関西フィルハーモニー管弦楽団の首席
指揮者・藤岡幸夫、大いに語る

2020年に楽団創立50周年を迎える関西フィルハーモニー管弦楽団。昨年6月には、公益財団法人の認可を得、これまで以上に文化的、社会的貢献を果たすため、積極的に活動を続けている。今年の4月には、通算300回目の定期演奏会を迎え、首席指揮者藤岡幸夫の指揮で菅野祐悟の交響曲第2番を世界初演し、華やかに新しいシーズンのスタートを飾る。BSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」のナビゲーターとして、すっかり全国レベルの認知を得た指揮者の藤岡幸夫に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた。
言葉を選びながら丁寧に取材に応える藤岡幸夫 (c)H.isojima
―― 第300回記念定期演奏会のプログラム、ちょっと意外な気もしました。
300回目の定期演奏会だからと言って無理してマーラー「復活」では、他のオーケストラと変わらないじゃないですか。邦人作曲家の新作品をメインに持って来るなんて芸当、関西フィルだけだと思います。思い切ってギャンブルに出てこそ関西フィル(笑)!ただ、難解な現代音楽ではお客さまも二度と演奏会にお越し頂けないと思うので、選曲は大切です。そこで菅野祐悟さんの交響曲第2番なのです!
―― 藤岡さんが普段から仰っている、調性音楽で旋律のある音楽を作れる作曲家を育てていく必要性があるという話に繋がる訳ですね。(以前、取材した記事はコチラを参照ください。)
そうです。何としても新しい作品をオーケストラのレパートリーとして増やしていかなければならないと思っています。基本的な語法や文法を持ち合わせた才能のある若い人に曲を書いてもらい、こちらは発表の場を提供していくことが大切です。映画やドラマの音楽を作曲している人の中にはそんな才能ある人はたくさんいます。これまでに取り上げた大島ミチルさんや林そよかさんもそうです。菅野祐悟さんには2016年、交響曲第1番を書いて頂きましたが、演奏時間45分に及ぶ見事な曲でした。チケットも完売御礼。立ち見まで出たほどです。それを受けて、記念すべき第300回記念定期演奏会には菅野祐悟さんの交響曲第2番!現在のところ、曲の進捗状況はまったくわかりませんが(笑)、彼のSNSには「命を削って書いている!」と書き込まれているので、凄い曲が出来ると期待しています。念のために、以前、いずみホールで世界初演した管弦楽と打楽器のための曲「永遠の土」を先にやって、交響曲第2番を後に演奏する事も出来ますよとメールしたところ、「菅野祐悟の交響曲第2番は40分以上あります!」と返信が来ました(笑)。
交響曲第1番を世界初演した際のプレコンサートで話す菅野祐梧と藤岡幸夫 (c)s.yamamoto
ーー プログラムの前半は、藤岡さんお得意のイギリス音楽ですね。
1曲目のディーリアスは師サー・チャールズ・グローヴズが十八番とする作曲家。「春を告げるカッコウ」は指揮していてすごく優しい気持ちになる、シンプルで美しい曲です。今までに何度も取り上げているので、ご存知の方も多い曲だと思います。2曲目、エルガーのチェロ協奏曲はソリスト宮田大さんのリクエスト。エルガーの愛する妻が、病気で余命幾何もないと告げられた時に出来た曲で、哀しみと優しさに満ちた音楽です。これまでに、ドヴォルザークやカバレフスキーを共演した若手実力派、宮田大さんの奏でる音楽はスケールが大きく、品格に満ちた素晴らしいエルガーをお届け出来ると思います。
第300回記念定期演奏会の前半は、藤岡幸夫が得意とするイギリス音楽で勝負! (c)HIKAWA
ーー それは楽しみですね。藤岡さんの強みの一つが、BSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」と連動させて、コンサートの模様を説明付きでオンエア出来ることだと思います。関西フィルの定期で演奏されたヴェルディの「レクイエム」は、4週に渡って放送されました。
「ETM(エンター・ザ・ミュージック)」は2014年10月から始まりましたが、クラシック音楽の番組としては健闘しているようです。ご指摘のヴェルディの「レクイエム」の回はちょっと特別でした。どうしても「ヴェル・レク」というとオペラチックに歌い上げる演奏が多いように思うのですが、僕は人間の弱さを表現する上でピアニッシモにこだわり、緻密なアンサンブル重視で歌うことで、従来とは違うアプローチを試してみました。4人のソリストが大変素晴らしく、とても新鮮なサウンドに仕上がったと思います。それを各ソリストの位置から掘り下げてみた訳です。普通ならせいぜい一つの曲で1番組だと思います。あのように丁寧な番組作りが出来るのはありがたいですね。最近では、オーケストラのメンバーが地方に行った時など、一般の方から話しかけられる事もあるようで、ちょっとした有名人になったようだと話す者も増えてきました(笑)。
放送5年目に入り益々好調のBSテレ東「エンター・ザ・ミュージック」
ーー まるで“笑点”のよう(笑)。まさしく全国放送の強みですね! 番組の認知が高まると、楽器紹介で登場した関西フィルの奏者の名前が売れ、スター作りにもなります。管楽器のソロの場面なども細かく名前のクレジットが入っていて、制作スタッフの丁寧な仕事振りに好感が持てます。番組と連動したコンサートなんかもそのうちに誕生しそうですね。
実は、6月にびわ湖ホールで「ETM」の冠コンサートが決まりました! 司会は一緒に番組を担当しているテレビ東京の繁田美貴アナウンサー。発売と同時に順調にチケットは売れています。また、番組で弦楽四重奏団を作ろうと思っています。カルテット自体は収録の関係もあり、東京のオーケストラの中から人選していますが、カルテットと一緒に関西フィルの木管奏者を組み合わせることも出来ますし、色々広がりを持たせられればと思います。
様々なアイデアで番組を盛り上げる藤岡幸夫 (c)HIKAWA
ーー 番組専属のカルテットが立ち上がるのですか! なんか、藤岡さんの打つ手がすべて当たっていくように思うのですが(笑)。先ほどの作曲家と同様、若いソリストなんかも大きな演奏会で抜擢した人たちがコンクールに入賞し、結果を出されていますね。
昔から何度も関西フィルと共演しているヴァイオリンの内尾文香さんが「若いヴァイオリニストのためのグリュミオー国際コンクール」に優勝したり、チェロの北村陽くんが「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」に優勝したりと、若い人の活躍は嬉しいですね。コンクールで賞をもらってからソリストとして使うオーケストラが多いと思いますが、僕は自分の感性を信じ、良いと思ったら直ぐオファー(笑)! 関西フィルは他のオーケストラと同じことをしていてはいけません。常に先を行くオーケストラでないと。
藤岡幸夫と関西フィルの活動から目が離せない! (c)s.yamamoto
ーー そういう意味では、前半にポップス系の曲をやって、後半にシンフォニーを聴かせるパターンのコンサートも藤岡さんならではですね。
ポップスや映画音楽をクラシック音楽より下に見ていて、やりたくないと思っている指揮者は多いと思いますよ。僕はお客さんが「あー良かった、また来たい!」と思っていただけるなら、喜んでそういった曲を演奏します。僕もポップスや映画音楽、大好きですからね。ただし、せっかくなのでプログラムの後半では交響曲を1曲、しっかりと聴いていただきたいと思っています。このパターンの典型的なコンサートが4月に行う「名曲アワー」です。なんか昭和っぽくて素敵なタイトルでしょう? ここでは、前半にサンダーバードやハリー・ポッター、風と共に去りぬを聴いていただき、後半はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」をお聴きいただきます。「新世界」ではなく、「英雄」というのもちょっとしたこだわりなのですが、サンダーバードと「英雄」が並ぶコンサートって、如何ですか(笑)。僕はそういう発想こそ大切だと思います。これこそが関西フィルだと思いますね。
ーー なるほど、ありがとうございます。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
関西フィルは僕以外にもデュメイ音楽監督、桂冠指揮者の飯守泰次郎さんと、全くタイプの違う3人の指揮者を中心に、個性的なプログラムをご用意して皆さまをお待ちしています。一度、関西フィルのコンサートにお越しください。大きなホールで聴くナマの音楽は良いものですよ。ぜひ会場でお会いしましょう!
皆さま、会場でお会いしましょう! (c)s.yamamoto
取材・文=磯島浩彰

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