松下優也×平間壮一×青木豪インタビ
ュー 新作舞台『黒白珠』を通して互
いについて語る

1990年代の長崎を舞台に、同じ刻(とき)に生を受けた双子の兄弟が、家族を愛しながらも愛に飢え、逃れられない運命をもがきながら、さながら聖書のカインとアベルのように、葛藤とすれ違いの中に紡がれてゆく新作舞台『黒白珠』が、2019年6月、Bunkamuraシアターコクーンにて上演される。青木豪が脚本を書き下ろし、河原雅彦が演出を務める本作で、双子の兄弟を松下優也と平間壮一が演じる事となった。プライベートでも仲のいい松下と平間がどんな兄弟として物語を描くのか。青木と共に話を聴いた。
ーーまずは青木さんに『黒白珠』が生まれた背景を伺いたいのですが。
青木:最初にプロデューサーから「『エデンの東』を日本に置き換えた舞台をやらないか?」というお話をいただいたんです。それを聞いて思ったんですが、僕はもう両親とも亡くなったんですけど、親が亡くなると周りの人があれこれ僕が知らない事を語り出すんですよ。「あの時は実はこうだったのよ」って。人って物の見方はどうしても親の影響を受けますが、その親が亡くなって違う事を耳にすると、あれは違っていたのかって知る事が多いなあと感じまして。そこで改めて「エデンの東」を読み直したんです。僕は2005年に『エデンの東』を舞台化していますが、皆がよく知っているジェームス・ディーンの映画『エデンの東』は、原作の4巻中の4巻だけの話で、1~3巻まではお父さんとお母さんの話がメイン。3巻までの事を4巻の登場人物は知らないんです。今回新たに台本を書く上でそういった点を描くのがいちばんおもしろいだろうなあって。ある程度育った大人が両親の事や自分が生まれる前がどんなだったかを段々知っていく話にしたら……それが自分の中でも腑に落ちたので、新たに話を組みなおす事にしたんです。
青木豪
ーー作品の舞台が長崎の佐世保というのも気になりました。ここを選んだのは何故ですか?
青木:おぼろげながら長崎という場所が浮かんできた時、自分は神奈川出身なんですが、以前長崎に行った時に横浜に似ているなあって思ったんです。さらに佐世保と言う街がとても横須賀に似ているとも感じたんです。地理的条件もそうだし、米軍基地もあり、実際に行ってみたら駅前がまるで横須賀のようで、自分が生まれた場所と重ね合わせて感じることができたんです。
ーー今回はご自身で演出をせず、河原さんに託す事になりますが、何か意図はあるのでしょうか。
青木:自分が演出をしない時は、そんな事、舞台ではできないだろうと思うような事を書きたいんです(笑)。昔は書きながら自分の頭の中にイメージができていたんですが、それを他の演出家にお願いすると自分のイメージとのギャップにイライラしてしまって(笑)。それも失礼な話ですけどね。蜷川幸雄さんと組んだ時は、「蜷川さんだったら意味不明なことを書いてもきっとやってくれるだろう」と思って無茶な事を書いたら最初は周りに止められました(笑)。でもそれが舞台になったんですよ! 本当にすごいと思いました。だから脚本だけをやる時は、あちこちに自分だったらできないだろうと思うようなことを書き込んで、どんな化学反応が起きるかを楽しんでいるんです。
ーー松下さんと平間さんはこの作品のオファーを受けた時、どんな印象を受けたんでしょうか?
松下:素直に嬉しいと思いました。豪さんが脚本で河原さんが演出。新しい仕事を受けるときは、誰がどうその作品に関わっているのかはやっぱり気になるじゃないですか。今回はその点は素直にやりたいと思いました。お二人とお仕事するのが久しぶりなのでまたご一緒できるのが嬉しかったし。また、(平間)壮ちゃんが一緒に出ると聞いた時も嬉しかった。豪さんで河原さんで壮ちゃん……この舞台、イケる! と(笑)。
松下優也
平間:「これをやるよ」と聞いて、何がこの作品の中で起きるんだろうとか、共演が優也で、豪さんと河原さんだし楽しみでしかなかったです。豪さんと以前お仕事した時は僕はアンサンブルの一人だったので、今回の舞台で成長したところを見せることができたらなと思っています。
ーーさきほどの青木さんの話を聞いてどう思われましたか?
松下:これから何が起きるのかなって探っているところです。そもそも自分がやる役の生い立ちが決して自分と遠い話ではないなと感じました。僕は小学生の時に歌とダンスを始めて、いつかそれが仕事になればと思っていて。学校にはあまり行ってなかったんです。また、僕も勇や光と同じく母子家庭で育ったんです。そういう意味では演じる勇役と共通点があって役に入っていきやすいし、すごくやりがいも感じています。
平間:僕も昔からダンスをやっていたし、学校もあまり行かず、家にもあまりいなかったから家族全員でどこかに行ったと言う記憶もあまりなくて(笑)。僕も優也と共通点を感じています。すでに兄弟のような感覚もあるし。だからこの作品はとても思い入れのある作品になるような気がします。
ーーこの二人が演じる兄弟をどう作り上げようとしていますか?
青木:平間くんが演じる光は学校の勉強が得意な方で、松下くんが演じる勇は勉強が苦手。でも勇には彼女がいて社会に先に出ており、光はモテない事にコンプレックスを感じている。二人を黒と白に分けていますが、どっちも黒い部分、白い部分があるようにしたいなと思っています。
(左から)青木豪、松下優也、平間壮一
ーーでは、役者としての二人をどうとらえていますか?
青木:平間くんは『ロミオとジュリエット』で、松下くんは『花より男子 The Musical』で思いっきり漫画原作でしたから、今回初めて二人にちゃんと当て書きができると思っています。僕は役者が決まらないと本が書けないので、最近の二人の動画を見たりとかして。そのせいかストレートプレイなのに突然二人が歌い出したら、とか考えてしまうこともあって。でもどうやっても歌とダンスがこの台本に入らない(笑)
松下:入れなくていいですよ(笑)。本番になったらそこばっかり気になっちゃうから(笑)。
平間:そうそう。
(左から)松下優也、平間壮一
青木:お客さんが二人にそれを求めてるような気がするんだけどなぁ、とつい思ってしまって。でもこの作品に歌とダンスはそぐわないなと思いましたね(笑)
ーー二人はストレートプレイで共演、というの初めてですよね?
松下:そうなんです。壮ちゃんと共演したのはそれこそ河原さんが演出した『THE ALUCARD SHOW』でしたが、あれはなかなか特殊な作品だったので。芝居で絡む場面がなかったんです。だから今回ストレートプレイで、がっつり芝居で絡めるっていうのが楽しみで仕方がないんです。
ーー当時の河原さんの演出はいかがでしたか?
平間:河原さんがピリつく場面を何度も見てます(笑)。
松下:そんなことをマイクを通して言っちゃうんだ! 若手も大御所も関係ないんだ! とかね(笑)。でも僕はそういう対応が好きだったから、今回思い切り河原さんの演出に乗っかっていける気がします。わからないことをわからないと言える雰囲気だったから安心してできると思っています。まぁそのぐらい緊張感があったほうがいいものってできるんじゃないかな(笑)
平間:河原さんが本気でぶつかってきてくださるから、僕らも仕事モードの松下優也と平間壮一ではなく、普段の自分たちの状態でぶつかり合うことができる。本気で芝居に向き合える現場を作ってくれるのが河原さんだと思っています。当時「ダンスを踊っているだけではなく“表現”しなくてはいけないから、ただかっこつけてればいいって訳じゃないぞ」と教えてくれました。それを聞いて、河原さんは心でぶつかっていかないと通用しない人だと思ったんです。
平間壮一
ーーダンスの話が出ましたが、お二人とも得意のダンスや歌を封印されて臨む点についてはどう考えていますか?
平間:僕はダンスや歌があってもなくても変わらないと思っています。これっていう違いは無いような気がしていて。ミュージカルでもストレートプレイでも変わらずお芝居をしたいと思っています。こういうガッツリしたストレートプレイと関わることによって、新たな心の通わせ方が得られるんじゃないかなと思っています。
松下:僕もあまり自分の中でミュージカル、ストレートプレイ、音楽劇と分けて考えていなくて。表面的に見える部分の見せ方の差でしかなくて、芝居の中の部分はどちらも何も変わらないと思っているのであまり気にしてないですね。むしろ芝居だけにフォーカスできるのならこれほど幸せなことはないですね。僕はものすごくストレートプレイがやりたかったんです。歌やダンスをやってきたから、そういう作品をいただく事が多かったけれど僕は「芝居」が大好きなんです。
平間:優也のライブを観に行くと、単純に歌がうまいとかかっこいいとかだけではないものがあるんです。心が乗っているから素敵に見える。僕もただうまく踊りたいって思っていた時期がありますが、そこに心が乗っていないとダメなんだとコンテンポラリーダンスのすごい人と出会って気付かされました。その人は「ただ立っているだけで踊ることができる」って言うんです。だからすべて心が動いてないとダンスでも芝居でも伝わらないんだなという事に気が付けました。今となっては「ダンスがないからヤバイ!」と思うようなこともなくなりましたね。
松下:僕らより僕らを見ている皆の方がダンスや歌がなくて大丈夫? って思っているんじゃないかな(笑)。
(左から)松下優也、平間壮
ーーまだまだ台本鋭意執筆中とのことですが、双子の兄弟を通してどのような事を描いていきたいと考えていますか?
青木:人って喋ってる時であっても、今同じ事を共有してる訳ではないと思うんです。喋りながら今夜の夕飯はどうしようか? と考えている人もいるだろうし、喋りながら過去の事を思い出している人もいるじゃないですか。今回はそういう事を特に入れたいと思っています。
松下:こうやって豪さんはインタビュー受けながら、頭の中で今夜のご飯のことを考えていたりとか(笑)。
平間:豪さん、熱く語っているなぁって頭の中で思っていたりとか(笑)。
青木:そういう事(笑)。河原さんはたとえ台本で狭い世界を描いていても、舞台の上で凄く広く見せてくれる人なので今回は安心して狭いところを書こうかと思います(笑)。ある程度は時間や空間を飛ばすような点もあると思いますが、会話はすごく狭い世界を。それをどういう風に舞台で実現していくかを期待しています。
(左から)青木豪、松下優也、平間壮一
取材・文=こむらさき 撮影=鈴木久美子

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