役者、観客、作品の新たな”匣”が開
く 橘ケンチ主演の舞台『魍魎の匣』
ゲネプロレポート

舞台『魍魎の匣』が6月21日(金)、東京・天王洲 銀河劇場にて開幕した。直前に行われたゲネプロと橘ケンチ(EXILE/EXILE THE SECOND)らが登壇した初日会見をレポートする。
原作は累計1000万部超の京極夏彦による小説「百鬼夜行シリーズ」の2作目。戦後間もない昭和20年代後期を舞台に、古書店「京極堂」の店主・中禅寺秋彦(橘)が謎に包まれた事件を解き明かしていく。
冒頭、電車内で関口巽(高橋良輔)が向かい合って座る久保竣公(吉川純広)の持つ箱に興味を持つ。中から少女の声が聞こえ、観客は関口同様、不思議な“箱”の存在に魅了されてしまう。
舞台を埋め尽くす箱が敷き詰められたような巨大なセットは圧巻。背景には作中に登場する小説の文字が浮かび上がり、物語の世界へ飛び込んだような感覚が味わえる。時折、四方を囲まれた“箱”のような可動式のセットも登場し、回想シーンなどが多面的に展開されていく。
女学生・柚木加菜子(井上音生)が列車に轢かれる事故が発生し、たまたま現場に居合わせた刑事の木場修太郎(内田朝陽)が事件に関わることに。加菜子と共に出かけていた楠本頼子(平川結月)から事情を聴く様子から、かなり熱血で正義感にあふれた人物であることを察することができる。
事情聴取の最中、増岡則之(津田幹土)や加菜子の保護者だという雨宮典匡(田口涼)、母親で元女優の柚木陽子(紫吹淳)が現れる。一命をとりとめた加菜子は、陽子の提案で名外科医の美馬坂幸四郎(西岡德馬)が所長を務める美馬坂近代医学研究所へ転院。しかし、誘拐、失踪、殺人が次々と巻き起こる。
一方、冴えない小説家の関口は雑誌記者の鳥口守彦(高橋健介)とバラバラ殺人事件の取材を行っていた。直前に気鋭の新人作家である久保から嫌味を浴びせられたこともあり、終始湿っぽい関口とお調子者ながら頭の回転が速い鳥口のやりとりは軽妙。随所で絶妙なコンビネーションを発揮していた。
複数の謎が提示されたところで、いよいよ“京極堂”こと中禅寺秋彦(橘)が登場。着流し姿は気だるげで憂いのある佇まいだ。初対面である鳥口の素性を的中させ、説得力のある声色と口調で切れ者っぷりを観客に印象付ける。
他人の記憶が見える能力を持つ “推理をしない探偵”・榎木津礼二郎(北園涼)も、とある依頼を受けたのを機に京極堂らに合流。寝転がりながら話を聞いたり、秘匿事項を無邪気に口外したりと自由人っぷりがうかがえる。
やがて、鳥口が持ち込んだ“魍魎”を扱う妖しい霊能力者の存在が、複数の事件を紐解く鍵に。終盤、五芒星がしるされた黒の着流しを纏った京極堂による“憑物落とし”は息をのむだろう。登場人物たちも、そして観客も会場全体が狂気にのまれる空間は決して短くない。ぜひ劇場という“匣”で、最後まで見届けてほしい。
ゲネプロの直前には初日会見が行われ、橘らキャスト7名と演出を手掛けた松崎史也が登場。橘は、原作者の京極との顔合わせや自宅の書斎を訪れた際のエピソードについて触れ「自分の人生を彩った財産を全部保存するという京極先生のスタンスがこの作品に生きている。舞台という形態でどのような“匣”が開くのか、ぜひ楽しみにしてほしい」と語った。
見どころについて内田は「残酷な表現やホラーな部分もあるが、文学的で言葉が面白く、役者の皆さんが色っぽい作品」とし、高橋良輔も「素敵な言葉をセリフとたくさんいただいている。一つひとつを大切にお届けできれば」と意気込んだ。
北園からは「観ていただいたお客様が何を持って帰るのかが楽しみ。こんなに素敵なキャストの方とお芝居ができるのはうれしい」と喜びの言葉が。高橋健介は「(作品や豪華キャストに)プレッシャーも大きかったが、食事会となると全員に集まっていただけた」と座組の幹事としての活躍ものぞかせた。
自身の役柄について紫吹は「愛は愛でも歪んだ愛。こんな愛の表現もあるんだなと新たな扉を開かせていただいた。確立されたイメージを壊さないように演じられたら」とコメント。西岡は本作を「人間の発想ではなかなかできない仕組みの本」と表現し、「芝居の持っているテーマや仕掛けが大きいので、負けないエネルギーを持って一人も手を抜かず立ち向かいたい」と熱を込めた。
質疑応答で橘への印象を聞かれた紫吹は、「率先してお稽古場のトイレ掃除をしていて驚いた。掃除姿もカッコよかった」と回答。トイレ掃除の意図について橘は「定期清掃が少なく、分担してやろうと声をかけたら皆さんが快く協力してくれた。水回りはキレイなほうが」とゲン担ぎだったことを明かした。
演出の松崎は「作品を観たお客様に、現実世界を生きる支えや備えが一つ加われば。俳優・橘ケンチの代表作となる作品。この素晴らしい俳優陣でシリーズを続けたいと勝手に思ってしまうくらい充実した稽古だった」と思いを馳せた。
取材・文・撮影=潮田茗

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