金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第14回「4/20、
LOFTで新曲披露!」

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2019年4月20日、新宿ROCK CAFE LOFTにおいて、「金属恵比須の『青少年のためのプログレ入門』」というトークイベントを開催することとなった。
そう、この連載がとうとうイベントにも進出した。といっても、この連載、毎月好き勝手な音楽日記を書いているだけなので、兜の緒を締める意味合いもあり、ちゃんと人様の前で「プログレとは何たるか?」を優しくお話できればと思った次第なのである。しかし、イベント名のように堅苦しくするわけではなく、昼間からお酒でも飲みながらプログレを大音量で聴き、ざっくばらんに語り合うというオフ会のようなイベントだ。
さて、このイベントに大物ゲストの出演が決定した。あらゆる歴史番組のコメンテーターとしても活躍する作家・伊東潤氏である。
伊東先生は、その筋ではプログレマニアとしても有名で、様々な外タレのライヴに足を運び、目撃談もちらほら。金属恵比須のファンでもあり、それが縁で2018年にコラボレーションが実現した。伊東先生のメジャーデビュー作『武田家滅亡』(角川文庫)をもとに、小説の“架空のサントラ”として発表した4枚目のフルアルバム『武田家滅亡』である。先生も作詞にて参加し、金属恵比須史上最高のセールスを記録している。
そんな先生のプログレ談話が聞けるというだけでレアなのだが、なんとこの日に金属恵比須の新曲を披露する。しかも今回も伊東先生とのコラボレーション。曲名は「ルシファー・ストーン」。「小説野生時代」(KADOKAWA)に発表された短編小説をもとにしている。戦国時代が舞台のSF小説で、織田信長、千利休ら戦国のヒーローたちが出てくる摩訶不思議な内容だ。
ただし残念なことに、まだ発表形態と発表時期が決まっていない。よってこの日、LOFTの会場での披露しかまだ決まっていないのだ。ということで更にレアな日となろう。
実は金属恵比須、3月にその曲をレコーディングしていた。しかもこの曲とは別な曲を、特別ゲストを迎えて制作していたのである。その模様をお伝えしていきたい。
■指令「ありったけのギターを持ってくるように」
3月16日、曇天。1週間後に主催ライヴ「猟奇爛漫FEST Vol.3」を控えていたにもかかわらず、レコーディング日程とした。これは、後述する特別ゲストのスケジュールの関係による。金属恵比須も多忙だが、彼も多忙なのだ。
車にありったけのギターをぶち込む。今回のレコーディングプロデューサーであるキーボード宮嶋健一の指示だ。とにかくハイエースに積めるだけ積んだ。ライヴのメインギターである青いセミアコ、ダブルネック、SG、たまに使用するフライングVとストラト、そして高校時代のメインギターだったGrecoミラージュまで。20年間音を出しておらず、鳴るのか鳴らないのかもわからないが、今日のレコーディングにはひょっとすると活躍するかもしれない。
栗谷を迎えに行き、小岩に向かう。早く着いたので、電話にて夕刊Fとの打ち合わせ。秋以降のスケジュールを話し合う。そして待ち合わせの12:00、レコーディングスタジオ「オルフェウス」に到着。12月にキスエクとのコラボシングル「Nucleus」をレコーディングして以来3か月ぶりとなる。
レコーディングスペースの天井が高く、広い。しかもきれいだ。前回のレコーディングでメンバー全員がすっかり気に入ってしまったスタジオである。
ミラージュと後藤マスヒロ
■特別ゲスト登場
13:00、特別ゲストが到着。出迎える。
ベーシスト、小島剛広。超売れっ子シンガーソングライター高橋優氏の常任バックメンバーである。高橋優氏の全国ツアーという多忙の中、スケジュールを調整してもらい、この日のレコーディングに参加してくれた。
小島は中学2年の1994年、金属恵比須の前身バンドに加入。初ステージは――本連載でも取り上げた――ピンク・フロイド『ザ・ウォール』再現ライヴからだった。金属恵比須と改名後も2003年まで一緒に活動。ファーストデモテープ『百物語』、ファーストアルバム『箱男』に参加している。プロになるという理由で金属恵比須脱退後、本当にプロになった。
一緒にスタジオに入るのは、2003年、高井戸区民センターの音楽室で「紅葉狩」の原型「赤狩り」を合わせた以来、実に16年ぶりだ。
「ひさしぶり!」と声をかけ、機材を運ぶのを手伝う。16年ぶりだが、あのころの感覚が蘇ってきた。
小島に弾いてもらう曲は「鬼ヶ島」。高校2年の時に小島と筆者でつくった金属恵比須では2曲目のオリジナル曲である。当時、ヤマハのカセットMTRでレコーディングし、そのデモテープが「NLA全国高校生音楽祭」で見事に通過、南関東代表として1998年にクラブチッタの舞台に立ったのだった。そのデモテープの完成具合があまりにも良く、ファーストデモテープ『百物語』(カセット)に収録。時を経て2016年に発表したLP『ハリガネムシのごとく』ではそのカセット音源をリマスターしたものを収録したという経緯もある。
栗谷秀貴(現・金属恵比須ベーシスト)、稲益宏美(昔・ベーシスト)、小島剛広(元・金属恵比須ベーシスト)
■小島の初ライヴ体験はGERARDだった
機材をセッティングし、ロビーでくつろぐ。お菓子や弁当をつまみながら楽器で遊ぶ。高校時代、児童館のロビーでもこんなことをしてたっけ。
筆者が不意に人間椅子「蟲」を弾き始める。すかさず小島が呼応。「後半のギターとベースのユニゾンフレーズ、どうだったっけか」と思い出しながら弾いている。当時小島はバッチリ弾けていたのに忘れてしまったようだ。「プロの現場でも人間椅子ファンって多くて、よく『蟲』を合わせたりするよ(笑)」と。
続いて「幽霊列車」も。何を隠そう、高校時代の金属恵比須はメンバーそろって人間椅子の大ファンだったのだ。ライヴにも足繁く通い、いつかこうなりたいと思いながら勉強していた。
小島剛広と高木大地のセッション
そういえば当時のエピソードが2つある。
1つは小島の初ライヴ体験について。筆者が他のメンバーよりも一足先に人間椅子のライヴに行った。1996年10月8日、日清パワーステーションのことである。あまりに衝撃を受けたのでメンバーに共有してもらいたい――みんなでチケットを予約した。1997年1月、ON AIR WEST(当時)、米国プログレバンド「マスターマインド」との対バンである。……が、人間椅子が諸事情により出演できなくなり、急遽代打で出演したのがGERARDだった。よって小島の初ライヴ体験は人間椅子ではなくGERARDだったのだ。「とにかく音がデカかったよね! 最前列で見てびっくりした思い出」
当時のGERARDのドラマーは後藤マスヒロであり(もちろん人間椅子もだが)、くしくも小島の初めて体験したプロドラマーがマスヒロだったことに変わりはない。そのマスヒロと一緒に今からレコーディングしようとしているのだ。小島の心の高鳴りもひとしおだろう。
そうだ、マスヒロがレコーディングで使っているクリックの機材にはまだ「GERARD」と書いてあったような。マスヒロがドラムの音合わせでスタジオに籠っている最中、漁ってしまえ! そして記念撮影。小島が初めて見たライヴで使用していた機材と今更邂逅。
小島剛広とクリック
もう1つは人間椅子と「鬼ヶ島」のデモテープについて。高校当時、人間椅子のライヴに小島と通っていた時に、ステージに「鬼ヶ島」のテープを置いてきたことがある。しかしカセットだけステージに投げ込んでもゴミ扱いされるに違いない。ということで、当時ファンクラブの冊子に書いてあった「差し入れはたばこでお願いします」という案内を思い出し、紙袋にたばこ3箱を入れて差し入れと見せかけつつカセットをそっと忍び込ませてステージに置いてきたのだった。小島と「聴いてくれるといいね」なんて話していたのを思い出すのだが、金属恵比須加入後のマスヒロに確認したところによると、「聴いてない」と。ガーン。まあ、そんなもんでしょ。20年経ってそのデモテープをもとに楽譜を書いてレコーディングに臨もうとしているのだから、そんな幸せなことはない。
小島剛広+後藤マスヒロ+高木大地
■音合わせは「菊人形の呪い」
セッティングが完了し、スタジオに戻る。
とりあえず音を鳴らしてみる。ヘッドフォンモニターから聞こえたベースフレーズは――「菊人形の呪い」。初代金属恵比須が当時待ち焦がれていた人間椅子の新譜『頽廃芸術展』(1998年)に収録の曲だ。2人とも、発売と同時にアルバム全体をコピーし、歌詞も全部覚えたほどに聴き込んだ作品。思い入れがある。「本人と合わせちゃってるよ!」という興奮に耐えられない。
そして「鬼ヶ島」のレコーディングを開始。なんと、ほぼ一発でOKテイク。20年ぶりだというのにノリをすぐさま思い出せる小島はすごいし、筆者たちが思う「後藤マスヒロが叩いたら『鬼ヶ島』はこうなる」という期待に対し見事にこたえるマスヒロもすごい。
「大地さん、イントロのギターのリズム、ダメなんでそこだけ録りなおしお願いします!」モニターから宮嶋の声。アチャー。筆者が足を引っ張ってしまった。
ツアー中の小島は忙しい。旧知の仲の現ベーシスト栗谷に軽くベース講座を開いた後に撤収。16年ぶりのスタジオは意外にもあっという間だった。
小島剛広、ベース音合わせ
■人間椅子ステッカーのドラマーって?
ベースは栗谷にスイッチし、次なる新曲「ルシファー・ストーン」に取りかかる。
金属恵比須としては初めて「へヴィ・メタル」を意識した曲で、筆者はギター選びが難航。メタルといえばフライングV。早速V型(Greco製)で手に取ってみたのだが、なんだかしっくりこない。そこで栗谷が一言。「Grecoミラージュ使ってみたら?」
冒頭に登場した、とりあえず持ってきたギターの中の1本である。もう20年は使用していないのだろうか。ハードケースを開けると俄かに黴臭い。ヴォリウムノブを回そうとしても錆びていて回らない。ノブを引っこ抜き、ペンチで回す始末。
そもそもは1997年4月、高校2年になったばかりの17歳の誕生日に親から買ってもらったギターだ。当時のGrecoのカタログで人間椅子の和嶋慎治氏が使用している写真を見てから欲しくなった。初舞台は高校の新入生向けのサークル勧誘イベント。軽音楽部の宣伝としてこのギターを持って壇上に1人で立ち、ギター漫談をしたのが最初である。その後、人間椅子のライヴで購入した“クリムゾン『レッド』”型ステッカーを貼り、主に一音半下げ専用ギターとして使用していた。前述の「鬼ヶ島」オリジナルヴァージョンもこれでレコーディングした。全国大会でもメインギターだった。
栗谷秀貴、ミラージュ調整中
栗谷が調整してくれたおかげで、無事に鳴るだけでなく、20年寝かせたからだろうか、妙に音がいい。結果、これをメインにした。「鬼ヶ島」で使用すれば面白かったのだが、小島と一緒にいた空間でそれが使えたというだけでも感慨深い。余談だが、人間椅子のステッカーに写っているドラマーの顔、マスヒロ加入前の土屋巌氏とばっかり思っていたのだが、実は、後藤マスヒロだった。そしてそれを教えてくれたのが――何を隠そう――後藤マスヒロ本人だったのである。「いやいや、それ、俺だから!」
本当に失礼いたしました……。
「ルシファー・ストーン」も数度でレコーディング終了。宮嶋の指示による「ありったけのギターを持ってくるように」というのが活きた曲となった。
スタジオでチェック中
■バ美肉(バーチャル美少女受肉)で織田信長?
この後、筆者のヴォーカルレコーディング。「鬼ヶ島」ではリードヴォーカルを取る。『紅葉狩』収録の「彼岸過迄」「猟奇爛漫」以来、15年ぶりとなる。しかし、ギターソロや間奏の部分など、歌のないところが手持ちぶさた。ううん、何するか。――その場でWikipediaで「鬼ヶ島」を検索し、それを朗読。プログレミュージシャンのヴォーカリストって思いのほか暇なのね。
そして「ルシファー・ストーン」では、楽器メーカーRolandのご厚意でヴォイスチェンジャー「VT-4」をお借りし、フルに活用。VTuberに人気の同機種。「バ美肉(バーチャル美少女受肉)」になるには必須のアイテムとのことだが、今回は伊東潤氏の小説を読み上げ、怨霊となった織田信長や千利休の声として使用した。これは非常に効果的だが、サウンドプロデューサー宮嶋の采配は如何に? カットされるかも?
高木大地、ヴォーカル録音中
とにもかくにもレコーディングは22:00に無事終了。あと残るはキーボードだが、宮嶋の自宅スタジオでレコーディングのため託す。
現在、最終のレコーディングを行なっている最中だ。そのプロトタイプを聴きに、ぜひともROCK CAFE LOFTに足を運んでいただきたい。もしかしたらVTuber織田信長が聴けるかもしれない。
「さようなら」
文=高木大地(金属恵比須)
金属恵比須・高木大地「青少年のためのプログレ入門」

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