「ノンストップで動いています」宮本
亜門、術後初めて元気な姿 オペラ『
蝶々夫人』制作発表レポート

ジャコモ・プッチーニ作曲のオペラ『蝶々夫人』が宮本亜門の新演出で、2019年10月から東京文化会館大ホールほかで上演される。東京でワールド・プレミエを迎え、今後ザクセン州立歌劇場(ゼンパーオーパー・ドレスデン)とデンマーク王立歌劇場などでも上演される。6月12日(水)に行われた制作発表の様子をお伝えする。
演出家の宮本亜門
東京二期会とともに『魔笛』(リンツ州立劇場との共同制作)、『金閣寺』(フランス国立ラン歌劇場との共同制作)と、最新のテクノロジーを駆使した新感覚の表現方法によってオペラの可能性を拡げ、本場ヨーロッパで高い評価を得る舞台を生み出してきた宮本亜門。ミュージカルはもちろん、ストレートプレイ、歌舞伎とボーダレスな活躍を続けているが、近年はオペラ演出家としての評価も揺るぎないものにしている。
会見で宮本は作品について、「昔からもちろん演出してみたいと思っていた作品です。だけれど、この各国で上演するという、ましてドレスデンの歌劇場でやれると聞いた時は体が震えました」と話す。
 
「オペラは歴史的なものなのですが、新たな演出、新たな指揮者、そして出演者・歌手たちによって様変わりをします。そして、ただ変わるだけではなく、原作のこんな視点もあったのか、こんな風に見たら作品が面白くなるんだなと思っていただきたい。クラシックというと古いものというイメージがあるかもしれませんが、最も贅沢で、豪華で、そして今でも人の心を揺さぶる芸術のジャンルだと、僕は思っています」
演出については「愛ということに集中しようと思っています。その愛は蝶々夫人とピンカートン(※蝶々夫人が結婚するアメリカの海軍士官)がまだ若かりし頃の本当に一途に愛し合ったその瞬間。そして蝶々夫人とその息子の親子愛。美しいプッチーニの音楽によって、愛が奏でられています。その音楽の魅力があるから、いつまでも名作として現代に残っているのだと思います」と語った。
演出家の宮本亜門
指揮を務めるのは、アンドレア・バッティストーニ。世界的に同世代の最も重要な指揮者の一人と評されており、2011年『ナブッコ』で東京二期会が最初に招聘して以来、ダイナミックかつ格調高い演奏で日本でも多くのファンを獲得し、16年には東京フィルハーモニー交響楽団首席指揮者に就任した。東京二期会の山口毅・常務理事兼事務局長によると、バッティストーニは、フィレンツェで代役として『蝶々夫人』を指揮したことがあるが、正式には今回が初めてで、新制作に意欲を燃やしているという。
バッティストーニについて、演出の宮本は「本当に好きな指揮者で、聞くたびに体が震える。新たなリズム感と生命力溢れる指揮にはいつも感動します。ここでこう来たか! ここでこういうリズムに行くのか! というような興奮と驚き。そして今を生きているライブ感がたまらなく好きで。指揮者のリズムで全てが決まります。打ち合わせの時に、ヒントをいただいたので、すごくいい化学反応になると思います」と期待を寄せていた。
衣裳デザイナーの高田賢三
さらに「ケンゾー(KENZO)」ブランドの創始者であるデザイナー高田賢三が衣裳デザインを担当する。16年にフランス政府からレジオンドヌール勲章シュヴァリエ位を授与された世界的デザイナーでもある高田。
この日の会見では、「『蝶々夫人』というのは僕にとってオペラの原点。憧れていた『蝶々夫人』に携われるこの機会を逃してはいけないということでやらせてもらいました。見方によって随分シチュエーションが違うので、すごく難しいですが、面白いです。亜門さんの希望通りの衣装ができると嬉しいです。これからも頑張りたいと思います」と意気込みを語っていた。
公益財団法人東京二期会の山口毅・常務理事兼事務局長
2017年の東京二期会『蝶々夫人』(栗山昌良演出)でもダブルキャストを務めた、大村博美と森谷真理が再び“蝶々さん”を演じる。
 
フランスを拠点に活動する大村は、世界中のオペラハウスで100公演以上同役を歌っており、昨年はプッチーニ・フェスティバルで日本人初の同役のプレミエを務めた。また、森谷はメトロポリタン歌劇場で『魔笛』夜の女王を務め、高い評価を得て以来、国内外問わず目覚ましい活躍を見せている。そんな世界を股にかけて活躍する2人のソプラノが見せる、新しい「マダム・バタフライ」像にも注目だ。
演出家の宮本亜門
制作発表終了後、宮本亜門のみの囲み取材が行われた。4月に前立腺癌であることを公表し、5月22日に手術、6月1日に退院し、この会見が初の公の場となっていた。取材の一部をまとめてお伝えする。
ーー退院おめでとうございます。大丈夫ですか?
ありがとうございます。大丈夫ですね。大丈夫ですが、全摘という意味では初めての手術だったので、いまひとつ体力が戻っていないというのが正直なところです。でも前立腺癌というのはほとんど治るということなので、とにかく時間をかけてゆっくり治そうと。
 
気分は水前寺清子さんの歌のような感じ。僕はせっかちなので、とにかく早く治したいと思っていたのですが、3歩進んで2歩下がり......でも1歩進んでいる! という風に自分で思って、焦らず焦らずと思っています。
ーー術後の経過ということになりますが、お医者様からはどのようなことを?
術後、まだお医者さんには会っていません。再来週また血液検査をして結果が出るので、良い結果であることを願いますけれども。実を言いますと、術後すぐに北京に行ったり、明後日からまた2週間ニューヨークなんですよ。仕事はノンストップで動いています。まぁ無理はしないようにしていますが。
演出家の宮本亜門(左)と衣裳デザイナーの高田賢三
ーー生活に支障はないですか?
生活に支障がないことはないです。やはりどうしても尿のことがあるので。あらゆることを試させてもらって。老後のためにいい勉強をさせてもらっています。男性用を買ったり、女性用を買ったり、これがいいかな? なんて言って、それさえも楽しみに変えようとして。普段の生活そのものというのはちょっと違いますね。ただ、仕事は完全にやっているし、なるべく楽しい事を考えたり、面白い事をしたりしています。
 
......考え方も少し変わりましたね。この歳でできなくなることもあるんだというのが一つ。でも、できなくなる以上に、違う発見があるんだと。周りのことを気にするよりも、自分がもっとやりたいことが見えてきたので、かえってできないことよりも寧ろできることが増えたのかな。例えば仕事のあり方もそうだし、もっと人と分かち合いたいと思ったし、人の傷みを感じることをもっとしたいと思ったし、病気の苦しみも分かってきたし。
 
実を言うと、僕にはステップマザーがいるんですね。僕は母を21歳のときに亡くしているので。そのステップマザーが、僕が入院したその日に、救急車で運ばれて。彼女は2,3年前から乳がんだったのですが、肺にも水が溜まって、だいぶ危険な状態なんです。でも彼女とずっと入院中、チャットしてね。痛いよねって、そうだよね、痛いよねって。辛いよね、辛いよねって。痛いの嫌だよねって。そのやりとりにお互いに勇気付けられました。
苦しいことも色々あるし、死というのはいつ襲ってくるか分からない。だからこそ、今を本当に生きようという決意しました。今までは「痛い」と言われても、ただ「痛いの我慢しようね、考えちゃダメだよ、痛いの」とつい言いがちだったけれど、「あぁ、ほんと辛いよね、わかるよ」と、本当には分かっていないかもしれないけれど、少しでも共有できる喜びを感じた。先が短くなる以上に、今を生きているじゃんと思うんです。
演出家の宮本亜門(左)と衣裳デザイナーの高田賢三
ーー他人に対する接し方も変わった、と。
変わりましたね。まずね、自分に対する接し方が変わりました。僕はとにかく勢いよくバーっと物を食べたり、とにかく元気に生きていきた。演出家になるために。演出家になれてもその勢いは止まらなかったのですが、今、時々自分にお疲れ様と言ってあげようと思いました。
 
そう思うと人に対しても同じように思えるんですよ。自分に優しくなれるから、人にも優しくなれる。生きていてよかった、貴重な体験をさせてもらっているなぁと思います。
 
ーー入院生活で何か印象的なことは?
友達が来てくれましたし、92歳の親父も来てくれました。親父は膀胱癌をやっているのですが、電話では「前立腺癌なんてすぐ治るよ」って、それほど親として興味ないの?(笑)というぐらいだったのですが、手術の次の日に急にきて、僕の顔を見た時に親父がうわっと泣いたんですよ。強がっていたんだな、と思って。自分も知っているからねぇ。そしたら奥さんがそういうことになったりしたので苦しんだとも思うけれども……。
 
街を歩いていても、大丈夫ですかと股間ばっかり見て(笑)、急に泣いてくれるおばちゃんもいて。いろんなところ行っても、大丈夫ですかとみんな言ってくれる。俺は幸せもんだなぁと思います。

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