野田秀樹・松たか子が語る「東京キャ
ラバン」~2020年のその先へ

東京オリンピック・パラリンピックまであと400日余り。劇作家・演出家・俳優の野田秀樹が発案し、総監修を務める公認文化オリンピアード「東京キャラバン」は、2020年を見据え、日本中に新たな文化のムーブメントの芽をまこうと、2015年から始まった。幅広いジャンルの国内外のアーティストらが各地を回り、現地の伝統芸能ともコラボした新しい表現で魅了してきた。今年は、5月19日からの福島・いわき公演を手始めに、埼玉、富山、岡山、北海道の全国5ヵ所をめぐる。それを前に、東京都内でマスコミ向けの懇親会が開かれ、野田は「東京キャラバン」を2020年以降も続けて、 「日本という共同体の底力を知ってもらう」旅を続けたいとの意欲を示した。会見には、「東京キャラバン」 に幾度も出演してきた女優の松たか子も同席し、これまでの公演について振り返った。
野田秀樹、松たか子  撮影:鳩羽風子
「文化混流」のサーカス
--ある夏の日、街角に一座がトラックで現れる。道具を組み立てると、あっという間にサーカスのできあがり。初めて見るパフォーマンスに心を躍らせる街の人々。そして、一座は、鮮やかな印象と戸惑いを残して旅立っていく--
これが、野田のイメージした「東京キャラバン」 の原風景だ。「2020年そのものが目的ではなくて、オリンピックをきっかけに何か面白いことを文化遺産として残せないか。有形で残るものはあるけれど、文化も無形だがあるべきもの。そう思って、この文化サーカスを思いついた」
第1弾は1964年の東京オリンピック開会式から51年後にあたる2015年10月10日に、東京・駒沢でスタートした。翌年の16年8月には、オリンピック開催地、ブラジル・リオデジャネイロで本格始動。日本国内の自治体から募った中から開催地を選ぶなどして、これまで計11ヵ所で公演を繰り広げてきた。開催費用は、東京都と開催自治体などで負担している。このうち都の支出分は、毎年度1億~2億円だ。
「東京キャラバン」の制作過程はどうなっているのか。「私は出たとこ勝負の演出家なので(笑)、現地に行くまではそんなに考えずに、行ってみて素晴らしい伝統芸能や新しい舞台表現芸術を見せていただいてから考えている」と野田は明かす。現地で受けたインスピレーションを基に、演出プランを練る。
コンセプトの一つである「文化混流」を打ち出す際、野田が常に心掛けているのは、「それぞれの伝統芸能やパフォーマンスを、東京キャラバンのために傷つけてはいけない」ということ。「素晴らしさを損なわず、邪魔立てすることなく、いかに混ざり合えるか」に腐心して、舞台を作り上げてきた。
駒沢での公演で北海道のアイヌ民謡と踊りが沖縄の民謡と共演した時は、「最初は戸惑っていたけれど、実際にやってみたら、とても素晴らしいものが出来上がった。予測しないところで感動的な瞬間が生まれている。そこがキャラバンのすごいところ。やっている私も得をしていると思う」と振り返った。このほかにも、熊本の高校生によるハイヤ踊りが八王子の舞台に登場したり、ニューヨークから呼んだタップダンサーが民謡に合わせて踊ったり。「『まれびと』というか、客人を呼ぶのも一つの特徴。その土地の芸能だけではなくて、他のところから来てもらう形も取っている」と野田は狙いを語る。
思い出深い一場面が、2019年2月の秋田・横手での公演だ。「なまはげを実際に見てみたら、思いの外、ゆるかった(笑)。これをどういう風に舞台のリズムの中に入れればいいか考えて、姉妹ユニットのチャラン・ポ・ランタンに『愛の讃歌』を歌いながら、なまはげに愛を語ってもらった。すると、なまはげがきょとんとびっくりして固まってしまった」と、野田は愉快そうに振り返った。
東京キャラバン in 秋田(2019年2月)  撮影:コンドウダイスケ
「戸惑いとともに、混ざり合う瞬間がとてもたまらないですよね」と口をそろえた松は、2017年に京都・二条城での野外公演で見た美しい夕焼けを回想。「思いもよらない風景や瞬間に出合えるのは楽しいし、ドキドキワクワクする」と語った。
松たか子  撮影:鳩羽風子
各地で伝統芸能に触れた印象を尋ねられると、野田は「その土地でしか持っていない匂いや風の中で見ると、こんなに豊かなものがあるのかと気づかされた」と応じた。その一方で、過疎化や少子高齢化による担い手不足で、存続が危ぶまれている伝統芸能も多い。「担い手が、やっていることに自信や誇りを持てることがすごく大切。より多くの人たちに見てもらえれば、大きな自信や希望にもなる」と野田。「彼らの多くは、閉じられた世界で活動しがち。でも、東京キャラバンの公演で異質なものと出合った瞬間、豊かに広がっていく感じがしたという感想をいただく。出合うことでしか新しいものは生まれないし、保存もされていかない」と指摘する。歌舞伎の家で育った松は、「(芸能とは)最初は妖しげなものが作り出すものが、面白がる人の目によって伝統にもなる。それを生かすのも殺すのも私たち次第。歌舞伎俳優の数もすごく少なくて、この先どうなるのかなと思うけれど、伝統を背負っている人たちはみな、ひたすらに純粋に誇りを持ってやっている」と続けた。
東京キャラバン in 京都・二条城(2017年9月)  撮影:井上嘉和
2020年以降も文化サーカスの旅を
「東京キャラバン」 のこれまでを振り返って野田は、開催地での局地的な盛り上がりを感じつつも、「全体として浸透していない」と総括。「日本は、時間的にも空間的にも豊かな広がりのある文化を持っている。文化はお金を出してすぐに結果は出ない。だが、共同体としては大きな力になる」と意義を強調。「今はオリンピックだからと言ってみんなお金を出しているが、2020年の先は行政が文化に対してどれだけ本気度があるのかということ。これは国全体の問題だ」と問い掛ける。
2020年には、東京・明治神宮か、代々木公園エリアで公演を打つ予定だ。「集大成とは言いたくない。一つの節目として開きたい。それで弾みをつけて2020年の先に続けていきたい」
東京キャラバン公式サイト → http://tokyocaravan.jp/
取材・文=鳩羽風子

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