窪田正孝×柚希礼音が“ファンタジッ
クホラー”の世界に挑む 『唐版 風
の又三郎』質疑応答取材会&ゲネプロ
レポート

1974年に状況劇場公演として初演された唐十郎の傑作舞台『唐版 風の又三郎』が、劇団「新宿梁山泊」を主宰する金守珍の演出で、2019年2月8日(金)にBunkamuraシアターコクーンにて開幕する。2013年に同劇場で上演された『唐版 滝の白糸』(作・唐十郎、演出・蜷川幸雄)以来6年ぶりの舞台出演となる窪田正孝と、元宝塚歌劇団星組トップスターで退団後は多方面で活躍中の柚希礼音がダブル主演を務めるほか、北村有起哉、丸山智己、江口のりこ、石井愃一、山崎銀之丞、六平直政、風間杜夫ら豪華キャストが出演する。
初日に先立ち行われた質疑応答取材会と公開ゲネプロの様子をお伝えする。
公開ゲネプロ前に行われたフォトセッションと質疑応答取材会には、演出の金守珍、出演の窪田正孝、柚希礼音、北村有起哉、風間杜夫が登壇した。
『唐版 風の又三郎』質疑応答取材会 写真左から金守珍、北村有起哉、窪田正孝、柚希礼音、風間杜夫
明日の初日を前にした今の心境を聞かれると、窪田は「わからない世界に飛び込んでみたいと思って今回の出演を決めたので、唐版の中にある“言葉ではない何か”を感じられて、すごく楽しくてワクワクしています」柚希は「右も左もわからないところからお稽古が始まり、演出の金さんはじめ、皆さんにいろんなことを教わりながら今日まで来ることができました。エネルギーを持って丁寧にやってみようと思います」北村は「主役の二人は安定感抜群。そして、おじさんたちの破壊力がすごい。明日スタートしたら一気に千秋楽まで突っ走りたいです」風間は「初日からひた走って充実した稽古でした。金さんの中には最初から演出プランが出来上がっていて、極めて良いスピードで稽古できたのは彼の力だと思います」金は「素晴らしいスタッフと素晴らしいキャストで、演出冥利とはこういうことかと実感している。蜷川幸雄と唐十郎、二人の師匠の弟子として僕自身がこれから何を受け継ぐか、今作品を成功させてこれからも唐作品の演出を継続していきたい」とそれぞれ語った。

稽古中の思い出を問われると、窪田は「みんなで焼肉屋に行ったら、焼肉屋なのにまるでカラオケ店にいるかのような大合唱が始まってしまった」とメンバーの仲の良さがうかがえるエピソードを披露。柚希が「休憩時間もずっと面白い話が飛び交っていて、その話の中から唐十郎さんのことや、アングラ芝居のことなど、いろいろなことを学ばせていただけた」と語ると、北村も「休憩中に金さんと六平さんが雑談していると、それが面白くて結局みんなも話に巻き込まれて、それで休憩時間が終わっちゃった、ということがよくありました。とにかくエネルギッシュで楽しかった」と、稽古場での様子を語った。
『唐版 風の又三郎』質疑応答取材会 窪田正孝
金が「僕は、アングラは現代歌舞伎だと思っている。もう半世紀いけば文化として残るのではないかと自負している。僕はこの座組が大好きなので、風間さんを座長にしてこのメンバーで『風の一座』というのを立ち上げたい」と話すと、それを受けて風間は「私もあと10年20年は演劇を続けて、紫綬褒章はもういただいたので、次は文化功労章、文化勲章、最後は人間国宝と思っていたんですけど、この作品をやることでそれを一切諦めました。もう金さんとやっていくしかないですね」と笑わせながらも、金とのクリエーションに意欲を見せた。
6年ぶりの舞台出演で、6年前と同じくシアターコクーンの舞台に立つ心境を聞かれた窪田は「6年ぶりにこの劇場に来ましたが、どこかで蜷川さんが見てるんじゃないかな、というのが一番最初に感じたことでした。そう感じられるということは、蜷川さんとやってきたことが自分に沁みついていたんだな、と思いました」と6年前に演出を受けた蜷川への思いを吐露した。
今年芸歴20周年の柚希は、その幕開けが今作品でのアングラ演劇初挑戦となることについて「稽古場では衝撃を受けることばかりでした。これがアングラ演劇だ、と思いきやすごく美しい世界があったり、感動する戯曲だったり、幅が広いんだな、と思いました」と稽古を通して感じたことを語った。

本作の見どころを聞かれた金は「僕は唐十郎の作品を『ファンタジックホラー』と命名しています。日常の世界ではなく、死者たちの叫び声といった悪夢の中の輝きや忘れ去られているものを掘り起こすような戯曲です。美しい作品に仕上がっていますので楽しみにしていただきたいと思います」と熱く語った。
『唐版 風の又三郎』質疑応答取材会 柚希礼音
最後に観客へのメッセージを求められると、柚希は「本当に素晴らしい作品になっていますので、唐十郎さんの世界観を体感しにいらしてください」窪田は「この劇場が紅テントに変わります。それくらい勢いがありますし、みんなすごく自由に動いています。目に映るものすべてが本物なのか、ファンタジックなのかわからなくなるくらいの世界をぜひ見ていただきたいです」とそれぞれ今作品への意気込みを見せた。
続いて、第一幕の公開ゲネプロが行われた。
『唐版 風の又三郎』公開ゲネプロ
東京下町、代々木のテイタン前で二人の男女が出会う。風の又三郎を求めて精神病院から逃げてきた青年・織部(窪田正孝)と、恋人を探して宇都宮から流れてきたホステスのエリカ(柚希礼音)だ。ただ『風の又三郎』のイメージを介して結び付くもろい関係の二人の周囲には、次々と怪しげな人物たちがやってきて……。
『唐版 風の又三郎』公開ゲネプロ
宮沢賢治の童話「風の又三郎」をモチーフにしながら、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケ、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』、そしてこの戯曲の初演の前年である1973年に実際に起きた自衛隊員による隊機乗り逃げ事件など、様々なドラマの要素が盛り込まれており、唐独特の生き生きとしたイメージの飛躍がテンポよく連続して起こる。
『唐版 風の又三郎』公開ゲネプロ
現代劇の公演をテントで行うという新たな発想で60年代から演劇界にニューウェーブを起こしていた唐が、1974年に自身が率いる状況劇場で初演を行った今作からは、時代が2019年、そして場所が劇場に移ってもなお、紅テントの空気感が匂い立つようだ。アングラ演劇を追及し続けている金が、この戯曲の魂を見事に蘇らせている。そして、状況劇場を経て金が率いる新宿梁山泊の旗揚げに参加した六平直政が、これぞアングラ演劇という圧倒的な存在感を示す。
『唐版 風の又三郎』公開ゲネプロ
風間杜夫、北村有起哉、石井愃一、山崎銀之丞ら舞台経験豊富な役者たちが、確かな演技力で唐戯曲の世界を奔放に飛び回る姿を堪能できる贅沢に酔いしれながら、金が取材会で、アングラは現代歌舞伎だ、と言った言葉の意味が伝わってくるような気がした。
『唐版 風の又三郎』公開ゲネプロ
窪田も柚希も、人々を魅了するオーラをまとった風格で、舞台に登場しただけで観客の目を引き付けるのだが、特筆すべきはその声だ。二人の声は劇場の空気を振動させ、その響きは耳を通じて心に届く。唐戯曲の言葉の力に負けない、強い声を持っている二人だからこそ、この作品のダブル主演を務めることができるのだろう。表情、しぐさ、身のこなし、それらすべてが力強く美しい声に支えられて伸び伸びとしたダイナミズムを見せる。

『唐版 風の又三郎』公開ゲネプロ
初演当時、観客の圧倒的な熱狂の元に迎えられたこの作品が、45年の時を経た現代の“熱狂”という言葉とは距離を置いたような、どこかシニカルな空気が支配する社会において、それでも変わらない人間の根源に脈々と流れる血の温かさを投げかけてくるようだ。唐戯曲は決して「昔書かれた古い戯曲」ではなく、上演されているその時代を生きる人々の「今」とダイレクトに響きあう力を持っている。

金は、今回の上演を「やっと大輪の花がこのシアターコクーンで咲く」と表現した。彼が長年この戯曲の演出に何度も挑戦し、向き合ってきた集大成となることだろう。その花の咲くところを、ぜひ劇場で目撃して欲しい。
取材・文・撮影=久田絢子

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