松本幸四郎と娘2人に、白鸚「小さな
幸せを感じます」『松竹大歌舞伎』東
コース製作発表レポート

松本白鸚、松本幸四郎、市川猿之助が出演する『松竹大歌舞伎』東コースが、2019年6月30日(日)~7月31日(水)にかけて、全国の会場を巡る。5月24日に製作発表が行われ、白鸚、幸四郎、松竹の安孫子正副社長、そして本公演を主催する(公社)全国公立文化施設協会の松本辰明専務理事が登壇した。
2019年『松竹大歌舞伎』東コース 演目
一、二代目松本白鸚 十代目松本幸四郎襲名披露口上
二、双蝶々曲輪日記 引窓(ひきまど)
三、色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)~かさね

全身全霊で一期一会の舞台を
本公演は、松本幸四郎改め二代目松本白鸚、市川染五郎改め十代目松本幸四郎襲名披露興行として開催されるもの。白鸚と幸四郎は、4月にも、中央コースを襲名披露興行として巡業をした。白鸚は「4月は各地で、皆さんに大変喜んでいただきました。巡業公演は、歌舞伎座でのひと月興行と違い、ところによっては1回かぎりのお目見えです。今回も全身全霊を込め、一期一会の舞台をお目にかけたいと思います」と挨拶をした。
幸四郎は、この機会に感謝を述べ、『双蝶々曲輪日記 引窓』(以下、引窓)を「大好きな演目、縁のあるお役です。父が演じる濡髪(長五郎)で、父と私二人の襲名披露をさせていただけること、本当に幸せに思っております」と語った。
舞踊の大曲『色彩間苅豆』(通称:かさね。以下、かさね)は、市川猿之助と演じる。
「猿之助さんには、東京をはじめ襲名興行に出ていただき、大阪でもご一緒させていただきました。彼との『かさね』が、“コンビ”と呼ばれるようなものを目指し勤めたいです」
昼夜2公演の日もある中で、3演目すべてに出演する幸四郎。
「襲名披露興行は、お祝いをしていただく、というものでもあります。その全演目に出ますので、自分で自分を祝うようなところもありますが(笑)、父とともに、初めの一歩を多くの方々にみていただきたいです。1日、1日、歌舞伎に興味をもっていただく責任のある公演だとも考えています」
冷たさ、悪で、与右衛門に色気を
以下、質疑応答を抜粋して紹介する。
ーー『かさね』の魅力は?
幸四郎:『かさね』は、お話はドロドロしたものですが、清元という音楽で進む舞踊劇に演出されています。歌舞伎でないと表現できない演目ではないでしょうか。歌舞伎の得意技でもある視覚的な美しさは、悪をも美しく魅力的に感じさせます。洗練され、創り上げられた作品です。猿之助さんも私と『かさね』を、と思ってくださったそうなので、「ぜひ今回の巡業公演で」と考えました。
先ほど「猿之助さんとコンビで」とは申しましたが、(登場人物の)かさねと与右衛門は、カップルや道行とは違います。ドラマや男女の関係性を、色濃く出したいです。そして与右衛門は、冷酷なほど愛らしくなる「色悪」と呼ばれるような役。「冷たさ」「悪」が色気につながるよう演じたいです。
ーー猿之助さんとの共演について、お聞かせください。
幸四郎:猿之助さんとは、今年、一緒の舞台に立つ機会も多く、いまは6月の新作歌舞伎の稽古で毎日顔を合わせています。年齢は彼の方が3つ下ですが、刺激も、尊敬も感じる役者さんです。1回1回を色濃く、自分自身を鼓舞してできる時間になればと思います。
ーー『引窓』への意気込みをお聞かせください。
幸四郎:曾祖父の初代吉右衛門に縁ある演目ですが、「このような役ができる役者になりたい」と目標に思っております。以前やらせていただいてから、時間がたち、その間に多くの経験をさせていただきました。人物像や親子の絆、濡髪との信頼、情が、ふんだんに取り入れられてるお芝居を、ドラマチックな役になりきり演じられればと思います。
濡髪を、趣きある芝居で演じたい
ーー白鸚さんは、濡髪長五郎をどのように演じますか? 2014年には、国立劇場の通し狂言で演じられましたね。
白鸚:濡髪は、殺人を犯したお相撲さんの役です。昔は歌舞伎の世界も、相撲も遊郭も、全部つながっていたんですね。現代の感覚でみると、ちょっとシュールで、非日常な感じがいたします。でも、「一つ間違えばいまでも、人間って、濡髪みたいなことがあるのでは?」とも思えます。自分の内面の揺れ動きも含め、人生、生きていくと色々なことがあります。濡髪のそういう心情を加味しながら、昔の趣きある芝居で演じたいです。
新幸四郎はおりませんので申しますが
ーー襲名後の心境をお聞かせください。
幸四郎:「何もない」というのが心境ですが……(笑)。披露興行では多くの先輩方に出ていただき、色んな方にみていただき、ありがたく幸せな時間ばかりでした。夢に見るのも虫が良すぎるくらいの夢が現実になったような時間でした。そこでいただきましたお力で、これから何をやってくかが大事だと感じます。
(北海道のメディアからの、質問だったことにちなみ)
北海道の公演の時は、飛行機に乗る2時間前には空港へ行かないといけません。1時間くらいでは、空港内の売り場を回りきれませんので。ラーメンも食べないといけないし。そこは気をつけていこう思います(真顔)。
(会場、爆笑)
白鸚:新幸四郎さんが不真面目なお話をされていたようで……。
(会場、ふたたび爆笑!)
白鸚:ここに新幸四郎はおりませんので申しますが(編集部注:隣にいます)、彼は器が大きくなりました。好きな踊り、歌舞伎にとにかく取り組んでおります。2018年南座の『勧進帳』で、新幸四郎の弁慶を相手に、私は富樫を演じました。彼が初めて弁慶をやった時も、私が富樫をいたしましたが、その時と比べ、大変に、数段良くなっておりました。最後の舞には『滝流し』も加えてやっておりました。
そして私自身の変化として、息子には幸四郎の名前を渡しましたが、私には娘も2人おります。考えてみれば長女の松本紀保は、私がかつて三谷幸喜さんをはじめ、現代作家の方と取り組んだ「シアターナインス」のような芝居を、次女の松たか子は、テレビやミュージカル、レコードを出すなどの仕事を。私がやってきた仕事を、3人の子供たちが継いでくれるような気がいたします。
これを2人の娘に申しましたら「私たちにそういう気持ちは全然ない」と。新幸四郎も、今しがた「何もない」と述べましたが(笑)、私自身の中では、3人が継いでくれたという小さな喜びを感じます。それが心境の変化です。
何かを探しにくる感覚で楽しんで
ーー暑い時期のハードな公演日程です。暑さをのりきる秘訣は?
白鸚:1回1回が勝負ですから、暑さも寒さもあまり関係なくなります。播磨屋(初代吉右衛門)の、「秋の蚊を 追へぬ形の 仁木(にっき)かな」という句があります。「床下」の仁木弾正を演じていた時、ぷ~んと飛んでいた蚊が、鼻の頭に止まったんですね。両手を長袴に通しているので追い払うこともできず、刺されたまま花道を引っ込んでいったと。そんな思いで私どもも続けております。暑さも寒さも楽しみにしております。
ーー幸四郎さんは、このようなハードな日程、暑さ対策はいかがでしょうか?
幸四郎:このような無理をしないこと、ではないでしょうか(笑)。
会見の最後、幸四郎は歌舞伎に馴染みのない方へのアドバイスを求められ、「ナビはしない、というのが私の紹介の仕方」とした上で、次のように語った。
「色彩、衣装、かつら、メイクをみたり、女方というものも存在します。音は、歌舞伎独特の音楽で生演奏、役者も生の声です。世界に様々な影響を与えている舞台美術もあります。ストーリーを追うのも見方の一つですが、それ以外にも、興味をもっていただけるものが絶対にあると思います。何かを探しにくる感覚で、楽しんでいただければ」「今回は、最初に襲名披露口上で、我々役者を紹介し、お芝居をご覧いただきます。安心して楽しんでいただける演目、おもてなしをさせて頂きます」
各会場では、“ほぼ生放送”な音声ガイドで、ご当地クイズの企画もあるというので、休憩時間まで楽しみが満載の2019年『松竹大歌舞伎』東コースは、6月30日の江戸川区総合文化センターを皮切りに、7月31日まで各地の会場で上演。

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