U2来日記念スペシャルコラム連載vol
.1 - 【そもそも、U2の「ヨシュア・
トゥリー」ってなんだ?】

U2がやって来る。
それも、2017年に行われ世界中で話題を独占した「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」をアップデイトさせた「The Joshua Tree Tour 2019 / ヨシュア・トゥリー・ツアー2019」と題したツアーの一環で、なんと13年ぶりの奇跡の来日公演が実現する。来日の報に触れて歓喜しているU2のダイハード・ファンは、皆、今回の来日公演が他ならぬ「ヨシュア・トゥリー・ツアー」であることに咽び泣いているだろう。
では、そもそも、この「ヨシュア・トゥリー」とは、「ヨシュア・トゥリー・ツアー」とは何なのか?という問いにきちんと答えることによって、今回の来日がどれだけ奇跡的かをひも解いていきたい。

アルバム『The Joshua Tree / ヨシュア・トゥリー』とは?
『The Joshua Tree / ヨシュア・トゥリー』はU2が1987年に発表した5作目のアルバムで、彼らの最高傑作であるのだけでなく、間違いなく80年代を代表する名作の一つだろう。
「ヨシュア・トゥリー」とはアメリカの南西部(ロサンゼルスから東に約200キロ)に生育するユッカの樹のことで、その一帯は「ヨシュア・トゥリー・ナショナル・パーク」と呼ばれる国立公園になっている。ジャケットはその国立公園内で撮影されており、その光景は一躍世界で知られることとなった。それまでにもここで撮影されたアルバムは数多くあるが(有名なところでいうと、イーグルスのデビュー・アルバムなど)、今ではここの光景はそのまま、U2の『ヨシュア・トゥリー』を想起させるものとして定着している。
また、ジャケットを撮影したのは、オランダのフォトグラファーで世界的なアーティストのアントン・コービン(デペッシュ・モード、デヴィッド・ボウイ、ビョークらを撮影し続けてきた)で、彼の撮影したモノクロの景色がこのアルバムのサウンドと一体化しており、それが名ジャケットとして語られる由縁でもある。
前年の1984年には4枚目のアルバムである『Unforgettable Fire (邦題:焔)』がリリースされてヒットを記録し、翌1985年にはライブ・エイドに出演し渾身のパフォーマンスで世界的に注目を浴びる(昨年の映画「ボヘミアン・ラプソディ」で再び注目を浴びたライブ・エイドだが、クイーンではなくU2をベスト・アクトにあげる声も非常に多い)など、U2に対する期待は一気に膨れ上がっている時期であり、その期待を一身に受け満を持してリリースされたのがこの『ヨシュア・トゥリー』だった。セールス面では3枚目の『War(邦題:闘)』で既に成功を収めてはいたが、このアルバムによって世界的に大ブレイクし、ライブ会場もアリーナ・クラスからスタジアム・クラスに格上げされ、まさに世界を制したアルバムとなった。
このアルバムは、U2のアルバムの中で最も売れたアルバムとして知られ、全英・全米チャート1位を記録。特にアメリカでは9週連続1位を記録し、全世界でのセールスは2,500万枚を超えている。1988年のグラミー賞では最優秀アルバム賞と最優秀ロック・グループ賞を獲得していることからも、この時の彼らの勢いのすごさがよくわかる。シングルとしては、「Where The Streets Have No Name(邦題:約束の地)」、「I Still Haven’ t Found What I’ m Looking For(邦題:終わりなき旅)」、U2といえばこの曲と言っても過言ではない「With or Without You / ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」が大ヒットした。ちなみに、これらはアルバムの冒頭を飾る3曲であり、この3曲だけでもう名盤確定という声もリリース当時から多かった。

プロデュースは前作と同様にブライアン・イーノとダニアル・ラノワ、録音をフラッド、一部楽曲のミックスをスティーブ・リリーホワイトという超一流の手練れ達が担い、U2といえばこのサウンドというようなシグニチャー・サウンドを作り上げることに成功している。特に、U2と言えばギターのジ・エッジが奏でる繊細に折り重なったディレイ・サウンドを思い浮かべるが、これはこのアルバムで確立されたものといってもいいただろう。また、それまでにはなかったものとしてブルース、ゴスペル、カントリーなどのアメリカのルーツミュージックからの影響が見て取れるのが、このアルバムとこの時期のU2の特色ともいえる。
このアルバムを引っ提げてのツアーは規模が拡大し、ゲストにはB.B.Kingなどのルーツ系の大御所を起用するなど、今までのツアーとは一線を画すものとなった。また、このツアーの様子はつぶさに録音・撮影され、翌年発表のアルバム「Rattle and Hum(邦題:魂の叫び)」と、同名のライブ・ドキュメンタリー映画となり、いかにこのツアーが大規模であったかの様子を見ることができる。今改めてこの映画を見ると87年に『ヨシュア・トゥリー』を発表し大ヒットを続けている間のツアーで快進撃を見せるその映像には、ただただ圧倒される。今まさに世界を手に入れようとしているバンドのライブ・パフォーマンスの凄さと、その勢いには目を見張るものがある。特に、赤く染まったスクリーンにメンバー4人のシルエットが映し出される「Where The Streets Have No Name」のイントロは印象的でこの映画を代表する名シーンでもあるのだが、そこから30年経って行われた「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」では全く同じシーンが再現されている。よって、今回の来日公演でも赤のスクリーンにメンバーのシルエットという名シーンの再現が見られるだろう。

「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」とは?
「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」は、2017年にアルバム『ヨシュア・トゥリー』の30周年を記念して敢行されたツアーで、北米、ヨーロッパ、南米で12か国、全52公演が行われた。2017年5月12日にカナダのバンクーバーから始まり、同年10月25日にブラジルのサン・パウロで幕を閉じたこの大規模なワールドツアーは271万人を動員し、この年に行われたツアーの中で最も収益を上げたツアーとなった。
このツアーの特徴は何と言ってもアルバム『ヨシュア・トゥリー』を曲順通りに1曲目から最後まで再現すること。ライブで名盤をまるごと再現するという企画は世界的に流行を見せており、多くのアーティストが取り組んでいるがU2が行うのは初めてで、このアルバムの6曲目に収録されている「Red Hill Mining Town / レッド・ヒル・マイニング・タウン」は今までライブにかけられたことがなく、このツアーで初めてライブで演奏されている。
ライブの構成としては、最初に『ヨシュア・トゥリー』より前の時代の曲を演奏するブロックがあり、その後に『ヨシュア・トゥリー』を完全再現、そしてその後に『ヨシュア・トゥリー』以降の楽曲が演奏されるという流れで、まるでU2というバンドの歩みをライブを通して再現しているかのようにも思える巧みなセットリストが組まれている。特筆すべきは、アルバム『ヨシュア・トゥリー』完全再現以外のパートで選ばれている楽曲は、ほぼすべてヒット曲で占められているということ。これらのパートの曲と『ヨシュア・トゥリー』の曲たちで構成されたこのツアーでは、まるで彼らの代表曲のすべてが聴けるのではないかと思えるほどのベスト・ヒットの選曲にもなっている。このツアーが世界中で評価された理由は、まさにここにあると考えられる。だからこそ、ただでさえ13年ぶりの来日であるのに、さらにこのツアーを持ってここ日本に来てくれることが「奇跡の来日」といえる由縁なのだ。
また、61m ✕14mという巨大且つ7.6Kという高解像度のスクリーンを使う圧巻のステージ・プロダクションも必見。そこには、アルバム『ヨシュア・トゥリー』のジャケットを担当したアントン・コービンの手掛けた映像が映し出されるという、バンド・サウンドとのハイ・アートなコラボレーションも見逃せない。
そんな巨大セットを使用するこのツアーは5万人以上を収容するスタジアムで行われるのがほとんどだが、日本ではサイズを落としてアリーナ・クラスでの2日間でのライブとなる。理由は不明だが、スタジアムであれば1日で済むところをわざわざ音の良いアリーナで2日間行われることを素直に喜びたい。
「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」のセットリストの詳細をここに記すことはしないが、知りたい人は今の時代いくらでも方法はあるので試してみてほしい。そこには、驚くべき曲たちが並んだファン垂涎のセットリストを見ることができる。また、ファンがこのツアー中に撮影したファンカム映像も山ほどあるので、百聞は一見に如かず。音楽はもちろん、ライブのプロダクションのクオリティの高さに度肝を抜かれるはずだ。
もしかすると、ここ日本で行われる「ヨシュア・トゥリー・ツアー2019」は、「ヨシュア・トゥリー・ツアー2017」よりもさらにパワーアップするかもしれない。選曲もさらにバージョン・アップされるかもしれない。
そんな期待を込めて、12月まで待っていたい。

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