須田景凪がたどり着いた境地、「言葉
としての音楽」

ラップトップからLIQUIDROOMへ

PCが1台あれば、プロデューサーにもシンガーにもなれる時代です。ライブハウスを経由せず、ボカロPとして曲を作りまくっているうちに、“結果としてバンドを組んだ”というパターンが今では珍しくありません。米津玄師に至っては紅白出演アーティストです。ニコニコ動画で彼が作る楽曲が殿堂入り(10万再生を記録)する様子を見てニマニマしていた頃も今は昔。いやはや遠くまで来たもんだ。

そしてここにまた新たな可能性がひとつ。ボカロ発のシンガーソングライター、須田景凪(すだ けいな)。4月7日に恵比寿のLIQUIDROOMで開催された彼の東名阪ツアー「須田景凪 TOUR 2019 “teeter”」の最終公演のチケットが完売。当日はパンパンのフロアの中、須田はアンコール含め17曲を熱唱しました。ちなみに、LIQUIDROOM以外の公演のチケットもソールドアウトしており、7月14日に中野サンプラザホールので追加公演の開催も決定しています。
ボカロP“バルーン”として2013年に活動を開始した彼は、「シャルル」や「メーベル」などのヒットチューンを生み出したあと、須田景凪名義でシンガーソングライターとしてもキャリアをスタートさせました。彼のアーティスト性についてはコチラに書いておりますので、ぜひご覧くださればと思います。
やはりライブは違いますね。特にインターネット発のアーティストは、文字通りベッドルーム(ラップトップの画面)からステージへと場所を移すわけですから、印象がまるで異なります。その出自(アニメーションやイラストなどのDIYテイストなビデオが用いられる)から映像表現とはすこぶる相性がよく、VJが会場にいればそれだけ多次元的なアウトプットになるのです。PCの画面上で展開されていた世界観が、ステージ上では奥行きと物理的な感触を伴って再現される。大げさな表現に聞こえるかもしれませんが、ボカロPのステージ進出は「2Dから4Dへの変換」だと思っています。それぐらい根源的な変化。

実際、「teeter」の文字がステージ上に出現したときは身震いしました。一発目に披露されたナンバーは最新EP「teeter」に収録されている「farce」でしたけれども、この曲ひとつ取ってもエッジーなギターのリフは空間的な広がりがあったし、リズム隊のグルーヴにもずっと迫力がありました。その後に続く、1stアルバム『Quote』からの三連発(「街灯劇」、「idid」、「鳥曇り」)も躍動し、序盤から存分に須田景凪が立体的に再現されてゆきます。
極めつけは「Cambell」。この時の映像は雨だったのですが、これがまた表現として面白い。前方で観ていたオーディエンスは気付かなかったと思うのですが、オーディエンスもほとんどスクリーンの一部となっておりました。プロジェクターから光が3D状に拡散され、さながらスクリーンの映像が飛び出してきたような錯覚を受けました。
須田景凪 – 「Cambell」

楽曲としても「Cambell」は『Quote』屈指の名曲ですから、このシーンで喰らったオーディエンスも多いことと思います。

須田景凪が1, 2年前にLIQUIDROOMで観た
のは誰のライブであったのか?

途中のMCで須田景凪はこんなことを言っていました。「1, 2年前、僕はここ(LIQUIDROOM)に友達とあるアーティストのライブを見に来ていたんですけど、“とんでもないものを観た”という衝撃を受けたんです。それ以来、このステージが怖かったんですけど、今日はすごく楽しい」。レポートの本筋と少し逸れるが、ここで当時須田が観たアーティストを考えてみたいのです。冒頭の記事にも書きましたが、彼はエレクトロニカ的アプローチを時折忍ばせます。これの参照元がもしかしたらそのアーティストにもあるかもしれない。そう思い、ウチに帰ってから近年LIQUIDROOMのステージに立ったアーティストを片っ端から調べました。恐らくフェスや対バンではないだろうと判断し、以下の3組に独断と偏見で絞りました。
Explosions In The Sky: Full Concert | NPR Music Front Row
American Football – 「Doom In Full Bloom」
Thundercat: NPR Music Tiny Desk Concert

このどれかではなかろうかと! 本命American Football、対抗Explosions In The Sky、大穴Thundercat…。どれでもなかったら愛想笑いをします。ちなみに開演前はひたすらÁsgeirの曲がかかっていました。なぜこんな些細なことにこだわるのかと聞かれれば、ボカロPが別名義でシンガーソングライターとして走り出すとき、ボカロ的な文法からどの方向へ逸脱するのかに大変興味があるからと答えましょう。恐らく、須田景凪はまだまだ懐に弾をたくさん持っていて、現時点で発露しているのはそのほんの一部であると思います。それがこれからどのような方向へ放たれるのか、個人的に(皆そうでしょうけども)とても楽しみなのです。

須田景凪がたどり着いた、言葉としての
音楽

「パレイドリア」を披露したあと、MCでこう続きました。「僕はバカほど売れたいとか、バカほどデカイところで(ライブが)やりたいとかそういうことではなく、前からずっと、みんなの生活に溶け込むような存在になりたかった。『それってつまりどういうことだろう?』って考えたとき、言葉なんじゃないかと思い至ったんです。みんなの共通言語として存在するようなアーティストになりたい」。たとえば学校で、あるいは職場で、はたまた家庭で、「須田景凪のあの曲が好き」という話が出る。確かに好みが色々と分かれている昨今、隣のあの子の好き嫌いを推し量ることすら難儀です。それでも、共通の話題として「シャルル」があるかもしれない。そういう素敵な未来を思い描くと、須田景凪の目標を諸手を挙げて応援したくなります。いや、ところによっては既に現在進行形でそういう現実もあるでしょう。そういう出会いができたあなたはきっと幸せです。
バルーン – 「メーベル (self cover)」

鳴りやまぬアンコールの大合唱を聞きながら、須田景凪が「共通言語」になる未来を夢想しておりました。そんなに遠くない未来、それが実現する予感があります。


■ 須田景凪 TOUR 2019 “teeter”
2019年4月7日(日)恵比寿LIQUIDROOM
01.farce
02.街灯劇
03.idid
04.鳥曇り
05.Cambell
06.シックハウス
07.レソロジカ
08.morph
09.Dolly
10.mock
11.レド
12.シャルル
13.ポリアンナ
14.パレイドリア
15.浮花
en.1 メーベル
en.2 密

◎ツアー情報
【須田景凪 TOUR 2019 追加公演 “teeter”】
2019年7月14日(日)東京・中野サンプラザホール

須田景凪 オフィシャルサイト
須田景凪 Twitter

須田景凪がたどり着いた境地、「言葉としての音楽」はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。