LOW IQ 01、傑作『TWENTY ONE』に至
るソロ活動20年の歩みを語り尽くす

LOW IQ 01の8thアルバム『TWENTY ONE』が素晴らしい! シンプルなバンドサウンドの中で、エモーショナルなメロディとストレートなメッセージが際立ち、ソロ活動20周年にして剥き出しのLOW IQ 01が浮かび上がってくるような傑作に仕上がっているのだ。

90年代に3ピースバンド・SUPER STUPID(以下、SS)でパンクキッズを魅了したのち、99年のソロ1stアルバム『MASTER LOW』でエンターテイナーな魅力を開花させてから、ライブにおける様々なバンド編成も含めて、常に私たちを驚かせ、感動させ続けてきた20年。その紆余曲折の歩みと、今の充実ぶりを、数々の秘話を交えながら語ってくれた。
――ソロ活動20周年という節目でリリースされるアルバムですが、『TWENTY ONE』というタイトルですよね。
いつも歌詞を英語に訳してくれる友達に、曲も曲名もあがったところで「(タイトルを)どうしようか?」って相談していたら、去年、僕の誕生日にやった「MASTER OF MUSIC」というライブを観たときに『TWENTY』っていうのが浮かんだと。「ちょっとあんた、そのまんまじゃねえか」って言ったんだけど、このシンプルさがいいんじゃない?って。そこで、ちょっと待てよ、僕01ですよと。「20だけにこだわらず、21ってどう? ちょっと先の未来っていう意味もあるし」って。そこで『TWENTY ONE』になったの。
――その“未来”とも繋がってきますが、今作はベスト的、総括的な内容にすることもできたと思うんです。でも実際は、今現在の01さんや、未来を示唆するアルバムになったという。それは、どうしてなんでしょうね?
やっぱり、昔はレコーディングが大好きだったので、そこにばっかり気をとられていたから、ライブ活動をあんまりやっていなかったの。でも、制作も大事なんだけど、今はライブも大事で。近年、いろんな地方に行くようになって気付いたこともあって。音楽にはこういう楽しさもあるんだなって。そうやってバンドスタイルになったので、サウンドも自然とこうなったのかなって。
――具体的にバンドスタイルが楽しい、自分の表現にしっくりくると思い始めたのって、いつぐらいからなんでしょう。
やっぱ『THE BOP』(LOW IQ 01 & MIGHTY BEAT MAKERS名義/2016年7月リリース)あたりですかね。ベースはひなっち(日向秀和/ストレイテナーNothing's Carved In Stoneなど)で、ギターは渡邊忍(ASPARAGUSなど)で。あれもヒントになった。今まで(ドラム以外は)一人でレコーディングしていたから、勉強になったし。ただ、MIGHTY BEAT MAKERSはメンバーみんなが忙しくて、それでLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSが動き出してから、自分でベースを本気でやろうって思いはじめて。(THE RHYTHM MAKERSの現メンバーである)フルカワユタカ、山崎聖之(fam、The Firewood Projectなど)とのグルーヴが確立してから、そういう意識が強くなってきました。
――長く続けてきても、転機が来るんだ、学びがあるんだっていうことを掴めたんじゃないですか?
そうですね。SS時代にできなかったことも、今のトリオでできているし。ソロなので、いろんなスタイルができるんですよね。もちろんLOW IQ 01 & MASTER LOW(初期のライブから続けている、大所帯編成バンド)も大事だし。
――『THE BOP』の時に原点回帰というキーワードも出てきましたけど、SS時代にできなかったことができるという意味では、原点回帰とはまた違うと言えますよね。
そう、戻るんじゃなく、違うところを見ているというか。
――さらに振り返ると、LOW IQ 01としてのソロ活動は、SSとは違うことをしようと極端に振り切ってはじまったところはありましたよね。スタイリッシュな音楽性や大所帯編成のバンドのライブは、特にパンクシーンでは新鮮で、当初かなり驚いた記憶があるんですけど、ああいうアイディアはSS時代から温めていたものではあったんでしょうか?
SS時代からスーツは着たいなと思ってたの。スーツを着て暴れてみたいなって。SSでも1回着たことはあったんだけどね。あと、幅が広がるので、ホーン隊やオルガンも入れたいと。レゲエとかスカは、パンクをやりながらも聴いていたから、そこでMASTER LOWになったんだよね。トリオでは限界があるから。
――入れたい音を入れ、やりたいことをやり、全てを詰め込んだのが初期のLOW IQ 01だったという?
それで正解だと思います。それが20年前は斬新だったし、今でも新しいと思う。
――しばらくは、その道を突き詰めていく期間が続きましたよね。
うん。それを2010年代までやっていたし。でも、2011年以降、いろんなところに行くときに、ミニマムで行ける方がいいなって思ったんだよね。その時は(LOW IQ 01 & )THE BEAT BREAKER(2007年に始動した、恒岡章〈Dr/CUBISMO GRAFICO FIVE/Hi-STANDARD〉との二人編成バンド)もあったから、それもヒントになったのよ。あれもトリッキーだったと思うよ。二人!?って。
あとは、みんなに「いっちゃんにはベース弾いてもらいたいよ」って言われていて。SS時代は弾いていたけど、それ以来ずっと弾いてないし、ギターを弾きながら歌う方が楽しいと思っていたんだよね。でも、ひなっちとかを見て、ベースっていいなあって思うようになって、ベース弾いて歌ってみるか!って。そんなときに、『尽未来祭』(BRAHMANの結成20周年を祝して、2015年11月に幕張メッセで開催/SUPER STUPIDが一日限りの復活を果たした)でフルカワユタカがSSを袖で観てるのを見て、「あいつSS好きなんだ!?」って。タガミ(TGMX/FRONTIER BACKYARD)に「フルカワってSS知ってんの?」って訊いたら、「あいつすごいファンですよ!」って。じゃあ(THE RHYTHM MAKERSの)ギター弾けるんじゃない?って。
――お話を聞いていると、今に至れた理由として、01さんがアンテナを張り続けていたところも大きいと思います。だからこそ、ひなっちを見てベースのカッコよさに改めて気づけたと思うし、フルカワくんの秘められた趣向に気づけたと思うし。
実はね、2004年ぐらいかな? MASTER LOWの曲調もロックになってきて、ライブだと手持ち無沙汰になるメンバーも出てきて、その時に違うかたちを作った方がいいのかな?って思ったんだよね。ちょうど、当時の自分と同じレーベルに売れる前のDOPING PANDAがいて、(ライブで演奏を)やってもらおうか?っていう話もあったんだけど、まだ人の演奏をする余裕はないんじゃないかなと思って、その話はなくなって。ただ、柏倉隆史(toe、the HIATUSなど)がドラムで、俺がギターで、テッキン(HUSKING BEE)をベースにしてっていう編成も考えて……伝説のTHE RHYTHM MAKERSお蔵入りっていうのがあるんだけど(笑)。隆史は(木村)カエラのサポ―トをやる前だったし、やれそうだったんだけど、テッキンのベースが俺のイメージと違って(笑)。このメンツでやらなくなったのはテッキンのせいです(大笑)。大人数には大人数の限界もあるし、少人数には少人数の限界があるんだよね。
――そうなんですね! 私、てっきりSSを『尽未来祭』でやったから、こういうバンドスタイルに吹っ切れたのかと思っていたんですけど、そんな初期にバンドスタイルにチャレンジしていたんですね。
いや、ひとつだけ違うんです。その初期は、俺はギター・ボーカルだったんですよ。俺は、ベースは一生弾かないって思っていたぐらいだったから。あ、1回だけ、2010年頃に富山のフェスでベース・ヴォーカルをやったんだけど。どうしても(村田)シゲ(□□□CUBISMO GRAFICO FIVE、CIRCLE DARKOなど)がスケジュール的に出れないってなって、さすがに他のベーシストを探せず、自分でやってみたんだけど、ああやっぱりもっと練習が必要だなって。10年ぶりくらいにベース弾いて歌ったから、カンを忘れてしまっていて。そのときは、次はシゲのスケジュールが合うようにって考えて、自分でベースを弾こうとは思わなかったんですよ。でも、ユタカをギターにしたときに、これはギターを任せられると思ったんです。彼は歌もできるし、じゃあ俺もベースをしようって。
LOW IQ 01 撮影=高田梓
――じゃあ、フルカワくんと一緒にライブをはじめたことは、今の方向性にかなり影響を与えたんですね。
じーつーはー、って感じですね。タイミングがすべてを物語っているというか。自分を変えられたからね。ユタカはタガミの後輩っていうイメージが強かったから、ギタリストとしては見ていなかったし、DOPING PANDAの音楽も、俺の音楽とは違っていたし。でも、DOPING PANDAの初期は70’ sパンクみたいなところもあったんで、「できる?」って思ったら、あいつは(THE RHYTHM MAKERSの)最初のライブから頭を振りまくって。今や赤べこっていうあだ名まで付いているっていう(笑)。THE RHYTHM MAKERSだと、パンキッシュな部分とメタルな部分の血が騒ぐんだろうなって。
――フルカワくんもパンクな自分、さらには少年時代のメタルな自分まで、01さんによって引き出されたんじゃないですか?
うん。それでユタカも、彼自身のバンドでHAWAIIAN6locofrankと対バンするって言っていたからね。よかったじゃん!って。俺も気持ちはわかるんですよ。こういうの向いていないって、自分で決め付けちゃっていたんだろうなって。いや、やってみたら変わると思うよって言ったら、案の定、人間が変わっちゃったぐらいになって(笑)。フルカワユタカの本来の姿ってこれなんだなって。昔はDOPING PANDAも、HAWAIIAN6と対バンしていたわけだからね。
――01さんも過去に大きなものを抱えていて、徐々に解き放っていったわけですもんね。
そうそう。フルカワも(ソロ)5周年のライブで、サプライズでDOPING PANDAをちょっとだけやったけど、言ってしまえば、やろうと思えば簡単なんですよ。メンバーの体力やスキルはトレーニングが必要だと思うけどさ、気持ちはさ、DOPING PANDAに行っちゃうことって簡単じゃん。でも、それってイージーで。じゃあ、ソロでやってきた5年は?ってなる。だから今、ユタカは、フルカワユタカとしてやっている。俺も同じで、SSを求められるのはわかるけど、LOW IQ 01で……ってやってたら20年経ったんだけどね(笑)。
――その間には1回(『尽未来祭』で)SSもやったじゃないですか。
まあ、やらざるを得なかった(笑)。いやいや、あれもデカかったんだよ。今に至ったきっかけの半分は占めていると思う。
――フルカワくんの存在と共に、今作のレコーディングにも参加している山﨑くんの存在も大きいですよね。その魅力ってどういうところだと思います?
一言で言うと、カッコいい。フレーズもカッコいいし、叩いてる姿も絵になるし。
――彼はいろんなバンドで活躍していますけど、今作には今まで彼が叩いてこなかったような曲調もありますよね。でも、すんなり?
すぐですよ。センスがいい。あと上手いっていうのもあるけどね。今作の曲調には特に合っていると思う。あいつソロもやっているんですよ、渡邊忍プロデュースで。自分で歌も歌っているし。
――やっぱり、才能がある人なんですね!
そうそう。ドラマーなだけじゃないんだよね。僕、ドラマーで曲作れる人、好きなんですよ。曲をわかってくれるんですよね。
――このバンド最強じゃないですか。フルカワくんは歌も歌えてギターも弾けるし、マルチプレイヤーが揃っている。
僕、マルチプレイヤー好きだから。MASTER LOWもそうでしょ。
――たしかに! でも、そういうところを最初から意識してメンバーを集めているんですか? 山﨑くんがすごいドラマーであることはわかっていたと思うんですけど、歌も歌えてソロまで出せる可能性があると感じていましたか?
まさか曲を作るとまでは思っていなかったし、ドラム叩きながら歌えることは衝撃だった。しかも高い声が出るんだ。そこも、このバンドの面白いところで、フルカワの出ない声をDAZE(山﨑)が出してくれる。ふたりでやり取りしてくれるんですよ。俺の指示を待つのではなく。そういうところも好きなんだよね。率先してやってくれるっていう。サポートメンバーだと思っていないところが、僕もありがたいし、ほんとに力になってくれてるなあと思うよ。
――そこに、時には忍さんも加わって、THE RHYTHM MAKERS +になるわけですよね。
あ、変態ですか?(笑) いや、最高ですよ! DAZEもユタカも忍をリスペクトしているから。DAZEはCAPTAIN HEDGE HOG(渡邊のかつてのバンド)やASPARAGUSのファンですからね。ASPARAGUS、全部叩けるし。だから面白いですよ。スタジオでも、DAZEに「今日は師匠入りますよ!」って言うと、「いいっすね!」ってなるし。あと昨日、HAWAIIAN6のYUTA(Vo/Gt)も一緒にスタジオに入ったんですよ。YUTAもすごかった! YUTAはいつも、「なんで(THE RHYTHM MAKERS +は)しのっぴ(渡邊)ばっか! 俺も弾かせてくださいよ!」って言うんだけど、社交辞令かと思ってたら、フルカワにも「俺の出番いつなの?」って言っていたみたいで。だから『ARABAKI』でゲストとして2~3曲弾いてもらおうかなと思ったら、「全部弾かせて下さいよ!」って。そこで、今度いつか忍もYUTAもいれて“++名義”でやる?って言ったら、フルカワは「僕はどうするんですか!」って(笑)。いやいや、あなたありきですよっていう。
実はね、YUTAも一回やったことがあって。カメラマンの橋本塁のイベント(2017年に札幌で行われた『SOUND SHOOTER vol,12』)で、9mm Parabellum Bulletの滝(善充/Gt)から「市川くんのバンドでセッションしたいんで、札幌でセッションバンドを組みません?」って。ドラムがピエール中野凛として時雨)で、最初はその3人だったのにYUTAも来て、バンド名はMAD BEAT MAKERS。ラウドな感じだったね。それは1回きりの幻だったんだけど、ユタカとYUTAは仲いいし、じゃあ今年の『ARABAKI』でもやってみようかと。
LOW IQ 01 撮影=高田梓
――MASTER LOWはちょっと下の世代や同世代と始動しましたけど、どんどん後輩が増えて、アニキ的な存在になって、いい影響を与え合っていますよね。バンドに参加したい人も多彩ですし。
参加したいっていうか、無理矢理やらせてるんじゃないの?(笑)。
――いやいや、YUTAくんのエピソードを聞いても、そうじゃないですよね(笑)。
ユタカがやってる姿を見て、ここは自由なんだって思ったところも大きいんじゃないかな。かっちりやって!って感じじゃないし。僕のライブ、出入り自由じゃないですか(笑)。オープン・ザ・ドアです。ずっと開いてますよ。
――そうやってバンドとして素晴らしい状態になっていって、サウンドがそぎ落とされると、歌詞のメッセージも際立ちますよね。今作において、言いたいことが増えたり、恥ずかしさも捨ててストレートに言っちゃおうみたいな気持ちもあったんですか?
それも、ライブがあったからだと思います。ライブが楽しかった、嫌なことや辛いことがすっ飛んだって言われると、嬉しいなって。今まで自分のエゴというか、俺カッコいいでしょ?みたいにやっていたこともあったけど、見せつけるんじゃダメなんだよね。20年やってきて、自分のことしか考えていないときもあったなって。音楽をやらせてもらっているっていう感覚も強くなったし、支えてくれる人がいて20年続いたと思うし。あと、ラジオをやって、自分のおしゃべりの部分が出て楽になったというか(笑)。ああ、カッコつけなくていいんだなって。ラジオで質問に答えるのも、歌詞と一緒じゃんって思ったんだよね。余計なことを考えちゃいけない、自分に質問が来ているんだから、自分の考えで答えればいいんだって。違うって思われちゃうかな、なんて考えている自分がダメだと思う。そこも歌詞につながったんじゃないかな。みんな大変なんだなって思ったときに、音楽聴いて救われましたって言われると、それこそミュージシャン冥利に尽きるというか。その役を1ミリでもできているんだっていうのと同時に、ライブでみんなの笑顔を見ると、俺の方が支えられてるなって思う。だから持ちつ持たれつな関係ですよね。
――初期のショウ的な、自分を見てほしいという気持ちが伝わってくるパフォーマンスも魅力的でしたけど、周りのバンドマンやお客さんを見渡すうちに、若手のミュージシャンをフックアップしたり、お客さんの気持ちに寄り添ったりするようになり、そのうちに01さん自身の世界も広がってきた20年なのかなって思います。
そうだね。20年でいろんなタイプのLOW IQ 01が出たっていう。これから先もいろいろあると思うし。
――また今作はバンドサウンドってことで一見シンプルなんですけど、20年やってきたならではの一言、一音の重みみたいなものは、しっかり出ていると思います。
『MASTER LOW FOR…』(2008年)ぐらいが、一番音に凝り性になっていて、いろんな音が入ってんだよ。ギターも右、左、真ん中にシンセが入って、ホーンも入れて。俺、好きなアルバムだけど、そのときはそういう時代で、その曲をやりたかったんだと思うんだよ。でも、どんどん音数減らしてて、今は右、左、ギターソロ、それしか入れないぐらいで。だからレコーディングが早い早い!
――もちろん初期からグッドメロディを書かれていたと思うんですけど、今作は音数が少ないこともあって、メロディの良さがいっそう際立ってますよね。
うん、オール・サビって言ってもいいんじゃないかな。
――最初におっしゃっていた未来に関してですけど、今の時点で計画していることはありますか?
それがね、20年間行き当たりばったりなんですよ。敢えて考えない方がいいかな、今が楽しいし、出会いが来たらそうなるんじゃないかなって。ただ、長くやっていきたいっていうのはあります。
――他の編成、MASTER LOWとかも、これから観られる可能性はあるんですよね?
もちろん。MASTER LOWはメンバーのスケジュールを合わせるのが難しいっていうだけで。
――まずは今作のリリースツアーですよね。マルチプレイヤー揃いのバンドですし、期待しています!
そうですね。今回のアルバムの曲をやるのが楽しみで! みんな、待っていてくれると思うんです。Tシャツの袖まくってね、もう戦闘態勢とってますよ!

取材・文=高橋美穂 撮影=高田梓
LOW IQ 01 撮影=高田梓

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