NakamuraEmi 今までのイメージを取
っ払い素を出した事で、より新しい人
に届く可能性を持てたアルバム

『NIPPONNO ONNAWO UTAU』シリーズ。6年前にVol.1がリリースされて、今作がVol.6。「日本の女を歌う」というのは間口が広いのか、狭いのか、ずっと考えていた。永遠と歌うテーマ尽きないシリーズとも思えるし、意外と歌うテーマが尽きるシリーズでもないかとも思える。要はパターンがあるのか、ないのか。そして、そんな事を勝手に危惧してしまうくらいに前作が素晴らしかった。そんな事を考えながら、今作を聴いたのだが、とても良いなと感じた。それは、今作がズバリNakamuraEmi自身を歌っている。それも弱い部分を曝け出している。人に頼ろうともしている。だからこそ、聴き手は感情移入しやすいのではなかろうか。今まで以上に柔らかさ優しさ温もりが溢れ出たアルバムである。
――前作『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』(2018年3月リリース)が個人的にとても大好きなアルバムだったので、今作が前作から1年足らずで聴けた事が嬉しかったです。ただ凄すぎたアルバムだったので、勝手に次が大変じゃないかと思っていたのですが、明確なテーマなどはあったのでしょうか。
いつもアルバムを作る時は、テーマを考えないんです。自分でも前作以上のものが出来るのかなと思っていました。でも、作った曲を並べていたら、女性の自分が感じた事がいっぱい出てきたんです。周りが男性が多いので、いつも男性女性の違いは考えていたんですね。その中で書けたアルバムですし、愛しいものが出来ました。素直に書いてみようと思えましたね。毎回デビュー作を超えるものは出来ないんじゃないかとも思っていますが、毎回新しい思いがいっぱい出てきますね。​
――普段から楽曲は書いておられるのですか?
普段からは書けないんですよ。ふたつの事を一緒に出来ないんです。キャンペーンの時はキャンペーンに集中したいし、ライブやイベント、フェスの時は、それに集中したいので。去年の夏フェスが終わって、ぶわーっと書いたんです。今までは「がんばれがんばれ」な歌詞が多かったんですけど、今回はがんばりを認めて受け止める事も大事かなと思えましたね。人に頼る事も今まであまり出来なかったのですが、今回はギターでプロデューサーのカワムラヒロシさんと一緒に曲を作ったりもして。デビュー3年目を迎えて、今は楽しいし、変なストレスも無くて、でも、「これから、どうしていくんだろう?」とひとり家で考えた事で、リアルな自分らしさを出せたのかなと。この年になると、ふと老後の事も考えたりするんです。今までは自分の生き方を考えた事なんて無かったんですけど。だからこそ、そういう自分を認めてあげる事が大事なんじゃないかと。後、お客さんの数も増えてきて、今までは自分の事ばかり考えていたけど、そういうお客さんの顔も浮かぶようになって、自分の考えが広がりましたね。私は雨女で雨ばかり降らせていて、フェスとかも雨が多かったんです。ドシャ降りなのに、お客さんはカッパを着て、それでもびしょ濡れになりながら、そして、大泣きしながら、私のライブを観てくれてる事があって……。自分の為の曲が誰かの為の曲になってる事に気付かせてもらえたんです。
――2曲目の「雨のように泣いてやれ」が、まさしくそういう曲ですよね。今作は今まで以上に自分の事を素直に歌われているなと思いました。
今回も色々挑戦しましたし、よく考えたら毎回挑戦する事って怖いと思うんですけど、スタッフがずっと一緒にやってきた人たちなので理解してくれるんですよね。今までエンジニアには曲の感じを色で伝えていたんですけど、今回、「絵を描いてみたら」と言われたんです。だから、絵を描いて、みんなに見せて、そこからセッションをしたりしました。そういう新しい試みにも、みんな付いて来てくれたんです。前作だと「波を待つのさ」の時に、サーフボードをその場に置いて、サーフィン動画も一緒に流しながら作業をしたら早かったんです。その時に色より絵なのかなとは思ってはいたんですね。元々、幼稚園の先生をやっていたので、絵心は無いですけど、絵を描くのは好きでしたね。ちょっと見てみますか?
――(実際に絵を見せてもらう)幼稚園の先生をされていたというのがわかりますね、絵を見せてもらったら。凄くわかりやすい絵ですよね。
そのまんま描くと、こういう絵になりました。ひとつの絵で、わかりやすさが伝わるというのは、(幼稚園時代の経験が)染みついているのかも知れません。みんなにも「車に顔を描いてきましたか?!」とか言われました! 「それくらい相棒って事ね!」なんて伝えましたけど(笑)。
――8曲目の「相棒」ですね! 後、“絵”、“映像”という事でいうと、「雨のように泣いてやれ」のMVが好きだったんです。今まで、どこかストイックな緊張感のあるビデオの印象がありましたが、今回はソウルフルなダンスシーンが基本になった凄く楽しさが伝わってくるビデオでした。今までNakamuraさんを知らなかった人にも間口が広がる感じがしました。
ビデオも挑戦でした。賛否両論あるだろうなとは思ってました。今まではシンプルな自分を見せていたので、その感じだと雨の絵があってみたいなビデオになっていたと思うんです。そんな時に『ソウルトレイン』(1970年代からアメリカで放送されていたダンス音楽番組)の絵が1個のアイデアとしてあって、度肝抜かれて、「そっちか!!」と。女の全部を出して、腹くくってやろうとは思っていたので、女性たちが思いのままに踊りながら歌うのは良いなと思いました。今までのままでもいいんじゃないかという声もありますが、今回は今までを取っ払って出来ました。新しい人に届いたらいいなって。ビデオに出てもらったダンサーも若い子が多くて、良い機会をもらいましたね。
――自分の事をテーマにしていく中でも、より色んな切り口があって面白かったんですね、今回は。例えば、3曲目の「女の友情」も「女の友情ハムより薄い そうでもねーよ 捨てたもんじゃねーよ」という最後の歌詞が本当に秀逸でしたね。
昔の漫画にそういう表現もあったらしいんですけど、私は何故か慣用句のように当たり前に感じていた言葉で、みんな知ってると思ってましたね(笑)。
――その中でも僕が一番好きだったのは、4曲目の「いつかお母さんになれたら」でした。僕は男ですけど、40歳にもなると結婚や子供の事を考えるので、それが同じ世代の女性なら、より色々な事が考えるだろうなと凄く思えた楽曲でした。
何か難しいテーマだと思うのですが、子供がいないからこそ、書ける曲なのかなと。身近な人に子供が生まれたりして、そこの家族とディズニーランドに行ったりしたのですが、人の子をこんなに愛おしいと思えるなんてハッピーだなって。最初はバンドメンバーも「繊細で重い曲だね」と言っていたのですが、それこそ絵を見せた時に、みんな笑ってる絵だったのですが、「こんな明るい曲なのか!そっちなのか!」と言ってくれて。​
――そうなんですよね。曲調自体は暗さや重さが全く無いので、とてもフラットに響くんです。
お母さんの羊水や地球規模のトラックをメンバーも意識して作ってくれたのですが、だから男性も聴ける歌詞になったのかなって。女性のラジオパーソナリティーの方が、この歌詞について目をウルウルしながら話してくれたりしましたね。
――そして、5曲目の「おむかい」ですが、最近おむかいって言葉、中々使わないなって懐かしくなりましたね。
おむかいって言葉いいですよね。歌詞に出てくる話は、本当にあった話で、いつか、このテーマで曲にしたいなと思っていたんです。
――おむかいのご夫婦の話やアパートの下にあった会社の人との話とかも本当の話なんですよね?
そうですね(笑)。地元の若い子たちにも「今度、東京に引っ越しするんですが、引っ越し挨拶ってするんですか?」と聞かれたりするんですね。今の東京は中々そういう事って無いですが、そういうお付き合いがあるからこそ出来る音楽もあるのかなって思いますね。
――そうですよね。「最近下北沢に『おむかい』っていう居酒屋ができてさ」という歌詞も、本当の話なんですよね?
元々同じ事務所にいたミュージシャンがやっているお店で、小さなお店なんですけど色んな話をしながら、和気あいあい出来るんですよね。
――人が集まった時に、ただただ群れてるだけで上辺だけのパーティーピープルな関係もあったりするじゃないですか。でも、Nakamuraさんが描く人の集まりには、そういう上辺さが無くて、しっかりとした温もりや関係性を感じられるんですよ。
パーティーピープル(笑)。いつも一緒に作っているカワムラさんは30歳くらいまで塾の先生をされていた人なんですが、国語にうるさくて、歌詞にうるさいんです。そういう厳しい人がいるので、しっかりと自分を客観視できるのかも知れないですね。怖いおじさん、怖いお師匠さんみたいな(笑)。嘘をついたらバレるから何も誤魔化せないみたいな、そういう人に出逢えたのは、本当に嬉しいですね。
取材・文=鈴木淳史 撮影=日吉“JP”純平

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