玉城裕規×中屋敷法仁が語り合う 現
代日本にも通じる芸能戦国時代を描く
『ミュージカル ふたり阿国』の見ど
ころとは

3月末、明治座にて幕を開ける『ミュージカル ふたり阿国』は、皆川博子の小説『二人阿国』を原作とする舞台。女芸人・阿国(北翔海莉)と、彼女に憧れ、そしてすべてを奪おうと企む“二代目おくに”ことお丹(峯岸みなみ)を中心に、安土桃山時代から江戸時代へと移り変わる波乱の世を生きる民衆の姿を描く物語だ。キャストには、坂元健児、コング桑田、モト冬樹をはじめ、個性的なメンバーがずらり。芸能を好む“かぶき者”の公家、猪熊少将教利を演じる玉城裕規と、脚本を手がける中屋敷法仁(演出を担当する田尾下哲と共同)が、作品について語り合った。
ーー現段階で、物語についてどんなイメージをお持ちですか。
玉城:芸事を扱っている物語だから、役者をやっている自分自身とも絶対共通する何かがあると思うんですよ。僕が演じる猪熊少将教利は芸事をしている人間ではないですが、作品全体から、役者として感情移入できる部分は見えてくるのかなと。昔の方がいろいろとエグかったりすると思うんです。生き様もそうですし、上に立つ上でどういう生き方をしていくのかという意味においても。今だったらつかまっちゃうようなこともしているでしょうし。僕自身、そういった生き様が描かれている作品が好きなので、どこまでリアリティを出せるのか楽しみです。
中屋敷:舞台は慶長5年という時代なんですが、まさに芸能戦国時代なんです。どの芸能が一番すばらしいか、観客の方でも決めかねていて、人気がすぐに移り変わるし、どんなにいい芸でも人気がなくなれば廃れていくとか、パトロンは誰なのか、殿様なのか商人なのか、そのあたりもふわふわしていて、まさに現代芸能界と一緒だなと思いました。今回出演される峯岸みなみさんなんて、まさにアイドル戦国時代を生き抜いてきた方ですし。そういう意味で、このお話は、劇団でやるのではなく、今回の上演のように、さまざまな芸に通じた方々、いろいろな才能をもった方々がぶつかり合う方がおもしろいですね。誰がやっていることが一番おもしろいのか、それぞれやっていることが違いすぎてなかなか決められないという(笑)。
玉城:そうですよね(笑)。
中屋敷:そこがとても豊かだなと思って。踊りにしても歌にしても、これが絶対正解だ、完璧だというものはない。現代芸能界がまさにどういうところで、さまざまなジャンルの方がクロスしてコラボレーションしている。そういった豊かさ、そしてヒリヒリ感が伝わる舞台になればいいなと思っています。原作を読んでいるときから、日本の芸能界にあてはめて考えていました。
中屋敷法仁
ーー玉城さんが演じられる役どころについてはいかがですか。
玉城:実在の人を調べたときには、もう、プレッシャーでしかなかったです。何と言っても、天下無双の美青年、ですから。人間って、どうしたって最初はまず見た目から入ると思うんです。そこから、その人はどういう考え方をして、どういう発言をして……と考えていくと思うんですが、もうね、プレッシャーで笑いしか出て来ないです。あまりにも僕と違いすぎて、共通部分がなさすぎて……。ないからこその楽しみもあります。「猪熊事件」(猪熊少将教利が関わっていた乱交・醜聞事件)って、検索したら出てくるほどですし。だけど、そんな僕に、女性とのあれやこれや、とはね。わかりやすく言うと、僕、恋愛偏差値が「2」くらいしかないですから。女性が好むことができない。気づいてあげられないんです。共通点がない方がやりやすかったり、楽しかったりもするので。それと、もちろん実在の人物で、原作もありますが、田尾下さんの演出の中でどう生きられるかが楽しみです。
ーー玉城さんの役者としての魅力とは?
中屋敷:わかんなくなってきた。何でもできるから。今回も、一番やらなそうな役だなと思っていたんだけど、今の話を聞いていたらもうやれそうだから、ショックだなって。
玉城:何でですか~(笑)。
中屋敷:何か、僕、玉城信仰がすごいんだよね。やらなさそうな役を思いつけばいいんだけど、だいたいいつもできている。
玉城:確かに、さまざまな役をやらせていただいてきましたが。でも今回、本当に個性的な役者さんたちがそろっている中で、自分もしっかり存在したいなと思っています。自分の在り方、作品における生き方に、本当に苦労すると思うんです。華やかなメンバーの中で、芸事でどう埋もれないか、自分をどう輝かせるかというのは、作品自体とも共通するテーマだなと感じていますし。そういう意味では、作品に自然と入れそうな空気感がありますね。役者をやっていると、やっぱり悩むし、それで暴挙に出たりすることもあるので。
(左から)玉城裕規、中屋敷法仁
中屋敷:暴挙(笑)。
玉城:法律にふれない程度にですけどね(笑)。お酒も飲んで、語って、楽しみもあり、でも浮き沈みも激しい。この物語の時代ってもっと浮き沈みが激しかったと思うんです。それに、死も近いじゃないですか。
中屋敷:直結だよね。お金が入らなかったら飢えて野垂れ死だし。
玉城:そうなってくると、生きること、自分のやりたいことに対して、より一生懸命にならざるを得ないじゃないですか。必死ってレベルを通り越している話だと思うので。多分、普通に生きているだけでも、とてつもない熱量だと思うんです。生きているだけでの熱量プラス芸事だから、とんでもないことになってくると思うんです。それを上手く出せるかどうかが、この作品においてとても大切になってくると思っていて。いろいろなところに死が転がっている中で生きているって、すごいことですよね。今に生まれてよかったなと……。そう思うからこそ、この時代を描く作品に出演するからには、身を削ってそこに存在しないと、勝てない、みたいな。
ーー今回、さまざまなジャンルから個性豊かなキャストの方々が揃いました。
玉城:市瀬秀和さんと中村誠治郎さんと共演したとき、お二人の殺陣があったんですが、もうすごかったですね。皆さん、平均点が優れている上に、何か一つ抜きん出たものがあるという感じで。
中屋敷:何が受けるか、何がお客様を楽しませるかということに関して、様々な美学をもったキャストだと思うんです。いろいろな角度から来られて、お客様も窒息しそうになるかもしれません。芸人魂、役者魂、プライドみたいなものがどんどん出てくると思うので。
玉城:いや、エグいメンバーですよ。それぞれ色が違うのが唯一の救いですけど(笑)。
中屋敷:コングさんみたいに歌が上手い人と絶対デュエットなんかしたくないよね(笑)。
玉城:しかも人柄もすばらしいんですよ。
中屋敷:歌の上手い人、踊りの上手い人、かっこいい人、背の高い人、アクロバットのできる人、あれこれ勢揃いだよね。
玉城:……勝ち目がない(笑)。
中屋敷:歌、踊り、芝居、ギャグ、さあどこで勝つ? みたいな。
玉城:一個も勝てる要素がない(笑)。
中屋敷:絶対何かはあるって。平均点で、とか。
玉城:ダサいよ、それが一番。
中屋敷:ダサいね、確かに(笑)。お客様は最終的には人間を見るから、人間を出す、キャラクターとして生きられれば、勝つよね。お客様の心に残れば、それでいい。
玉城:そうですね。最近、よくよく、個性的な役が多いんですよ。まあ、自分で個性的にした役もありますけど(笑)。自分らしさを出した方が役にとってプラスになるときと、そうでないときとがあって、今回は出さない方がいいだろうなと思っていて。そうなってくると、より、勝算ポイントがないなと(笑)。自分のこの声を最大限に活かしたり、その作品における役を、こうやると普通だから、どうやったら自分らしさを踏まえた上でプラスできるか、このセリフにはどうできるかなとか考えるんです。最初は出せなくても、稽古場でやっていくうちに出せるようになっていったり。この台本からこういう役作りをしたんだ、それがおもしろいと言ってくださる方もいるんですが、今回は違う気がしていて。台本を読んで、第一印象を大事にした上で、その中での生き方を探っていく感じですね。共演者の中で、伊藤裕一さんの出方は何度か共演しているのでわかります。とても我が強いんです、いい意味で。自分というものをしっかり持って挑んでいる人で、すごく安心できます。でも、あとの方は、どういう感じで来るのか想像ができない。いやあ、強いな、みんな個性が。しかも、同世代が少ないので。年上、先輩の役者さんたちだし。
中屋敷:同世代いるじゃんと思ったら、細貝圭に平田裕一郎って、一番ヤバイ二人だった(笑)。
玉城:ファンタジスタな二人ですよ(笑)。しかも、自分たちは普通だと思っているところがよりヤバイという。
ーーお二人のとても気の合った様子が印象的です。
中屋敷:そんなには仕事を一緒にしてないんだけどね。
玉城:朗読劇でご一緒させていただきましたよね。
中屋敷:朗読劇という名の朗読バトルみたいな。
玉城:ヤシキさんの演出は、すごく無駄がないんですよ。いい意味でせっかち。すごく心地いいテンポでダメ出しもしてくださるので。宮本亜門さんの1.5倍くらいのせっかちですよね。亜門さんもご自分でせっかちっておっしゃってる人ですけど。そのとき、細貝圭ちゃんも一緒でしたが、ヤシキさんのダメ出しについていけてなかったですね。
中屋敷:せっかちですね。演出家って、怒鳴って役者を泣かすってありますけど、僕はおいてけぼりで泣かす方で。「やった~終わった~」と思って見たら、すごい泣いてる女優さんがいて、どうしたのかと思ったら、全部わかんないですって。それなのにもう通し稽古が始まっちゃっていたという……。怒鳴るとかでなくて、そういうことでも泣くんだなと思いましたね。
玉城:その場で物事を解消したい人たちにとっては早くていいんです。一回聞いておいて、後で解消しようと思うから。でも、その場で聞いて理解しようと思うと、ついていけない。でも僕は楽しいです、すごく。
玉城裕規
中屋敷:今回、玉城くんが、分が悪い、どうしたらいいんだろうって考えているところが、すごくいいなと思ってます。自分の役割はこうだからこうやればいいということじゃなくて、自分の役割を決めないで、ポジションをクリエーションしようとする姿勢がいい。もっとやれることがあるんじゃないかとか、悩んでるところが、役者としてとてもいいですね。
玉城:確かに悩んでますね。
中屋敷:現場で、ここがゴール地点ですっていうところを、もうちょっと先に行けますとか、まだ十メートル行けますとか、ゴールだと思ったらスタート地点でしたとか、そういうことを考えられる俳優さんなのがいいですね。ゴールがわかっていると、手前で手を抜く人もいたりするので。でも、そうやってゴールを先に先にと思ってくれる人がいると、作品のスケールも大きくなっていくわけだから。
ーー明治座という劇場についてはいかがですか。
中屋敷:能楽堂、オペラハウス、歌舞伎座、劇場によって作法が決まっているんですよね。ただ、明治座という劇場は、いろいろな芸能がクロスする場所。本当に、この『ミュージカル ふたり阿国』の舞台である“河原”のような場所だなと思っていて。歌ってもいい、踊ってもいい、ギャグをやってもいい、何をやってもいい、自由なんだけど、逆に芸人が試される場でもあって。最初来たとき、明治座にも作法があるのかなと思ったんですよ。でも、それは芸人が作っていくものなんだなと思って。明治座だからこういう演出でとか演じ方でということは、芸人がそれぞれ作っていかなくてはいけない。本来、どう演じても明治座が抱きしめてくれる、そんな印象がありますね。だから、この作品を考えたときに、ぴったりな劇場だなと感じました。芸能バトルを行なうにあたっては最高のバトルフィールドです。能楽堂だったら狂言師が勝つし、オペラハウスだったらオペラ歌手が勝つけど、今回、誰が生き残るかわからない。芸能的に非常に豊かな生かし合いができるんじゃないかなと思います。
玉城:僕、瞬殺されたりして(笑)。去年、舞台『刀剣乱舞』で初めて明治座の舞台に立たせていただいたんですが、何だか、立っているだけで後押しされる感覚があるんです。世界観を作ってくれているという感覚がある。居心地もとてもいいんです。駅から出て、「来たか」と思うんじゃなくて、「よし! やるか」と思える劇場というか。とても自然にいられて、スムーズに身体が作れる感覚がありますね。すごく安心感がある劇場です。あと、幟もテンションあがりますよね!
(左から)玉城裕規、中屋敷法仁
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本 れお
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