『あした世界が終わるとしても』櫻木
優平監督×あいみょん 初体験コラボ
で見いだした“その先”とは?

映像監督・櫻木優平と、シンガーソングライター・あいみょん。共にその世界で大きな注目を浴びる若き才能がタッグを組んだ、アクション+ラブストーリーのアニメーション大作、それが『あした世界が終わるとしても』だ。驚異の3Dアニメーション技術を駆使する映像美と、SF的でありながらあくまで現代の若者のリアルにこだわる心象描写。そこに流れる主題歌「あした世界が終わるとしても」と挿入歌「ら、のはなし」に込めた、ソングライターならではのズバリと本質を貫く視点。二つの感性の融合が生んだ幸福な作品について語りあう、とても穏やかで親密な対談インタビューをお届けする。
――まずは監督。素敵な作品をありがとうございます。
櫻木:ありがとうございます。
――90分近くのアニメーション作品を仕上げるというのは、どんな経験でしたか。
櫻木:長距離走なんで、2年ぐらい付き合った作品にはなるんで。そうですね、たぶん小学校卒業とか、高校卒業とか、近い感覚なのかもしれない。
――相当濃いですね。それは。
櫻木:そうですね。キャリア的にも、映画一個やると学ぶことが多いんで。そのぐらいの感覚ですね。
――音楽を作るのとは、だいぶタイム感が違うような。
あいみょん:そうですね(笑)。アーティストさんによっては、2年かけてアルバムを作ったりする方はいるんですけど。今の私は、そういうタイム感で音楽を作ることがないので。全然作り方が違うから面白いなと思うし、“わー!”ってならへんのかな?と思います。
櫻木:“わー!”ってなります(笑)。コンスタントに作品を出すアーティストの方とか、見ててすごい焦ったりとか。漫画家とか、すごいコンスタントに出したりするんで、焦ったりとかすごいありますね。
あいみょん:そうですよね。
――どのへんの段階で、主題歌の話をもらったんですか。
あいみょん:本当に、まだ映像も……あったんですけど、何て言うんですかね。レイアウトムービー的な。
櫻木:そうですね。コンテビデオ的なものの段階で、見ていただいて。
あいみょん:あれがいつでしたっけ。6月? 見せていただいて、けっこうすぐ私は楽曲を作れたので。ストーリーはもうあったんですけど、本当に仮の段階の映像でしたね。
――具体的なキーワードはあったんですか。
あいみょん:私としては、『あした世界が終わるとしても』というタイトルだったりとか、もう一つの世界と実際の世界の差とか、あと、人を守りたいと思えることの意味とか。そういうものをキーワードに曲を書けたらいいかなと思いましたね。完全に、真(主人公・挟間真)のことですね。2曲とも。
日本のCGで、アイデンティティを作らなきゃと。CGじゃないと難しい表現を、特にライティングとか動きとかは入れましたね。
――あいみょんさんに曲を頼もうというのは、制作サイドのみなさんの総意というか。
櫻木:そうですね。その時コアになっていたメンバーが、みんな統一で、あいみょんさんにお願いできないかな? と。
あいみょん:ありがとうございます(櫻木監督に向かっておじぎ)。
――一般論として、映画の主題歌はこうあるべきだ、みたいな。そういうイメージって、監督にはあるものですか。
櫻木:作品の軸になってもらうものが、一番いいなと思いますね。やっぱり、この曲とこの絵、というものが直接紐づくような。どっちかが立ちすぎると、どっちもダメになりそうな気が、自分はそんなにたくさん作ってないから、はっきりとはわかんないですけど。やっぱり両方立つ感じにするには、作品の軸となるような曲になると、すごくいい感じになるんだろうなというイメージはあります。
――特に今回は、主題歌だけじゃなく、劇中でかかる挿入歌もあって、そのシーンと密接にリンクしていたりもして。最初から2曲の依頼を?
あいみょん:そうですね。
――あいみょんさん的には、映画の主題歌はこうあるべきだというのは、どんなイメージが?
あいみょん:あ、でも、私に頼んでくださるということは、私らしさというものを求めてくださってるのかな?ということを読み取りつつ。かといって、私の色を出しすぎてしまうと、作品が歪んでしまう気がするので。いかに作品に寄り添いながら、いい塩梅で楽曲を作るか?というのが、監督が作る作品に対する礼儀やと思いながら作っていきました。邪魔しすぎないということを、特に挿入歌に関してはそういうイメージで。やっぱり映像がメインの中でかかってくるので。主題歌は主題歌として、ドンと構えてよかったんですけど。そういうことは考えてました。
――責任重大。
あいみょん:そうですよ。エンディングにかかるというのは、変な話、映画を終わらすわけじゃないですか。
櫻木:そうですね。確かに、エンディングでイメージの違う曲が流れたら……。
あいみょん:と、思うので。その作品の世界観に寄り添って、というのは重要でしたね。
――具体的に聞いていいですか。「あした世界が終わるとしても」は、曲調ですか、詞の内容ですか。先にあったのは。
あいみょん:私は元々、メロディと作詞は同時進行でやるので。出てきたイメージそのままがこれだった、という感じだったんですけど。んー、でもやっぱ、いろいろ考えましたね。ラブソングであるべきなのか、とか。
――いろんなテーマが入ってますからね。この映画は。
あいみょん:はい。でもやっぱり、普段書き下しさせていただく時は、基本的には台本とか、紙の資料だけなんですけど。今回はレイアウトムービーという、目から入ってくる情報の素材があったので、書きやすかったというのはありますね。
――何度か、やりとりを?
あいみょん:2回、1回でしたっけ。
櫻木:最初にお会いした時に、もうムービーを見ていただいて。挿入歌に関しては“ここらへんに当てたい”というのと、エンディング主題歌に関しても“あんまり暗くなりすぎないように”とか、温度感のすり合わせぐらいで。こちらも、一番力を発揮していただくためには自由にやってもらって、ああだこうだ言わないでおこうとは思ってました。そしたら、バシッとやってきていただいたので。
あいみょん:レイアウトムービーを見て、すぐにひらめいてはいました。主題歌に関しては。自由にやらせていただいたので、ありがたかったです。
――<最低でも、君だけは守れるように>というあそこは、すごく耳に残るフレーズです。
あいみょん:真は直接、映画の中でそういうことはまったく言ってないんですけど。私なりに、真の本当に心で思っていそうな、イメージなんですけど。自分を失うことがあっても、最低でも琴莉(ヒロイン・泉琴莉)だけは守れたら、という気持ちを、なんとか曲で表現できたらと思ってました。
――ばっちり、イメージ通りに。
櫻木:イメージ通りというか、むしろ、そこで作品の軸が決まった感じがありますね。作品の色みたいなものが、そこで決まりました。
音楽も、映像もそうだと思いますけど。誰かの真似事から新しいものが生まれるのは、私はすごい素敵なことだなと思います。
――挿入歌の話もしましょう。「ら、のはなし」はドラマの中でも、すごく明るいシーンで使われる。
あいみょん:そこもリンクして、映像を邪魔しないように作らなきゃなと思ってて。内容的には、真の心の中と言いますか、好きと言いたくても言えなくて、というあの状況で、もし僕がこうだった“ら”の話を歌いたいなと思って。もし真がもう少し素直だったら、とか。“ら”の話です。
櫻木:温度感とか、絵にはめるということに関しては、ばっちりだなと思いました。あと、「ら、のはなし」というタイトルがけっこう衝撃で。
あいみょん:そうですよね(笑)。
櫻木:“あ、この映画はそういう話なんだ”って、こっちも思いました。
あいみょん:真って、けっこう余裕出してる感じあるけど、余裕ない人間やなって思って。余裕を持って人を好きになれる人って本当にいるのかな?というのは、丸ごと真が思ってそうなことかなと。でも、余裕なさそうだったんで(笑)。
櫻木:作品を作ってる側は自然にやっているところの、答えをちゃんと出してくれた感じはありました。
――恋愛、現代の若者論、親子関係、パラレルワールド、バトルシーンとか。この映画にはいろんな要素が重層的に入ってますけど、監督が、主人公の真くんに託したものは、どういうものですか。
櫻木:本当に、今の真と同じ年の世代の人たち代表、というつもりで描いてはいます。
あいみょん:18歳ぐらいの。
櫻木:そこのリアリティが損なわれないように。というところは、気をつけました。
――具体的に言うと、どういうところを。
櫻木:セリフの言い回しだったりとか、普段着ている服や、髪型だったりも含めて、入ってくる情報が、見てる側が“自分たちの話だ”と思えるような。アニメって特に、画面が華やかなほうが絵としてはよかったりするんで、やたら派手な髪の色だったりとか、絵として派手にしがちですけど、今回そこはリアリティを取って。
――確かに。そうですね。どこにでもいる、おとなしくてちょっと醒めた感じの少年が、事件に巻き込まれて成長していく感じの。
櫻木:現代っ子って、このぐらいの温度感の子が多いのかな?と思いまして。けっこう、普段は斜に構えているというか、何をやってるわけではないけど、自分には何かあるのかもしれない、みたいな気持ちもあり。謎の自信はあるけど、とはいえ何を目指したいかわからない、みたいな気持ちで生きてる若者を描きたいなと思って作りました。
――そこ重要ですね。あいみょんさんが普段、歌っている歌の世界とも、全然近い。
あいみょん:うん、そうですね。18歳ぐらいの子たちが、いい意味で大人になる瞬間というのを、私は見れた気がすると言いますか。人のことを大切にできる人って、やっぱりいいなと思いましたね。大切なものを守れることが、それが大人になることなのかな?と。私、妹とお姉ちゃんは結婚してて、子供がいるんですけど、妹が子供を産んだ瞬間って、妹は若かったですけど、しっかり母親になった顔をした瞬間を見ると、妹は今、自分より大事なものを見つけたんやなって思ったんですよ。それは妹が本当の意味で大人になった瞬間で、そういうものに近い感覚を感じました。
――そういうシーンがちゃんとあるので、ぜひ注目してほしいです。あと、単純にアニメーション作品として、色のクリアさとかスピード感とか、3DCGアニメーションって本当にすごいなあという、素人みたいな感想もあるんですけど(笑)。
あいみょん:技術が、すごいですよね。私、作ってる最中のものを見せてもらったんですけど、すごく細かくて。
櫻木:表現に関しては、これまでは日本のCGって、手描きの真似事と言いますか、あれをどうにかCGで再現しようみたいな時代が、ここ10年ぐらいはそんな感じだったんですけど。そろそろアイデンティティを作らなきゃということで、CGじゃないと難しい表現を今回はいっぱい、特にライティングとか動きとかは入れましたね。
――そこはみなさん大画面で見てください。
櫻木:ぜひ見ていただければ。

――監督は、いろんな先達の背中を見てきましたよね。それこそ宮崎駿さんや、庵野秀明さん、岩井俊二さんや。いろんな方の表現を受け継ぎつつ、新しい何かを作るという、そういう意識はありますか。
櫻木:そうですね、ああいう先駆者の方々がやってるものって、すごくいいことと言いますか、いい文化を作ってくれてるんで。表現というか、ツールが新しいからと言って、それを捨てるのはもったいないと思うし。使えるものは使ってやる、みたいなところはありますね。表現的には、従来の見せ方がいいと思うところはそうしますし、一番は、お客さんがついてくれればそれでいいので。“使えるものは全部使う”という表現にしてます。
――そのへんって、音楽もそうだなって思ったりして。いろんな人が残してきたものを、当然影響を受けるし、でも、あいみょんはあいみょんの歌を歌っているという。
あいみょん:それは、やっぱり思いますね。絶対何かしらの影響を受けてて、音楽をやってるので。私にとっての教科書みたいな音楽はたくさんあるので、その教科書の音楽を聴いてきた上で、生まれるものは自分のオリジナルであって。最初は、だって、たいていみんな真似事から始まるんですよ。音楽も、映像もそうだと思いますけど。誰かの真似事から新しいものが生まれるのは、私はすごい素敵なことだなと思います。いいなと思います。
――そのへんは、若いクリエイターの方と接する時に、面白いところです。
櫻木:すべて、いろんなものがもう世に出ちゃってるんで、我々の世代は。逆に、あまり気にしないで、やりたい方向に突っ走ったほうがいいのかな?と。
あいみょん:そういうことですよね。
――力強いメッセージです。どんな方に届いてほしい映画、そして歌ですか。
櫻木:いろんな世代の方に見ていただきたいですけど、真や琴莉と同じ世代の人が見て、“自分たちの作品だ”と思ってもらいたいのが大きいです。たぶんどの世代の方にも、“これは自分たちの世代の作品だよね”と思える作品がみなさんあると思うんですけど。そういう作品になってもらいたいなとは、思って作ってました。
あいみょん:おっしゃる通り、男女問わず、年齢問わず、たくさんの人に見ていただきたいし、楽曲も聴いてほしいなって、すごい思いますね。やっぱり、真や琴莉と同じ年代の高校生が見たら、監督が言った通り、私たちの世代を感じれるけど、それより上の年齢の方は、現代の子の新しさとか、そういうものに気づけたりとか。いろんな見方があると思うし。私も、30年後にこの映画を見たら、もっと感覚が変わってるかもしれないですし。いろんな見方ができるし、だから私は、見た感想を早く聞きたいですね。
――みなさんぜひ、感想をお二人へ。最後に、お互いにこれから、こういう活動を期待するというような、お互いへのエールをもらいたいなと。
あいみょん:えー、なんだろうな。
櫻木:自分のイメージだと、たぶん、生活が曲に影響する方なんだろうなと。
あいみょん:そうですね(笑)。
櫻木:たぶん、年(歳)と共に作品が変わっていくんだろうなと思いますけど。長くやってもらいたいなと思います。
あいみょん:それはもう。年齢は違えど、平成というところで一緒に、もう終わるかもしれないですけど、平成という時代で、何かに憧れてこういう道に来た同志だと思うので。長くやっていきましょう。
櫻木:はい。長くやっていきましょう(笑)。

取材・文=宮本英夫

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