伊礼彼方インタビュー~音楽活動を本
格解禁! 「いま自分を変えないと、
もう二度と音楽はやれないと思いまし
た」

2019年4月27日、eplus LIVING ROOM CAFE&DINING(リビングルームカフェ&ダイニング)にて「伊礼彼方のプレミアムルーム~「Elegante」へようこそ~」が開催される。「Elegante」とは一体…?と疑問に思っていたファンも多いであろうこの公演、実は4月17日に発売される、藤井隆プロデュースによる同名のミュージカル・カバー・アルバムと連動したもの。音楽活動をきっかけにこの世界に入っていながら、舞台と出会って以降、CDリリースやコンサートには積極的でなかった伊礼彼方。そんな彼が、このタイミングでその両方を華々しく“解禁”する理由とは――。
 (撮影:岩間辰徳)
ストリートファイター、レミゼ道場の門を叩く⁉
――まずは、久しぶりにCDをリリースすることにされた理由をお聞かせください。
僕は元々音楽をやっていて、そこで挫折した人間です。舞台と出会って自分のやりたいことが見つかってからは、中途半端に音楽に戻るのは「筋が通らない」という思いがあり、ずっと背を向けてきました。でもこの年になると、音楽の素敵さとか効果を改めて感じることが多くなりまして、「本当はやりたいんじゃないの?伊礼君」「いや、やりたくない」「素直になりなよ!」みたいな自問自答の数年を経て(笑)、ようやく決心がついたという感じですね。そしてやるならば、自分を育て、音楽をやりたいという気持ちにまたさせてくれた、ミュージカルのナンバーをカバーしたいと思いました。
――「ミュージカルが自分を育ててくれた」というのは、具体的には。
ミュージカルというより芝居というものが、なんですが、僕は役を通して、自分自身が成長できたと思っているんです。ここまで言うと人って傷つくんだなとか、でもちゃんと言わなきゃいけない時もあるんだなということを、疑似体験することで学んでこられた。僕は個が強すぎるのか、社交性も社会性もなくて(笑)、人付き合いがあまり得意じゃないんですよ。でも個の力には限界があって、より多くの方に良いものを届けるためにはやはり、ファンの方やスタッフの方のお力添えが必要です。役を通して人付き合いができ、結果としてその大切さに気付けたという両方の意味で、芝居に育ててもらったと思っています。
 (撮影:岩間辰徳)
――成長という点で、特に大きな転機になった役や作品はありますか?
どれが特にということじゃなく、色々な共演者や演出家との出会いの中で、という感じですね。以前の僕は、「芝居とはこういうものだ」という固執した考えを持っていて、そこから外れたものを受け入れられない頑なさがありました。でも色々な出会いによって、それは外れているのではなくジャンルが違っているだけで、色々なジャンルの方がいたほうが演劇の幅も広がることに気付かされていったんです。武道に喩えるなら、以前の僕は、合気道の人に空手で戦うことを求めていたようなものですね(笑)。
――その武道の喩えで言うと、伊礼さんご自身は?
僕はストリートファイターです(笑)。その場その場で起こることに対応する能力を身につけてきたつもりですし、本当の意味で芝居を作るためには、誰もがそうあるべきだとも思っていました。でも徐々に、何か一つのジャンルの芸を極めた人を尊敬できるようになり、そうなると今度は、自分もそういう芸を身につけたい思いも生まれてきて。『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けたのも、そんな心境の変化があったからなんです。“レミゼ道場”に入門するような気持ちで稽古場に入って、今は本当に白帯なんですけど、初日までにせめて7級くらいまでには上がりたいなと(笑)。心境の変化によって色々な面で頑なさがなくなって、それがCDのリリースにもつながっています。
 (撮影:岩間辰徳)
久々のCDは、藤井隆の全面プロデュース!
――藤井隆さんのレーベルから、藤井さんご自身のプロデュースでリリースされるというのがなんとも意外な印象ですが、お二人の出会いというのは。
それこそ藤井さんも、僕の人生観を変えた一人なんですよ。『朝日のような夕日をつれて2014』(KOKAMI@network vol.13)で初めて出会った時、相手の3手くらい先まで考えて行動される姿を見て、どストレートな自分とは全く違うタイプの方だなと思いました。その頃から藤井さんは、なぜだか理由は分からないんですが、椿鬼奴さんと僕をデュエットさせたがっていて。業界人がおっしゃることだから、話半分で聞いていたんですが(笑)、去年の夏に本当に実現したんですよ(椿鬼奴「偽りの新銀河」with伊礼彼方)。今思えば、藤井さんがご自身のレーベルを立ち上げたのがちょうど共演していた頃だから、彼は当初から本気だったんですね。
――なるほど、そのデュエットが今回のリリースにつながったわけですね。
直接つながったわけではないんですが、僕が自分を変えたい、もっと多くの方に伊礼彼方をアピールしたい、そのためにはCDが必要だ、とちょうど思っていた時にレコーディングがありまして。そこで目の当たりにした藤井さんのカンパニーが、音楽活動をしていた頃にイヤな思いをたくさんした僕にとってはちょっと、ショッキングなほど幸せだったんですよね。大人が真剣に遊んでいる感じが本当に素敵で、藤井さんとカンパニーの愛情が伝わってきたので、ぜひここにお願いしたいと思いました。それと、僕は常々、ミュージカルにはいい曲がたくさんあるのに、聴かれる機会が少ないのがもったいないと感じていて。藤井さんのレーベルから出させて頂くことで、「Elegante」がチャートにも入るような作品になって、ミュージカルがもっと広がっていったら嬉しいなという思いも強くありました。
 (撮影:岩間辰徳)
――どこからどこまでが藤井さんプロデュースなのですか?
中身については一任されたので、自分が出演した作品の名曲と、これから出てみたい作品の名曲の中から、“先発メンバー”のような7曲を僕が選ばせてもらいました。でもそれ以外はもう、全面的に藤井隆プロデュースですね。例えばジャケット写真は、僕はカメラを向けられるとすぐ顔がキマるらしく(笑)、そうじゃない表情が撮りたいということで、カメラマンの横でずっと藤井さんが「キメとキメの合間の瞬間を狙って!」と(笑)。そして、「Elegante(優雅な)」というタイトルも藤井さんです。最初は「伊礼さん決めてください!」と言われたんですが、自分の思いをひと言で表現することはできないと思ったから、藤井さんにお話しして汲み取っていただいて、それをスペイン語にしたんです。
――編曲が、ミュージカルの方ではない溝口和彦さんというのも面白いですね。
スタッフィングも藤井さんなのですが、​ミュージカルを知らない方に、曲のテイストは残しつつ新しいサウンドを作っていただきたい、と思ってお願いしました。僕がこだわったのは、ミュージカルファンが拒絶反応を起こすほどガラッと変えるのではない中での、ザ・ミュージカルではない新鮮さのある音。僕は口頭で説明することしかできないわけですが、溝口さんがうまくそのバランスを取ってくださったので、本当に素晴らしい編曲家だと思いました。ミュージカルファンじゃない方にも自信を持ってお届けできる、カッコいい音になったと思っています。
 (撮影:岩間辰徳)
“エレガンテ”なプレミアムルームへようこそ
――せっかくの機会なので、選曲やレコーディングの際にこだわったポイントなどについて、1曲ずつ解説をお願いします!
▼「Field Of Angels~天使の園~」(『GOLD~カミーユとロダン~』より)
世界初演作品ということで、オリジナルキャストとして歌わせてもらった思い入れのあるナンバーです。それと、「ノリノリで聴くんじゃなく寝る前にそっと耳元で囁いてるような伊礼さんを感じたい」という、アルバム全体に対する藤井さんのリクエストを取り入れた選曲でもありますね。レコーディングでも息の量多めで、酸欠状態になりながら歌ったので、出来上がった時は「よっしゃー、これでお客さん寝られるぞ!」と(笑)。1曲目なので、最後まで聴いてもらえないのは困っちゃうんですけどね(笑)。
▼「We Were Dancing」(『アンナ・カレーニナ』より)
舞台の香りを感じてほしくて、アンナに対する台詞を冒頭に収録しているので、アンナになった気持ちで聴いていただきたい1曲です。もうひとつ注目していただきたいのが、バイオリンの音色。溝口さんが連れて来てくださったバイオリニストのお名前がたまたまAnnaさんだったんですが(笑)、そのAnnaさんが、僕の要求に全部応えてくださったんです。その場の要求でガラッと変えられる、ある意味“ストリートファイター”な方でした。
▼「Love Can’ t Happen」(『グランドホテル』より)
僕の代名詞のようになっている“ミュージカル界の貴族枠”の中でも、特にこのガイゲルン男爵はハマっていたのかなというのと、単体で聴いても名曲だということで、入れない理由はないなと。レコーディングしたあとで、この曲をファミリーマートで流していただけるというニュースが飛び込んできました。ミュージカルが広まるきっかけになりそうで嬉しいですね。
 (撮影:岩間辰徳)
▼「Sister」(『ハムレット』より)
ミュージカルの世界に入ってから、僕はずっとクラシカルな歌い方を求められていて、ロックテイストなこの作品で初めて“シャウト”で歌わせてもらえたんです。そういう意味で「残したい」という思いが強かったナンバーを、本番と同じく昆夏美さんとデュエットさせていただきました。真っすぐで力強くて折れなくて、でも押しつけがましくない昆ちゃんの歌声が、僕は大好きなんですよ。別録りではなく、本当に向かい合って歌っています。
▼「最後のダンス」(『エリザベート』より)
僕がルドルフ役として本格ミュージカル​デビューした作品で、その後も何度か拝見しているんですが、トート役を僕が思い描くようなイメージで演じられた方って一人もいないんです。「俺だったらこう歌う」という思いばかりが膨らんで、表現する場がなかったので収録しました(笑)。それと、ロックミュージカルとして書かれているのに日本ではクラシカル調で歌われているのはもしかしたら、シャウトで歌える人がいないと思われてるからなのかな?というのもありまして、「ここにいますよ!」というアピールでもあります(笑)。『ジーザス・クライスト=スーパースター』なんかも同じ理由で、いつか出たい作品のひとつですね。
▼「This Is The Moment」(『ジキルとハイド』より)
これも、石丸幹二さんとダブルキャストか、トリプルキャストの3番手でもいいのでやらせてもらえませんでしょうか!というアピールです(笑)。日本語の歌詞も好きなんですが、フラットな状態で聴いてもらえるよう、今回は英語で歌いました。そもそも大好きな曲で、実は何年も前から歌いたかったんですが、多くの方が歌っているから、同じことはしたくないと。反発しながら過ごしてきましたが、もう自分に嘘をつけなくなりました(笑)。
▼「Estrellas~スターズ~」(『レ・ミゼラブル』より)
これはもう、入れないわけにはいかないでしょう(笑)。自分のルーツであるスペイン語の曲を絶対ひとつは入れたかったこと、日本語バージョンを披露するのはジャベール役を演じてからにしたかったこと、そしてスペイン版『レ・ミゼラブル』の映像をたまたま観て、日本語では表現できない力強さがあると感じたことから、スペイン語バージョンで収録しました。実際に歌ってみたらやはり、日本語とは別物になりましたね。
 (撮影:岩間辰徳)
――ありがとうございます。事前に拝聴したのですが、お話しいただいたこだわりポイントが本当によく伝わってくるアルバムでした!「伊礼彼方のプレミアムルーム」は、このアルバムを基にしたライブになるということでよろしいですか?
ライブというより、まずはファン感謝祭という感じかな。「CDを」「ライブを」とずっとリクエストし続けてきてくれた皆さんに、色んなお話も交えながら、アルバムの中から何曲かをお届けすることで恩返しができたらと。いずれはこのアルバムを基にした、ショーのようなライブを作りたいと思っていて、今回はその第一歩になる予定です。
――では最後に改めて、そんな「プレミアムルーム」へのお誘いコメントをぜひ。
ライブにはずっと背を向けて過ごしてきましたが、正直なところ、心の奥深くではずっとやりたい気持ちがありました。封印することで、24歳くらいで時が止まっちゃってる感じがしていた中で、「This Is The Moment」の日本語タイトルではないですが(笑)、今こそ「時が来た」のではないかと。今変わらないとこの先もきっと自分は変われない、このきっかけをつかまないと、もう二度と音楽はできないんじゃないかと思ったんです。ずっとツッパってきた伊礼彼方が、ようやくトゲを全部抜いて、素直で“エレガンテ”な姿をお見せしますので、ぜひぜひ遊びにいらしてください!
 (撮影:岩間辰徳)

取材・文=町田麻子
写真撮影=岩間辰徳
撮影場所=eplus LIVING ROOM CAFE&DINING

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