斎藤司×朴璐美 『レ・ミゼラブル』
新テナルディエ夫妻の愉快な対談~闇
ある夫とダメンズ好きな妻⁉

日本初演から30年余、毎回新キャストを迎えて新たなキャラクター像を開拓することで、そもそも人間味が詰まった物語を無限に豊かなものにしてきた『レ・ミゼラブル』。今回のオーディションを勝ち抜いた多彩な新キャストの中でも、ひときわ目を引くのがお笑い界と声優界からミュージカル初参戦を果たす、テナルディエ夫妻役の斎藤司(トレンディエンジェル)と朴璐美だ。インタビュー前に行われた写真撮影ですでに、息ぴったりの様子でさまざまなポーズを繰り出していた二人。何を聞いても、まるで夫婦漫才のようなやり取りが飛び出す愉快な対談となった。
「斎藤さん、もうしゃべらないでください!」(朴)
――撮影中から息がぴったりでしたが、もうかなり一緒にお稽古されているのですか?
斎藤 いや、お会いするのは今日で3回目ですね。でも朴さんがね、もうお調子者だから。
朴 ちょっとやめてください(笑)、斎藤さんに合わせてるんですから!
斎藤 そうですか? 僕最初に会った時から、よくしゃべる人だなと思ってましたよ。
朴 ウソ(笑)。私、そんなにしゃべってます?
斎藤 皆さんと稽古してる時に、ひとりで「ヤバいヤバい」とか「吐きそう」とか言ってたじゃないですか(笑)。もちろん、緊張されてのことだと思いますけど。
朴 そうなんですよ! 小出しにしていかないと、本当に吐いちゃいそうだから(笑)。
斎藤 やっぱり朴さん、愉快な人ですよ(笑)。
朴 そんなことないです! 私なんてもう、ネズミのような人間です。
斎藤 どういうことなんですかそれは(笑)。ネズミにも色んなエッセンスがあるからな。
朴 なんかこう、チュチュチュチュチュっていう感じですよ(笑)。私の斎藤さんの印象は、すごくソフトリーで繊細で、それなのに舞台に出た瞬間に会場を“俺色”に変えちゃうすごい方だなあって。もう、イヤになっちゃいました(笑)。
斎藤 いやいや(笑)。そんなこと言いながら朴さん、ちゃんとすごい上手いですからね。
朴 ちょっと! なんでそういうこと言うんですか! もうしゃべんないでください!
斎藤 いやいや取材だから、しゃべらないと(笑)。
朴 まあ、それはそうですね(笑)。
――ぜひしゃべってください(笑)。ご出演が決まった時の、お笑い界と声優界からの反応というのはどんなものでしたか?
斎藤 お笑い芸人の反応は、三者三様という感じですね。すごいなって言ってくれる人もいれば、まあそんなに博学な人ばっかりじゃないんで(笑)、すごいことだって分かってない人もいて。意外と相方なんかは、「斎藤さんすごいやん」って言ってきましたね。「ビッグマネーだね」とも言われて、「そうなのか?」みたいな(笑)。
朴 私は、周りにも「レ・ミゼ」が大好きな方はたくさんいて、尊敬の眼差しっていうとおこがましいですけど、憧れみたいなものは向けられます。それはうれしいんですけど、私の名前とかけて「今年は“ロミゼラブル”だね」ってジョークには、顔で笑って心で泣いてました(笑)。
斎藤 いやいや、期待してくれてるんですよ(笑)。
朴 それがプレッシャーなんですよ! 今はまだ新キャストがメインの稽古ですけど、これから同じ役の先輩方とも一緒にやると思うと、緊張で本当に吐きそうです。
斎藤 でも僕も、いわゆるレギュラーメンバーの方たちとお会いするのは緊張します。クツ隠されたりとか、そういう洗礼があるのかなとか。
朴 あはははは! でもほ~んとに緊張しますよね。メイクさんに隠してもらいましたけど、私いま頬に大きなニキビがあって、この年でそんなことになったのは緊張のせいだと思ってます(笑)。
――今のお稽古は歌が中心かと思いますが、感触はどうですか? 昨年の新キャストお披露目会見では、歌に関して斎藤さんは自信を、朴さんは苦手意識を持っていらっしゃる印象を受けました。
斎藤 あ、僕そんなふうに見えました? だとしたら、過去の自分を呪いたいです(笑)。歌は上手いほうとされてきたんですけど、それはあくまで“芸人のなかでは”ですからね。本当にカラオケレベルの話で、本格的にやったことがあるわけじゃないんで。歌歴って言ったら、浜崎あゆみさんとかAAAのコンサートでちょっと歌ったことがあるくらいです。
朴 ……それ、すごいじゃないですか!
斎藤 いや、芸人としてなんで(笑)。だから今、稽古で皆さんの歌声を聴いて「ヤバい」と思ってるところですね。でも大丈夫です、4月の初日には皆さんとピッタリ並ぶ予定ですから。僕、調整は上手いんで、はい。
朴 マジですか⁉ もうヤダ、すごいすごいすごい!
斎藤 いや、だから、そんなこと言って朴さんのほうが上手いじゃないですか! 朴さんはハードルを下げておいて、棒高跳びで跳ぶようなタイプなんですよ。僕はハードル、上げて上げてくぐるタイプなんで(笑)。
朴 ちょっともう、本当にやめて、静かにしてください(笑)! 私も歌の発声は本当にやったことがなくて、声優をやっているなかで自分名義の歌を出したことはありますけど、それはあくまでキャラクターとして歌ったもの。カラオケは好きですけど、歌はとにかく苦手なんです。
斎藤 あ、でもカラオケは好きなんですね。
朴 演歌が好きなんです。舞台前の発声練習は、いつも「天城越え」って決めてて(笑)。
斎藤 「天城越え」が歌えるって、やっぱり上手いじゃないですか。
朴 違う、違う、そうじゃないんです! もう、言わなきゃよかった(笑)。稽古をしながら、自分がいかに自己流で歌ってきたかを突き付けられているようで……。皆さんの歌を聴いて、「歌ってこういうものなんだ!」と思ってるところです。
斎藤 それは思いますね。朴さんも僕も、稽古初日は感動して泣いてましたもんね。これをタダで、サラウンドで聴けるなんてラッキーですよ本当に。
朴 そうですね。なんかもうポカンとしちゃって、自分の歌詞が飛んじゃいました(笑)。
「役作りのために、皆さんの財布は狙っていきたいです」(斎藤)
――芝居の稽古はまだこれからだとは思いますが、現時点でのキャラクター像、同じ役が複数いるなかでの、自分なりの役作りプランなどについてお聞かせいただけますか?
斎藤 やっぱりコミカルさというのは求められてるものだったり、出せるものだったりするのかなと思います。あとはテナルディエということで、いま僕、虫歯があるんですけど、それは一応治さないようにしてますね。浮いた治療代を別のところに回すという、テナルディエ・スピリッツを持って今ちょっとやってます、はい。
朴 めっちゃ面白い! ズルいなあ~。
斎藤 あとその、テナルディエの闇みたいなところは、僕も持ってるもののような気がしてて。例えばですけど、優先席に座ってる若者とかを見ると……「こいつに運悪いことでも起きればよいのに」とかちょっと思っちゃったりするんですよ(笑)。でも表向きは人当たりがいいってところも、客にいい顔しといて裏で財布をくすねるテナルディエっぽさかなと思うんで、そこをうまい具合に増幅させていけたらいいなと。だから現場でもやっぱり、演者の皆さんの財布は狙っていきたいですよね。
朴 あはははは! 意味が分からない(笑)。
斎藤 役作りでくすねる。もちろん公演が終わったら返しますんで、9月までにいくらくすねられるかです(笑)。朴さんは役作り、してないんですか?
朴 まだ分からないことがたくさんあるので、あんまり考えないようにしてます。でもなんというか、すごく可愛らしい人だなって思うんですよ、テナルディエ夫人って。乙女だった頃にテナルディエに乗せられちゃって、結婚してみたらどうしようもないダメンズで(笑)、だけど絶対に自分の元からは去らせないぞっていう、愛の深さみたいなものがある人なんじゃないかなって。世の中のダメンズ好きな女性たちに、シンパシーを感じて勇気を持ってもらえたらなと思います。だって旦那のこと、娘のエポニーヌ以上に愛している感じがしませんか?
斎藤 確かに、それはありますね。
朴 テナルディエ夫妻は悪党だと確かに感じる描写ですけど、じつはいちばん正直に生きてる人たちなんじゃないかって気がしています。
斎藤 役作り、してるじゃないですかちゃんと。結局頼りがいあるんですよね、朴さんって。
朴 だからやめてくださいって! ほ~んとに怖い、気を付けなきゃ(笑)。
――新しいテナルディエ夫妻像が生まれそうで、すごく楽しみです。ちなみにお二人は『レ・ミゼラブル』、あるいはミュージカルをご覧になったことはあるのでしょうか?
斎藤 僕は勉強不足で、ミュージカルは数えるくらいしか観てなくて、「レ・ミゼ」も決まってからロンドンで観たくらいです。でも僕はお笑いも、やるって決めてからルミネに観に行ったんですよ。だからもしかしたら、今回でミュージカルに激ハマリして、これからさらに本格的にやりたいって思う可能性はありますよね。お客さんのほうから、「これでラストで」って言われるかもしれないですけど(笑)。自分の人生が全く想像してなかったほうに行くかもしれないと思うと、今は不安よりワクワクがすごく大きいです。
朴 私、「レ・ミゼ」は、坂本真綾ちゃんとか平野綾ちゃんが出てた時に観には行ったんですけど、その時は“友人を観に行った”という感じで。おととしニューヨークでたまたま『ファン・ホーム』という作品を観た時はすごく感動しましたけど、自分がやるという目線でミュージカルを観たことはなかったです。私、きのう47歳になったんですけど…
斎藤 えっ、朴さん47歳なんですか⁉ 見えないですね。
朴 斎藤さんおいくつなんですか?
斎藤 僕もうすぐ40です。
朴 わっか~い! 私のほうがだいぶお姉さんですね。
斎藤 いやでも、そういう感じ全然しないですよね。
朴 しますしますします(笑)。47歳にしてミュージカルに初挑戦することになるなんて夢にも思っていなかったし、そもそも声優になるとも思っていなかったから(笑)、面白い人生だなと思いますね。斎藤さんと違って私、今はまだ不安でいっぱいなんですけど、この不安感を47歳にして経験できるのはありがたいことだと思って頑張ります。
斎藤 でもそうか、きのう誕生日だったんですね。おめでとうございます。知ってればね。
朴 あ、プレゼント? まだ大丈夫ですよ、次の稽古の時にでも(笑)。お待ちしてまーす。
――テナルディエ夫妻感が満載のやりとりで、ますます期待が高まります(笑)。最後に改めて、全国5都市の皆さんにお誘いのメッセージをどうぞ!
斎藤 本当にもう、僕以外がみんなすごいんで、現時点で間違いなく、自信を持ってオススメできる舞台です。あとは僕とか朴さんとかの新たなエッセンスが、そこにどう作用するか。良くも悪くも作用はするはずなんで、調子の良い回と悪い回があることも含めて(笑)、ドキュメントとして観てほしいなと思います。
朴 もう~、コメントが上手!
斎藤 いやいや、次、朴さんの番ですから(笑)。
朴 はい(笑)。こんな歴史ある素晴らしい舞台に出演できることは本当に、自分の人生においてかけがえのない出来事だなと思っています。でもそこにとらわれ過ぎず、作品の伝統と私が培ってきたものが混ざり合っていい化学反応が起こる、そんな舞台になるよう頑張りますので、新たなテナルディエ夫妻をぜひ観にいらしてください。というか、とりあえず、観たことない人は観ちゃえばいいんじゃない?って感じですね(笑)。皆さん本当にすごいので。
斎藤 朴さんもコメント、上手いじゃないですか。
朴 そんな、私は斎藤さんについて行ってるだけですから。
斎藤 とんでもないです。朴さんがうまい具合に持ち上げて、でもしっかりまとめてくれるからやりやすいんですよ。
朴 またそうやって。怖い怖い!
斎藤 いやなんでですか、普通のこと言ったのに(笑)。あとそうだ、これが掲載される頃には製作発表の動画が公開されてると思うんですけど、あの時は二人とも、喉の調子が最悪だったんで。
朴 (咳払いしながら)そうなんですよ、もうガラッガラで。
斎藤 これだけはちょっと、言っとこうと思って(笑)。
朴 さすが、頼もしい!やっぱり私、斎藤さんについて行きますね(笑)。
【動画】Mater of the House/斎藤司&朴璐美&アンサンブルキャスト

取材・文=町田麻子  写真撮影=中田智章

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