【インタビュー】持田香織の「これま
で」と「これから」

持田香織が7年ぶりにリリースした新作5曲入りミニアルバム『てんとてん』。
ソロ活動10周年を迎えて制作された本作は、鈴木正人LITTLE CREATURES)氏がプロデュース。持田自身の作詞に加え、Kan Sano氏による書き下ろし楽曲、さらにLITTLE CREATURESプロデュース曲も収録されている。今回、この作品についてと、ソロ活動の歩みについて持田香織が語ったオフィシャルインタビューと収録曲全曲解説をお届けする。

  ◆  ◆  ◆

――ミニアルバム『てんとてん』は持田香織さんの7年ぶりの新作です。今年はソロ活動10周年でもありますが、まずはアルバムを作ることになった経緯を教えてください。

持田香織:去年の8月に東京キネマ倶楽部で<持田香織 Concert 2018>をやったんですが、たまたま会場が空いていたのと、昔からキネマ倶楽部でやってみたかったからという理由で、特にこれといったライブのテーマを謳わなかったんです。そうしたら、ファンの方から「あのライブはどんな意味があったんですか? もしかして、ソロ10周年だからですか?」って言われて。そこで初めて「あ、10周年か!」と気づかされたんです(笑)。井上陽水さんプロデュースでシングルをリリースさせていただいたりもしたので(2004年「いつのまにか少女は」)、どこからソロ活動と捉えるかが難しいんですが、自分でオリジナルアルバム1枚目(2009年『moka』)を出したところから10周年でいいんじゃないかと思って。ちょうど自分の仕事のペースについて考えていた時期だったので、Every Little Thingもやりつつ、ソロ活動も継続していけるように、アルバムとして形にしたいと思いました。

――ファンの方の「10周年だからですか?」という一言で、「てんとてん」の制作が決まったんですね。

持田香織:そうなんです(笑)。でも、こういうタイミングって大事だと思うんですよね。『てんとてん』というタイトルのように、これまで打ってきた点と、ここで打った点が、これからにつながっていけばいいなと思います。

――全曲、LITTLE CREATURESの鈴木正人さんがプロデュースされています。

持田香織:もともとLITTLE CREATURESさんの音楽が大好きですし、共通の友達がいて仲が良かったりするんです。栗原(務)くんとはよく飲みに行くし、正人さんとはイベントでご一緒させていただいたりして。「次のソロでどなたかとご一緒できる機会があったら、是非CREATURESさんにお願いしたい」と思っていたので、やっと思いが実りました。

――鈴木さんには、どんなリクエストをされたんですか?

持田香織:キャンプフェス<GO OUT JAMBOREE 2018>に出させていただいたときに、「持田さんのことは知ってるけど、どういう音楽をやってるんだろうね?」というお客さんの雰囲気を感じて、元の曲を知らなくても、聴いていて心地良い曲がソロにも欲しいなあと思ったんです。「Time goes by」のアレンジを変えたバージョンを歌うと盛り上がってくれて、すごく嬉しかったんですけどね。それで、正人さんには「音楽そのものとして気持ちのいいものを作りたい」という話をしました。

――前アルバム『manu a manu』では持田さんが作詞作曲を担当されていましたが、『てんとてん』は全5曲のうち、持田さんが作詞をされたのは3曲。曲はすべて別の方が書かれていますね。

持田香織:本当は、全部の作詞作曲を正人さんや皆さんにお任せしたかったんです。せっかくのソロですし、「歌い手として自分がどう料理されるか」を試してみたかったんですけど、時間的な問題もあって3曲は自分で作詞をしました。作曲に関しては、私は楽器が弾けないので、メロディで曲を作ってしまうんですよ。そうすると歌の印象が強い曲になってしまうし、構成が決まってくるんですよね。でも、人に作ってもらうと隙間がいっぱいあって、その曲を知らなくてもグルーヴで聴ける音楽になるんですよ。たとえば『てんとてん』でいうと、メロディの中にリズムがあって、たまに歌って……という感じがすごく気持ちいいんです。今回はそういう曲がたくさんあるといいなあと思っていたので、曲はすべて書いていただきました。

――今回のアルバム制作はいかがでしたか?

持田香織:会議室とかで真面目に打ち合わせするのは堅苦しいので、正人さんや栗原くんとご飯を食べながら、いろんな話をしました。焼き鳥屋さんでなんてことない話をしていたら、有線で80年代の曲が流れてきて、「こういう曲は?」「これめちゃくちゃカッコいい」とか(笑)。そういう時間がすごく大事でしたし、その楽しさをアルバムに織り込むことができたんじゃないかと思います。

――ソロ10周年の集大成というより、持田さんの歌の新たな魅力を感じられて、すごくワクワクするアルバムでした。

持田香織:ソロ集大成なんて全く思ってなかったですね(笑)。むしろ「ここからスタート」というぐらい、新しい気持ちで作りました。今は作り手が本当に「面白い」という気持ちを持っていないとバレてしまう時代なんじゃないかと思うんですが、心から「楽しい」「これがやりたい」と思いながら制作したので、それが伝わるといいなぁと思います。

――改めて、どんなアルバムができたと思いますか?

持田香織:5曲それぞれが表情豊かな曲なので、本当に聴き応えのあるアルバムになったと思います。プロモーションでいくつかラジオに出させていただいたんですけど、ラジオから聴こえてきたら、すごく気分がいいだろうなぁと思って。ドライブ・ミュージックにもぴったりだと思います。

――持田さんにとって「ソロで活動する」ことはどんな意味を持ちますか?

持田香織:自分にとって、なくてはならないものですね。ソロは「日々の生活の中の一部」みたいな感覚でやれているところがあって、歌唱するにしても、無理をせず心地良いものを追求できる。ELTは過去の音楽を連ねながら継続していくので、少し力まないといけない。どちらも大事なものなんですよね。2016年のEvery Little Thingデビュー20周年イヤーが終わったあと、「ここから先、どういうふうにやっていこうかな」って考えたんですよ。それまで通り、毎年アルバムをリリースして、毎年30本近いツアーで全国をまわるというやり方を続けてしまうと、無理が出るなと思ったんです。やっぱり年齢とともに身体は変わっていくから、「ちゃんと生活をする」ということを念頭に置きつつ仕事をやらないと、壊れてしまうんじゃないかって。これからは、ELTとソロを両方ともバランスよくやりながら、音楽に向き合っていけたらいいなと思っています。

――ELTとソロ、どちらも全然違う魅力がありますもんね。

持田香織:お世話になっているヘアメイクさんの娘ちゃんが女子高生なんですけど、ELTとソロのライブを両方観て分析してくれたんですよ。「ELTのときと違って、ソロの持田さんはすごく色気があって“女の人”っていう感じがする」って。面白いですよね。やっぱり隣に(伊藤)一朗さんがいると、安心して顔も緩んじゃう(笑)。ソロだとキリっとする。きっと無意識に変わっているんでしょうね。

――今年でソロ活動10周年ですが、どんな10年でしたか?

持田香織:楽しかったですけど、正直、すごく苦しかった時期もあります。昔は今よりもずっとハイペースでELTの活動をしていたし、「ひとりでも求めてくれるファンの方がいるならやろう」と思いながら突っ走っていたんですけど、押しつけがましい気持ちになってしまうのがイヤで、どんどんバランスが崩れてしまって。体調も不具合になるし、気持ちがあがらないから声も出ない、という悪循環になったことがありました。

――そこからどうやって立ち直ったんですか?

持田香織:2015年からライブでMegさんにコーラスに入ってもらったことと、結婚したことが大きいですね。ELTは五十嵐(充)さんも一朗さんも年の離れた大人の男の人なので、ステージに立つときは、ずっと女子ひとりで孤独に戦っているような気持ちだったんですよ。でも、私の希望でMegさんに入っていただいてからは、同じ歌う女性として一緒のステージに立ってくれることが精神的にすごく大きくて。現場では「大丈夫だよ。つらいときは助けるよ」という感じでMegさんに声で支えてもらい、家では旦那さんに支えてもらい、トレーナーなので身体のケアもしてもらって。そこから、どんどん回復していきました。結局、孤独を感じていたのは私自身の問題で、もともとまわりのみんなも味方だったんだと気づきましたね。今は自分が歌いたいから歌ってるし、カラオケに行っちゃうぐらい歌うことが楽しいです(笑)。

――音楽に向かう上で、特に大事にしていることはありますか?

持田香織:「楽しむ」ということを大事にしています。あと、昔は真面目なことばかり歌っていたんですけど、あの頃書いた歌詞を読むと「どの目線で言ってるんだろう?」って自分に突っ込みたくなるんです(笑)。たとえ前向きじゃなくても、自分が今思っていることをぶっちゃけて言えるほうが、聴いてるほうも面白いんじゃないかなと思うようになりました。『てんとてん』も「ふざけたことをまじめにやる」というテーマが大前提にありましたしね。

――自分のことをぶっちゃけられるようになった理由はなんだと思いますか?

持田香織:年齢とともに、「どう見られてもいいや」って思えるようになったのかな。「恥をかいたほうが面白い」というか。今回のアルバムで2本のミュージックビデオを作ったんですけど、「君と僕の消失点」では「泥棒対策ライト」の下司尚実さんに振り付けしていただいて、私を入れた6人でダンスを踊ったんですね。「とにかく違和感を感じるダンスにしたい」ってリクエストしたら、ものすごく難しくて。私だけ全然踊れなくて、「あの人大丈夫かな?」って思わせてしまうぐらいがっくりと落ち込んで帰ったんです。旦那さんに「どしたの?」って聞かれて、「全然できなかった」って言ったら、「カッコつけたってしょうがないじゃん。恥ずかしいということは新しいことに挑戦してるということだからいいじゃない」って言われて、「いいこと言うー!」と思って(笑)。次の日の撮影では気持ちが切り替わって、すごく楽しくダンスができたんです。完成したミュージックビデオを見ても私だけめっちゃ下手なんですけど、それもいいな、今の気分だなと思って。昔だったら恥ずかしくてできなかったかもしれないけど、恥ずかしいことこそ全力でやりたいと思います。

――最後に、持田さんの「これから」について教えてください。

持田香織:人生はいつ何があるかわからないので、想像してワクワクできることは、できるだけ形にしたいなあと思います。それと同時に、日々の生活で感じたことは音楽に力をくれると思うので、「暮らす」ということも大事にしていきたい。今の時代にちゃんと触れて、変化や進化していくことも理解しながら、これからもいろんな挑戦をしたいですね。

文◎上田智子

■ミニアルバム『てんとてん』
https://avex.lnk.to/10_to_10EM

KRASYS presents 持田香織10周年記念コ
ンサートツアー2019「てんとてん」追加
公演

【日程】
2019年6月17日(月)

【会場】
めぐろパーシモンホール
https://www.persimmon.or.jp
〒152-0023 東京都目黒区八雲1丁目1-1

【チケット金額】
7,800円(税込)
「てんとてん」
Words : Kaori Mochida
Music : Masato Suzuki

あるブランドのショーで使われていた音楽がめちゃくちゃカッコよかったので、正人さんに「こんなリズムの曲が好き」ということだけお伝えして、あとはお任せしました。できあがった曲は、すごくお洒落! 
私は自分でネイルをするとき、爪の全面に塗らずに、チョンって「点」をうつのが好きなんです。いろんな人に「血豆?」って言われるんですけど(笑)、「点」というモチーフも自分の中で流行っていて。そんなときに正人さんからこの曲をいただいたんですが、サビの音が「3文字と3文字」なので、そこに詞をつけるのが難しいなあと思ったんですね。だけど、ふと“てんとてん てんとてん”という詞が浮かんで、「いいんじゃない?」って。そこから“てとて てとて”“ 、、、”という詞につなげていきました。
「てんとてん」というタイトルにはソロ活動10周年の「10(テン)」という言葉が入っていますが、指摘されるまで気づきませんでした(笑)。でも、「ああ、そういう意味もあった」と全部がリンクしていったので、「これは絶対にアルバムのリード曲にしよう」と。すべては、ネイルの「点」から始まったんです。


「そりゃ喧嘩もしますし」
Words : Kaori Mochida
Music : Masato Suzuki

正人さんはコアな難しいコード構成も得意な方だと思うんですが、あくまでポップスという土台の上で、メロディアスな曲を作ってくださいました。どこか聴き覚えのある懐かしい雰囲気もあるのに、デジタルの今っぽい気分も入っている。すごく小気味よくて、歌うのもすごく気持ちよかったです。
歌詞は「誰かと一緒に同じご飯を食べるって大事だよね」という私の素直な気持ちが出ています。大事な人とすれ違うのは、ご飯を一緒に食べられないという理由が大きい気がするし、友達と喧嘩しても一緒にご飯を食べれば仲直りできたりしますもんね。“モッツァレラチーズ、トマト、バジル”という歌詞を書けるのもソロだからこそで、面白かったです。


「Enseigned’angle」
Words : Kaori Mochida
Music : Masato Suzuki

「Enseigned’angle」は、原宿の地下に入っていく場所にあるカフェの名前。すごく好きなカフェなんですが、そこで「ソラアイ」の歌詞を書いたんです。そのときの自分を思い描きながら、「ひとりの女性が何かを思いふけりながら、言葉を紙に書き留めている」シチュエーションをイメージして詞を書きました。曲もすごく美しいですよね。初めて聴かせてもらったときに、「すごいな。なんでこんなメロディが浮かんでくるんだろう?」と思いました。
アルバムの最初の3曲は正人さんが曲を書いてくださいましたが、どの曲も「言葉では説明できないけど、すごい好き」と思いました。「なんかわかんないけど好き」という感覚はすごく大事だと思うので、3曲ともにそれがあって嬉しかったです。


「あたらしき夜」
Words : Takuji Aoyagi
Music : Tsutom Kurihara

LITTLE CREATURESさんのプロデュース曲です。「ザ・LITTLE CREATURES」な曲ですし、青柳(拓次)さんが歌詞を書いてくださって、本当に嬉しかったです。もともと大ファンなので、お三方のレコーディング風景を見ることができたのは感動しましたね。皆さん仲が良くて、お互いを尊重し合っていて、距離感や関係性のバランスがよくて、本当に素敵でした。
バンドとしてやってこられた人たちの中に入って、バンドの音に合わせて歌うのは初めての経験でしたが、めちゃくちゃ気持ちよかったです。自分から歌おうとしていないのに、バンドの音が背中を押してくれる感じで、声が自然に出てくるんですよ。私は歌うときに語尾を伸ばしてしまうクセがあるんですけど、「あたらしき夜」では自然と音に合わせて歌っていて、すごく不思議な感覚でした。勝手にLITTLE CREATURESの中に入れていただいた気持ちになって、心地よく歌わせていただきました。


「君と僕の消失点」
Words : Kan Sano
Music : Kan Sano

Kan Sanoさんは正人さんの後輩でいらっしゃって、ELTのコーラスでお世話になっているMegさんとも仲が良くて、おふたりから「Kan Sanoさんいいよ」って教えていただいたんです。聴いてみたらすごく素敵だったので、今回作詞作曲をお願いしました。
最初にピアノを弾きながら仮歌を歌ったデモを送ってくださったんですが、「何これ、ずるい」「もうこのままでいいじゃん」というぐらい良くて(笑)。しばらくそのデモを聴いていたので、私の歌も少し影響を受けているかもしれません。キーも低めですし、ボソボソッとお喋りしているような歌い方になっているかも。
詞もすごくロマンチック。なんて、私には書けないですもん。Kan Sanoさんが人に詞を提供するのはこれが初めてだったそうなので、ありがたいですね。

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