金属恵比須・高木大地の<青少年のた
めのプログレ入門> 第13回「プログ
レ・ハラスメント? あの生放送の舞
台裏、密着!」

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ギスギスしたストレス社会――「ハラスメント」の横行が甚だしい。そして「ハラスメント」も今や百家争鳴。様々なジャンルのハラスメントが存在する。そしてその中には「プログレ・ハラスメント」というのもある。
難解でとっつきにくいプログレッシヴ・ロックを、年齢や権力を振りかざして下位者に強要する嫌がらせだ。例えば、上位者が良かれと思って滔々とキング・クリムゾン『リザード』の講釈をする。『レッド』とか『宮殿』とか『太陽と戦慄』ではなく、あくまで『リザード』。下位者が山口百恵を通してゴードン・ハスケルのファンだったりして『リザード』に興味があり、お互いの合意のもとで会話をしているならば問題はない。が、『リザード』が生理的に受け付けない、またはその上位者が生理的に受け付けない場合、それが「プロハラ」となる。
2019年3月1日。我らが金属恵比須と、前代未聞のプログレアイドル「xoxo(Kiss&Hug) EXTREME(キス・アンド・ハグ エクストリーム)(通称キスエク)」が、生放送のトーク番組に出演した。その名も『金属恵比須✕キスエク“猟奇爛漫”生放送!』。プログレマニアの金属恵比須(高木大地、稲益宏美、宮嶋健一、栗谷秀貴。この日は後藤マスヒロが欠席)と、プログレ勉強中アイドルのキスエク(楠 芽瑠、一色 萌、小日向まお、小嶋りん)が、1時間以上トークを展開するという無謀な番組を、SPICE編集部が企画し実現に至ったわけだ。お互いの合意がなければ「プロハラ」生放送となってしまいかねない。
この企画者であるSPICE編集員Aは大のプログレ好き。かつ、プログレに新風を吹かせたい野望がある。そもそもキスエクと金属恵比須を引き合わせたのも編集員Aだった。2018年2月、目黒鹿鳴館においてキスエク初のワンマンを行なうという情報をかぎつけたAが筆者にライヴ・レポートの執筆を依頼してきたのが最初だ。それが縁で次は2018年6月9日にNAKED LOFTで行なわれたキスエクのトーク・イベントに招かれ、べろんべろんに酔っ払い、金属恵比須とキスエクとのコラボレーションを承諾してしまったのだ。記憶がすっかり飛んでいたのだが、Aの記録ビデオにははっきりと映っていた。
「コラボするんだったら、アネクドテンとかだったらいいね」と発言してしまっていたのである。ということで酔った勢いでコラボが決まった。アネクドテン公認カヴァー『Nucleus』を2019年3月31日にリリース、その一週間前の3月23日にジョイント・ライヴをおこなうことも決まって、さらに巡り巡ってこの『金属恵比須✕キスエク“猟奇爛漫”生放送!』に至ったのである。これはAの思惑通りではないか。プログレに新風を吹かすことができるのではないか。
2018年6月9日トークイベント@NAKED LOFT
■やっぱり荷物多めのプログレ人
かくして『金属恵比須✕キスエク“猟奇爛漫”生放送!』の収録当日を迎えた。
プログレといえば「大量な機材」がお決まりだが、今回はフルセットでの演奏するわけではないから少量の荷物だと見込んでいた。しかし、トーク番組にてプログレを語る上では資料が必要だ。プログレには「衒学的」な会話が好まれるからである。ミステリの世界でいうと小栗虫太郎『黒死館殺人事件』の探偵役・法水麟太郎のようなペダントリーを流暢に語らなければならない。『別冊カドカワ』など大量の書籍や雑誌とCDを鞄に詰め込む。持ってみる――お、重い。これはとても持っていけそうにない。編集部に車で向かうことの許可をもらう。
これで荷物が持っていける。しかしうちの車、ハイエース。手で持っていく分には多すぎる荷物だが、ハイエースにしては少なすぎる。これでは積載効率が悪い。物流費が高騰している昨今、こんな少ない積載量で車を動かすのはもったいない。もっと積んでいくか。
まずはエレクトリック・ギター。編集部より生演奏の依頼があったのだが、アコースティック・ギターでは再現できないという理由で断っていた。が、アンプを持っていけば話は別。エレキで弾けばいいじゃないか。そして「武田家」戦国のぼり。近年ライヴの大道具として活躍している愛知県刈谷産の特注旗である。
ベースの栗谷秀貴を迎えに行き、アコギも用意してもらう。積載効率を重んじたがためにとんでもない機材量となってしまったので、台車も積んでいく。向かうはイープラスの特設スタジオのある恵比寿。地下5階の駐車場から搬入開始。ヴォーカルの稲益宏美も合流。
稲益宏美
台車に機材を載せようとした瞬間、荷室にドラマー後藤マスヒロの機材も載っていることに気づく。本日の金属恵比須は後藤マスヒロのみ欠席で、どうやってマスヒロの存在感を考えあぐねいでいたところ「シンバルを立たせればいいんじゃん?」と即座に思いつき、台車にシンバルとシンバル・スタンドも積む。スタジオに到着。いわゆる「ブルーバック」といわれる映像合成技術を使うことを知る。ご存知のとおり、青色のみ色を飛ばし、合成画面が映るようになる。金属恵比須がブルーバックを使用するのは、1995年のNHK教育(当時)『天才てれびくん』出演以来24年ぶりで、密かに心が躍り始めた。
それから台本の読み合わせに入る。衣装に着替えたキスエクが会議室に入室。むさくるしい金属恵比須の協議とは一味違う、華のある風景だ。台本決定稿が配布される。とかくに台本が厚い――否、アツい。特に、各個人への質問コーナーが大量だ。プログレはなんでも「多め」が好きである(残念ながら本番は時間の都合上ほぼカットになってしまった)。ということで台本の読み合わせをしていく。キスエクのメンバーはカメラに映る陽気な顔とは違い、真面目でひたむきにセリフと向き合う。それに比べて、金属恵比須ヴォーカリストの稲益といったら常にドカ笑い……。
打合せ
打合せ
収録スタジオに移動。武田家ののぼりを2本セットし、マスヒロのチャイナ・シンバルも後ろに鎮座させる。SPICE編集員Aが丸く切り取ったマスヒロの顔写真を急遽こしらえたのでそれを上から貼る。まるでご神体。大日如来のようだ。
セッティング
■「好きな男性のタイプは?」――プロハラ発動
20時、放送、開始。キスエクと金属恵比須のコラボの経緯を説明した後、プログレとは何なのかのコーナーに。ここで金属恵比須と親交の深いK書店のT氏に登場いただく。『ROCK DECADE TIME MACHINE 1967-1976 』や『KING CRIMSON'S MUSIC,HISTORY & CONNECTION』といったプログレ人必須のバイブルの編集者だ。
K書店のT氏
アカデミックながらも理路整然として非常にわかりやすく解説していただきキスエク勢一同ご納得の様子。
それから各メンバーが「プログレとは?」の答えを出していく。特に出色のコメントは小日向まおの「プログレは豚骨ラーメンです」。「時間をかけて煮込んで、ちょっと臭いけど、濃くて麺と絡み合うとおいしい」という当意即妙な答えが返ってきて会場全員が納得。続いて各個人への質問コーナー。
キスエクから金属恵比須に、「アイドルに興味はありますか?」の問いに対し、筆者は、アイドル専門誌『アップトゥボーイ』の1998年2月号を取り出す。10代の奥菜恵が表紙で、広末涼子、矢田亜希子、仲間由紀恵と、現在の女優界の錚々たるメンバーが1冊に収められている奇跡的な雑誌である。しかし筆者の目当てはそこではなく、当時「チャイドル」と呼ばれた浜丘麻矢にぞっこんでこれを買っていたのだった。おもむろに取り出すと、キーボードの宮嶋が「この号、僕も買ってましたよ」と。金属恵比須でアイドルの会話したのはこれが初めてだった。しかもシンクロニシティだし。気持ち悪い縁を感じさせるバンドである。
アップトゥボーイ
金属恵比須からキスエクに質問――「好きな男性のタイプをプログレ・ミュージシャンでいうならば?」
めるたん、こと楠芽瑠(くすのきめる)はこう答える――「イエスのギターの人。右の方」
え? 右の方? 会場も視聴者も荒れに荒れる。誰だ誰だ? イエスってギター2人いたっけ? ビリー・シャーウッド? 8人イエスのトレヴァー・ラビン?
「向かって右じゃなくて、本当の右の方です」
さらに意味深な発言。これは完全にあの人ではないか。“死神博士”との異名を持つプログレ界の“即身成仏”スティーヴ・ハウ師匠。ツイッター上でも大きな話題となってしまった。めるたんの趣味はミイラか――と。
生放送中の様子
だが筆者は知っている。プログレの話題となるとサラッとかわそうとするめるたん。「右の方」と発言した時に、かすかに鼻がピクリと動いた。適当にこの場を誤魔化そうとしたのだ。筆者のプログレ・ハラスメントをかわしたこの技、さすがプログレの大波に晒され続けているだけあってお見事だった。
ということであっという間に1時間半が過ぎてしまった。プログレをテーマにここまで喋り続けるという機会はなかなかない。そして、公衆の面前でプログレ・ハラスメントを敢行することもまずない。そしてそれをかわされる場面までもが見られてしまうこともなかなかなかろう。特に、職場や呑み屋などでプロハラに困っている方がいらっしゃったら是非とも見てほしい。
生放送中の様子
かくして、帰りはハイエースに金属恵比須4名とK書店T氏を乗せ、深夜の恵比寿から去る。全員乗ると、後部座席の人間の頭にのぼりのポールがぶつかりそうなぐらい荷物を過剰に積んでいたことに気づく。おかげさまで帰りの積載効率は非常に良かったのだった。もう少し荷物を減らした方がよかったのかもしれない。
帰りの車内
■プロハラのリベンジは3/23高円寺で
さて、冒頭に述べた、キスエクと金属恵比須とのジョイント・ライヴが2019年3月23日(土)、高円寺HIGHにて行なわれる。
キスエクは生バンドをバックに1時間演奏する。バック・バンドは日本プログレ界のカンタベリー系の大家「Qui」が務める。よって、キスエク、Qui、そして金属恵比須の実質的3マンのライヴとなる。ちなみに、Quiと金属恵比須は元レーベル・メイトという繋がりもありながら、今回が初の対バンだ。
そして、この日に先行発売される『Nucleus』は、Quiのヴァージョンと金属恵比須のヴァージョン、両方披露する。レコーディングには金属恵比須が参加しているのでQuiヴァージョンはレアになることは間違いない。アレンジを担当した金属恵比須も、どんな演奏になるか今から楽しみでならない。また、金属恵比須はメロトロンを導入することが決定した。プログレには必須の楽器だが、日本に数えるほどしかない幻の超レア鍵盤楽器である。このすすり泣くような哀愁の音色。本物の音を体験することはまず難しい。このライヴで是非とも体感していただきたい。
メロトロン
そして、そのメロトロンを使用し、キング・クリムゾンの名曲「太陽と戦慄パートII」に挑戦することも決定。「リザード」ではない、「太陽と戦慄パートII」だ。特に後藤マスヒロがこの曲を叩くのは20年ぶり。人間椅子やGERARDで演奏していた以来である。マスヒロの叩く人間椅子の動画は、再生数23万回を越し、“いいね”1,100を獲得している伝説的な名演(2019年3月10日現在)。
【動画】人間椅子 - Larks' Tongues In Aspic Part II [King Crimson Cover] (HD風)

このドラミングを生で聴けるというのは非常にうれしい。できれば筆者も観客に混じりたいぐらいだ。
最後に、キスエクが金属恵比須のステージにも2曲参加することが決定した。1曲はもちろん「Nucleus」。そしてもう1曲が「猟奇爛漫FEST」恒例の「猟奇爛漫」である。「♪君のおうちのお風呂のお湯になりたい!」というキワドい歌詞の曲なのだが、そこでお決まりの「猟奇爛漫体操コーナー」が設けられる。会場一体となって両手を痙攣させながら「りょうきらんまん」と唱え続ける狂騒状態。このアブナいひと時にキスエクをお呼びする。ドリフターズの音楽コントの様相を呈しそうなこのコーナー。めったに見ることのできないキスエクのアブナい一面を垣間見ることができる貴重なチャンスだ。
(41分20秒~ 2018年5月神戸での「猟奇爛漫体操」の様子)

生放送では軽く流されたプログレ・ハラスメントだったが、ステージ上ではたっぷりとリベンジしてやろうと今からワクワク・ニヤニヤしている。色々な意味で、3月23日、高円寺に行くのが楽しみでならない。
レコーディングスタジオにて、xoxo(Kiss&Hug) EXTREMEと金属恵比須
文=高木大地(金属恵比須

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