あほの坂田。 多くの愛に包まれた初
のワンマンツアー・Zepp Tokyo公演を
レポート

AHO NO SAKATA LIVE TOUR 2019 キミに伝えたいこと-Message for you-

2019.5.11 Zepp Tokyo
家族からの深い愛を受けて育ち、オトナとなった今はよりたくさんの人たちからも広く愛されるようになった彼は、この夜その天真爛漫かつピュアな歌声を、ステージ上にて大きく響かせることになったのだった。
今をさかのぼること2009年にweb上でコミュニティを開設してからというもの、歌を軸とした表現活動で人気を博し、近年では浦島坂田船の一員としても大活躍しているあほの坂田。(となりの坂田。)が、今年4月にソロアルバム『キミに伝えたいこと』を発表したのち、5月3日から5月11日にかけて行っていたのは初のワンマンツアーとなる『AHO NO SAKATA LIVE TOUR 2019 キミに伝えたいこと-Message for you-』。ここでは、そのファイナルとなったZepp Tokyo公演の模様をレポートする。
すでに開演前から会場全体が坂田のイメージカラーである真っ赤なライトを灯した“坂田家”の人々(坂田のファンの総称)の携えるLEDペンライトの光によって染めあげられていた中、今宵の主人公であるあほの坂田。は開演と同時にまずはマイクを持たずに現れ、ステージセットの一部としてしつらえられていた切り株のようなオブジェに腰を降ろし、とある絵本を広げることに。
あほの坂田。
ステージが暗転すると、スクリーンには絵本のページが映し出され、女性による柔らかい読み聞かせの音声が流れ始めた。朗読を務めたのは、なんと名立たる名作アニメに多数出演する声優「井上喜久子」氏。その声によって会場中が坂田の物語に没頭していた。スクリーンに映し出された絵の雰囲気をみると、どうやらこれは坂田が自身の半生を回想した内容になっていたものと思われる。(実際、この絵本の文面は坂田本人が執筆したとのこと)
そして、このタイミングで1曲目として歌われることになったのはソロアルバム『キミに伝えたいこと』の冒頭も飾っていた、天月の作詞作曲による「サニーデイ」にほかならない。そのタイトルどおりに燦々とした陽光を思わせるような、伸びやかなメロディとそれを明るく歌い上げる坂田の真っ直ぐな歌声がなんとも心地いい。
あほの坂田。
なお、これ以降ライブ本編の前半は絵本朗読と楽曲歌唱が交互に折り重なられていくことになったのだが、物語としては途中からフィクション要素が混じってきて青年となり歌という夢を目指しながら自活を始めた坂田が、日々の生活に悩んだりホームシックになったりしていると、魔法使いがある日いきなり「夢を叶えてあげるよ。そのかわり今にはもう戻れないからね」と登場。
結果、坂田は「楽しかったコドモの頃に戻りたい!」との願望を叶えてもらい、再び幼少期に戻って家族と平和に団らんをしたり、好きな歌を歌い無邪気に過ごしていたものの、兄からの「おまえはほんとに歌が上手いよな。きっと将来はすごい歌手になるんだろうな!」という言葉で、忘れていたはずの青年時代の記憶がフラッシュバックし悟ってしまうのだ。「僕、気づいたんだ。“今”の時代にも幸せはあったんだって……」
泣いて、コドモ時代に戻ったことを後悔する坂田。それを慰めたのは、限りなくあの魔女と面影の似たおばあちゃんで、「ようやく気づいたんだね。いつの時代にも幸せはある。それを忘れてはいけないよ。」と優しい声で語りかけ、少年・坂田はそのまま泣き疲れて眠ってしまう。だが、しかし。
目覚めてみると、坂田は戻れないはずだった青年・坂田として再びのタイムリープを果たしていた……のか、それともはなから全てが夢だったのか?というところで物語は終わるものの、このあとに歌われた夏代孝明の作詞作曲による「君は奇跡を知っている」が実に感動的なものであったことは、もちろん言うまでもなかろう。
あほの坂田。
あほの坂田。
また、ライブ本編の後半に入る前には坂田のお色直しをかねて『ウォーリーを探せ』をインスパイアしたバラエティ動画『さかたんTV・実写版さかたんを探せ』が上映され、ここでは彼がぬいぐるみの中に入ったり、バスケットボールに扮したり、はたまた「カワイイは作れる▽」のセリフとともに女装を披露したりと大奮闘(笑)。
さらに、ライブ本編後半に突入してからは「1925」と「Calc.」にてエレクトリックギターを駆りギター・ボーカルとしての一面も見せながら坂田家の人々を悩殺したほか、「いーあるふぁんくらぶ」と「ロキ」においては個人的な友人であるという北海道在住の“いのっち”をステージ上に招聘し、レアなデュオスタイルにての熱唱を展開して場内をおおいに盛り上げてくれたことも特筆すべき点だったと言える。
そればかりか、「きみへ」と坂田の実父がYSNR名義にて作詞作曲をしたという「花ルミ」ではアコースティックギターを弾きながらのボーカリゼイションを聴かせてみせる一幕もあり、浦島坂田船での彼とは明らかに違う個性と音楽人としてのポテンシャルを、あらためて強く感じられたのもこのライブならではであったと考えられそうだ。
あほの坂田。
「僕、東京に出て来て3年くらいなんですかね。さっきの絵本にもあったように兵庫から出てきてひとり暮らしを頑張っているんですけれども、(中略)ほんとに一時期は悩んだわけですよ。このまま自分のやりたいことというか、出来そうなことを続けて、歌を歌うことで生活がしていけたならどれだけ楽しいんだろうか、って思いながらもね。その願いを押し殺して地元で生きていくのも、それはそれで僕の人生なんだろうなって考えたり。それでもやっぱり、思いきって東京に出てくることにはなったんですけど、そこからも不安な毎日が続いていたし、誰でも出来ることとやりたいことって違ったりするでしょ? 僕なんか皆も知っているとおり、話しも全然そんな面白いっていうほどでもないし、歌だって毎日練習しててもめちゃくちゃ上手い!っていうことでもないし、じゃあ何やねんっていう話にはなるんですけど(苦笑)、そんな僕でもこうしてついてきてくれる皆がおって、こうやってワンマンで歌えているということに今とても誇りを感じてます。ありがとうございます! 多分、これからも僕は自分で“むいていない”って分かりながらも、“でも好きだから続けていきたい!”という気持ちだけで歌い続けていきたいと思いますので……宜しくお願いします!!」
あほの坂田。
この長尺ながらも率直な言葉を受けての、まふまふの作詞作曲による「27ページ、書きかけの小説。」が等身大な現在のあほの坂田。をそのまま伝えるものとして聴こえたのは、何も筆者だけではあるまい。
それでいて、アンコールにおいては坂田がエンジェルズ&デーモンのサカタエルとして「Break Doubt!」と「NO DRIVE,NO LIFE」をブチかましてみせるシーンもあり、単に「素敵なライブだったなぁ」というだけでは終わらせないあたりも、元来やんちゃでオモロイこと好きな気質を持つ坂田ならではのエンタティナーぶりが発揮されたポイントであった、と言えるはず。
ちなみに、今回のライブで朗読された絵本『キミに伝えたいこと -message for you-』は、5月31日まで公式サイトにて限定販売されるそうなので、ご希望の方はそちらもチェックされたし。
とにもかくにもだ。たくさんの愛を受けて育ち、今では多くの人々からも愛されるようになった彼が、その天真爛漫かつピュアな歌声をもって、ここからもまた愛を“キミに”伝え続けていくことを願ってやまない。

文=杉江由紀 撮影=岡本麻衣
※文中▽はハートマークが正式表記

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