2人組女性ロックバンド・なきごとが
初の全国流通盤「nakigao」ーー「ち
ゃんと泣き言を言えるような存在でい
たい」

結成からわずか5ヵ月。Czecho No RepublicSUPER BEAVERsumikaらが所属するmurffin discsのオーディションで準グランプリを獲得した2人組女性ロックバンド・なきごとが初の全国流通盤「nakigao」をリリースする。泣きたい時に 「泣いていいんだよ」と言える存在でありたい。そんな想いをバンド名に掲げる彼女たちは、悲しみや孤独といった負の感情をポップでメランコリックなメロディにのせて、見た目とは不似合いなほどエッジの効いたロックサウンドを鳴らす。以下はそんななきごとの初のインタビューだ。自分を救ってくれた音楽への大きな可能性を口にしながら、現実をシビアに見つめる言葉からは、すでに彼女たちがバンドとしての揺るぎない信念を持っていることが伝わるはずだ。
――2曲目の「メトロポリタン」はメロディに対する言葉のノリがすごく心地好い曲ですね。最後にSorryと総理をかける遊び心もあって面白かったです。
水上えみり(Vo/gt):ただダジャレを言いたいだけの曲ですね(笑)。
――これがバンドにとって初めての曲ですか?
水上:いちばん最初に出したデモシングルの中に「ドリー」っていう曲と「メトロポリタン」を入れてたんですけど、その2曲が最初に作った曲ですね。
――作るときに、こういうことを歌いたいなというテーマはあったんですか?
水上:わかりづらいかもしれないんですけど、これは失恋の曲なんです。「総理」という……自分にとっての大きな存在に対する報復の曲ですね。
――え、報復の曲?
水上:これにはストーリーがあって。まず女の子が総理と付き合って、その総理と女の子がヒドい別れ方をしちゃうんです。で、女の子が警察にチクるんですよ。そこからハニートラップ的な感じで、警察に「あの人ヤバいですよ」みたいなことを言って、総理を陥れる。だけど、本当は総理のことが好きだから、「ごめんね」とか「許して」と歌ってるんです。
なきごと 撮影=森好弘
――それを聞くと、ちょっと怖い曲ですね。
岡田安未(Gt/cho):大体これを聞いた人はびっくりしますね(笑)。こいつヤバいなと思いました。すごくポップな曲じゃないですか。言葉選びでも遊んでるのに、実は復讐の曲だというのは、裏と表の違いが衝撃的ですよね。
水上:こういう曲が好きなんですよ。わりと負の感情をテーマに曲を作ることが多いんですよね。やっぱり心が動く瞬間がそういうときなんです。「Oyasumi Tokyo」は疲れたときに書いた曲だし、「メトロポリタン」は失恋だし、「忘却炉」は女の子と総理が別れたあとのストーリーになってて、「お前なんかもういらない!」という感じの曲なんです。
――負の感情の曲なのに、曲調自体は全然ドロドロしてないですよね。
水上:そうなんですよ。やっぱり自分の好きな音楽が王道のロックとかポップスだったりするので、そういう感じになるんだと思いますね。
――なるほど。いきなり曲のことから聞いちゃいましたけど、ふたりがバンドを結成した経緯を聞かせてもらえればと思います。去年結成ですよね?
水上:去年の10月に初めてライブをやったんです。(岡田とは)前身バンドから一緒なんですけど、その前進バンドが解散したときに、「2人でやろう」となったんです。
岡田:解散するかしないかのときに、「メトロポリタン」と「ドリー」の元になる曲を作ってくれたんですよ。その2曲を聴いて「私はまだバンドをやりたいな」と思ったんです。
――一緒にバンドを組むにあたって、お互いにどういうところに魅力を感じてますか?
水上:めっちゃ恥ずかしい(笑)。いろいろなギターの人とバンドをやって組んだんですけど、岡田は今まで会ったことのないタイプだったんですよ。
岡田:最初はめちゃくちゃ言われてましたよ(笑)。意味がわからないって。
水上:初めてのことをやってくれる人だったから、自分の中でも全然噛み砕けなかったんですよね。だから一緒にできないんじゃないかなと思ったんですよ。でも、冷静になって、「これは岡田というギタリストのフレーズなんだ」と呑み込んだら、すごく良いギタープレイをする子だなって思えたんです。自分の作る楽曲はドロドロしてるから、そのまま出すと、ドロッとした楽曲になっちゃうけど、そこに良い意味で女の子っぽくないギターが加わることで、味のある曲になるんじゃないかなと思います。
なきごと 撮影=森好弘
――岡田さんは女の子っぽくないギターっていうのは自分では意識してるんですか?
岡田:そうですね。かわいい女の子って、大体かわいいギターを弾くんですよ(笑)。それはすでに溢れ返ってるというか、市場に足りてると思うんですよね。だからこそ、いないゾーンを狙おうと思って、男の子らしいギターを弾くようにイメージしてますね。
――岡田さんから見て、えみりさんはソングライター、ボーカリストとして、どんな魅力を感じていますか?
岡田:人と違う感性を持ってるなと思いますね。普通の人とものごとの受け取り方が違うし、それをアウトプットする力も全然違うと思うんですよね。私だったら、そんな表現はできないって思わされるというか。
――「メトロポリタン」の歌詞に「病原体」という言葉が出てきたり。
岡田:ふとした瞬間にそういう言葉を入れてきますよね。
――ふたりになったときに、こういうバンドを目指したいっていうものはありましたか?
水上:解散しちゃったんですけど、plentyみたいなバンドをやりたいねっていう話をしてました。全然逸れましたけど(笑)。学生のときに聴いていて、それを(岡田に)教えたらハマったんですよね。歌詞が独特で暗めなんですよね。そういうところが好きで。キラキラ系のかわいい女の子たちっていうバンドにはなれないと思ったんですよ。そういう見た目よりも、音楽とか中身でちゃんと勝負できるバンドになりたいなと思ってます。
――もしかして、前のバンドを組んでた時、「可愛いバンド」と見られことに対して嫌だったところもあったんですか?
水上:うん……正直、前のバンドのときも、負の感情で曲を作ってたから歌詞は暗めだったんですけど、楽曲のアレンジが子どもだったから……何て言うんだろう、音楽が好きというよりは、この見た目の女の子たちが4人並んで頑張って演奏してるというのを応援してくれる人が多かったような気がしてて。
なきごと 撮影=森好弘
――なきごとになってからは、望むかたちで聴いてくれている手応えはありますか?
水上:よくツイッターでエゴサするんですよ。「メトロポリタン」でエゴサをすると、美術館とかがヒットしちゃうんですけど(笑)、歌詞に出てくる《パトロールポリスメン》で検索すると、その部分を歌ってくれてる人がいたりして。
岡田:ちゃんと曲を聴いてくれてるような反応が多いですね。
――plentyという名前も出てきたけど、ふたりが影響を受けた音楽っていうのは、どういうものですか?
水上:スピッツですね。バンドをやるキッカケになったのは、RADWIMPSとかplentyとかOverTheDogsだったりするんですよ。あと、漢字表記だったときのSEKAI NO OWARIとか。それが「バンドを好きだ」と思ったきっかけで、その原点にあるのがスピッツなんですよね。歌詞の世界観とかメロディの美しさだったりが好きで。その歌を映えさせるための楽器隊のなかに、自分たちの個性がバンバン出てるんですよね。
――スピッツだと、どのへんの作品が出会いだったんですか?
水上:いちばん最初は「チェリー」だったんです。そこからベスト盤を聴いて、「青い車」とか「スパイダー」「君が思い出になる前に」を好きになって。あと、「裸のままで」という曲について、草野さんが「自分のなかでは売れ線のつもりで書いたけど、出したらそんなに売れなかった」みたいなことを言ってたのも、面白い人だなと思いましたね。
――最近のスピッツは?
水上:「子グマ!子グマ!」という曲が好きですね。こぐまを応援するところで、三三七拍子を入れたり、歌詞に《中華まん》とかが出てくるのもいいんですよ。あと、歌詞の語尾が「~なのだ」とか入れちゃうあたりが良いですよね。
――岡田さんは?
岡田:私はYUIが好きでアコギをはじめたんですよ。そこから、だんだんエレキになっていって、SEKAI NO OWARIとかONE OK ROCK、RADWIMPSとかback numberを聴いて、バンドをやろうと思うようになりました。だけど、高校生のときはひん曲がって(笑)、ドリーム・シアターっていう海外のインストバンドとかを聴いてましたね。
――「忘却炉」のエッジが効いたギターはそのあたりの影響ですかね?
水上:オチサビのところでキーンって悲鳴のごとく鳴らしてるので(笑)。
岡田:あの曲はONE OK ROCKの影響が出てると思います。
なきごと 撮影=森好弘
―― ちなみに、なきごとは去年のmurffin discsのオーディションで準グランプリに輝きましたけど、応募のキッカケは何だったんですか?
水上:私がマーフィンのバンドが好きっていうのはあったんですけど。eggsのサイトで募集してるのは見つけたんですよ。それを知り合いのライブハウスの店長さんに「これ、応募してみなよ」と言われて、後押ししてもらったんです。
岡田:活動するなら最初に何かドカーンってあったほうがいいんじゃないかという感じだよね。
――応募したときは、絶対にグランプリを獲るぞっていう意気込みだったんですか?
水上:全然そんなのなかったよね。
岡田:一次でも二次でも通ればいいと思ってた。
水上:純粋にびっくりしましたね。本当に通ることを前提してなかったんですよ。だから2枚目のシングルで全国流通なので、今もまだ実感が湧いてないです。
――そうなんですね。そんなふうにバンドの取り巻く状況が変わるなかでリリースされるのが「nakigao」です。さっき「メトロポリタン」の話は少し聞いたけども、他の2曲は今作のために書き下ろしたんですか?
水上:いや、今作を出すにあたって書いたというよりは、私はあんまり作るのが早いタイプではないので、少しずつ作っていた中から選んだ感じですね。「Oyasumi Tokyo」は弾き語りで聴いてもらったときから良いって言われてた曲だったからリードトラックにして。「忘却炉」はアップテンポでいきのいいやつを選びましたね。
岡田:なきごとを知ってもらうためには良い3曲かなと思いますね。
水上:けっこう振り幅の広いバンドなんです。
岡田:3曲がバラバラすぎて大丈夫かな?とも思ったんですけど、いざレコーディングをしたときに順番に聴いたら、なきごとが全面に出てるなと思いましたね。
――1曲目の「Oyasumi Tokyo」は、優しさとか悲しみとか、そういう感情がどんなふうに他人に伝わっていくかを、ひとりで考え込んでいるような歌詞が印象的でした。
水上:救いようがないところまで落ちたときに手を差し伸べてくれる優しさって、身に沁みて感じるじゃないですか。それは良いことだと思うし、プラスのことは他人にしてあげなきゃいけないと思うんですよ。でも、逆に相手は無意識かもしれないけど、ひどいことをされて傷ついたときに、自分が気づいてないところで同じことを誰かにやってることもあると思うんです。そういうふうに感情を考えたときに、誰かからもらった悲しみも、気づかないうちに誰かに渡してるんじゃないかって考えてて。そういう自問自答の曲ですね。
――同じようなことを「忘却炉」でも歌ってるんですよね。《この世で1番不幸みたいな顔してさ/他人に不幸をばらまいてるんだ》って。他人に自分の感情を押し付けてしまうことに対して、慎重になってるというか、どこかで怯えてる感じがするんですよ。
水上:ああ、けっこう我を通してしまうところがあるんですよ。それで人が離れていっちゃったところがあるから。うん……怯えてるところもあるのかもしれない。
岡田:わたしは「Oyasumi Tokyo」の《泣き顔が一番綺麗だ》というところが好きなんですよね。人って大体泣き顔はブサイクじゃないですか(笑)。しわくちゃになって泣いちゃうから。でも、それでも綺麗だよって言ってくれる優しさが沁みるなって思います。
水上:ちょうど(岡田が)病んでて、そのとき。救えるかなと思って作ったんです。
岡田:この曲を聴くまで、いくら心がつらくても全然泣けなかったんですけど、この曲を聴いてからボロボロ泣いちゃって。泣いていいんだと思ったんですよね。
なきごと 撮影=森好弘
――えみりさんは、誰かのために曲を書くことが多いんですか?
水上:いや、初めてですね。街を見てたら疲れてる人が多いなと思ったし、いちばん身近にいる人が病んでたから、自然と書けたんですよ。なんか、みんな疲れてますよね。そのことに対して、どうにか歌にできないかなって。直接的に「君はいちばんのスーパーヒーローだよ、がんばれ!」みたいなことって……。
――書かなそう(笑)。
水上:うん(笑)。たぶん書かないですね。人が落ち込んでるときに「がんばれ」というのは無責任だと思うんですよ。「がんばれ」と言ったときに、頑張りすぎて壊れちゃうのは、言われたほうの人だし。泣いたときに、「泣くなよ~!」とか、よく言うじゃないですか。それがわたしにはストレスだったんですよ。原因があって泣いてるのに、「なんでそんなことを簡単に言うんだよ」と思うっちゃうから、そういう時に横にいて「大丈夫だよ」と寄り添えるものを歌いたかったんですよ。本当にがんばってる人はもうそれ以上がんばらなくていいと思うんですよ。そういうメッセージを込めたかった曲ですね。
――「泣く」という行為を、すごく肯定しようとしてますよね。それはバンド名を“なきごと”にしたことにも通じるのかな?と思いますが。
水上:今って泣き言を言うと、「みんなもがんばってるから、お前もがんばれよ」みたいに言われてしまう社会だと思うんですよね。だから落ち込んでる人たちが、私たちの曲を聴くことで、ちゃんと泣き言を言えるような存在でいたいなと思ったんですよね。音楽って、すごく良いものじゃないですか。生活を彩るための大切なものだと思うし。私も自分が滅入りそうになったら音楽を聴いて元気を出してきたんですよね。そういうふうに聴き手に寄り添えるバンドになりたいんですよ。
岡田:こういう音楽をやることで、自分が1番助けられてるんじゃないかという節はありますね。周りの人を音楽で助けるとともに、自分も一緒に助けられてますね。
――この先、なきごとは音楽シーンのなかでどういう存在になりたいと思いますか?
水上:今のバンドはメジャーデビューをしても、たとえば、街に歩いてる人たちに「このバンド、去年メジャーデビューしたけど知ってますか?」と聞いても知らない人がほとんどじゃないですか。そういう時代ではあるけど、やっぱり街中に自分の音楽が流れてほしいんですよね。国民的っていうと、夢を語り過ぎかもしれないんですけど。
岡田:音楽の教科書に載りたいよね。
水上:ああ、載りたい!
なきごと 撮影=森好弘
――スピッツは載ってるみたいですからね。
水上:自分たちが憧れてた人と同じところにいきたいと思ってるんです。スピッツと言えば、「チェリー」「空も飛べるはず」「ロビンソン」っていう、誰でも知ってる曲がいっぱいあるじゃないですか。あれぐらい浸透していく存在になりたいですね。
――スピッツがああいう存在になれたのって、CDが売れる時代だったっていう背景もあると思うんですよ。今の時代でも、それはできると思いますか?
水上:うーん……結局、サブスクが増えたりしたから、今も音楽はちゃんと生活に一部になってると思うんですよ。ただ、音楽のためにがんばる人は減ったと思うんですよね。自分の生活があったうえで、その傍らに音楽があって、ひまつぶしで聴くみたいな。そういう浅い音楽の聴き方をする層がいて、もっと深いところに、このバンドのライブに行くから、お金をためてライブに行こうとか、CDを買おうっていう層がいると思うんですよ。その2つの層にちゃんと届くような音楽を作れば、広がっていけるんじゃないかと思ってます。
――両方の層に届くっていうのは、どんな曲だと思いますか?
水上:ライトに音楽を楽しむ人にはシンプルに聴いてもらえるけど、掘り下げて聴いてくれる人には、掘り下げた先に終着点があるような楽曲かな。
――まさに「nakigao」はそういう作品だと思います。
水上:うん、そうなってるといいなと思いますね。
――岡田さんは、なきごとの進む道にどんな夢を持ってますか?
岡田:ずる賢くいきたいですね(笑)。
――ずる賢く?
岡田:他のバンドと同じことをやっても届くところは決まってるじゃないですか。だから、少しでも他のバンドと違うやり方で、違う曲を届けていきたいですね。
水上:唯一無二っていうことだね。
取材・文=秦理絵 撮影=森好弘

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