指揮者・藤岡幸夫インタビュー 「み
んなのミュシャ ミュシャからマンガ
へ-線の魔術」開催記念『読売日本交
響楽団 プレミアムコンサート』につ
いてきく

Bunkamuraザ・ミュージアムで7月13日(土)から9月29日(日)まで開催される展覧会「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ-線の魔術」を記念して、7月1日(月)にBunkamuraオーチャードホールでひらかれる『読売日本交響楽団 プレミアムコンサート』を指揮する藤岡幸夫に話をきいた。
ーー今回のコンサートは「みんなのミュシャ」という展覧会との連携企画ということですが、アルフォンス・ミュシャ(1860~1939)について、どのような印象をお持ちですか?
僕はミュシャの作品が好きです。ポスターのパイオニアでもあり、品格が高く、美しくて。タッチがとても好きですね。
ーーミュシャはチェコ出身ですが、藤岡さんにとってチェコとは?
僕が生まれて初めて行った外国がチェコでした。1990年、「プラハの春」で4年に1度、開催されるターリヒ国際指揮者コンクールに出るためでした。それが初めてのコンクールでもありました。そのころ日本フィルに来ていたビエロフラーヴェクがアマチュア・オーケストラを振る僕の指揮を気に入ってくれて、コンクールの推薦状を書いてくれたのです(注:当時、藤岡は日本フィルで指揮研究員をしていた)。​
コンクールでいきなり、最後の3人に残ったんですよ。もしかすると優勝できるかな? と思ったら、天狗になりかけた鼻をぽっきりと折られました(笑)。ちょうどチェコに帰ってきたクーベリックが審査委員長をやって、ノイマンが副委員長。ノイマンはすごく僕のことをほめてくれました。ファイナルは、残った3人がチェコ・フィルを相手にドヴォルザークの交響曲第7、8、9番のどれか振る。僕は第9番「新世界」でした。​
ーーチェコ・フィル相手に「新世界」ですか!
そうなんですよ。プロのオケを振ったこともなかったのに、いきなりチェコの名門オーケストラを相手に「新世界」を振る。良い結果出せるわけない(笑)。審査後の会見で、クーベリックが「誰もドヴォルザークがわかってない」と言って、誰も第1位にはなれなかった。チェコ・フィル相手に無理ですよ。経験のある指揮者でも難しいのに。すごく緊張したけど、楽しかった。​
師匠の渡邉暁雄先生が亡くなる直前でしたが、病床で結果を楽しみにされていたので、帰国して空港から病院に直行して、結果を告げたら、「優勝しないように祈っていた。優勝はまだ早過ぎるから、優勝できなくて本当に良かった」ととても喜んでくださいました。悔しかったですね。​
藤岡幸夫
ーープラハの街の思い出は?
プラハがきれいな街だったことを覚えています。当時のプラハの街には広告もなく、信号も1つしか見なかった。街中が美しくて。第二次大戦で爆撃されなかったから、美しいものがそのまま残されていたのですね。​
ーーコンサートはチェコ音楽のシンボルのような作品、スメタナの交響詩「モルダウ」で始まります。
トランペット9本、バス・トラペット4本、計13本の大編成で、とても楽しみです。スケールの大きな音響を楽しんでいただけると思います。ヤナーチェクは、日本でもっと評価されてもよい作曲家です。弦楽四重奏など、素晴らしい作品をいっぱい書いています。
ーースメタナの交響詩「モルダウ」はチェコ音楽のシンボルのような作品です。
源流から高い城まで、モルダウ川の描写が素晴らしいのはいうまでもありませんが、一番重要なのは、自筆譜にも書いてあるように、まったく耳が聞こえなくなって書いたということです。絶望や不安から自分を奮い立たせる、自分を元気づけようとしてああいう音楽を書いたのです。そういう内面的な部分が伝わる演奏にしたいですね。
ーードビュッシーの「狂詩曲」は、アルト・サクソフォンとオーケストラのための作品ですね。
サクソフォンの上野耕平くんと、ソリストとしては初共演です。「展覧会の絵」のオーケストラのなかで彼が吹いているということはありましたが。ドビュッシーの交響詩「海」の前に書かれていて、「海」を思わせるところもある、素敵な作品です。須川(展也)さんと演奏したことがあります。僕はもしかしたら、サクソフォンと最も共演している指揮者かもしれません。ドビュッシーはミュシャと同世代で、モダンなところが似ています。​
藤岡幸夫

ーーヤナーチェクの「シンフォニエッタ」から“ファンファーレ”はいかがでしょう。
トランペット9本、バス・トラペット4本、計13本の大編成で、とても楽しみです。スケールの大きな音響を楽しんでいただけると思います。ヤナーチェクは、日本でもっと評価されてもよい作曲家だと思います。弦楽四重奏など、素晴らしい作品をたくさん書いています。

ーーそして最後は、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」です。
この曲はすごくいっぱい演奏されていますが、僕は新鮮な演奏を目指します。
アメリカ的な、機関車の音、荒野を馬車が行くような音楽、黒人霊歌、インディアンの音楽などが現れますが、このとき、彼はものすごくホームシックでした。アメリカ的なものと対比して故郷を思う気持ちがどれだけ伝えられるかですね。
たとえば、第4楽章は「アレグロ・コン・フオーコ」。炎のようなパッションと記されています。よほど故郷のチェコに帰りたかったんだろう(笑)。この楽章では、最後に「俺は故郷に帰るぞ!」と叫んでいるところがあるそうです。それがどこなのかをドヴォルザークは書いてないのですが、それを探しながら聴くのも面白いと思います。答えはありませんが。
この作品は、旋律が美しく、転調が上手い。第4楽章で第1楽章から第3楽章までの主題が登場したり、すっごく良くできています。読響とは、3年前の長野と富山へのツアーで取り上げたことがあります。
ーー読売日本交響楽団についてはどのような印象をお持ちですか?
ゴージャスで、品格が高い。汚い音は出さないし、集中力が素晴らしい。これまでに、「読響シンフォニックライヴ」でショスタコーヴィチの交響曲第9番、ブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」、シベリウスの交響曲第5番などを演奏しています。久々の読響との共演が楽しみです。​
ーーオーチャードホールにはどのような思い出がありますか?
オーチャードホールというと、「東急ジルベスターコンサート」(注:1998年と2012年に指揮)を思い出します。1998年のカウントダウンの「ラプソディ・イン・ブルー」で、本番に前田憲男さんがアドリブで「もういくつ寝ると」のフレーズを5秒入れてしまって、あと、巻きに巻きました(笑)。それで奇跡的にドンピシャリで終われました。2度目は「威風堂々」でした。オーチャードホールはシューボックス型の素敵なホールですね。​
ーー渋谷はいかがですか?
渋谷は僕の青春です。今はないのですが「アンドラ」という、高校生の頃から毎日通っていた溜まり場が公園通りにありました。​
藤岡幸夫
ーー最後に、近況についてお話ししていただけますか?
この4月に東京シティ・フィルの首席客演指揮者に就任しました。あまり今までなかったプログラムに挑戦しようと思って、邦人作品と英国音楽をなるべくメインにもってくるようにしています。日本のオーケストラは、邦人作品を、前半で取り上げても、メインでは演奏することが少ない。邦人作品にも十分にメインになるような作品はあります。また、新しい作品紹介もしようと思っています。​
邦人作品を僕たち日本人がやらないで誰がやるでしょうか。渡邉先生の口癖で、「僕たち指揮者は過去の作曲家に食わせてもらっているから、同時代の作曲家に恩返しをしなければならない」というのがありました。誰にも愛される新しい音楽が必要なんです。それがなければ、クラシック音楽が衰退していってしまいますから。​
英国音楽に関していうと、マーラー・ブームがあって、ショスタコーヴィチがあって、シベリウスが以前よりも演奏されるような状況になってきましたが、調性的な音楽を書いていたという意味では、その次は英国音楽へ行くしかないのです。これから先、もっと英国音楽が評価されると思う。東京シティ・フィルとはヴォーン・ウィリアムズなどを既に演奏しています。首席客演指揮者就任披露演奏会ではウォルトンの交響曲第1番をメインに取り上げます。​
首席指揮者を務めている関西フィルとは、この4月29日に新しい音楽として菅野祐悟の交響曲第2番を初演しました。チケット完売で、みんながどんな交響曲ができるのかワクワクしてコンサートに足を運ぶ。あるべき姿だと思います。作曲家に対してもチャンスを作っていかないと育たない。​
また、BSテレビ東京の「エンター・ザ・ミュージック」が5年目に入りました。関西フィルという地方のオーケストラが全国放送をやるというのは挑戦です。できるだけ長寿番組にするように、できる限りいいものにしようと頑張っています。番組では、The 4 Players Tokyo(注:東京シティ・フィルの戸澤哲夫、東京都交響楽団の遠藤香奈子、NHK交響楽団の中村洋乃理、山形交響楽団の矢口里菜子の4人で構成)というクァルテットのプロデュースも始めました。弦楽四重奏というのは、作曲家にとって、交響曲と同じくらいの勝負のジャンルです。指揮はできないので、自分でプロデュースすることにしました。プロデュースというより広報宣伝部長の様ですね。彼らのコンサートも僕が営業して決めてきました(笑)。僕が司会をします。今の僕の趣味はこの弦楽四重奏団のことを考えるです。楽しくてしょうがない。​
ーーますますお忙しいですね。
でも今、いちばん幸せな時間は、朝、一人で楽譜を勉強しているときですね。​
藤岡幸夫
取材・文=山田治生 撮影=山本 れお

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