雨のパレード、
前に進む勇気を与えてくれる
新体制での新曲
大きくレンジの広がった音像や、繊細にして大胆なサウンドプロダクションが心を揺さぶる背景にあるのも確かなのだが、最初に聴いた際の印象は歌――《あの日に僕たちは ただ最初横並びに立って 同時に位置に着いてスタート切った》《I am here まだ想いは届かないまま》といったどちらかと言えば焦燥に満ちた歌詞をこれまで客観性を持って表現に取り組んできた福永浩平(Vo)が歌っていることだった。
バンド形態でありつつ、シンセやドラムパッドを用いたり、生楽器の奏法をエレクトロニックな楽曲のエレメントに触発されたフレージングに変換する手法を用いてきた雨のパレード。ロックバンドの枠を超えてイマジネーションを拡張してきたバンドが、この「Ahead Ahead」の制作タイミングから共同プロデューサーに蔦谷好位置を迎えた。福永への取材で知ったのだが、その経緯は楽曲のレンジを拡張することや、聴感の広がり、そしてダイナミズムを生むための打ち込みの手法を得るためーーもちろん、蔦谷のセンスとスキルもーーの共同プロデュースだったという。
そうして事実を紐解くとよりこの「Ahead Ahead」が、他のバンドにはない今のポップスを標榜する雨のパレードにとって必然的な楽曲であり、蔦谷との新たな座組も必然であることが理解できるのだ。まずイントロの山崎康介(Gu&Syn)の哀愁を帯びたクリーントーンのフレーズがいい。旅立ちを予感するその音色に遠くから近づいてくるようなアフリカンビートを思わせる大澤実音穂(Dr)のフロアタムが心拍を静かに上げてくれる。そこにこれまでの中で最も明快に歌の輪郭がとらえれらる福永の声が乗る。しかも過去と今を見つめ、まだまだ全然現状に納得できていないのだという告白から、“Ahead Ahead”…つまり、前へ前へと自身とリスナーを鼓舞する。そこで肝心なのは福永のインディR&B由来のソフトでセンシュアルなヴォーカル表現は健在だということ。あくまで繊細に静かな意志を胸に秘めた彼流のエモーションであることが、サウンドの変化以上に雨のパレードでしか体感できない、さりげない共感を生むのだと思う。
「Ahead Ahead」がいい意味でEDM以降のポップスと呼応しながらバンドのより広いフィールドを感じさせると同時に、カップリングの「/eɔ:/」や、既発曲のリミックスでは雨パレが標榜してきたアーティスティックな音楽像をアグレッシヴに提示してきた印象がある。
架空の自然の中に身を置くような空間の処理と和の雰囲気が漂う「/eɔ:/」は、福永がDAWに関するスキルを上げたことで、音を体験するダイナミズムが増した。名状しがたい気持ちに連れて行ってくれる可能性を拡張した印象なのだ。さらにリミキサー勢は今にもインディーシーンという天井を突き破って存在感を放つ面々が揃う。中でもDos Monosは自身のアルバム『Dos City』はヒップホップチャートの1位を獲得した急先鋒。ジャズからの引用やインダストリアルな質感を雨パレの前作『Reason of Black Color』(2018年3月発表の3rdアルバム)収録の「Hometown feat. TABU ZOMBIE(from SOIL&“PIMP”SESSIONS)」で自由奔放に解き放ち、ヴォーカル部分もラップに入れ替え、Dos Monosにとってのホームタウン=東京へと再構築している。
他にも小林うてなによる「Reason of Black Color」の静謐なトラックメイキング、Neetzによる「Hwyl」のエレクトロ×ヒップホップなど、現在の東京から発信される音楽として、雨のパレードがある種、キュレーター的な立ち位置を見せているとも言えるだろう。あらゆる表現に自分たちのセンスを注入し、旧来的なバンドの価値観を更新していくという結成当初からのスタンスを2019年の今、具体的に表明したのがこの「Ahead Ahead」の総体なのだ。まだまだ彼らは面白い存在になる。
text by 石角友香
バンド形態でありつつ、シンセやドラムパッドを用いたり、生楽器の奏法をエレクトロニックな楽曲のエレメントに触発されたフレージングに変換する手法を用いてきた雨のパレード。ロックバンドの枠を超えてイマジネーションを拡張してきたバンドが、この「Ahead Ahead」の制作タイミングから共同プロデューサーに蔦谷好位置を迎えた。福永への取材で知ったのだが、その経緯は楽曲のレンジを拡張することや、聴感の広がり、そしてダイナミズムを生むための打ち込みの手法を得るためーーもちろん、蔦谷のセンスとスキルもーーの共同プロデュースだったという。
そうして事実を紐解くとよりこの「Ahead Ahead」が、他のバンドにはない今のポップスを標榜する雨のパレードにとって必然的な楽曲であり、蔦谷との新たな座組も必然であることが理解できるのだ。まずイントロの山崎康介(Gu&Syn)の哀愁を帯びたクリーントーンのフレーズがいい。旅立ちを予感するその音色に遠くから近づいてくるようなアフリカンビートを思わせる大澤実音穂(Dr)のフロアタムが心拍を静かに上げてくれる。そこにこれまでの中で最も明快に歌の輪郭がとらえれらる福永の声が乗る。しかも過去と今を見つめ、まだまだ全然現状に納得できていないのだという告白から、“Ahead Ahead”…つまり、前へ前へと自身とリスナーを鼓舞する。そこで肝心なのは福永のインディR&B由来のソフトでセンシュアルなヴォーカル表現は健在だということ。あくまで繊細に静かな意志を胸に秘めた彼流のエモーションであることが、サウンドの変化以上に雨のパレードでしか体感できない、さりげない共感を生むのだと思う。
「Ahead Ahead」がいい意味でEDM以降のポップスと呼応しながらバンドのより広いフィールドを感じさせると同時に、カップリングの「/eɔ:/」や、既発曲のリミックスでは雨パレが標榜してきたアーティスティックな音楽像をアグレッシヴに提示してきた印象がある。
架空の自然の中に身を置くような空間の処理と和の雰囲気が漂う「/eɔ:/」は、福永がDAWに関するスキルを上げたことで、音を体験するダイナミズムが増した。名状しがたい気持ちに連れて行ってくれる可能性を拡張した印象なのだ。さらにリミキサー勢は今にもインディーシーンという天井を突き破って存在感を放つ面々が揃う。中でもDos Monosは自身のアルバム『Dos City』はヒップホップチャートの1位を獲得した急先鋒。ジャズからの引用やインダストリアルな質感を雨パレの前作『Reason of Black Color』(2018年3月発表の3rdアルバム)収録の「Hometown feat. TABU ZOMBIE(from SOIL&“PIMP”SESSIONS)」で自由奔放に解き放ち、ヴォーカル部分もラップに入れ替え、Dos Monosにとってのホームタウン=東京へと再構築している。
他にも小林うてなによる「Reason of Black Color」の静謐なトラックメイキング、Neetzによる「Hwyl」のエレクトロ×ヒップホップなど、現在の東京から発信される音楽として、雨のパレードがある種、キュレーター的な立ち位置を見せているとも言えるだろう。あらゆる表現に自分たちのセンスを注入し、旧来的なバンドの価値観を更新していくという結成当初からのスタンスを2019年の今、具体的に表明したのがこの「Ahead Ahead」の総体なのだ。まだまだ彼らは面白い存在になる。
text by 石角友香
■雨のパレード オフィシャルHP
http://amenoparade.com/
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