【インタビュー】町屋(和楽器バンド
)が提示する、実現すべきギターの姿
【BARKS編集長 烏丸哲也の令和 楽器
探訪Vol.001】

和楽器バンドの町屋こと桜村眞の愛用ギターは、世にも稀な奇天烈なギターだ。こんなギターを弾きこなしているのは、世界広しといえどもこの男だけなのではないか。ネックが無駄にたくさんついていたり、激烈に小さかったり…と、人の目を引く飛び道具的ギターは世にたくさん存在しているけれど、かくして理に適い機能美にあふれる独創的なギターが平成最後にして登場してきた事自体、驚愕の事実でもある。

本来のナット(0フレット)部分から更にネックが伸びて-2フレット分拡張され、さらに弦1本が追加されたことで、通常の適正テンションを保ったままローAという激烈な低域を叩き出す「時雨」というギターは、町屋のリクエストの元でギターブランドSago New Material Guitarsが作り上げた。なぜこんなスペックなのか、何故にこうなったのか…町屋がギターに求めるものはどういうものだったのか、話を聞いた。
▲Sago New Material Guitars 時雨

──これまで839mm/29フレットという激烈なロングスケールを持った雪風/虎徹/麒麟を使用していましたが、最新モデルの時雨は、また大きく仕様が変更されましたね。これが理想的なスペックということでしょうか。

町屋:理想的というか「求められる要求に対して対応できるスペック」なんです。

──求められる要求?

町屋:普通ライブを行うと、曲ごとにギターを持ち替えたりしますよね?本来はライブの流れ/進行を最優先すべきなのに、そこに楽器の持ち替えの時間を工面しなくてはいけないというのは、割と創作性を欠くことになっていると思うんです。だから、全体の流れを美しく見せようと思うとギターの持ち替えは絶対少ない方がいい。だから僕は、基本的にどんな状況でもギター1本で対応したいんですね。

──なるほど。

町屋:特に和楽器バンドの場合、転調とかチューニングを変えたりすることができない楽器ばかりなので、曲間で各楽器が調弦している間は、ドラムとベースとギターで音を埋めておきたいんです。そのためにもギターを交換している場合じゃないんですが、曲のキーが変わるので、例えばEの曲から瞬時に半音下がったE♭の音を出すには、普通のギターよりもボトムを下げたチューニングが必要になる。

──それで、0フレットから更に伸ばして、低い方に5フレットも音域を伸ばしたわけですね。それがこれまで愛用していた雪風/虎徹/麒麟という超ロングスケールのギターで。
▲超ロングスケールの麒麟

町屋:そういう発想でネックの長いギターが生まれたんですけど、今回は弦を1本増やして2フレット伸ばしにとどめたことで、カポの稼働域がずいぶん減ったんです。

──今まで5フレットの中を行き来していたところが、2フレット分になった、と。

町屋:はい。それでカポミスが減りました。

──そうか、カポを付ける場所を間違えるというトラブルが起こり得るんですね。

町屋:そうなんです。5カポにセットしたつもりで4カポだったとか(笑)。今回カポを変える回数が半分くらいになったので、ミスもずいぶん減りました。もちろん指は全部覚え直しなんですけど、その辺は練習すれば何とでもなる話ですから。

──そもそも5フレット伸ばし6弦から、2フレット伸ばし7弦に変更したのは、どうしてですか?
町屋:7弦ギターって、もともとパーツが少ないんです。ピックアップもブリッジも種類がほとんどなく満足したスペックが得られないから、6弦のまま低域を出せるようにネックを伸ばしたんですね。5フレット分伸ばしたのでローBまで出るんですが、和楽器バンドの場合低い音だとローAまで使いたいことがあるので、今回から7弦で2フレット伸ばしとしました。もちろん7弦ですからパーツが問題なんですけど、今回はピックアップもメーカーさんと一緒に開発しまして、フロントがP-90タイプ、センターがジャズマスター・タイプ、リアがハムバッカーとなっています。構造上、ボビンにポールピースを立ててコイルを巻けばいいだけですから中身は作れるんですけど、ピックアップカバーが既製品にない。さすがにロット数がないとそんなものは作れませんから、じゃあウッド・ピックアップカバーにしようということで、全部木で削り出してもらいました。でもすごくバランスのいいピックアップになりましたよ。

──変わったピックアップ構成ですよね。

町屋:もともとギターを持ち替えずにいろんな楽曲をプレイするためですから、1本でキャラクターがまったく違うサウンドができるようにしています。トグルスイッチで各PUを切り替えるのでハーフトーンがないんです。ほんとにギターを持ち替えているくらいサウンドには違いがありますよ。
▲ピックアップは全てハンドメイド。P-90タイプ、ジャズマスタータイプ、ハムバッキングと、セレクトも個性的。

──一般的なフロント+リアのハーフトーンと比べ、ジャズマスタータイプのセンターはどういう音になりますか?

町屋:クランチトーンだとわかりやすいんですが、結構ジャキジャキしたクランチが出るんです。ボディがセミホローになっているので、ダイナミクスの幅がソリッドより出ますから、ピッキング次第で非常にキレのいいサウンドになる。その点、フロントはとてもクリーミーで、ジャジーなものにも対応できますね。

──材も良さそうですね。

町屋:これね、バックもネックも燻しているんですよ。

──スモーク?

町屋:そう、700℃くらいだったかな…それで水分を飛ばすんです。それによって軽くなるんですけど、かなり音がからっとしてサステインも良くなる。ただ折れると悲惨なことになります。普通の木ってネックが折れるとき「ムシャ」って折れるんですけど、これは半分炭化しちゃったような状態なので「パリン」って割れるんですよ。だから一回壊れちゃうと修理が難しいです。
──時雨は、弦は1本増えてしまいましたけど、低い音は雪風/虎徹/麒麟よりもさらに1音低いローBまで出るようになりましたが、これも狙ったものですか?

町屋:和楽器バンドの場合、和楽器が一番美しく鳴るのってDマイナーなんです。

──それは和楽器の特性で?

町屋:そうです。箏、三味線、尺八の基本のキーがDマイナーなんですよ。Dマイナーキーの曲が終わる時、普通だと最も低いD音って1オクターブ上にしかないので、ズドーンと安定感を持って終わりたいときに軽すぎるんです。それが時雨だと、Eマイナーのフォームで演奏できるので着地感が強い。ここが基準になっているんです。今までやってきた曲の傾向をみても、Dマイナーのキーが圧倒的に多いので。

──弾いてきた麒麟だと、3カポ状態ですね。

町屋:そうです。その状態を基準としたのが時雨なんです。和楽器バンドの場合、箏にしても三味線にしてもどれもアタックばかりで(音の)減退が速い楽器が多いんです。だからコードを支える楽器は僕しかいないんです。

──周りの楽器はみんなサステインがないんですね。

町屋:だからなるべく音程感を保った状態で、支えてあげなきゃいけないっていうのがすごく大きい。
──なるほどよく考えられているんですね。2カポで普通の7弦ギターになるというのがとても使いやすいですし。

町屋:やっかいな半音下げっていうのも1カポで対応できるんです。僕はね、半音下げチューニングって良くないと思っているんですよ。

──どういうことですか?

町屋:なんていうかな…ギターの教育上、ポジションマークの位置って音程が変わっちゃいけないと思うんです。6弦の3フレットの場所は絶対Gであるべきですし、5弦の3フレットは絶対にドだし。ドから見て3度はメジャー、そこから半音下がってマイナー…、セブンス、オクターブと距離関係の覚え方をする上ですごく重要だと思うんです。自分もライブ中にギターを何本も持ち替えて、分からなくなったことがあるので。

──確かに「GのポジションなのにGフラットの音が出る状態」というのはある意味異常ですね。絶対音感を持っている人は気持ち悪くて仕方がないかも。

町屋:そうでしょうね。やっぱり違和感はありますから。

──そういう意味でも、素晴らしい設計のギターなんですね。

町屋:今まででは一番出来もいいし、7弦ギターってローが詰まりがちなんですけどセミホロー・ボディによって変に音がたまったりもしなくて割とすっきりクリアになったりもするんで。

──7弦プレイヤーにセミホローを導入する人っていないですよね。ヘヴィ系のリフメイカーなら、絶対ソリッドで設計するから。

町屋:そうですね。リフのために7弦があるのではなく、あくまでコードの中で必要な和音として下の音が欲しいので、目的が違いますよね。
▲ハウリングと強度の面から、fホールは当初の予定よりも小さめに作られた。

──ゼロフレットの導入も素晴らしいですね。カポの置き場がロックナットの手前に変わるだけで操作性が全く変わったわけで。

町屋:そうなんです。以前は瞬間的な移動が難しくて、使うときは「よいしょ」ってやってたんですけど、これはとても楽です。
──発明ですね。その他、ネック容量が大きくなっていることで、サウンドへの影響はいかがですか?

町屋:良くも悪くも硬いです。ネックを伸ばすと音程はしっかりするけどテンションが保てる分、音も硬質になる。音程感ははっきり出るんですけど硬すぎるときがあるので、それで以前ロングスケールからミディアムスケールに変更したという経緯がありした。

──作ってみないとわからないこともありますよね。

町屋:ストラップの長さがあまり選べないんですよ。ヘッド側を下げれば弾きやすいけどハイポジションが辛くなる。ハイポジションに合わせると、ローポジションが遠くなる。そこの塩梅でちょうどいい具合のところでしかストラップの長さが決められないので、立ち姿的に好みの高さでギターを持てないんですよ。

──操作性には影響があるのか。

町屋:あります。でもいい感じですよ。実はここ最近わりとジャズばっかり弾くようになったこともあって、ダイナミクス欲しさにボディをセミホローにしたんですが、その分ボディが軽くなりヘッドが落ちるようになりますから、ネックの長さを短くするために7弦にしたという経緯もあるんです。で、7弦があると例えばCメジャーセブンスでペダルトーンが踏めるんですよ。

──それはいいですね。

町屋:7弦がなかったらどうすればいいんだ?ってなっちゃう(笑)。あとね、意外と気付かれない変更点として今まで24フレットだったのが今回22フレットです。これはサウンドを重視した結果で。

──フロントのピックアップの位置を上げたかった?

町屋:いや、この子。センターPUです。

──確かに、通常のセンターより上めの微妙な位置にありますよね。

町屋:そう、これがセンターの位置だと硬いんです。なるべくフロントに寄せたくて。

──センターPUのために2フレット犠牲に(笑)。24フレットの音は、チョーキングでなんとかすると。

町屋:まあ滅多に使わないですし、アーム引っ張れば一応その辺くらいまでは出るんで。

──でもカポなし状態だと24フレ仕様となって収まりはいいんですね。

町屋:はい。ちょうど2オクターブ。でね、今は新たにこれの6弦バージョンを作ってもらっています。ヘヴィな曲をやらない普通のポップスの現場は大体6弦で済むはずなので。でも半音下げは多くてたまに1音下げもあるので、そのギターがちょうどいいんです。イベントなんかではボーカリストのキーに合わせて転調することもありますし、昔のメタルをコピーしたりすると「半音下げだ」とか「1音下げだ」というのがカポひとつで対応できますから、すごくいいんですよ。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也

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