androp インタビュー 『九月の恋と
出会うまで』主題歌「Koi」を通して
明かす、10周年バンドの“今”

2019年、andropが10周年イヤーに突入している。2018年後半にはアルバム『daily』のリリースやライブハウスツアーの開催もあり、周年に向けた盛り上がりが生まれていたが、本格的なアニバーサリーイヤーの動きとしては、このシングル「Koi」を第1弾と位置づけて良いだろう。

これまで10年間の歩みの中で、とりわけここ数年はあらゆる挑戦的な試みも行ってきた彼ら。その嗜好面やプレイヤビリティはどのように変化、進化を遂げてきているのか。最新作を通してandropの現在地を探る。
──まずは、シングル「Koi」についてお聞きします。この曲は映画『九月の恋と出会うまで』の主題歌になっていますが、ピアノの優しい音色が印象的なバラードナンバーになっていて。どういうところから作り始めたんですか?
内澤崇仁:お話をいただいたのが、『daily』を制作するのとちょうど同時期だったんですよ。
──『daily』を作っているときって、かなりハードな時期でしたよね……?
内澤:そうです(笑)。3ヶ月にわたるライブハウスツアーがスタートする中で、無理かもしれないと思いながらアルバムを作ろうとしていたときで。正直できるかな……っていう感じではあったんですけど、我々にお話をいただけたということは、我々にしかできないことがあると思って声をかけていただけていると思うので、そこにはできる限り応えたいという気持ちがあって。
──確かに求められると応えたくなるのが人間といいますか。
内澤:やっぱりタイアップって簡単にできるものではないし、やってみると身になることがほとんどなんですよ。他の人と関わって進めていくと、バンドだけでは見ることのできなかった切り口や目線が増えるから、自分達のキャパシティも広がるし、そこが今後のバンド活動にも繋がっていくと思うので。曲としては、『daily』よりも先に「Koi」ができましたね。
──バラードにしようというのはすぐに決めたんですか?
内澤:いや、最初は特に何も決めてなかったです。まずは作品を読んで、映像もほぼ出来ていたので、それを観たときに感じたものを表現しようと思って。で、観終わった後には、曲のキーとかコード進行とかイントロの雰囲気、Aメロの歌詞ぐらいまでは自然と出てきたので、それをワンコーラスにして、みんなに聴いてもらう感じでした。
──映画から受け取ったものをそのまま形にした。
内澤:そうですね。すごくピュアな映画だったんですよ。ただ、ピュアといっても10代の頃みたいな感じではなく、いろんなことを経験して大人になってからのピュアな恋の話だったので、それをそのまま落とし込みました。
androp・内澤崇仁 撮影=高田梓
──聴いていて思ったんですけど、andropってサビ始まりの曲って少ないですよね? たとえば「Voice」とか「Yeah! Yeah! Yeah!」みたいな、アンセムパートがサビといえばサビという曲はあるけど、こういう感じで始まる曲ってあまりなかったなって。
内澤:なんか、エンドロールが始まるときに、このサビが来たらグっとくるなと思ったんですよ。その絵がバーっと見えて。
佐藤拓也:僕らは曲を作ってるときに映像を観てなくて、映画が完成したときに初めて観たんですけど、最後のシーンになったときに「あっ、次に絶対にあの曲がかかる!」っていうのがわかるぐらい、ばっちりハマってたんですよ。絶対にここでかかってほしい!っていうタイミングで曲が流れてきて。
内澤:そうなんだ?(笑)
佐藤:多分ですけど、最後のシーンで流れてる劇伴のキーと、「Koi」の最初のピアノのキーが一緒なんですよ。そこをちゃんと繋げてたんだ!?っていうのを後から知って。
──最初の映像に音も入ってたんですか?
内澤:入ってました。劇伴はどなたが作っているんですか?とか、今後変わったりするんですか?っていう確認は一応しましたね。
佐藤:そういう映画とのリンクもしっかりある曲になってますね。
──伊藤さんとしては、「Koi」を初めて聴いたときの印象はいかがでした?
伊藤彬彦:映画にピッタリだったので、さすがですねと。ドラムに関しては、音作りにかなりこだわりました。内澤くんのデモが、どういう音を求めているのかわかりやすくて、それが僕が昔から好きな感じの音の方向性だったので、レコーディング前日の深夜にひとりでスタジオに入って、ひたすらタムのチューニングをして。楽しかったですね。なんかアドレナリンが出たというか。
──なぜタムにこだわったんですか?
内澤:8ビートが淡々と流れていくような感じにしたくなかったんですよ。シンプルだけど力強いというか、なんかこう、どっしりとしているんだけど、一歩ずつ進んでいくようなビートがいいなと思って。そう思ったときに、そのニュアンスのタムが入ってくるのがいいなと思って、伊藤くんにいろいろ相談したんですけど。ああいうパターンも今までandropでやってこなかったよね?
伊藤:そうだね。昔はできなかったと思う。
androp・佐藤拓也 撮影=高田梓
──前田さんはどうアプローチしようと思ってましたか?
前田恭介:(小声で)どうだったかなあ……ちょっと記憶が……(笑)。
内澤:(ベースは)2番のAメロが2パターンぐらいなかった?
伊藤:いや、あれはね、2番のAメロじゃなくて、Bメロの1小節目だよ。フレージングというよりは、あそこの休符が絶妙すぎて。これは本人に直接言ったんですけど、“あの休符で白飯三杯食える”って。
前田:それを言われたのは覚えてる(一同笑)。
伊藤:あれは至高の休符ですよ。
前田:ドラムがそういうアプローチだったんで、僕の中に(山下)達郎さんのサポートを務めている伊藤広規さんが出てきて。だからこの曲は、伊藤広規さんならどう弾くんだろうっていうことをイメージしながら弾いてたんですよ。それで出てきたんだと思います。
──至高の――
前田:そう、至高の休符が。
佐藤:この記事のタイトルにしてもらおう。「至高の休符」(一同笑)。
内澤:「Koi」は、若い人にはできないようなものにしたいと思っていたんですよ。いろんなことを経験してきたからこその愛を表現をしている映画なので、音楽に関しても、「バンドを始めてまだ数年です」っていう人達ができないもの、勢いだけではできないものにしたいなって。だから、それこそ達郎さんだったり、はっぴいえんどとかチューリップみたいなイメージをしていて、そこを前田くんが察知してくれたんだと思います。
前田:具体的にそういう話はしてなかったんですけど、自然とそうなったっていう感じでしたね。
佐藤:ギターとしても、小手先だけではなく、曲が伝わるにはどうしたらいいのか?っていうのを考えて、逆に多く弾かないことを選択する感じでしたね。そこはやっぱりバンドを始めた頃にはできなかったし、今はそれができるかなって。
──「シンプルだけど力強い」とか「勢いだけではできないもの」というお話がありましたけど、制作時期が同じなのもあって、『daily』の収録曲もそれと通じるものがありますよね。
内澤:そうですね。2017年の年末にビルボードでやって、2018年の頭にホールツアーをやって、後半はライブハウスを廻るという経験をしてきていて。バンドのマインドとしては、打ち込みのものもできればアコースティック編成のものもできるっていう振り幅が広がった状況だったから、その中で今の自分達ができるものを取捨選択しながらやっていた感じでした。できないことをやるというよりは、今広がっている中で何をやるのがベストなのか?っていう。そこは「Koi」と『daily』で共通しているところはありますね。
androp 撮影=高田梓
──あとは、ゆったりとしているんだけど心地よくノれるというのが、ここ最近のandropの楽曲のキーポイントだと思うんですが。
内澤:縦ノリの曲を今まで研究して作ってきましたし、その良さもわかるんですけど、横ノリの楽しさとか開放感の強さみたいなものをだんだん出せるようになってきたんですよね。だからモードとしては、BPMがあまり速くなくても、気持ちよく楽しめるようなものを表現したいなと思っているところはあります。
佐藤:メンバーの中で自然と、そういう方向性がいいんじゃない?ってなっていったんですよね。移籍したタイミングぐらいから、まずはメロディーや歌が強いものにする、それに対してアレンジをどうするか考えるアプローチに変えていこうという話をしていて。だから『daily』もそういうビート感ではあるけど、単純にメロディーだけを切り取ってもすごくいいものになっているし、ビルボードやホールツアーでやってきた経験をアレンジにしっかり落とし込めていて。だから、ものすごく自然な形で今のモードになってるんですよね。まったく違和感がないというか。
──前田さんは、今後の方向性の話をしたときのことって、覚えてます……?
前田:(小声で)いやあ……(笑)。でも、あれですよね。速い曲はちょっと大変だなと。
佐藤:疲れると(笑)。
前田:まあ、疲れるというよりは、昔、速い曲をやっていたときは、果たして出来ていたのか?っていう。
佐藤:ああ。なるほどね。
前田:速い曲をちゃんとやるのって難しいんですよ。演奏技術があがってきたり、いろんなことを考えられるようになってくると、速い曲をちゃんとやる難しさにぶつかるという。今の自分達はそういう感じなのかな。あとはまあ、BPMが速いのは若い人の特権というか。
内澤:若いからこそできるっていうところはあるよね。
前田:あると思う。そこにチャレンジするのも大切だけど、バンドって成長をしていくじゃないですか。ずっと同じことをやるカッコ良さもあるけど、変わっていく良さってあると思うし。でも、今の僕らはここいいるっていう感じですかね。ここから変わっていくかもしれないし、そこはわからないけど。
佐藤:めちゃめちゃ速い曲ばっかりやるようになったりね(笑)。
前田:2分の曲が18曲入りのアルバムを作ったりとか。
佐藤:ナパーム・デスみたいな。
前田:まあ、そうなったときはそうなったときで(笑)。でもまあ、今の自分達はここなんだなっていう感じです。
伊藤:速い曲のおもしろさもあるんですけど、ゆっくりな曲のほうが、それこそ“至高の休符”の楽しさがあるんですよね。リズム的な見せ場が多いので、やっていて楽しいところもあるし、元々そういう曲が好きだったから、メンバーのルーツに近づいているというか。そこは内澤くんがメンバーの個性を分かった上でアレンジしてくれているところもあるんですけど、「Koi」であればちょっと懐かしめのポップスだったり、『daily』のときはブラックミュージックだったり、自分たちの好きなルーツミュージックを“andropがやるとこうなる”というのをすごくできている感覚があるから、やっぱ楽しいですね。
──楽しいし、自然だし、今やりたいものでもある。
伊藤:そうですね。みんなの演奏を聴いているのも楽しいし。まあ、単純に好きなんでしょうね、ゆっくりな曲が(笑)。
androp・前田恭介 撮影=高田梓
──カップリングの「For you」についてもお聞きしたいです。この曲は日本郵便「ゆうパック」のタイアップソングで、こちらは「Koi」とは違ってエレクトロ要素が強めで、浮遊感がありながらも温かみもある曲になっています。
内澤:お話をいただいたときに、郵便なので「届ける」というキーワードがあったんですよね。「届ける」というのは、僕らも曲を届けるという意味で一緒だなとか、でも届けているだけじゃなくて、曲をやっているときってすごく繋がっている感覚があって、一方的なものじゃないよなとか。だから、届けているんだけど、それが繋がっているようなところがテーマと重なるなと思ったので、そこを曲に落とし込んでいこうと。最初はもっとバンドサウンドな感じだったんですけど、それをブラッシュアップしていく過程で今の形になっていって。
──なぜまたそういう方向に切り替えたんですか?
内澤:いろんな経緯があるんですけど、僕の提出したデモがAとBの2パターンあって、Aが今の「For you」みたいな形で、もうひとつは真逆の形だったんですよね。すごく大きな視点の曲と、すごく小さな視点からの曲を提出してみたんですけど、メンバー的には、小さな視点のほうが今のandropっぽくできるんじゃないかっていう意見があって。「For you」は広がりのある方だったんで、両方のいいところをミックスさせたものにしようと。その辺は結構難しかったですね。
──特にどんなところが難しかったです?
内澤:音の抜き差しですかね。鍵盤も10パターンぐらい考えて、その中で一番気持ちいいものを考えたり、ベースもシンセベースを使ってるんですよ。だから、曲調的には今までのandropにあるといえばあるんですけど、意外とチャレンジ的なことをしてるんですよね。
──シンセベースを使うというのは最初から決めていたんですか?
内澤:この曲はシンセベースありきで作ってましたね。この前、前田くんがシンセベースを買ったんですよ。
前田:宇多田ヒカルさんのライブを観に行ったんですよ。で、ベースがジョディ(・ミリナー)っていう人なんですけど、シンセベースを使ってたんですよね。めっちゃかっこいいと思って、その場ですぐにデジマートで買って。
内澤:でも元々欲しかったんでしょ?
前田:そうそう。狙ってたけど、前に見たときは売ってなかったんですよ。そしたら、俺が欲しいの使ってる、売ってる、買おう!って。だいたい機材を買うと、それを曲に活かしてくれる良いコンポーザーなんですよ、ありがたい話で。
内澤:(笑)。
前田:あと、今ってアメリカのトップ50とかを聴くと、生でベースを弾いている曲ってほぼないんですよね。生のベースだと下の帯域が出づらかったりするので。だからまあ、そこは世界の流れに乗って、ミーハー心でいこうと(一同笑)。
──でも大事なところではありますよね。トレンドを加味しながら自分達はどうするのかという。
前田:そうですね。やっぱり横並びになったときに、しょぼく聴こえちゃいけないので。そこは積極的に取り入れていこうかなっていう最近のブームですね。
androp・伊藤彬彦 撮影=高田梓
──伊藤さんの場合は?
伊藤:この曲はドラムを叩いてないんですよ。さっきの話にもありましたけど、サブスクリプションサービスでよく流れる曲って、グルーヴが一定というか。BGMとして何回繰り返し流れても大丈夫な音楽が多いし、そういう曲のほうがある種グルーヴとしては強固だし、メロディーも浮き立つし、ノれるというか。そういう強みはあると思うので、この曲はドラムよりもシンセで色をつけてもらったほうがいいんじゃないかなと思って。ダメだったら生ドラムを入れればいいかなと思っていたけど、レコーディング直前まで内澤くんといろいろやり取りして、結構ギリギリまで粘ってもらいました。だから、打ち込みにしたかったというよりは、表現したいグルーヴのためにとった手法が打ち込みだったっていう感じですね。
佐藤:僕はギターを弾きましたけど、それも素材を録るような感覚でしたね。そのほうがこの曲には絶対にいいし。だから、この曲で唯一生で録ったのはギターと歌だけで。
内澤:あとは、スネアじゃないけど、サカサカサカサカっていう音。
伊藤:ああ、そうだ。ブラシでね。
佐藤:それこそ素材みたいな感じだもんね? ああいうのって入れようと思えばいくらでも入れられるんだけど、入れていくとやっぱり音が濁るので、いかに少なくしていくかっていう。そういう感じで進めていきました。
──そして、ここから『daily』のツアーも始まり、10周年イヤーが本格的に開幕していくわけですけども、どんな1年にしようと思っていますか?
内澤:これまで続けようと思って続けてこれたわけではなくて、目の前にあることを一生懸命やってきただけなんですけど、それでもこうやって続けてこれたのは、決して自分達の力だけではなくて、聴いてくれる人とか、周りにいるスタッフとか、関わってくれる人がいるおかげだと思っていて。今年は「どうもありがとうございました」というのを言ってまわる年にしたい。そのためにも今いろいろと考えてるんですよ。
佐藤:10周年というタイミングじゃないと恥ずかしくてやれないようなことをやろうと。あと、映像をずっと撮っていたんですけど、全然出してなかったんですよ。あまりにも膨大にありすぎて、僕らもどんな映像があるかわからないというか、自分達もあまり見たくないような映像もたくさんあるんですけど、それをまとめようと思っていて。
──既にティザームービーを公開されてますよね。
佐藤:そうです。どんな形になるかわからないですけど、それを今年の終わり頃には出したいなと思ってますね。
──じゃあ、今年は感謝を伝える年。
内澤:はい。でも、ただ「ありがとうございました」と言ってまわるだけじゃなくて、これからの自分達というか――自分達にはまだいろいろやりたいことがあるし、まだできていないこともあって、それは僕らも聴いてくれる人もワクワクできるようなこと、楽しめるものになると思っているので、そういう部分もちょっとずつ伝えていけるような年にできたらいいなと思ってます。

取材・文=山口哲生 撮影=高田梓
androp 撮影=高田梓

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