ガイ・クラークの『オールド No.1』
は数多あるSSW系の作品の中でも
トップにランクされる傑作中の傑作!

変革するオースティンで
ソングライティングを続ける
ガイ・クラーク

ようやくガイ・クラークの登場だ。クラークはウィリー・ネルソンやジェリー・ジェフらが目指すオースティン独自のカントリーロックの成り立ちを横目で見ながら、自身のソングライティングを磨いていく。タウンズ・ヴァン・ザントからは弾き語りを学び、ジェリー・ジェフからはバックバンドとの連携を学んでいく。そして、後にアメリカーナ系のアーティストとなるスティーブ・アールやロドニー・クローウェルといった才能ある若手たちに曲作りの指南をしたり、ある時にはディスカッションも交え、デビューに備えて多くの曲を書き溜めていった。この辺りの様子はテキサスのアウトロー・カントリーに焦点を当てたドキュメンタリー映画『ハートウォーン・ハイウェイ』(‘81)で紹介されている。この映画の撮影は75〜76年にかけて行なわれているので、まさに旬の彼らを捉えた貴重な映像である。現在はDVDで入手できるので、興味のある人は早めの購入をオススメする。あっと言う間に廃盤になるのは目に見えているので…。

本作『オールド No.1』について

オースティンで新たな音楽が生まれようとしていた時、本作『オールド No.1』はリリースされた。75年と言えばパンクロックが生まれようとしていたまさにその時であり、アウトロー・カントリーもまたパンクロックのムーブメントのように、既成のカントリー音楽の概念をぶち壊して新たな次元へと差し掛かる動きであった。そして、本作はその一翼を担えるだけの内容と影響力があるアルバムになるのである。

収録曲は全部で10曲。すでに知っている名曲群「L.A Freeway」「Desperadoes Waiting For A Train」「That Old Time Feelin’」「Like A Coat From The Cold」(これはジェリー・ジェフの傑作『Ridin’ High』(‘75)に収録)はもちろん素晴らしいが、他の曲も全て負けず劣らずの完璧な出来である。歌われるのは放浪や人との出会いについてであり、おそらく彼自身の体験を元にしているのだろう。また、彼の歌声はしゃがれていて土臭く歌は上手い。現在の日本のシンガーに喩えるなら竹原ピストルのような感じである。ジェリー・ジェフの声とも似ているので、歌い方については彼にかなり影響されているのだろう。演奏、曲の配置、歌、楽曲の出来など、本作はどれもが完璧に近い仕上がりで、SSW系の愛好者にとっては奇跡のようなアルバムである。僕自身もこの作品と出会えたことには感謝している。

バックを務めているのはナッシュビルの一流スタジオミュージシャンたち。ただし、正調カントリー的な派手な演奏はせず、無駄な音は一切ない。クラークの歌を生かすためのサポートをしており、シンプルではあるが実に味わい深い。バックヴォーカルには当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあったエミルー・ハリスをはじめ、ロドニー・クローウェルやスティーブ・アールらも参加している。ジャケット裏にはジェリー・ジェフが賛辞を寄せ、全体のイラストはクラークの奥さんのスザンナ・クラークが手掛けるなど、ホームメイド感覚にあふれているところは彼の人柄なのかもしれない。

残念なことに、クラークは2016年5月17日に癌のため亡くなっている。彼が生前の2013年にリリースしたグラミー賞受賞アルバム『My Favorite Picture Of You』は、スザンナ(2012年6月に逝去)への想いを歌った作品で、ジャケットは文字通り一番好きなスザンナの写真を彼が持っているというもの。クラークのアルバムは良作が多いが、本作を気に入ったのであれば次作の『テキサス・クッキン』(‘76)も同傾向のアルバムなので、ぜひ聴いてみてください。

TEXT:河崎直人

アルバム『Old No.1』1975年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. Rita Ballou
    • 2. L.A. Freeway
    • 3. She Ain't Goin' Nowhere
    • 4. A Nickel for the Fiddler
    • 5. That Old Time Feeling
    • 6. Texas - 1947
    • 7. Desperados Waiting for a Train
    • 8. Like a Coat from the Cold
    • 9. Instant Coffee Blues
    • 10. Let Him Roll
『Old No.1』(‘75)/Guy Clark

OKMusic編集部

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