SHISHAMOが春の野音にライブシーズン
の訪れを告げた恒例の野外ワンマン

SHISHAMO NO YAON!!! 2019 EAST 2019.4.6 日比谷野外大音楽堂
春とSHISHAMOとの絶妙なコラボレーション。そう表現したくなるような季節感あふれるコンサートだった。2015年に1回目が行われて、今年で5年連続となる『SHISHAMO NO YAON!!!』、これまでは夏に開催されてきたのだが、今回は初めての春の開催だ。夏の野音もいいが、4月の野音もいい。日比谷公園の桜も満開だった。青空に桜の花びらのピンクが映えている。どんな大掛かりなセットも、この自然のセットにはかなわない。桜の木を愛でて、花見をしながら会場に入るだけで、少し得したよう気分になる。
SHISHAMO・宮崎朝子
ステージの下手にも桜の木のセットが設置されていた。ステージ上手側の後方にかすかに天然の桜も見えている。ステージの背後には『SHISHAMO NO YAON!!!』という手書き文字のバックドロップが貼ってある。2015年から使われているものなので、ちょっと年季が入っていて、SHISHAMOの野音の歴史がこのバックドロップにも染みこんでいると言えそうだ。座席はコンクリートから白木へと改装されていた。ライブが始まってしまえば、座っている時間はあまりなさそうだが、座り心地もかなり向上している。実はこの日が昨年秋から改修に入っていた野音の工事完了後の初のライブということになる。つまり、リニューアルした野音のこけら落としのステージでもあったのだ。
SHISHAMO・松岡彩
真新しさと歴史とが混ざり合った野音のステージに、吉川美冴貴(Dr)、松岡彩(Ba)、宮崎朝子(Gt/Vo)の順で登場して、それぞれの定位置へ。各ポジションには緑色の円形シートが敷かれていて、春のムードが醸し出されている。吉川のドラムから始まったオープニング・ナンバーは「恋する」だった。春は出会いと別れの季節、そして恋の季節でもある。猫だって、人間だって、春になると、恋に落ちる。春の野音にふさわしい始まり方だ。観客もハンド・クラップで参加していく。恋に落ちた瞬間のエネルギーとロックの初期衝動とがシンクロしていくような瑞々しい演奏だ。3人が向き合ってのエンディング。
SHISHAMO・吉川美冴貴
日が暮れる前の野音は照明による演出が控えめなケースが多いのだが、この日は最初から照明も全開だ。「ねぇ、」でもステージ上に設置されていた最新の7台の照明機材ELIDY(細かくて強いLED光源をプログラミングによって自在に照らす機能を装備)による光を始めとする鮮やかなライトを浴びながらのエネルギッシュな演奏が気持ち良かった。カラフルな照明は春という季節にも恋の歌にもぴったりだ。3曲目はニューシングル「OH!」のカップリング曲、「許してあげるから」。この曲はツアー・ファイナルの3月のZEPP TOKYOでも演奏されたのだが、早くも曲が浸透していて、観客もハンドクラップで参加していた。疾走感あふれるナンバーだが、ラテン的なリズムも導入されていて、展開の妙も堪能できる。3人の息の合った演奏が主人公の複雑な感情を見事に描き出していた。
SHISHAMO
「天気が良くて、本当に良かったね」と吉川が言うと、松岡が「今日起きたら、晴れてて、うわーっ!!!っとなった」と答える。さらに松岡が「みなさん、元気ですか!」「日比谷!」と観客をあおったのだが、コール&レスポンスのリードの仕方が初々しく、「ぎこちねぇ……」と宮崎がポツリ。そんなやり取りで楽しませながら、「大好きな野音なので、今日はいろんな曲をやっていこうかなと思っています」との宮崎の言葉どおり、最近演奏されていなかった曲もたくさん演奏された。モータウン風のリズムに乗ってのコミカルなタッチの歌と演奏が楽しい「すれちがいのデート」、松岡のロカビリー・テイストのあるベースが印象的な「デートプラン」、宮崎の弾き語りで始まり、一転して、吉川のパワフルなドラムを軸とした疾走感あふれる演奏が全開となり、終盤はスローになるという起伏に富んだ展開に引きこまれた「ごめんね、恋心」など。どの曲にも共通しているのは歌の登場人物のキャラクターや心情が際立っていたことで、歌心とバンド感の両立というSHISHAMOならではの魅力は、この野音でも全面的に発揮されていた。
SHISHAMO・宮崎朝子
「4月が始まって、そろそろ1週間たちますが、新生活がスタートする人がたくさんいると思います。私は大学を2年で退学したんですが、入学したとき、出遅れてしまって、ホントにつらかったんですよ」と吉川のMC。実は人見知りな性格で、新しい環境、新しい人間関係に馴染めずに、苦労したとのこと。「ひとり暮らしを始めた人もいますよね。私はひとり暮らしを始めて5年目なんですけど、まだ寂しいな」と松岡。「新しい環境に慣れなくて、苦労している人もいると思うんですが、今日は目一杯楽しんでもらって、明日からの新しい生活を頑張る糧にしてくれたらなと思います。新しいと言えば、SHISHAMOにも新しいことがありまして、今日から『王様のブランチ』のテーマソングとして書き下ろした曲がオンエア・スタートしました」との吉川のMCに続いて、その新曲「ハネノバシ」も初披露された。吉川のスティックのカウントで、歌、ギター、ベース、ドラムが一斉にスタートしていく。歯切れの良さと軽快さと温かさを備えた演奏が気持ち良く入ってくる。人見知りな人間の心も一瞬にして開いてしまうような、フレンドリーな親しみやすさと伸びやかな開放感を備えた、いい曲だ。聴き手に寄り添い、頼もしい味方となってくれる曲として大きく育っていくだろう。
SHISHAMO・松岡彩
春なのに、突然夏がやってきたようだったのは「夏の恋人」。ちょうど日が暮れて、空は深い藍色になっていたのだが、オレンジ色の照明が夏の夕陽のように輝いていた。せつない宮崎の歌声が染みてくる。松岡と吉川も歌心あふれる演奏を展開していく。ゆったりとしたテンポなのだが、芯の通ったバンドサウンドになっているところも素晴らしい。コーラスも雰囲気があっていい。春に聴く夏の歌もオツなものだ。満開の桜はすぐに散るし、真夏はすぐに去っていく。一瞬一瞬のかけがえのなさが際立つ演奏だった。
SHISHAMO・吉川美冴貴
「今日は最近あまりやってない曲、懐かしい曲もやっていきたいと思います」という宮崎の言葉に続いて、初期の曲が続けて演奏された。1stアルバム収録曲の「こんな僕そんな君」は純情な主人公を温かく包み込むような柔らかな演奏がいい感じだった。主人公のとぼとぼとした足取りを連想させるような味のある口笛は松岡。2ndアルバム収録曲の「恋愛休暇」はシュールな虚無感がじわりとにじむ歌と演奏が魅力的だった。同じく2ndアルバム収録曲の「僕、実は」は、ギターのリフが印象的なライブで威力を発揮するナンバー。曲が進行するほどに演奏が白熱していく。曲が終わった瞬間に大きな拍手が起こった。初期の曲はスリーピースのバンドサウンドの魅力がダイレクトに伝わってくるものが多い。新旧取り混ぜたセットリストからは、SHISHAMOの音楽の魅力が立体的に伝わってきた。
SHISHAMO
最近、松岡と吉川にお弁当を作るブームが到来したとのことで、しばしお弁当にまつわるトークに花が咲いた後、センターステージに移動してアコースティック編成で3曲が披露された。野音では恒例となっているのだが、あたりが暗くなってからのセンターステージは今回が初。「ここで夜やるの、気持ちいいね」と宮崎。宮崎はアコースティックギター、松岡はピアニカとグロッケン、吉川はカホンという編成でまずは「あなたと私の間柄」から。柔らかさと密やかさを備えた歌と演奏が夜風に乗ってふわりと届いてくる。「昼夜逆転」ではつぶやき声のようなさりげない歌声と演奏に、観客が聴き入っていた。宮崎のせつない歌声を松岡と吉川のコーラスが包み込んでいく。「熱帯夜」では松岡はグロッケンとシェーカーを担当。スウェディッシュ・ポップを彷彿させる洗練されたアレンジになっていて、3人のアンサンブルも涼しげなハーモニーも軽やかなグルーヴも絶妙だ。アコースティック・コーナー、リラックスした雰囲気ではあるのだが、音楽としての完成度も高い。
SHISHAMO
メインステージに移動してからの3曲は、春の野音の白眉とも言えそうなブロックとなった。まずは「さよならの季節」から。<桜の木の下>というフレーズがあって、春、卒業式が舞台となったこの曲はこの春の野音にぴったりだ。桜色のライトが客席を照らし、間奏では観客のハンドクラップも加わって、後半は歌も演奏もどんどんエモーショナルになっていく。続いても卒業式をモチーフとした「水色の日々」。卒業式の曲から卒業式の曲へ、せつなさがさらなるせつなさをもたらしていく。続いての「中庭の少女たち」は春に限定された曲ではないけれど、学校での日々がやがて終わる予感が漂っているという点では共通するところもある。ハンドクラップがひときわ高くなっていく。思いがあふれていくような歌と演奏だ。バンドだけでなく、観客も含めて、会場内全体がこの瞬間のかけがえのなさを共有していた。春という季節と春の歌とが重なり合って、輝きを増していく。
SHISHAMO・宮崎朝子
恒例となっている“吉川美冴貴の本当にあった○○な話”では、吉川家に導入された人工知能を持ったロボットにまつわるエピソードが紹介されて、おもしろさともの悲しさとが入り混じった話に笑い声と拍手とが起こった。終盤は盛り上がる曲の連続。「好き好き!」では会場中が一体となって、揺れていく。「タオル」では何千もの赤白タオルが回った。さらに「明日も」ではバンドの熱い演奏に応えて、観客も熱い盛り上がりを見せていく。最近のSHISHAMOのライブでは本編のラストでこの曲が演奏されるケースが多かったのだが、この日はもう1曲、控えていた。本編の最後の曲となったのはニューシングル「OH!」。この日が生演奏での初披露となったのだが、バンドも客席もまとめて鼓舞していくような真っ直ぐなパワーの詰まった、スケールの大きな名曲だ。<OH! OH! OH!>という歌声が雄々しく響き、演奏に込めたエネルギーはダイレクトに客席に届いていた。この曲もたくさんの人々がシンガロングする曲に育っていくだろう。
SHISHAMO
アンコールで登場した3人から、まず本編を終えての感想をまじえたMCがあった。
「みんな、優しいなって思いました。新生活が始まって、環境が変わっている中で、楽しみにしてくれていることが伝わってきて、うれしかったです」と松岡。
「初めての春開催で、新曲を初めてライブで演奏して、2019年度の新しいSHISHAMOをここから始めるぞという気持ちを持ってのぞんだんですが、これでまたみなさんと一緒に2019年度も走っていけるなと思いました」と吉川。
「私は今日、とても楽しかったです。演奏しながら、何回も、ああ、いいなあって思いました。この間、喉をやっちゃって、今も治療中なんですが、つらくて、痛いんですよ。でもつらい治療を頑張れるのもみんなのおかげです。みんなの前で歌うぞっていう気持ちがなかったら、直せてないと思う。みんなのおかげで良くなっています。感謝してます」と宮崎。
SHISHAMO
SHISHAMOの歌がリスナーを元気づけたり、勇気づけたりするのと同じように、リスナーの存在がSHISHAMOを元気づけたり、勇気づけたりしている。つまり音楽の素晴らしいパワーは一方的に流れているのではなくて、バンドと観客との間で循環しているということだろう。
SHISHAMO・宮崎朝子
アンコールで演奏されたのは<もっと強くなれるかな>というフレーズで始まる「メトロ」だった。野音は地下鉄日比谷駅と霞が関駅のすぐ近くにあるので、このロケーションで演奏されることによって、身近さもリアリティーもアップしていた。弱さをさらけだしていくような宮崎の素直な歌声が染みこんでくる。失恋した主人公の傷ついた心が描かれた歌なのだが、失恋の歌というよりも希望の歌といいたくなるような、力強さを備えたバンドサウンドが凛として鳴り響いていく。春の野音の締めくくりにふさわしい演奏だ。
SHISHAMO
終演後、3人が手をつないで、生声で「ありがとうございました」と挨拶すると、盛大な拍手が起こった。春に映える旬の歌がたくさん演奏された。春は新たな始まりの季節であり、期待と不安とが交錯する時期だ。未来が見えないからこそ、希望を抱いたり、不安を感じたりするわけで、希望と不安とは表裏一体の関係にあるものだ。満開の桜が人々の心を慰撫し、鼓舞してくれるように、SHISHAMOの歌と演奏は観客ひとりひとりの胸の中にある不安への耐性を付け、希望を増やしていく効果があると感じた。5文字で春の野音のステージを表すならば、サクラサク。ただし、桜は満開だったが、SHISHAMOの満開の季節はこれからだ。

取材・文=長谷川誠
SHISHAMO

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