【インタビュー】スティング「作曲と
いうのは謎の解けないパズルみたいな
もの」

スティングのニュー・アルバム『マイ・ソングス』が、5月24日にリリースとなる。

『マイ・ソングス』はその名の通り、ポリス時代をも含むスティングが綴ってきた数々の名曲を2019年の視点でセルフ・カバーしたものだ。自ら「ここに収めた曲は、私の人生そのもの」と語るこの作品には、「見つめていたい」「ロクサーヌ」「孤独のメッセージ」といったポリス初期の名曲から、ソロ作品に至るまで全19曲がラインナップされている。

リミックスでも再レコーディングでもなく「リ・イメージ」と表現する『マイ・ソングス』は、どのように生まれどのように制作されたのか。ここではオフィシャルで取材された貴重なインタビューの全編を掲載する。
──『マイ・ソングス』は、一般的な意味でのベスト・セレクション・アルバムやセルフ・カヴァー・アルバムではありませんね。一言で表現すると?

スティング:このアルバムは「Contemporization(現代的なものにする)」と呼べると思う。40年前とか、30年前、20年前に作った曲を、コンテンポラリーな方法でレコーディングしたわけだからね。僕の今の声の状態で、僕の今の音楽への美意識で、ね。そうすることで過去のレコーディングと比較できる。それってすごく楽しいことだと思ったんだ。それにこのプロジェクト全体は「楽しむ」ということがテーマでもあった。シリアスになりすぎないことがテーマのひとつでもあったんだよ。

──コンセプトや手法を説明するうえでReimagineという言葉を使っているようですが、どのような意味でとらえたらいいですか?

スティング:僕は「曲というものは生き物だから、時々新たな酸素を吸引してあげないといけない」と思っているということ。美術館に展示するようなアートではないし、神聖な歌詞というのもないと思うからね。だから、時に活き活きと蘇らせなくてはいけないし、日頃から、歌う度に新たな生命を宿してあげなくてはいけないんだ。それが僕の仕事だと思っている。例えば「ロクサーヌ」は毎晩歌うけど、でもそれをパフォーマンスする時は、まるでその日の午後に書いたかのようにパフォーマンスしなくちゃいけない。それと同じくらいの好奇心を持っていないといけないし、同じくらいのエネルギーがなくちゃいけないし、同じくらいの情熱もなくてはいけないんだ。さらにそうすることで、常に何か新くてこれまでとは違ったものを曲の中から見出そうともしている。ちょうどジャズ・ミュージシャンの曲へのアプローチみたいな感じでね。だから、一度でも同じってことはない。常に進化し続けているんだよ。

──当初は「ブラン・ニュー・デイ 2019」のみを発表してツアーをスタートさせる予定だったそうですが、アルバムとして仕上げようと思ったきっかけは?

スティング:「ブラン・ニュー・デイ」がすごく成功したんだよ。実際、チャートにすら入ってしまった(笑)。20年も経つ曲なのに、すごくコンテンポラリーに聴こえたしエネルギーがあった。だから、人が気に入ってくれたんだと思う。それで、もう少しやってみようと思った。その実験をもう少し続けてみようとね。だけど、スタジオに長い間こもって作ったという作品ではない。ライヴとライヴの間で色々な都市でレコーディングしているし、トロントで『ザ・ラスト・シップ』の舞台をやっていた時も、幕間の休憩時間にバックステージに機材を置いてレコーディングしたくらいだった。つまり、かなりリラックスした環境で作られたアルバムだから、最終的にアルバムとして完成したことに自分でも驚いているんだよ。単に楽しんでいただけだったからね。でも出来上がってみたら、人に聴いてもらう価値があるものになったと思えた。
──長いキャリアを通じて残してきたたくさんの曲から15曲前後に絞るのは難しいことだったと思いますが、選曲のポイントは?

スティング:曲の方から主張したものが自然に選ばれていったというものだったから、選曲は割と簡単だった。ほとんどはかなり有名な曲ばかりだからね。あまり世に知られていないような曲で同様のアルバムを作ることもできるし、そうすればみんなに違うヴァージョンで聴いてもらえるけど、ある意味、その方がラジカルではないように思えたんだ。ここでは、みんなに広く知られている曲を選べば、どのように曲を変えたのかが誰にも明らかに分かるだろ?

──しかたなく外した曲は?

スティング:もう一度、自分の曲を全部見直してレコーディングしてみたいと思っているんだ。全曲で、またこれをやってみたいんだよね。

──レコーディングはどのような形、ステップで制作作業を進めていったのですか?

スティング:ライヴとライヴの間の休暇や、舞台のシーンとシーンの間…時間のある時はいつでもレコーディングして、楽しみながら作るという作業だよ。というのも、僕はすでに曲を熟知しているからね。毎晩演奏する度に、その曲について新しいことを発見するし、かなり長い間その曲とともに生きてきたわけだから、僕がその曲を書いた時より今の方がその曲についてずっとよく分かっている。つまり、この制作過程はこれまで何年もかけてどのように曲を知ってきたのかという結果を形にすることだった。自分が書いた曲に何が描かれているのかについてより深い知識を持ったからこそ、生まれた作品だったということなんだ。

──オリジナルの音源も使われているんですよね?

スティング:オリジナルの音源をそのまま生かした場合もある。昔のレコードからの続きという感じを出したかったし、そのまま使うことでスムーズに進むこともあったからね。

──オリジナルを使おうと思うその判断の基準は?

スティング:うまく説明できないんだけど、オリジナルに何か感じるものがある場合だよ。というか、曲作りの良い出発点だと思った。今回の新しいヴァージョンとオリジナルに何かしらの繋がりができるから。でも、例えばシンセサイザーのサウンドは全く使っていない。時代感が出すぎて古く感じてしまうからね。その音が聴こえた瞬間に「1985年のものだ」と絶対分かっちゃうんだ(笑)。

──ヴォーカルに関しては?

スティング:ヴォーカルもオリジナルは生かしていない。僕の声が当時と今ではあまりに違うからね。

──ポリス時代の曲とソロの曲では、アプローチを変えるようなことはありましたか?

スティング:このアルバムを定義するのは、ポリスの曲であれソロの曲であれ、どちらにおいても僕が書いた曲だということ。ただ、バンドにいる時に書いた曲の方からは、間違いなく違うエネルギーが生まれていると思う。ソロで他のミュージシャンと作業するのとは違って、特定の個人と対峙しながら作るものだからね。だから、ポリスの曲にはソロとは違った質感がある。僕が若い男だったというだけではなくて、さらにあのバンドにいたということでね。間違いなくそこには大きな違いがあったよ。

──今回は、かなり長いライナーノーツも書かれていますね。アルバム制作とその執筆を通じて、自身の作品への再発見がいろいろあったのではないでしょうか。

スティング:まず、曲の歴史をライナーノーツで紹介するのは大事なことだと思った。どこでその曲が書かれたのか、どのような状況だったのか、その曲を書いた時に僕の人生に何が起きていたのか、などね。それを読んで、みんなが面白いと思ってくれると思ったんだ。曲っていうのは、突然どこからともなく現れるものではないからね。自分がその時どこにいたか何をしていたか、色々な要素の中から生まれてくるわけで、突然生まれるものではない。例えば「孤独のメッセージ」は、ドイツにいる時に都市を移動するバンの中で書いた曲だった。車の後ろに座ってギターを弾いていたら、いきなり曲がどこからともなく浮かんだんだ。つまり、すべての曲には物語があるんだよ。

──その曲を再訪することで、何か再発見はありましたか?

スティング:もちろんあったよ。歌詞には、自分が思っていた以上のニュアンスがあった。例えば「見つめていたい」は、すごく多義に解釈できる曲だということ。ある意味ロマンチックだとも言えるし、また違う意味ではかなり邪悪な曲とも言える(笑)。なぜなら、コントロールすることや監視すること、また嫉妬について歌っているとも言えるからね。だけどそれでいてすごく優しさがある。僕自身はどのエモーションも否定するつもりはない。なぜならそれがこの曲の何たるかであり、「相反する感情を同時に抱く」ということがこの曲の持つパワーになっているから。ただ、それが一体何なのか自分でもよく理解できていないよ。それなのに結婚する時にこの曲を使う人がいるんだよ。僕ならこの曲では絶対に結婚はしないけど(笑)。
──ナインスコードの導入が歌詞の曖昧さにつながったという話はとても興味深かったのですが、曲を書いてから歌詞を書くのですか?

スティング:ロックンロールっていうのは、普通ルート+5度でできているよね。シンプルなインターバルの4度と5度で構成されているけど、ナインスを導入した途端にものすごく複雑なものになるし、そのインターバルによってジャズを思い起こすようなサウンドにもなる。そのおかげでより知的な可能性を広げてくれたんだ。5度のサウンドはものすごくパワフルだ。パワーコードで非常に根源的なエモーションを描くものだ。だけどナインスはさらにニュアンスの思想を描くことができる。それが洗練を生み出すし僕の初期の作品の特徴になったと思う。音楽というのは知的な発見で、それを聴いた人が理解してくれたし、気に入ってくれたということなんだ。

──詞先で書くこともありますか?

スティング:歌詞から始める時もあれば、または伝えたいと思うアイディアがあって始まることもある。または時にギター・リフから始まることもあるし、音楽(サウンド)が物語を語り始めることもある。すごく色々な方法でできる。それぞれの曲は色々な方法ででき上がるし、僕はその全てを試しているとも言えるよ。それは非常に掴みどころのないもので、僕がソングラインティングとはなんたるかを理解したかと言ったら、未だに理解できていない。どのボタンを押せば、その日成功するような曲が書けるのかまるで分かってないんだ。だからこそ、それが上手くいった時はすごくありがたいと思う。そして、常に新たな発見をするために心を開いているつもりなんだ。だけど、もう50年もソングライターをやっているのに、作曲というのは未だミステリーだ。僕の人生における謎の解けないパズルみたいなものなんだよ。

──例えば「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」は?

スティング:あの曲は友達にインスパイアされて書いた曲だった。クエンティン・クリスプ(Quentin Crips)というニューヨークにいたイギリス人で、あの曲で描かれているのは彼の美学なんだ。常に彼らしく(=Be Yourself)、非常に華麗な人で、しかもすごく勇敢な人だった。その上であの曲にはエイリアン(=外国人)であることに対する皮肉も描かれている。エイリアンと言ったら、普通は頭にアンテナがついた火星人みたいな人を想像するけど、その国で生まれてない人のことをエイリアンと呼ぶ奇妙な言葉の使い方に惹かれたんだ。

──ヨーロッパツアーは、どんなライブになりそうですか?

スティング:『マイ・ソングス』のツアーだよ。これまで聴いたことあるであろう曲を、聴いたことのないヴァージョンで再び紹介してみる。最初の曲は決めるけど、その後は日によって変わっていくよ(笑)。現時点では、このアルバムに入ってない曲…『ブラン・ニュー・デイ』のアルバムで書いた「サウザンド・イヤーズ」という曲でライブを始めようと思っているんだ。その曲が好きというだけの理由なんだけど、この曲はリインカーネーション(生まれ変わり/再生/輪廻)について歌ったもので、「曲に何が伝えられるのか?」という可能性について歌ったものだから、そういう曲でライヴを幕開けするというのは非常に興味深いと思うんだ。

──このアルバムが何なのかを象徴しているとも言えますね。

スティング:アーティストとして再生した、という良い解釈だね。使わせてもらうよ(笑)。

──ヨーロッパの後はどんな予定ですか?
スティング:ヨーロッパのツアーが8月一杯まで続いて、アメリカでもいくつかライヴをする予定だ。その後は、1月に舞台『ザ・ラスト・シップ』をロサンゼルスとサンフラシスコで行なう。その後は分からないな。

──バンドのメンバーは?

スティング:いつもと同じだけど、ギターはDominic Millerで、もう30年も一緒にやっている。それから、Dominicの息子のRufusがセカンドギターで、ドラムはJosh Freese。それからシャギーのバンドから引き継いだKevon Webster(キーボード)とシンガーがGene NobleとMelissa Musiqueのふたり。それと若いミュージシャンのShane Sagerにもハーモニカで参加してもらう。彼も友達の息子なんだ。ステージに一世代以上の人達がいるのはいいよね。それで全員かな。

──『マイ・ソングス』を制作したことで、ライヴ・パフォーマンスにも変化が出そうですか?

スティング:いや、それはないなあ。僕のライヴ・パフォーマンスへのアプローチは常に同じだからね。毎晩、それぞれの曲を再定義して演奏するのが僕のライヴのやり方だから、その関係性が逆転するということはない。このアルバムには、それぞれの曲の新しいヴァージョンが収録されているわけだけど、ライヴではまたさらに新しいヴァージョンを発見しようとしていることになる。だからライヴに来ても『マイ・ソングス』での解釈で曲が聴けるわけではない。そういうライヴはしたことがないんだ(笑)。

──日本公演の予定はありませんか?

スティング:現時点ではないけど、日本にはいつだって是非行きたいよ。日本には友達もたくさんいるし、日本の観客も大好きだし。しっかりと聴いてくれるし、それにみんな親切だ。招待状さえ届けば行くよ。

取材・文:大友博
通訳+翻訳:中村明美
編集:BARKS編集部
スティング『マイ・ソングス』

2019年5月24日発売予定
UICD-1071 2,700円(税込)
MQA CD:UICA-40001 3,240円(税込)
※日本盤ボーナス・トラック1曲収録(全20曲)
※スティングによる全曲解説掲載(日本語訳付)
1.Brand New Day
2.Desert Rose
3.If You Love Somebody Set Them Free
4.Every Breath You Take
5.Demolition Man
6.Can't Stand Losing You
7.Fields Of Gold
8.So Lonely
9.Shape Of My Heart
10.Message In A Bottle
11.Fragile
12.Walking On The Moon
13.Englishman In New York
14.If I Ever Lose My Faith In You
15.Roxanne(Live)
16.Synchronicity II(Live)
17.Next To You(Live)
18.Spirits In The Material World(Live)
19.Fragile(Live)
20.I Can't Stop Thinking About You(Live)※日本盤ボーナス・トラック

iTunes 15曲Standard
https://itunes.apple.com/jp/album/1457147462
iTunes 19曲Deluxe
https://itunes.apple.com/jp/album/1457147346

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