日本初公開のドガ《リハーサル》を含
む作品80点が奇跡の来日!『印象派へ
の旅 海運王の夢 バレル・コレクショ
ン』展レポート

スコットランドの都市・グラスゴー出身の実業家ウィリアム・バレル(1861-1958)が収集したコレクションを紹介する展覧会『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』(会期:〜2019年6月30日)が、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて開催中だ。
会場エントランス
船舶の売買で成功を収め「海運王」と称されたバレルが、生涯をかけて多額の私財を投入して築き上げたコレクションは、9,000点以上にものぼる。バレルのコレクションは、中世のステンドグラスやタペストリー、彫刻、絨毯など多岐にわたり、写実主義から印象派に至るまでの時代を網羅した芸術家の作品も数多く購入した。1944年に、バレルは自身のコレクション数千点をグラスゴー市に寄贈。その中には、フランスの写実主義の画家ギュスターヴ・クールベや、バルビゾン派のジャン=フランソワ・ミレー、印象派の画家エドガー・ドガの作品も含まれている。
右:ギュスターヴ・クールベ 《マドモワゼル・オーブ・ドゥ・ラ・オルド》 1865年 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
右:アンリ・ル・シダネル 《雪》 1901年 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection

本展では、日本初公開となるドガの初期作品《リハーサル》をはじめ、バレルが集めたフランス絵画を中心に、スコットランドやオランダ人画家の作品も併せて展示。また、グラスゴー市のケルヴィングローヴ美術博物館が所蔵するゴッホやルノワール、セザンヌの名品も見逃せない。
左:ポール・セザンヌ 《倒れた果物かご》 1877年頃 油彩、カンヴァス ケルヴィングローヴ美術博物館蔵 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 右:ピエール・オーギュスト・ルノワール 《静物-コーヒーカップとミカン》 1908年 油彩、カンヴァス ケルヴィングローヴ美術博物館蔵 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
左:ポール・セザンヌ 《エトワール山稜とピロン・デュ・ロワ峰》 1878-79年 油彩、カンヴァス ケルヴィングローヴ美術博物館蔵 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection

内覧会に登壇したソフィー・コスティン氏(グラスゴー博物館群 額縁専門修復家)は、バレルについて以下のように語った。
「バレルの好みは非常に多様なものでしたが、彼は優れた目利きであり、美術品の取引についても強烈な手腕を発揮した。若い頃から美術に関心を持ち、早い段階で自身のコレクションを拡大させ、長年に渡って多くの人々の羨望の的になった」
一般公開に先立ち催された内覧会より、見どころをお伝えしよう。
展示風景
門外不出のバレル・コレクション、日本初上陸!
バレルは、グラスゴー市にコレクションを寄贈する際「英国外に作品を貸し出さない」という条件を提示した。門外不出だったコレクションの持ち出しが可能となった背景には、改修工事により本国のバレル・コレクションが閉館しているという経緯がある。これにより、バレル・コレクションの海外貸し出しが可能となり、晴れて日本での展覧会が実現した。
左:アドルフ・モンティセリ 《初めてのブドウの収穫》 1868年頃 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 右:アドルフ・モンティセリ 《庭で遊ぶ子どもたち》 1867年頃 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
「産業革命期に、海運業と工業が盛んだったグラスゴーでは、バレル以外にも成功したビジネスマンが数多くいた」と話すのは、宮澤政男氏(Bunkamuraザ・ミュージアム 上席学芸員)。美術品の収集にも熱心だった彼らの文化的なまなざしは、英国ではなくフランスに向けられていたという。そうした美術愛好家たちの作品購入の手助けをしたのが、画商のアレクサンダー・リードだ。リードは、ゴッホの弟で、同じく画商をしていたテオ・ファン・ゴッホとパリで同じアパルトマンに住んでいたこともあり、同時代の良質なフランス美術をバレルにも紹介した。
左:フィンセント・ファン・ゴッホ 《アレクサンダー・リードの肖像》 1887年 油彩、板 ケルヴィングローヴ美術博物館蔵 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
ウィスキーのような色合いの、バレル・コレクション
本展は3つの章からなり、バレルが収集したコレクションを、室内の情景や静物画を展示する第1章、屋外の風景を集めた第2章、川や海など水辺の景観を描いた作品を紹介する第3章といったように区分している。バレルが購入した作品の傾向については、大きくふたつの特徴があると宮澤氏は解説する。
左:ヤーコプ・マリス 《若き芸術家》 1878年頃 水彩、グワッシュ、紙 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection  右:ヤーコプ・マリス 《姉妹》 水彩、グワッシュ、紙 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 
「ひとつは、作業をしている人や勉強をしている人といったように、働いている人を描いた作品が多い。本人がビジネスマンとして精力的に活動していたことが、収集した作品にも反映されているように感じます」
右:テオデュール・リボー 《会計士》 1878年頃 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 左:テオデュール・リボー 《勉強熱心な使用人》 1871年頃 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
「ふたつ目は、茶色や黒といった濃い色のものが多いことです。スコッチ・ウィスキーを思わせるような色合いの作品には、渋くて重厚な雰囲気が感じられます」
展示風景
第1章の静物画には、写実主義の画家ギュスターヴ・クールベやエドゥアール・マネの描いた花の絵が展示されている。
左:ギュスターヴ・クールベ 《アイリスとカーネーション》 1863年頃 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums  右:エドゥアール・マネ 《シャンパングラスのバラ》 1882年 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums
第2章では、屋外で働く人々の様子や、郊外の景色を描いた作品が並ぶ。
右:テオデュール・リボー 《調理人たち》 1862年 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 
左:ウジェーヌ・ブーダン 《ブリュッセル、旧魚市場》 1871年 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection  右:アーサー・メルヴィル 《グランヴィルの市場》 1878年 水彩・紙 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection

また、馬や牛、山羊などの家畜を描いた作品には水彩画が多く、本章ではグラスゴーで活躍した画家ジョゼフ・クロホールによる動物画や、ドガの描いた馬の絵が紹介される。
左:ジョゼフ・クロホール 《山腹の山羊、タンジールにて》 水彩、グワッシュ、紙 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 右:ジョゼフ・クロホール 《杭につながれた馬、タンジールにて》 1888年 水彩、紙 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
左:アレクシ・ペリニョン 《白馬》 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 右:エドガー・ドガ 《木につながれた馬》 1873-80年頃 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection

第3章では、「水辺の画家」として人気を博した風景画家のシャルル=フランソワ・ドービニーや、海景を得意としたウジェーヌ・ブーダンの作品をはじめ、スコットランドやオランダの画家による風景画も楽しむことができる。
左:シャルル=フランソワ・ドービニー 《ガイヤール城》 1870-74年頃 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection 右:ウジェーヌ・ブーダン 《トゥーク川の橋のたもとの洗濯女》 1883-87年頃 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
右:ウィリアム・マクタガート 《満潮》 1873年 水彩、グワッシュ、紙(板で裏打ち) (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection

フランスの港町ドーヴィルを描いたブーダンの《ドーヴィル、波止場》について、宮澤氏は以下のように解説。
右:ウジェーヌ・ブーダン 《ドーヴィル、波止場》 1891年 油彩、板 (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
「15歳の頃から家業の海運業を手伝っていた少年時代のバレルは、『大きくなったら(絵の中のような)船がほしいな』といった気持ちを抱いていたかもしれない。本作は、そんな少年の頃の思い出が、作品の中に込められているような感じがする小品。立派な金の額縁からも、宝物のような雰囲気が出ています」
さらに、夜の南仏のヨットハーバーを描いたアンリ・ル・シダネルの《月明かりの入り江》については、「光を描き込むような描き方が印象派的。晩年のバレルの、悠々とした静かな暮らしを象徴しているのではないかと言われている」と説明。
右:アンリ・ル・シダネル 《月明かりの入り江》 1928年 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
循環する視線が構築された、ドガの《リハーサル》
本展の目玉作品となるドガの《リハーサル》は、画家がバレエを題材にした初期の油彩画のひとつ。少女たちがバレエの練習をしている様子を描いた本作は、実際にドガが見た光景を描いたわけではなく、単体でスケッチした場面をアトリエで合成したものだそうだ。作品の構図について、宮澤氏は以下のように語る。
左:エドガー・ドガ 《リハーサル》 1874年頃 油彩、カンヴァス (c)CSG CIC Glasgow Museums Collection
「鑑賞者の視点は、はじめに画面中央でポーズをとっている少女に向けられ、彼女が伸ばした右手の先に視線が移り、次に画面右の群像へと移動します。床の木目の流れに沿って、今度は画面左の螺旋階段に視点が誘導され、最終的にふたたび少女のいる場所へ戻ってくる。循環するような視線が構築されていて、非常に考え抜かれた作品となっています」
さらに、半透明に描かれたチュチュや、屋外の光を通す大きな窓、踊り子たちの影が映る床の表現などが、「全体的に透明で軽い印象を演出している」と補足。
『印象派への旅 海運王の夢 バレル・コレクション』は2019年6月30日まで。ロマン溢れる海運王のコレクションを堪能できる機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

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