中村獅童「歌舞伎のダークでアングラ
な部分を全面に出したい」オフシアタ
ー歌舞伎『女殺油地獄』取材会

2019年5月11日(土)から17日(金)まで東京・天王洲の寺田倉庫 G1-5Fにて、その後22日(水)から29日(水)まで東京・歌舞伎町の新宿FACEにて、オフシアター歌舞伎『女殺油地獄』(おんなころし あぶらのじごく)が上演される。本公演の主軸となるのは歌舞伎俳優・中村獅童。獅童が劇作家・演出家の赤堀雅秋を招き、天王洲の倉庫、そして歌舞伎町のライブハウスであり、時にはプロレスの興行も行われるという、かつてない劇空間で上演される近松門左衛門の古典作品……いったいどのようなものになるのだろうか。

本作の取材会が3月22日(金)、都内にて行われ、獅童と赤堀が出席した。
本作の脚本・演出を務める赤堀は「3年前のコクーン歌舞伎『四谷怪談』で演出助手として参加し、初めて歌舞伎というものに触れました。それまでは歌舞伎というものに素養がないもので、高尚で自分たちには縁がないものと思っていた。が、実際に歌舞伎役者さんたちが至近距離で物を作っていくのを観て、僕らが今までやっていた演劇の魂や想いと変わらない事を知りました。今回獅童さんに声をかけていただき参加する事になりました。僕がよく人殺しの作品を作っているからこれは赤堀で、と思われたのかも(笑)」とこの仕事を引き受けたいきさつを語りつつ、「僕自身は奇をてらったものにするつもりも、また芸術嗜好にするつもりもなく、極めてアナログに、今現代に生きているお客さんに観に来ていただき、イヤホンガイドなしでもお客さんに寄り添い、心を揺さぶるものにしたい」とコメントした赤堀は、観客によりスムーズに作品世界を理解してもらう策の一つとして、台詞を今の言葉に直すなどの工夫は施したいと構想を口にしていた。
赤堀雅秋
獅童は「ずっと前から倉庫で歌舞伎をやってみたかったんです」と開口一番。「20代の頃NYのラ・ママ実験劇場でパーカッションの演奏に合わせて獅子の毛を振った事があるんですが、劇場の天井裏で役者さんたちが普通に生活していたり、いろいろなスタイルの演劇があるんだと知り、日本にもこういうものがあってもいいのになと思っていたんです。その後三越劇場にて『女殺油地獄』をやった時にいつかこの作品でやってみたいと考えていました」と事の発端に触れる。赤堀に依頼した理由は、赤堀が監督・脚本を務めた映画『葛城事件』を観て作品を赤堀に託したい気持ちが固まったと話した。
中村獅童
「どこか僕の中に80年代のアングラ演劇に対する憧れがあるんです。幼少期から母が様々な演劇を見せてくれました。唐十郎さんの紅テントや大衆演劇など。海外の演劇などの影響も受けてきました」海外で観た作品の一つに廃ホテルの様々な部屋で演じられる『マクベス』を観客が部屋を巡りながら至近距離で楽しむ作品『スリープ・ノー・モア』からも刺激を受け、今回のような客席がステージをぐるっと取り囲む、極めて客との距離が近い舞台へのこだわりも見せる。
獅童は今回の共演者の一人、荒川良々との奇縁を話し出す。「僕は彼の事を尊敬しています。面白いというだけではなく一人の役者として凄い物を持っているんです。昔、無名時代に受けたオーディションで良々くんに負けた事もあります。僕は新聞広告でそのオーディションを知り、本名で応募したんですが、何百人と応募者がいて、皆が発声練習や柔軟体操をしている中、横向きでひたすら寝ている男がいた。こいつは馬鹿か、それともこのオーディションを舐めているか……と思っていたのが良々くんでした。稽古場を普通に歩いて、という指示で、皆が思い思いに歩いているんですが、良々くんが歩くと会場中の皆が笑い出すんです。『すげえな、こいつ』と思いましたね。僕は最終試験で落ちて、その後その舞台を観に行ったら良々くんと大倉孝二くんが出ていました(笑)。その後、映画『ピンポン』で撮影現場に行ったらその二人が偶然いて「今回は俺の方が良い役もらえた、と内心思っていましたね(笑)」懐かしい話に取材陣からもたびたび笑い声が起きていた。
笑いが何度も起きる和やかな取材会でした
普段、歌舞伎に馴染みがない世代にも興味を持ってもらい足を運んで欲しいという想いもあり、会場では映像技術を用いて、観客を誘導した先に超アナログな舞台が登場する、そんなギャップを楽しませるような趣向や、「歌舞伎の中にはアート、ファッション、ロックと様々な要素が含まれている」という考えのもと、長瀬哲郎にアートディレクションを託し、会場限定で若者に人気のブランドNEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)とコラボしたTシャツも販売される。
「歌舞伎って元々上演禁止になるような題材や、法律を潜り抜けて生き残ってきた演劇なので、健全ではない危険なものもたくさんある。そんなダークでアングラな部分を前面に出していきたい」とオフシアター歌舞伎ならではのこだわりに触れる獅童。
「歌舞伎座にいったらブランド歌舞伎があり、倉庫や歌舞伎町にいったらアングラなオフシアター歌舞伎がある状態にしたいです。渋谷には勘三郎のおじさま(十八代目 中村勘三郎)が作ったコクーン歌舞伎がある。六本木には(市川)海老蔵くんと立ち上げた六本木歌舞伎がある。これで新宿・歌舞伎町に新しい歌舞伎が生まれれば東京は制覇したといえるんじゃない?」と茶目っ気たっぷりに答えつつ、「古典を守りつつ革新は追及する獅童スタイルにこだわりたい。先輩たちの魂を引き継ぎつつ、獅童らしい歌舞伎をやっていけたら」と自身が目指す道を改めて提示していた。
取材・文・撮影=こむらさき

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