【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.11
3「フジロックの粋〜電気グルーヴの
キャンセルから卓球ソロ出演へ〜」

芸術とドラッグが切り離せないものとは考えられないが、70年代にイギリスで歌われた“セックス・ドラッグ・ロックンロール”というフレーズは使い古された感がありながらもまだ耳馴染みはあるし、こうしている今も薬物依存で苦しんだり命を落とすミュージシャンが後を絶たないことは現実としてある。また、薬物使用で前科者になっても盗作以外で彼らの作品が否定されることはなく、時にカムバックも為し得る。それがこれまでの音楽の世界だったし、欧米諸国では今もそうだ。しかし、電気グルーヴのピエール瀧がコカイン使用容疑で逮捕されたとき、その2日後には作品は世の流通から消され、起訴直後には事務所も解雇された。これは日本企業特有の自己美学的禊ぎであって誰の得にもならないし、音楽シーンを支えるべき企業の判断がこれではこの国に音楽がアートとして永久に定着する日はこないかもしれない。

そして、テレビではワイドショー番組を中心に電気グルーヴを知らないアナウンサーが「俳優のピエール瀧容疑者が保釈されました」という原稿を読み、無関係なタレントが「音楽で薬物を覚えたなら音楽を辞めるべき」と我が物顔でコメントし、「国民を騒がせたんだから、みんなに謝って欲しい」と息巻く一般の声を取り上げたりと大忙しだ。

■ワイドショーの悪
日本のワイドショーはいつの頃から公開処刑をして見せることを楽しませる場として定着したのだろうか。これは今回のピエール瀧に限ったことではなく、事件の当人はもとより、その親戚友人に至るまでを執拗に追い込み、吊し上げ、断罪する。人格否定はあって当然というその風潮は正しく低俗だ。自社製品のCMを放映させているスポンサー企業は何も感じていないのだろうかと思うほどに質が悪い。彼らは皆、電気グルーヴの音楽を知らないだろう。

電気グルーヴとは日本の音楽シーンにおいて異質な存在であり続け、テクノ文化を根付かせた2人組だ。筆者が初めて手にした彼らのアルバムは『ORANGE』で、リリースされた1996年当時から現在に至るまで、彼らは常に悪ふざけを楽しみ、その姿を見せつつ時より音も届け、楽しませてくれてきたダサ格好いい唯一無二のユニットである。

■悪ふざけしてたって、フェスには欠かせない2人。それが電気グルーヴ。
これまで日本各地で多くの音楽フェスに出演してきた彼ら。また、卓球は『WIRE』というオールナイトフェスのオーガナーザーとして世界中のDJを日本へ呼び、我々にその音に触れる機会を与えくれた人でもある。そんな彼らに開催20周年を迎えたフェスのクロージング・アクトとして白羽の矢を当てたのはフジロックだった。

■フジロックの見せた粋
2016年のあの日、ヘッドライナーのレッド・ホット・チリ・ペッパーズの直後という絶妙な空気感での電気はどうなのだろうと心配したが、結果は大盛況。フジロック愛が溢れまくる演出にはたくさんの虹が架かり、多幸感で満たされた素晴らしいライブだった。そんなフジロックが3月8日に発表した今年のラインナップ第2弾には電気グルーヴの名があった。しかし、その後に起きたピエール瀧の逮捕劇で発表から7日後にはキャンセルとなったが、4月5日のラインナップ第3弾では卓球がソロとして出演することがアナウンスされた。

3月に公開されたFUJI ROCK FESTIVAL 公式ファンサイト「fujirockers.org」では、フジロックを主催するSMASHの日高代表が「今年のフジロックでは電気グルーヴの出演はキャンセルになったけど、今後も彼らとの関係は変わらないから、問題が解決したら仕事をしたいと思っている。友達なんだし、素晴らしいアーティストなんだから、そう思うことは当たり前だろう」(出典元「fujirockers.org」http://fujirockers.org/?p=13981)という発言をしていた。その言葉を裏付けるフジロックの姿勢には感服させられる。

知り合いではこうはいかないし、音楽に罪はない。そして連帯責任など不要なのだ。ぜひ卓球には先日配信されたDJ WADA、KEN ISHII、 sugiurumn、Licaxxxが出演し、電気グルーヴのみを5時間回し続けた番組のように「電気グルーヴのみ90分1本勝負!」を見せて欲しい。

そして、先日保釈されたピエール瀧。彼の逮捕劇から思うのは、人は期待されすぎても、それに上手く応えてしまえる才能がありすぎてもどこかで破綻してしまうのかもしれないということ。俳優業もいいけれど、ウルトラの瀧は数公演のみの幻となり、筆者も電気グルーヴ30周年にかこつけてフェス絡みの取材申請をしていたのだが勿論叶わずにいることが残念だ。

今は充分養生し、再びステージでその雄姿を見せてほしいし、いつか気が向いたら音楽的な取材にも協力していただきたい。また、心ないマスゴミのせいでプライバシーを侵害されてしまったご家族の心労は計り知れない。どうか穏やかに過ごしていただきたいと切に願う。
文◎早乙女‘dorami’ゆうこ

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

新着