【明田川進の「音物語」】第22回 「
シェンムー」で声の仕事をはじめた松
風雅也さん

 前回お話した「シェンムー」の仕事 を3年間続けられたのは、主役の松風雅也さんと出会って一緒に仕事ができたことが大きいです。今回はキャスティングの話を中心にお話しましょう。
 「シェンムー」のキャラクターの動きは主にモーションキャプチャーでつくられていて、キャスティング時にモーションアクターの人に声もやってもらえないだろうかとの話がありました。そのときに主役である芭月涼の動きを担当していたのが松風さんです。当時彼は実写の俳優として活動していて、戦隊ものでブルーなどをやっていました(※「電磁戦隊メガレンジャー」メガブルー役)。
 松風さんを本格的に声の世界に引き込むことになったのは、「シェンムー」で僕と出会ったことがきっかけです。本番の収録までいかない段階で、音響を担当していた「KAIKANフレーズ」(1999~2000)という作品のオーディションを受けてみないかと誘ったら、主役のひとりに決まったんです(※大河内咲也役)。松風さんは俳優だから声の出し方や芝居の組み立て方が独特で、オーディションでは、それが良い意味でみんなの印象に残ったんですね。「なんだか気になるね」という話になり、彼でいこうとなりました。そうして「KAIKANフレーズ」の収録がはじまったら、アフレコ現場を見にきていた「おはスタ」のプロデューサーが彼の演技が面白いと注目して、「おはスタ番長」の仕事が決まりました。彼にとって「シェンムー」は、声の仕事の起点になっていると思います。
 「シェンムー」の仕事をしているときは、他の人はシーンによって出るときと出ないときがありましたが、主役の松風さんはほぼ出ずっぱりでしたから、収録の3年の間はいつも顔をあわせている感じでした。その後、僕の会社と松風さんは「ヒートガイジェイ」(2002~03)でもご一緒することになります。そんな縁があり、以前お話した新年会で石塚運昇さんと飲んでいるときにも 、松風さんだけは気軽に声をかけてくるような間柄なわけです。
 「シェンムー」で藍帝役や三橋五郎役などを演じた櫻井孝宏さんは、僕からゲームサイドに当時の若手を紹介したなかから選ばれたひとりです。櫻井さんにも「KAIKANフレーズ」のオーディションにでてもらったら、松風さんと同じ主役のひとりとして出演することになりました(※永井良彦役)。櫻井さんにとっても「シェンムー」は転機になった作品ではないかと思います。
 主人公の父親役の藤岡弘、さん、ヒロイン役の安めぐみさんはゲームサイドで決まっていた方でした。また、松風さんのようにモーションアクターからそのまま声を担当することになった人が数人いました。それ以外の役は、こちらからひとりのキャラクターにつき候補をだしてテープオーディションで候補を絞り込み、「この人ならば」という人には実際にスタジオに来てもらって、OKがでたら収録に参加してもらうことが多かったですが、収録の途中で人が入れ替わることも珍しくありませんでした。
 「シェンムー」の全貌はディレクターである鈴木裕さんの頭の中にあり、いろいろな考えをめぐらされていたように思います。ゲームの世界で鈴木さんがすごい方だと聞いていましたが、僕はゲームをやらない人間なので、あくまでプランナーであり原作者であるという向き合い方でした。鈴木さんが考えられているキャラクターや作品のイメージを早くとりこんで収録に反映させていこうと頑張ったつもりですが、どこまで期待にこたえられていたのかは分かりません。ゲームクリエイターの方とはその後、「ロストオデッセイ」というゲームで坂口博信さんとご一緒したことがありますが、アニメの監督と同じように、お2人ともそれぞれ違った感性をもたれていたように感じました。

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