BIGMAMA、8度目の“母の日”Zeppワン
マンに轟かせた熱狂&怒涛の全26曲

mummy’ s day 2019.5.12 Zepp Tokyo
BIGMAMAが今年も母の日にZepp Tokyoでワンマンライブを開催した。母の日にこの会場でライブを行うのはこれで8年目。私自身もそうなのだが、5月の第2日曜日が母の日だと覚えられたのはBIGMAMAのおかげだというファンも少なくないのでは。ツアー『+11°C』のときと同じくステージは鏡張りになっていて、母の日に因みこの日はカーネーションの花束が飾られている。頭上にはきらびやかなシャンデリア。ラグジュアリーな雰囲気が、開演を待つ私たちの期待感を後押しした。
第9のSEとともにメンバーが登場すると、5人が音を合わせ、「YESMAN」の開放的な響きから演奏が始まった。続く「the cookie crumbles」では長年親しまれてきた曲だけにメンバーが煽らずともフロアから歌声が上がる。シンバル4つを機に「POPCORN STAR」へ突入し、軽やかにテンポアップ。「走れエロス」で金井政人(Vo/Gt)が両腕を広げるとこれまたごく自然に、まるでこの状態が本来の姿であるかのようにシンガロングが起こる。アウトロではヴィヴァルディ「春」の一節を奏でる東出真緒(Vn/Key/Cho)、柿沼広也(Gt/Vo)、安井英人(Ba)の高速フィンガリングに歓声が集まった。
BIGMAMA 撮影=佐藤広理
――といった走り出し、とりわけ「POPCORN STAR」~「走れエロス」の流れからは元々メロディック・パンク界隈出身であるこのバンドの核の部分が垣間見える。しかしただ“速い”だけでなく、一音一打の密度が高いために“重い”とも感じられる点が初期の頃と違うポイント。特に、当初はパワー先行型だったリアド偉武(Dr)は、ここのところ明らかにアプローチの引き出しが増えていて進化っぷりがものすごい。
金井が指をくるくると回しながら唄うのフレーズが何かの呪文みたいに聞こえた「最後の一口」を経て、「神様も言う通りに」では「過去は変えることができないけど、未来は変えていけるんです。あなたの意思で、あなたの言葉で」(金井)という言葉に導かれて大合唱が起こる。こうして最初のブロックを終えると、金井、「BIGMAMAです。よろしくお願いします。最後までお付き合いを」と流れるように挨拶。そしてベートーヴェンの名曲をモチーフにした曲の2連投=「虹を食べたアイリス」「テレーゼのため息」よりすぐさま演奏が再開した。この2曲もそうだが、この日は、コンセプトアルバム1作目の『Roclassick』(2010年)および2作目の『Roclassick2』(2014年)の収録曲がいつもよりやや多めに演奏されていたほか、前週に出演したフェスのセットリストが“Roclassick”シリーズの曲で固められていたことも話題になっていた。それにはもちろん理由があったのだが、伏線が回収されるのはもう少し先の話。
BIGMAMA 撮影=佐藤広理
「秘密」演奏後、揃ってジャーンと音を伸ばし、そのまま「計算高いシンデレラ」イントロのキメへ。ここ最近のBIGMAMAのライブでは、MCを挟まず次々と曲を演奏していくことも珍しくないが、今回もまさにそのパターンで、全26曲が立て続けに演奏された。一度ライブが始まったらあとは音楽に身を任せるだけ。絵画的で物語的な楽曲群、周到なセットリストが私たちを様々な場所へ運んでいく。
「Royalize」では、キーボードによる「ジムノペディ」の旋律が甘美さを、ギターのカッティングやドラムの連打などがその中に潜む熱情を表現した。「A KITE」はテンポをかなり落としたアレンジになっていて、零れ落ちるのフレーズが何だか切ない。赤い糸を思わせる光が金井の元に集まってから、最後のサビを唄い始める場面も印象的だった。「ファビュラ・フィビュラ」では拳を上げながら唄うオーディエンスが鏡に映り、ステージ上の5人が群衆を率いる革命軍のように見えるのが壮観。そしてここからが起承転結で言うところの“転”にあたる部分なのだろう。これまでは堅実にバンドの演奏を支えていた安井のベースラインが一気に前方へ躍り出る。それによりステージ上で火花が散り始め、サウンド全体のスリルがもう一段階跳ね上がった。
BIGMAMA 撮影=佐藤広理
「アリギリス」は東出が原曲とは違うコードをキーボードで押さえていて、それによって曲全体が生まれ変わっている、「Perfect Gray」では序盤はあえて抑えめな柿沼のギターが、最後に思いきり叫んでいたのが圧巻だった。ライブ定番曲「Swan Song」は各々が見せ場の前にたっぷりとタメを取り、みんなが待ち望むあのメロディやこのメロディを存分に聴かせてくれる。「Strawberry Feels」のあとに演奏されたのは最新シングル表題曲「mummy mummy」だ。音源で聴くより重厚さのあるこの曲は、金井・柿沼・リアドの3人のみで演奏される冒頭が鮮烈。思わず息を止めてしまうほどの緊迫感があった。
今回のようにひたすら演奏を続けていくタイプのライブでは、シンプルにバンドの力量そのもの――つまり演奏のカッコよさ、曲自体のクオリティ、アレンジや選曲等、ライブにおける編集の上手さが問われることとなる。それでも観客を最初から最後まで冷めさせることなく、熱狂させたり恍惚とさせたりすることができていたのは、やはり重ねてきた歳月によるところが大きいのだろう。
BIGMAMA 撮影=佐藤広理
繰り返しになるが、母の日のZepp Tokyoライブは今年で8年目である。その間、バンドと共にファンも歳をとったし、生活環境も感性もあの頃とは違うのだという人もいるだろう。また、一定のジャンルに縛られることなく作品を発表してきたこのバンドの場合、そもそもやっていることが幅広い。変わっていったことはたくさんあるが、その一方で、BIGMAMAのファンは、代表曲に時期的な偏りのない、言い換えれば名曲を生み出し続けてきたこのバンドの実績に信頼を寄せているように見える。だからイントロが鳴り「あの曲だ!」と分かった瞬間や、ステージ上の誰かがファインプレーをした瞬間に上がる歓声、自然発生するシンガロングから読み取れるオーディエンスの喜びや、それを見つめるメンバーの笑顔は毎年変わらずここにある。とあるタイミングで出会ったり、離れたり、再び合流したりするなかで、“それでも毎年ここにある場所”として母の日のライブが存在しているのならば、それはとっても素敵なことではないだろうか。
「Zepp Tokyoに、母の日に、歓びの歌を! 『No.9』」(金井)。会場全体で「1・2・3・4!」とカウントしてから始まった「No.9」はまさにそういう信頼関係が形となって表れたみたいだった。オーディエンスがシンガロングする、その上を5人のサウンドが舞う、という形でクライマックスへと向かっていくなか、ここで金井が「先にひとつだけ謝ってもいいですか」と一言。「え?」と思っていたら「今日みたいなすごく大切な日の締め括りに誰も知らない曲をやります」とのことで、ここで新曲「St. Light」が初披露された。リアドによる高速の4つ打ちが疾走感のあるサウンドをさらに前進させる一方、<チャンスは1回使い切り>という言葉にはずしりとした重みがある。金井はこの曲について「すごく大切な曲になりそうです。みなさんにとってもそうなりますように」と語っていた。
BIGMAMA 撮影=佐藤広理
これで終演......かと思いきや、「母の日のBIGMAMAでした。ありがとうございました! 続きは『Roclassick』ツアーで」と金井。既に発表されている通り10月には東名阪をまわる『Roclassick tour2019』が行われるが、この時点ではまだそのことを知らされてない、寝耳に水状態の我々を置き去りにしたまま、最後の演奏曲「荒狂曲“シンセカイ”」が始まった。この日のセットリストに“Roclassick”シリーズの曲が多かったのはこの発表を踏まえた上でのことだろう。また、前回のツアーでラストに演奏された「YESMAN」が1曲目だったことを考えると、今日のライブは、前回のツアーと次のツアーの橋渡し的なものだったのかもしれない。
というか、2017年のリキッドルームで武道館公演のことを発表したときもそうだったが、大事なことをワンフレーズでさらりと伝えて去っていってしまうような、スマートであるとも不器用であるとも言えるこの感じは非常に金井っぽいなあと思う。アンコールを求める歓声と拍手が、終演後BGMの「母に贈る歌」に合わせて、次第にシンガロングと手拍子に変わっていく様子をいつまでも見ていたい気分だった。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=佐藤広理
BIGMAMA 撮影=佐藤広理

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