ブス会*新作『エーデルワイス』は「
大人のおとぎ話」~通し稽古レポート

 2010年にペヤンヌマキが立ち上げた演劇ユニット「ブス会*」。醜くも可笑しい女の実態をあぶり出す作風が特徴だったが、近年は様々なアプローチで「現代を生きる女性」に焦点を当てた作品を上演している。ヒリヒリするほど痛々しいのに、観終わった後は「それでも生きていこう」と前向きな気分にさせられる。そんなブス会*の舞台に魅了される人は後を絶たない。
 そのブス会*が、2019年2月27日から3月10日まで東京芸術劇場シアターイーストにて新作『エーデルワイス』を上演する。鈴木砂羽を主演に迎え、終わりかけた平成の淵で強かに生きる女性を描いた作品だ。2月10日(日)に都内の稽古場で行われた通し稽古を取材した。
 この日公開されたのは冒頭からシーン36まで。初めての通し稽古とのことだったが、俳優たちはすでに役を自分のものにしており、一度も芝居を止められることなくスムーズに進んだ。
 今回、主演の鈴木砂羽をはじめ、キャストはほぼオーディションで選出された。俳優からインスパイアされて「当て書き」で脚本を書くことが多いというペヤンヌだが、今回もまた俳優それぞれの個性が出ている。
 物語は、スランプに陥っている漫画家・アキナ(鈴木砂羽)と編集者・竹山(高野ゆらこ)のやりとりから始まる。アキナの代表作『たたかえ!いばら姫』のドラマ化の話が持ち上がり、嫌がるアキナを竹山が説得する。鈴木は歩き回ったり寝転がったりと自由自在に動きながらセリフを言い、スランプに陥った漫画家の焦りを表現する。ブス会*に何度か出演している高野は緩急ある演技ですっかり役が板についている印象。
 竹山が去った後、アキナは自らの著書『たたかえ!いばら姫』を読み始める。『たたかえ!いばら姫』は、地方から上京した18歳の女性・ミユキが様々な男性と出会い、翻弄された挙句、自分にしかできないことを見出すというストーリーだ。
 アキナが本を読み始めると、いつしか舞台は平成7年の東京・歌舞伎町になり、18歳のミユキ(藤井千帆)が登場する。美大に通いながら喫茶店でバイトするミユキ。本作では、アキナのいる「現在」と、アキナの著作の登場人物であるミユキの「物語」を交互に描いていく。
 上京したての18歳のミユキを、藤井は初々しく演じる。ミユキのバイト先の喫茶店のシーンで面白いのは、常連の木村(水澤紳吾)とマスター(金子清文)のやりとりだ。ジェスチャーを交えた大げさな動きで刑務所自慢をする木村を演じる水澤に合わせて絶妙な動きをする金子。水澤はほかにも何役か演じているが、どれもオーバーアクションで笑いを誘う。ブス会*にも出演経験のある金子はさすがの存在感。ほかにもカリスマ漫画家役を演じ、さりげなく大人の男性の色気を漂わせている。
 ミユキはやがて小説家志望のマサヤ(大和孔太)と付き合いはじめ、一緒に暮らすようになる。今時のイケメンである大和は、ミユキが「王子様」と思い込むマサヤ役にハマっている。しかし、年月が経つにつれ、次第にマサヤは「王子」から「魔物」へと変わっていく。ミユキに家賃や光熱費を支払わないばかりか、食費までたかる始末。挙句の果てには風俗へ通っていた事実が判明し……。
 ここまでお読みいただいた方のなかには「!」と思った方もいらっしゃるだろう。そう、同棲していた彼氏が風俗へ通っていた、というエピソードは、ペヤンヌの著作『たたかえ!ブス魂』にも出てくるのだ。「本作には『たたかえ!ブス魂』の要素も入っています。過去の恋愛を浄化させるために書きました(笑)。『たたかえ!ブス魂』をお読みいただいた方には別の楽しみ方もできると思います」と語るペヤンヌからは、本作にかける並々ならぬ意気込みを感じた。
 ミユキが様々な男性と出会い翻弄されていくというストーリーゆえか、今回、特に男優陣がバラエティ豊か。いかにも王子様といった感じのイケメンである大和孔太、関西弁で嫌らしくもちょいワルな魅力が溢れるヨーロッパ企画の土佐和成、惜しげもなく筋肉を披露する後藤剛範、テンションの高い演技で笑いを誘う水澤紳吾、そして独特の怪しさと存在感で全体をグッと締める金子清文。
 一方、男たちに振り回されているように見える女たちも、じつは強か。高野ゆらこは、編集者・竹山と喫茶店の店員・セイ子の二役を器用に演じる。キレの良いセリフ回しや細やかな表情の動きは、観ている者を飽きさせない。ミユキ役の藤井千帆からはひたむきさが伝わってきた。男に絶望してヤケになっても、なぜか品の良さを感じさせるのは、藤井の持つ透明感ならではだろう。そしてアキナ役の鈴木砂羽。「王子なんていない」と悟りながらも、心は揺れ動く。女性ならではの「揺れる心」を自然に表現している。とりわけ、とあるシーンで見せた酔っ払いの演技がリアルだった。酒に酔い、一緒にいる男に思わず弱音を吐露。第一線を走ってきた女性がふと見せる弱さに引き込まれる。このシーンの鈴木はことに可愛らしい。
 ミユキとアキナの物語はさらに膨らみ、意外な結末へと行きつく。また、本番ではファンタジックな演出が施され、「大人のおとぎ話」として進行する。この後のストーリー展開や演出が気になる方は、ぜひ本番をご覧いただきたい。
◆ペヤンヌマキ(脚本・演出) コメント
 今まではわりと空気感を重視した芝居をやってきましたが、今回、東京芸術劇場という大きな劇場でやらせていただくことになり、もっとエンターテインメント色が強いものにしたいと思いました。劇中にダンスを取り入れたりなど、演出的にも初めての試みに挑戦しています。
 恋愛の部分は生々しさを重視していますが、今回はそれをファンタジーでコーティングして「大人のおとぎ話」として描こうと。舞台美術も、いつものブス会*は具象舞台が多いですが、今回はお城をイメージした抽象舞台です。
 ファンタジーでコーティングしようと思ったのは、最近好きでよく観ているディズニー映画の影響が強いです。『男女逆転版・痴人の愛』を上演してからというもの、いろいろなディズニー映画を男女逆転させて観るクセがついちゃって(笑)。『美女と野獣』を男女逆転させて観たら、すごく感情移入してしまったんです。心を閉ざしているババアのもとに読書好きな美少年が現れて……という(笑)。そのイメージがまずあって、それを俳優さんを通すことで形にしていった感じですね。
 今回は特に気合いが入っていて台本も早めにあがったので、俳優さんも早い段階で役柄をつかんでくださいました。今日初めて通し稽古をしてみて、とても手応えを感じました。あとはもっと細かいところの空気感や、ステレオタイプではないその俳優さんならではの生々しさを出していきたいですね。
 今回は本当に今までのブス会*にはない挑戦がたくさん詰まっています。でも今までのブス会*を好きでいてくれた方も楽しめる内容になっていますので、どうぞご期待ください。
ペヤンヌマキ (撮影:鈴木久美子)
取材・文=渡辺敏恵

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