青木豪と河原雅彦がタッグを組んだ最
新作! 松下優也、平間壮一出演『黒
白珠』稽古場レポート

2019年6月、脚本・青木豪、演出・河原雅彦という、精鋭クリエイターがタッグを組んだ『黒白珠』が上演される。本番を約一ヶ月後に控えた先日、都内某所で行われた稽古の様子をお届けしよう。
『黒白珠』は、1990年代の長崎を舞台に、同じ刻(とき)に生を受けた双子の兄弟とその家族が、逃れられない運命の中でもがく様子を描いた作品だ。聖書におけるカインとアベル兄弟のごとく愛と葛藤に悩む二人と、彼らを取り巻く人々の人間ドラマが繊細に紡がれる。物語の舞台となる長崎を取材した上で青木が書き下ろした最新作を、河原の演出のもと実力派キャストたちがイキイキと演じている。
【ストーリー】
1994年、長崎。信谷大地(風間杜夫)は、真珠の加工・販売会社を経営していた。長男の勇(松下優也)は高校を卒業後、職を転々とし、大地や恋人の花苗(清水くるみ)を心配させていた。勇の双子の弟・光(平間壮一)は、一流大学に進学し商社の内定を得て卒業を控えている。大地はそんな光に期待を寄せていた。
勇は、自分と光があまり似ていないこと、周囲から叔父に似ていると度々言われることから、いつの頃からか自分の出自に疑問を抱き始める。
勇と光は、母・純子(高橋惠子)のことをほとんど知らない。まだ二人が幼い頃、母は叔父と不倫の末駆け落ちしたらしく、消息は聞かされていなかった。
ますます出自への疑念を深める勇。一方、光はある出来事をきっかけに母と再会することに。
封印された家族の物語が、不協和音を奏でながら動き出し、衝撃の真実を解き明かすパンドラの箱が、今開かれる。

※以下、一幕の稽古写真と演出・簡単なあらすじに関するネタバレあり。
公開稽古で行われたのは、冒頭から一幕の終わりまで。
冒頭は、勇と花苗が海で話しているシーンから始まる。花苗に向かって、時々見る夢の話をする勇。どこか遠くを見るように語る姿に、これから彼が直面する苦悩や葛藤が予感され、グッと物語に引き込まれる。勇の話にツッコミを入れつつ、頷きながら聞いている花苗のあたたかな笑顔も印象的だ。
また、人間群像の描写に定評がある青木による作品なだけあって、日常会話から登場人物のキャラクターや関係性が鮮やかに伝わってくる。
地元に根ざした暮らしを続けている大地や須崎(村井國夫)、久仁子(平田敦子)といった大人たち。大学へ進学のため東京へ出た光、居心地の悪さを覚えながらも留まり続ける勇。そして、勇に寄り添う花苗や、高い志を持って新しいことに挑戦している沙耶(青谷優衣)。一人ひとりが魅力的で、身近な存在だ。
通し稽古を見た河原が「日常会話だからこそ、観る人を惹きつけられるようにイキイキと、自然に演じてほしい」とアドバイスをしていたが、おそらく観るもの誰もが、登場人物の誰かに感情移入し、『黒白珠』の世界にのめりこめるだろうと感じた。

兄弟へのコンプレックスや苛立ち、家族の秘密と疑惑など、ヒリヒリするような空気が随所に漂っている本作だが、決して暗く沈んだ雰囲気ではない。
ところどころに挟まれるコミカルなシーンが清涼剤となっており、緩急のついたやり取りに思わず笑ってしまうこと請け合いだ。
特に、花苗の伯母・久仁子は、パワフルでお節介な“田舎のおばさん”で、彼女が勇や香苗にまくしたてるように喋るシーンや須崎との世間話のシーンでは、共演者やスタッフ、取材陣からも笑い声が。気さくでお調子者な父・須崎としっかり者の娘・沙耶のやり取りも微笑ましい。
そして、物語において一番の異彩を放っているのが、勇と光の母・純子が街に戻ってくるきっかけを作った占い師・薮木(植本純米)。あっけらかんとして明るいがどこか胡散臭い、異質さを感じさせる佇まいに、彼が物語にどう絡んでくるのか期待が高まる。
稽古後には、キャラクターの解釈や台詞のトーンについて、河原が細かく指示を出していく。それを受けて各々がいくつかのパターンを演じてみたり、細かなニュアンスを確認したりと、丁寧に登場人物たちの心情を読み解いているのが印象的だった。
物語の舞台である1990年代から今までの約30年間で、私たちの暮らしは大きく変化している。それでも変わらない家族の愛情や葛藤は、多くの人の心に深く浸み込み、たくさんのメッセージを投げかけてくれるのではないだろうか。
青木が描く普遍的かつ全く新しい物語が、これからの稽古でさらに磨かれ、成熟した作品として幕を開けるのが楽しみで仕方ない。
本公演は、2019年6月7日(金)~23日(日)Bunkamura シアターコクーンを皮切りに、兵庫、愛知、長崎、久留米にて上演される。

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