【THE BACK HORN ライヴレポート】
『THE BACK HORN 20th Anniversary
「ALL TIME BESTワンマンツアー」
~KYO-MEI祭り~』
2019年2月8日 at 日本武道館
「コワレモノ」が始まれば、菅波が観客を活気付け、山田はラップ調のヴォーカルへシフト。さらにはメンバー紹介を兼ねたソロ回し、ツアー各地で敢行してきた“神様だらけの?”“スナック!”のコール&レスポンスが決まり、“愛しきこわれもん”で埋まった武道館を今度は縦ノリでブチ上げた。いよいよ一体感が増す中、4人も一段と表情がほころぶ。
中盤のMCはそれぞれがゆったり言葉を交わすシーンも。自身初の武道館公演(2008年)ではこの会場にちなんで“柔道の話をしたね”と岡峰&菅波が振り返り、“3回も武道館でワンマンできるバンドなんだね”“もちろん、みなさんのおかげです!”と語れば、山田も“ありがたいよね。今日は全国からお足元が悪くなる…1日前で良かったね!(※翌日の東京は雪予報) 持ってるね、俺たちは”と笑う。松田はいつも通り律儀に感謝の言葉を述べつつ、ファンの想いを代弁してくれた。“みんなの中でいろんなTHE BACK HORNとの出会いがあったと思います。どの楽曲やアルバムで知ったとか、どんな精神状態だったとかね。20周年のタイミングで集まってくれた人もいるだろうし、本当に嬉しいです。あの曲を聴いてた時はこうだったけど、昔よりは誇らしく生きられてる。そんなことを実感したりしながら、一緒に時間を過ごしていきましょう”と。
松田が話した通り、ここに集まったお客さんの多くはそれぞれのタイミングでTHE BACK HORNと出会い、いろんな局面で彼らの楽曲に救われ、行き場のない気持ちや心の隙間を埋めてきたのだと思う。曲を聴けば当時の記憶が蘇るし、背中を押してもらったことも忘れられない。久しぶりにライヴへ来た人も、きっと変わらぬ包容力と安心感が味わえたのではないだろうか。絶望から希望を、闇から光を見出すように、「初めての呼吸で」以降は胸に突き刺さるばかりでなく、染み込む音も増えてくる。
レゲエ色の濃い「ヘッドフォンチルドレン」は山田のピアニカソロ、岡峰の口笛パートもさることながら、やっぱりオーディエンスの合唱が重なる部分がたまらない。武道館の空間で聴くと格別だった。繊細なアンサンブルのまま、続いては「美しい名前」。孤高かつ異端でありつつも深いやさしさを感じさせるTHE BACK HORNの音楽性が、山田の絞り出す声で極まっていく。このあたりになると、歌い手と聴き手がより一対一で向き合う様相に。「未来」の後半、ハンドマイクに代えて全身全霊で歌い切る山田の姿を食い入るように見つめてしまったのは自分だけじゃないはず。気付けば辺りが大きな拍手で沸いていた。
冒頭に記したグッとくるMCを経て、ライヴは後半へ。“『KYO-MEI祭り』まだまだいこうぜー!”という山田の呼びかけで始まった炎越しの「Running Away」、スクリーンに勇壮な“THE BACK HORN”のロゴが浮かび上がってバクパイプ音とともに突っ走った「グローリア」と、クライマックスに並ぶ近作がキャリアの充実を証明している。しかしながら、バンド20年の道のりはもちろん平坦なものだったわけじゃない。「Running Away」の歌詞通り、今が《思いがけない未来》なのも間違いない。そう言えば、「グローリア」の歌い出しも《人生どう転がるか分からない それを楽しんだもん勝ちだ》だった。THE BACK HORNの生き様を曲が伝えていくこの感じ、思わずゾクゾクしてしまう。もうひとつ付け加えるなら、2番の《友達よ つらかったね 話してくれてありがとね 今夜は涙が止まるまで しょうがねえって言ってやる》。これってTHE BACK HORNの楽曲の在り方そのものだし、リスナーへの寄り添い方さえ言い表わした一節のようでもある。
絶望的状況に光を差すような「シンフォニア」でさらに高まり、本編ラストは4人の凛々しい表情に痺れた「コバルトブルー」、ファンの雄叫びも狂い咲く「刃」の弾丸コンボ!! 全開の照明の中、《立ち上がれ 死んでも譲れないものがある 振り向くな 後ろに道は無い 突き進め》という歌詞、屈強なサウンドに乗せて放たれる金銀の紙吹雪がまた独特の美しさで、改めて唯一無二のバンドであると思い知らされたのだった。
アンコールでも名曲「冬のミルク」、小説家・住野よるとのコラボ曲「ハナレバナレ」と、生きる証を刻んだ人間の愛おしさが滲むナンバーを最後まで4人だけで届けたTHE BACK HORN。そして、山田が“また生きて会おうぜ!”と約束し、松田のパワフルなカウントから「無限の荒野」へ。《我 生きる故 我在り》をタフに体現して、20周年の祭りは盛大に幕を閉じた。
撮影:AZUSA TAKADA/取材:田山雄士