【インタビュー】Chrumi「“Quiet L
iquor”の力を借りて自己紹介させて
もらった作品」

Hiroyuki Arakawa主宰のテクノレーベル「SPECTRA」に所属するアーティストChrumiがデビューアルバム『Quiet Liquor』をリリースした。すでに、ジョン・ディグウィードやSeihoからフィードバックを受け、国内5箇所のツアーの最中であるChurumi。レーベルオーナーであるHiroyuki Arakawaと、彗星の如く現れた彼女に話を聞いた。

■無機質で低音が効いた音が
■下からこみ上げてくるものが新鮮だった

──自己紹介からお願いします。

Churumi 1993年生まれの神奈川県出身のプロデューサー兼DJです。4歳のときから15〜16年ピアノを習っていたこともあり、ピアノを活かした電子音楽が得意です。もともとクラシックをやっていたのですが、途中からポップスや電子音楽が好きなことに気付き、作曲やDJを始めました。

──クラシックからの異例のキャリアですが、これまでの音楽的な嗜好の変化について教えてください。

Churumi 幼少時代からクラシックピアノをやっていたのですが、中学生でジブリ音楽を好きになり、久石譲さんや、当時好きだったアカペラグループのRAG FAIR東方神起の曲をピアノで弾くなど、徐々にポップスにアプローチしていきました。実は、中学生のときからアカペラグループを組んでいて、ライブハウスや商業施設で演奏をしていたんです。私の担当はボイスパーカッションだったので、口でビートを刻んでいました(笑)。音楽好きが高じて大学は作曲も勉強できる音楽学科に進学したのですが、在学中に偶然YouTubeでピアノハウスに出会い、ダンサブルなサウンドに衝撃を受けたことがきっかけでエレクトリックな音楽に夢中になっていきました。社会人になってから好きなアーティストを聴きにクラブにも行くようになっていく中で、自然とテクノを選ぶようになっていったんです。

──今までいろんなジャンルの音楽に触れてきたと思いますが、テクノの何が魅力的でしたか? 合わせて、影響を受けたアーティストも教えていただけますか?

Churumi 音的には決してハッピーでもポップでもないし、メロディもほとんどない音楽だけど、無機質で低音が効いた音が下からこみ上げてくるものが私には新鮮だったんです。淡々とした音楽なのに、どんどん巻き込まれる感じが好きです。影響を受けたアーティストは特に坂本龍一さん、Seihoさん、agraphさん、海外だとクラークですね。
──SPECTRAに入ったきっかけは?

Churumi DJを始めて半年くらいのとき、渋谷花魁にDJ友達に誘われて遊びに行ったら、偶然Arakawaさんと初めてお話しする機会があったんです。実際にクラブでArakawaさんの曲を聴いたことがあったのですが、本当にかっこよくて衝撃的だったので、よく覚えています。ちょうどそのとき、これから自分の曲をどう世に出していったらいいのか、アーティストとして活動していくにはどう動いたらいいのか悩んでいた時期だったのですが、Arakawaさんに曲を聴いて頂けたら自分の中でも何かが大きく変わるような気がして、私からArakawaさんに話しかけました。後日、私のInstagramにアップしていたトラックをArakawaさんが聴いて下さったことをきっかけに、SPECTRAのレーベルショーに出演、加入することになったんです。Arakawaさんは、「Chrumiは喋るのが得意じゃないけど、音で口説かれたわ〜!」と言ってくださいました(笑)。

──レーベルオーナーHiroyuki Arakawaの第一印象はどうでしたか?

Churumi 優しそうなお兄さんって感じです。実際にお会いしたら立派なテクノアーティストなのにフランク過ぎてびっくりしました(笑)。

──Arakawaさんに曲を聴いて欲しいと伝えた当時の心境はどうでしたか?

Churumi 具体的にどこからリリースを出したいとかは無く、ただ自分の曲を世に出したいという曖昧な目標だけがあって、どうしたらいいのかわからず迷走していたころでした。DJを始めて2ヶ月くらい経った頃、Instagramで1日1フレーズポストするという試みをしていたのですが、それも誰かの目に止まったらいいなという受け身な試みだったので、そろそろ自分からアクションしなければと焦っていたんですよね。本格的に焦り始めたのがDJを始めて半年くらいです。DJは私にとって自分の曲を発信するためのある意味“武器”であって、リリースすることを目標に始めたのでもっと早くから動くべきだったなと思っています。

──テクノミュージック2年生なのにしっかりしてますね!

Churumi (笑)。

Arakawa Chrumiは異色なタイプだよね。曲の作り方も全然クラブミュージック上がりじゃない。ピアノやクラシックから始まってるし、テクノ1年生ですって感じ。クラブミュージックから入るとグルーブ重視なんだけど、Chrumiの場合はゲーム音楽っぽく曲に集中して要素を詰め込む感じ。俺はそこがいいと思ったな。俺ね、そのころレーベルとしても悩んでて、海外を目指してやっていきます!と言われても、まず日本に住んでるし東京でのメンバーを増やしたいなと思ってて、本当タイミングが良かった。まだアーティストなのかも分からない真っ白なChrumiをアーティストにしようと思ったんだよね。
■作曲を手段として
■自分がどういう人間なのか示したかった

──アルバムを発売してから1週間、オーディエンスの反響はいかがでしょうか?

Churumi まず、Seihoさんにフィードバックを頂いたことも後押しして、いろいろな人に渡っている実感があります。人によって気に入って頂いている曲が本当にバラバラなのが面白くて、意外と「Cheek」が一番好評かも。“映画のサントラみたい!”とか、“ストーリーのあるアルバムだね”と言ってもらえることが多いですね。嬉しい評価ばかりで逆に不安になるくらいですが、でも本当に嬉しいです!

Arakawa 全体的に通して、リード曲以外も聴きどころが多い。なぜかというとChrumiのキックやベースは、ド真ん中のテクノじゃないから。テクノじゃないって言い切れないところもあって、難しいところだけどトラック自体の音選びはハウスとテクノの中間くらい。さらに、このアルバムのアンビエントの曲なんかは、コアなテクノ好きであればこういう音が好きだという人の気持ちはわかる。ちなみに俺はアルバムの曲全部好き(笑)。この子の中で好きなこと、やりたいことが多すぎて、これはテクノなんですか?と謎の質問があったりしたくらい。初期衝動でババーッと詰められていて、Chrumiワールド全開ですごくいい。

──このアルバムのタイトルである『Quiet Liquor』の意味を教えてもらえますか?

Churumi ゆっくりお酒を飲んでるときって、心が緩んでいつもより寛大になれたり、逆に普段は見せないような厳しい本音も出たりします。このアルバムは自己紹介、という言い方をしましたが、“Quiet Liquor”の力を借りて自己紹介させてもらった、という感じです。編成した5曲は“Quiet Liquor”によって引き出された私。穏やかな気持ちでじっくり進んで行きたい自分もいれば、がっつり攻めていきたい自分もいるということを表現したかったんです。こういう本当の自分をこれからじっくりと引き出していきたいなという意気込みでもありますね。“Quiet”と“Liquor”は組み合わせ的にはなかなか無い言葉同士なのですが、語呂的に私は気に入ってます。検索したときにすぐ引っかかってくれることも含めて(笑)。

──アルバムの制作においてArakawaさんからいろいろ教えられたのでは?

Churumi そもそも、テクノを作るということ自体が大きな壁で、テクノ暦が浅かった私はテクノの自由さがわからずArakawaさんからいろんな曲を聴かせてもらい、テクノのジャンルの解釈を広く持つことから始めました。さらに、実際に曲を作るとなってもループが難しくて、ここもArakawaさんに指南を受けながらキックとベースだけでひたすらループを作る練習をしました。結局ダンスミュージックはキックとベースで決まってしまうということを教えて頂きました。

Arakawa ループが良かったら何やっても1曲として成立しちゃう。Chrumiの場合は上音とかメロディがしっかりしている反面、ダンスミュージックのループの部分が全然得意じゃなかったっていう(笑)。
──最も苦労した点は?

Churumi いざ曲を作ろうと思ったらアイデアが全く生まれなかったことですね。作ろうと思えばいくらでも作れるんですけど、世の中に出すと思っていろいろ考えてしまったら納得するものにたどり着かなくて、全然思いつかなかったんですよね。短いフレーズを作ることはできても、1曲にすることやテクノ的な展開を持たせることが苦手なのでArakawaさんに相談したりして、かなり時間をかけたのでアルバムとして納得いくまでが険しい道のりでした。

──このアルバムはどんな思いで生み出されましたか?

Churumi 単純に目標でした。今の自分の中にある引き出しがどこまで対応できるか挑戦してみたかったんです。

Arakawa 若手がリリースするというフレッシュなSPECTRAとしても見せたかったんだよね。日本の狭い業界の中で若手が発信するきっかけ、間違った若手育成はしたくない。
──アルバムを通して何を伝えたかったのでしょう?

Churumi まずはどんな曲を作る人間か知ってもらわないとな、という気持ちが大前提にありました。ダンスミュージックだけでなくベッドルームで聴けるような音楽や映画音楽も好きなので、そういう部分も表現できたらなと。あと、私は言葉にして人に伝えることが苦手なので、作曲を手段として自分がどういう人間なのか示したかったのかもしれないです。このアルバムを日ごろから応援してくれる近い人が買ってくれることももちろん嬉しいけど、Amazonとタワーレコードの初回入荷分が完売したと聞いたときは、アーティストとして外に知ってもらえたきっかけになったんだなと実感できました。

──これからツアーもありますが、今後どんなビジョンで活動する予定ですか?

Churumi まずはライブでのパフォーマンスを定着させて、自分の音を求めてもらえるようになること、この音はChrumiだよね、って覚えてもらえることです。あとはArakawaさんを追い抜くくらいの勢いでやります! 今後はできるだけライブセット重視で、DJは絞りつつもそれぞれ良い色を出したいなと思っています。

◆Chrumiリリースツアー日程

6/29 渋谷@ICON Lounge
7/20 四日市@Advantage
8/24 静岡@dazzbar
9/6  渋谷@club asia

『Quiet Liquor』

2019年5月15日(水)リリース
Label : SPECTRA
1. Quiet Liquor
2. Kite
3. Cheek
4. Vanity
5. Throat
6. Quiet Liquor (Hiroyuki Arakawa Remix)

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