく演じてほしい。もうね、小野坂昌也さんには、小野坂昌也さん役で出てもらうのが一番おもしろいんじゃないって思うくらい。
喜安:それ、おもしろいよねえ。 観客の方も「小野坂昌也さんって、こうやって仕事してるんだ」って信じながら見ちゃうんだろうし(笑)。
川本:もはやドキュメンタリーだよね(笑)そんな小野坂さんから「どのくらい稽古するの?」「台本はもう上がってる?」って、この間いち早く連絡が来たよ(笑)。
喜安:あはははは! まじめだな~。 今回みたいな座組となると、先輩なりに気も使うだろうし、あらかじめ心づもりしておきたいんだろうね(笑)。
川本:だろうね。まあ「秘密です」って送ったんだけど。
川本成
喜安:(笑)。でも、小野坂さんって本当にすごい人ですよ。本人が納得できるまで、何度も何度も反復して体に落とし込むんだもん。すごく誠実。
川本:そういうところが第一線で活躍されている理由なんでしょうね。超真剣だし。掘り下げ方がおもしろい。
喜安:小野坂さんだけでなく、いい意味でちょっとおかしいというか、真面目さが突き抜けてるからこそおもしろいって人ばかり集まったかもね。
ーーところで、お二人は、もうずいぶん長いお付き合いになると思うのですが、今回タッグを組むことの意味は何だと思いますか?
川本:僕、喜安くんが主宰する劇団ブルドッキングヘッドロックの舞台に以前出させていただいたときに「よーく見てんな、この人」って思ったんですよね。僕ね、よく目が笑ってないって言われて、昔はそれがいやだったんですけど、そういう悪さや毒があるのが魅力だと気づかせてくれたんです。
喜安:恥ずかしいですね。
川本:表面的なところだけじゃなくて、自分が気づかない自分を気づかせてくれるのはライバルでもありながら、憧れだし、鏡のような存在だなって。そういうお互いが自分で気付いていないところに気付けたらいいなって思います。目の前に喜安くんがいるからまとまらないけど(笑)。
喜安:十分伝わりました(笑)。僕は、おもしろいの感度が似ていること、何でも話してくれる気軽さがある一方で、持っている色や湿度が違うところが二人でやる意味なのかなって思います。ちょっとドライな言い方かもしれないけど、掛け合わさることで、お互いにメリットがあるんだろうなって思うんですよ。それぞれが普段劇団でやっているカラーとはまったく違うなにかが生まれて、さらに次に繋がるんじゃないかなって期待してます。
喜安浩平
ーーなるほど。そんな作品を、実際見に来る方に、どのような感じで届けたいですか?
川本:どうなんだろうか……。
喜安:どうなんでしょうね。きっと声優さんに興味がある方が多いでしょうから、そこを描きたい一方で、見ているうちにその人の生活が立ち上がってくるというか、舞台の上を見つめながら、それぞれの大事ななにかも思いだせるような感じにしたいですね。
川本:それってライブの魅力だよね!
喜安:そうそう!「ずっと集中して見てろ」ではなくて、自分がなにをしたい人なのかとか、普段の生活で向き合っていることなんかをふと思い出せるような作品にしたいです。それこそ、演劇の有用性だと思うので。
川本:あとは、声優さんって収録しているとはいえども、マイクの前で、生で演じたものを届けている職業なんです。その人たちが、舞台で演じる意味とか、演じるからこそにじみでる人間力を感じとってほしいなって。
喜安:そうだよね。ならではのおもしろさが、語り切れないほど詰まっていると思うので、笑うときは笑って楽しんでほしい。舞台上は、収録中で静かだったとしても、その状況が愉快なら大いに笑ってほしいです。
川本:ただ、携帯電話はマナーモードではなく、電源を切って、「お静かにどうぞ」。
喜安:あ、うまい。
(左から)川本成、喜安浩平
取材・文=於 ありさ 撮影=鈴木久美子

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