千穐楽はとっておきのサプライズが!
 明治座『坂本冬美特別公演 泉ピン
子友情出演』観劇&囲み会見レポート

『あばれ太鼓』で演歌歌手としてデビューし『夜桜お七』など数多くのヒット曲を生み出してきた坂本冬美。ビリーバンバンのヒット曲『またきみに恋してる』をカバーして話題になるなど、ジャンルにとらわれず挑戦する姿に世代を超えてファンが多い。
6月1日(土)に東京・明治座で『坂本冬美特別公演 泉ピン子友情出演』が初日を迎えた。坂本にとって3年ぶりの座長公演となる本公演に、第一部は宮川一郎作、石井ふく子演出による芝居『恋桜―今花明かり―』が上演され、第二部の『坂本冬美オンステージ2019 艶歌の桜道(うたのはなみち)』では泉ピン子がナレーションで出演することが大きな話題となっている。6月3日(月)の公演終了後に囲み取材が行われたので、舞台のレポートとともにお届けする。
時は昭和38年の東京・上野の池之端。下谷の花柳界を舞台に、売れっ子芸者梅竜(坂本冬美)と一つ屋根の下に暮らす置屋のおかみを兼ねた売れない芸者八重次(泉ピン子)は、時に憎まれ口をたたき合いながらも、まるで姉妹のように仲の良い二人だ。八重次が思いを寄せる谷川(三田村邦彦)は梅竜に求婚をするという三角関係のような間柄になっても、梅竜と八重次の絆は変わらない。しかし梅竜は、自分のために罪を犯して刑務所に入った太吉(丹羽貞仁)を思って待ち続け、太吉の妹、正子(清水由紀)から太吉の出所を知らされると、一緒に店を開こうと期待に胸をふくらませていたのだが……。
撮影:田中聖太郎
人情味あふれる本作品の見どころは、何といっても坂本と泉の軽妙な会話の掛け合いだ。泉が舞台に登場するだけで観客は笑いに包まれ、そんな泉にすべて懐を預けている坂本が実に気持ち良さそうに会話の掛け合いを楽しんでいる。この作品は昨年大阪の新歌舞伎座でも上演されたそうだが、その時に培われた二人の間にある信頼感が見て取れた。そして花柳界のお座敷のシーンも華やかで、坂本は三田村とともに太鼓を披露した。梅竜、八重次ともにちょっぴり切ないエンディングが待っているのだが、物語を通して変わらないのは二人の絆で、ラストに桜の木を眺めながら二人が交わす会話に胸がじーんとくる人も少なくないだろう。
撮影:田中聖太郎
第二部の『坂本冬美オンステージ2019 艶歌の桜道(うたのはなみち)』では、ライトブルーのドレスに身を包んだ坂本が登場し、1曲目で『また君に恋してる』をしっとりと聞かせた。「冬美ちゃん、きれい!」という掛け声に「ありがとうございます。5列目ぐらいで見ていただいたほうが、ちょうどいいんですよ」と笑いをとったとたんに最前列の観客から「きれい!」と掛け声が。それに対し「ありがとうございます。1列目の方に言っていただけると、そのとおりだと思ってもらえます」と受け、会場中が爆笑した。3年ぶりの座長公演ということで、かなり気合が入っているとMCで語り「気合がこのドレスに表れています。芦田淳先生に作っていただき、ありったけの光りものをつけてまいりました!」と言う坂本の気風の良さが気持ちが良い。
撮影:田中聖太郎
続いて『真っ赤な太陽』『喝采』『君こそわが命』と大先輩たちのヒット曲を披露し、事務所の後輩である森山愛子も登場したステージだが、ステージ中盤で最大の見どころとなる泉ピン子が登場。ナレーションと聞いていたのだが、なんと泉の持ち歌『愛恋蝶』を歌っての登場に驚いた人も多かったことだろう。泉いわく37年ぶりに歌を披露したのだそうだ。
今回のナレーションは、坂本が恩人と慕う二葉百合子の名曲『岸壁の母』を歌う前に、二葉から坂本に宛てた手紙を泉が朗読するというもの。それまでは軽妙なトークで会場をわかせていたのに、いざ朗読が始まるとビシッと決める泉はさすがの貫禄だ。そして坂本がライフワークと語る二葉の歌謡を歌い継いでいく覚悟が見えた素晴らしい『岸壁の母』だった。ステージ後半は、『あばれ太鼓』『熊野路へ』『夜桜お七』『火の国の女』など、自身のヒット曲を中心に熱唱。坂本冬美の魅力をたっぷり感じることができるステージだった。
撮影:田中聖太郎
公演後、坂本と泉が囲み取材に登壇した。初日から3日目、手ごたえを聞かれると坂本は「ピン子さんが支えてくださりドーンといけという感じで側にいてくださいますから、安心してのびのびとやらせていただいています」と語り、泉は「楽しいですね。座長じゃないというのは、こんなに楽なのか」と笑わせた。
(左から)泉ピン子 坂本冬美
やはり第二部のステージで泉が歌った『愛恋蝶』が話題となったのだが、坂本が「ファンの若い女の子たちがピン子さんをリスペクトしていまして、ぜひ歌ってほしいと。大阪の公演の時はワンフレーズしか歌ってくれなかったんですが、今回はこっそりと譜面を用意しまして、歌わないのはもったいないので歌ってくださいと言ったら、最初は「嫌だよ、嫌だよ」っておっしゃっていましたが……気持ち良かったんですよね?」と泉に話を向けると、「皆さんがピンちゃんピンちゃんといってくださるのを聞いたら、気持ち良くなっちゃって」と笑った。

(左から)泉ピン子 坂本冬美

71歳になる泉が「老後は坂本冬美一座に入って月3日~4日仕事をする。だから私はこの人(坂本)から離れないのよ」と老後の計画を語ると坂本は、「頼もしい! 歌える、しゃべれる、そして『岸壁の母』のナレーションになるとガラッと大女優さんになりますから。あの短い時間ですべてを持っていかれてしまうので、私はドキドキしながらやっております」と背筋を伸ばした。続けて坂本が「ピン子さんはやっぱり生の舞台がお好きなんだと思います」と語れば、13年ぶりに明治座に帰ってきた泉は「やっぱり生の舞台はいいわね。私は演芸場で育っていますから、お客さんがいるのはとても楽しい」と笑顔になった。

仲良く笑う姿が随所で見られた

今回の芝居はかつて、演出の石井ふく子が美空ひばりのカムバックのためにとっておいた作品だったとのこと。坂本が『真っ赤な太陽』を歌うこともあって、泉は坂本とともに美空ひばりの墓参りに行ったことを明かした。坂本は「石井先生もピン子さんもひばりさんととても親しくしていらっしゃったので、縁を感じますね」としみじみ語った。
二人の間を結びつけるもう一つの縁となったのが二葉百合子だ。1カ月におよぶ公演で『岸壁の母』を歌うことはなかったという坂本だが、今回は「ピン子さんが出演してくださるということで、思い切ってメニューに入れました」と明かした。
記者からピン子さんと舞台に立つのは緊張しないのかという質問に対しては、「しないです」ときっぱり。「もちろん舞台に立つ緊張感はありますけれど、ピン子さんは本当にこのままの方なので、正直にまっすぐいけば受け止めてくださいます」と全幅の信頼を寄せていた。
最後に「千穐楽はサプライズがあります」と坂本が明かし「言わないでくださいよ」と泉に念を押す姿も。「言わないわよ!」と言う泉がサプライズの鍵をにぎっているようだった。千穐楽は6月27日(木)。どんなサプライズが用意されているのか、楽しみに待ちたい。
取材・文・囲み撮影のみ=秋乃麻桔

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着