橋本淳インタビュー~舞台『キネマと
恋人』待望の再演で「またゼロから作
品と向き合う」

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下 KERA)台本・演出による『キネマと恋人』が、2019年6月から世田谷パブリックシアターで再演される。2016年に初演され、数々の演劇賞を受賞するなど、再演の要望が高かった作品だ。売れない映画俳優と、その俳優が演じている映画の登場人物の二役を妻夫木聡、映画を愛する女性を緒川たまきが演じるなど、初演時のキャスト・スタッフがそのまま続投することもあり、今作が集める期待の高さは計り知れない。
今作で、若手映画スターの嵐山進と、嵐山が映画の中で演じている月之輪半次郎として出演している橋本淳に、再演にかける思いを聞いた。
役者の良さを全開で引き出すKERA作品
――まずは、再演が決まったときの率直なお気持ちを教えてください。
初演の公演中から、KERAさんが再演をどうしてもやりたい、となんども口にされていたのでいつかは実現するだろうと感じていました。それが実際に決まって、しかも全員オリジナルメンバーというのはなかなかないことですから、本当に嬉しかったです。この作品でKERAさんとも初めてご一緒できたので、とても思い入れが強いです。
――橋本さんはこれまで、誰もが羨むような多くの名だたる演出家、演劇人と一緒に舞台をやって来られました。
まだまだ一緒にやりたい人はたくさんいます。とにかく演劇を見るのが好きなので、ベテラン演出家の作品はもちろん、同年代や年下の作品など幅広く見て、「この人とやりたい」と思ったら、そのことをいろんな人に言い続けます。うるさいくらい言い続けていると、誰かが繋げてくださって叶ったりして、そういう機会をいただけることがありがたいですね。
――その中で、今の演劇界において最も勢いがあると言えるKERAさんと再びご一緒できることへの思いをお聞かせください。
笑いに関してだったり、見せ方だったり、役者の良さを全開に引き出してくださる方なので、こちらもまたゼロから真剣に作品と向き合って、違う部分を引っ張り出してもらえるようにしたいと思っています。ただ、好きな人の作品に出るという怖さはあるので、そこは気を引き締めてやりたいです。こうして取材を受けていると、再演できるうれしさを噛みしめるのと同時に、どんどん実感がわいてきて、今から緊張してきました。
――KERA作品のどういったところに魅力を感じていますか。
毎回必ず新鮮な驚きや発見があります。音楽もいいし、全部がお洒落ですよね。あのセンスの良さは、KERAさんが子供の頃から映画好きだというのもあるのではないでしょうか。インプットを大事にされている、と感じる部分があるので、僕もアウトプットに生かせるインプットのやり方を勉強させてもらいたいです。
舞台上でどうリアルに生きるか
――この作品の舞台が1936年、もちろん橋本さんはまだ生まれていない、ご自身が経験していない時代です。
少なからずその当時のことを調べたりはしますが、ドキュメンタリーではないので、変にそこを忠実にやろうとしてもエンタメにはならない、と思っています。現代に生きる僕が演じて、現代に生きる皆さんが見るので、言葉遣いとか佇まいはもちろん意識しますが、あまり内面的な感情の動きは制限したくないですし、どうリアルに生きるか、ということを純粋に考えて大事にしたいです。
――現代社会との違いを実感される部分はありますか。
人の距離感が違うかな、とは思います。当時はテレビや携帯なんてなくて、娯楽も映画しかない、人としゃべることしかないんです。そういった部分が人情や温かさにつながるのかな、ということは感じます。勝手なイメージですけど、この当時の人の方が正直ですよね。ちゃんと相手に伝えるというか、変にマスクをつけずに生きていたんだろうな、と思います。そこは現代人が忘れがちな部分なのかもしれません。
自分を疑い続け、新鮮さを失わずに
――映像からキャリアをスタートされ幅広くご活躍されていますが、舞台に出演することについてどのような思いを抱いていますか。
舞台はずっと続けていきたいです。舞台に救われたし、地獄に落ちたこともあるし、舞台のおかげでいろいろな面を見ることができました。舞台は、役者がその役を生きている様をノーカットで上演できるということと、自分の表現が直接お客様に伝わるということが大きいです。いい評価も悪い評価もダイレクトに来るので、そこは信頼できますし、その怖さにずっと身を投じていけたらな、と思っています。
「一つの作品を毎日繰り返しやって、飽きないの?」と聞かれることもあるんですよ。でも、お客さんの空気感も毎日違うので楽しいですし、アンテナを張ればいくらでも新鮮さは失われないので、自分を疑い続け、初心を忘れずにやっていきたいです。
――最後に、今作に向けての意気込みをお願いします。
いろんな方から「また見たい」と言っていただける作品に関わることができて幸せです。舞台を見慣れている方も、そうでない方も、映画が好きな方も、音楽が好きな方も、本当に広い幅で受け入れてくれる作品で、みんなを幸せにする作品なので、多くの方にぜひ見ていただきたいです。僕も気負わず怠けずに、しっかり新鮮な気持ちを持って創作に関わっていきたいと思います。
「俳優としてどう進んでいくのか」という、自分の道をしっかりと見据え、作品と正面から向き合っている姿勢がよく伝わってきた。何度演じてもその都度、舞台上で新鮮な芝居を見せてくれるからこそ、橋本と共に舞台を創りたいと思う演劇人は後を絶たないし、その演技力は映像の世界からも求められ続けているのだろう。「これまで様々な舞台に出演してきたが、再演をやりたいと思える作品は数少ない」という橋本が、その数少ない作品のうちの一つに数えるのが、この『キネマと恋人』だ。KERA作品の魅力が詰まった今作の再演で、今回は橋本がどのように役を生きるのか、嵐山進と月之輪半次郎に会えるのが今から楽しみでならない。
取材・文=久田絢子  写真撮影=池上夢貢

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