ザ・バンドの諸作に勝るとも劣らない
リトル・フィートの一大傑作
『ディキシー・チキン』
リトル・フィート登場
翌72年には『セイリン・シューズ』をリリースする。「ウィリン」(こちらは名演!)の再録をはじめ、「コールド・コールド・コールド」「セイリン・シューズ」「トライプ・フェイス・ブギ」など、リトル・フィートらしさが表れた佳作となった。しかし、前作同様セールスにはつながらず、グループの再編を余儀なくされる。ロイ・エストラーダが脱退したのを機に、グループは活動休止に追いやられるのだが、おそらくこの時期にローウェルはザ・バンドの『カフーツ』、ドクター・ジョンの『ガンボ』、アラン・トゥーサンの『ライフ・ラブ・アンド・フェイス』などを聴いて、自分の探し求めるリズムの研究をしていたに違いない。
最強の布陣で再出発
本作『ディキシー・チキン』について
ボニー・ブラムレット(デラニー&ボニー)、ボニー・レイット、ダニー・ハットン(スリー・ドッグ・ナイト)他、7名の黒白混合バックヴォーカリストが参加し、アルバム全編にわたって重厚なゴスペルっぽいコーラスを披露している。特にボニー・ブラムレットは大活躍だ。ローウェルのヴォーカルもこれまでとはかなり違って、味わい深く伸びのある歌声を聴かせているのだが、ヴォイストレーニングをしっかりやったのだろう。彼のヴォーカルがこれだけ魅力あるものになったのは本作が最初である。
本作で最も素晴らしい部分は、重くタイトなリズムセクションかもしれない。グラドニーのうねるベースがあるからか、ヘイワードのドラムもこれまでとは別人のようにタイトでありながら粘りまくっている。リズムの間を埋めるようなクレイトンのパーカッションも絶妙で、僕は彼らがロック界で最高のリズムセクションだと確信している。ローウェルが存命中(79年、コカインが原因で彼は34歳の若さで亡くなっている)の78年、彼らの日本公演を僕は大阪で観たが、やはりグラドニーとヘイワードのリズムセクションのすごさに驚いた。余談だが、僕の観た人生で最高のステージはこの時のリトル・フィートである。
アルバム全編を貫いているのは、ブルース、R&B、ファンク、ソウルなどをごった煮(ガンボ)にした彼らにしか生み出せないロックである。各種のアメリカンルーツ音楽を、原形をとどめないぐらいかき混ぜた音楽とでも言えばいいか。そういう意味では、まったく手法は違うがザ・バンドの諸作と似通ったところがあるかもしれない。少なくとも、何度聴いても飽きないところはザ・バンド的である。
本作以降の活動
続くアルバム『アメイジング!(原題:Feats Don’t Fail Me Now)』(‘74)も『ラスト・レコード・アルバム』(’75)も傑作であったが、徐々にローウェルは薬物依存により体調が悪化し、77年の『タイム・ラブズ・ア・ヒーロー』ではポール・バリアーとビル・ペインが主導し、ローウェルはほとんど参加していない。彼ら初の2枚組ライヴ盤『ウェイティング・フォー・コロンバス』(‘78)ではローウェルも元気な姿を見せ、本作と双璧をなす名盤に仕上がっている。特に「ディキシー・チキン」は9分近くに及ぶ熱演で、ビル・ペインのピアノの上手さには舌を巻く。
この後、ローウェルはヴォーカルを中心とした初ソロアルバム『特別料理(原題:Thanks I’ll Eat It Here)』(’79)をリリースし、これが生前最後の勇姿となった。同年、リトル・フィートもローウェルの残した録音にメンバーが演奏を被せた『Down On The Farm』(‘79)をリリースするが、力のない普通のアルバムになってしまった。この後グループは解散し、80年代の後半に再結成するわけだが、それはまた別の機会に…。
TEXT:河崎直人