KAAT2019年度ラインナップ発表会開催
 森雪之丞、ケラリーノ・サンドロヴ
ィッチの作品も登場

2月6日(水)、神奈川・KAAT神奈川芸術劇場の2019年度ラインナップ発表会が同劇場にて行われた。KAATの芸術監督を務める白井晃が、公共劇場であるKAATにおいて「劇的なるものを創造し、劇的なるものと出会う場所となれるよう、より多くの方に足を運んでいただき、芸術に触れていただけるような作品を上演」すべく、様々な脚本家、演出家、団体にオファーをして出来上がったのが今回発表されたプログラムとなっている。
この日、白井と共に登壇したのは以下の顔ぶれ。(作品紹介順)
【演劇】長塚圭史、多田淳之介、松井周、森雪之丞、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)、杉原邦生
【美術・キッズプログラム、ダンス】小金沢健人、山本卓卓、渡邉尚、山田うん
2019年のラインナップの全貌は本ページの下部にまとめて掲載する。ここでは登壇者が関わる作品をピックアップして紹介する。
まずはこの日の司会を務めた白井から挨拶。「私がKAAT芸術監督を務めるようになって今年で4年目。KAATが東京から近くて遠い劇場という事でオリジナリティを出していこうとしてきました。演劇やダンス、身体表現、現代美術、音楽……そういったアートが複合的にある劇場でありたいとプログラムを組んできた訳ですが、徐々にそのような空気が作れてきたかなと自負しています」とこれまでの成果を振り返り、2019年度のラインナップについて「昨今“場”に足を運ぶことが少なくなってきている状況で、我々が“場”を持っているということをいかに力強く打ち出せるか、今年度は表現の幅を広げて濃い演目をプログラムしていきたい」と作品の選定理由に触れていた。
白井晃
年度の開幕を告げる白井の演出による『春のめざめ』『恐れを知らない子供たち』は、別途紹介するのでここでは割愛。当日は進行の都合で【演劇】【美術・キッズプログラム、ダンス】に分けて紹介された。
【演劇】
■『常陸坊海尊』
作:秋元松代 演出:長塚圭史
秋元松代の幻想的な至高の名作を手掛けることについて、長塚は「この作品は劇場の方から提案されたんですが、とんでもないモノに手を出すことになった、非常にやりたくないんですけど(笑)」と言うと会見場の空気がふわっと柔らかくなる。続けて「やりたくないことはないんですけど、大変なものを引いてしまったなとは思っています」と語った。さらに「日本に数々ある不思議で、力強い伝承を見事にくみ取って現代劇に仕上げた作品。読めば読むほどどうやってやればいいのかわからなくなる大変な作品ですが、そんな作品に向き合えることを光栄に思っていますし、上演される機会も相当少ない作品だと思うので是非期待していただけたらと思います。素敵な俳優さんたちも決まってますので、発表するのが楽しみです」と説明。
長塚圭史
■『ゴドーを待ちながら』
原作:サミュエル・ベケット (白水社「新訳ベケット戯曲全集1」) 翻訳:岡室美奈子 演出:多田淳之介
多田は「2011年の東日本大震災以降、ベケットが上演されることが増え、作品が持つ不条理の力が日本に必要だなと感じています。『ゴドー~』にしろ『Happy Days』にしろ劇場でやるのが一番面白いと思っています。今回の作品は出演者の年代を分け、ざっくり言うと『えらい待ったなあ』という上の世代と『これからこの人たちずっと待つんだなあ』という若い世代、元号で例えるなら“昭和平成バージョン”と、“新元号バージョン”として2バージョン上演する予定です。元号が変わるいいタイミングでお客さんも新しい時代に入ったなと思って楽しんでいただきたいです。『待っている時間』って不毛な時間と思われがちですが僕はポジティブに面白くとらえたい。最近の僕らは待たない生活をするようになったので、身体を使って待つことをいろいろな角度で見れたらいいな」とコメント。
多田淳之介
■『ビビを見た!』
原作:大海赫 上演台本・演出:松井周
出演:岡山天音 石橋静河 樹里咲穂 久ヶ沢徹 瑛蓮 師岡広明
「白井さんと共に、埋もれている名作を掘り起こしたいと話をしていて、お互いネタを出し合う中で『これは絵本なんですけど』と出した本が『ビビを見た!』。この原作者・大海赫さんの作品『メキメキえんぴつ』が(僕にとっては)トラウマ絵本というか、子どもの頃に本当に怖くて押入れの隅に隠しておく、でも気になって見ちゃって目に焼き付いてしまい夜眠れなくなる、そういう本だったんです」と記憶をたどる松井。
「『ビビ』は大人になってから読んだのですが、これも子どもの頃に読んだらトラウマになるだろうなという、終末世界のお話です。目が見えない男の子が7時間だけ目が見えるようになるんですが、その代わり彼以外全員の目が見えなくなり、日本中がパニックになるという話。どんどん交通事故が起きたり、目が見えないのに電車が全速力で走りだすとか、ひっくり返った世界で男の子も避難している最中にビビに出会うんです」とあらすじを語る。「日本人が、何か同じ方向にワーッと流れてしまう状態をうまく舞台に乗せられないかと考え、この作品を選びました。これはキッズ・プログラムではありません。キッズにしては残酷な描写があるかもしれないので、大人向けにやる事にしました。岡山天音さんと石橋静河さんは絵本で考えていたのとぴったりのキャスティング。全員目が見えない世界をどう表現するかにこだわりたい。演劇はテクノロジーが発達し現代においてもどこかアナログな手法で現代を表してきたと思うので、できるだけアナログな手法でみなさんにこのパニック状況を体感していただける作品作りをしたい」とこだわり所に触れた。
松井周
■新作ミュージカル 「怪人と探偵」
原案:江戸川乱歩 脚本・作詞・楽曲プロデュース:森雪之丞
テーマ音楽:東京スカパラダイスオーケストラ 作曲:杉本雄治(WEAVER)
演出:白井晃 出演:中川晃教 加藤和樹 大原櫻子 ほか
森は、「ミュージカルはブームと言われていますが輸入品ばかりで、音楽的な目線からいうとカバー曲ばかり。そろそろ日本独特のミュージカルがあってもいいんじゃないかなと思って白井さんに相談した」と立ち上げの背景を語る。「二十面相役に中川晃教、明智小五郎役に加藤和樹、その間を取り持つ謎の令嬢に大原櫻子。音楽を作ってきた者としては、ミュージカルは『歌』だと強く思っていてセリフでは絶対に言えない心の言葉を歌詞にするからミュージカルとして存在するわけで。これを大きな武器として作品を作っていきたい」と力を込めた。
森雪之丞
■『ドクター・ホフマンのサナトリウム~カフカ第4の長編~』 (仮)
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
KERAは「映画で言うとフェイクドキュメンタリーやモキュメンタリーというジャンルに近いのかもしれないですけど、カフカの遺稿は3作しか見つかってないのに『4作目の遺稿が見つかった』という設定でそれを舞台化しようとする人々を描く作品を作りたいと思っています。戯曲が見つかった場合そのままやればいいのですが、小説が見つかったということにしてそれを舞台化する面倒くさいことになっています(笑)」と骨子を説明。実はこれまでもKERAは自身のツイッターアカウントで「こんな話を作ろうと思っているんだけどどう思う?」と自身のフォロアーに問いかけ反応がいい物を作品にしたと明かし、今回のカフカの件もそんなやり取りで反応がそこそこ良かった一つであると楽しそうに話していた。
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■KAAT・KUNIO共同製作 KUNIO15 『グリークス』
演出・美術:杉原邦生 翻訳:小澤英実
普通に考えれば9時間もの、と白井が説明する長編戯曲「グリークス」が今回全3部一挙上演される。杉原は「NHKで蜷川幸雄さんがやった『グリークス』を観て、こんなに長い作品があるんだ、こんなに長くても映像でも観続けられる面白い演劇作品があるんだ、と衝撃を受けた日から、いつか自分で上演したいと思い続けてきた作品です。これまで『エンジェルス・イン・アメリカ』『木ノ下歌舞伎』『三人吉座』とやってきて、長尺物は慣れておりますので、皆さん、眠眠打破などを飲んで楽しんでいただけたら(笑)」とコメント。
杉原邦夫
■『アルトゥロ・ウイの興隆』
作:ベルトルト・ブレヒト 演出:白井晃
白井は、本作について「ヒトラーを題材にした寓話劇をこの時代に上演すべきだろうと思い、決定しました。独裁者が出てくるというのは、独裁者を求める群衆もまたいるのではないか、それを希望してしまっている我々の気持ちはどこにあるのだろうという視点からこの芝居を作っていきたい」と語り「音楽劇仕立てにしてソウルミュージック、ファンキーミュージックなどで人々が高揚するさまを利用して本作を描ければ」とプランを語った。
■地点 『シベリアへ! シベリアへ! シベリアへ!』
テキスト:アントン・チェーホフ 演出:三浦基
出演:安部聡子 石田大 小河原康二 窪田史恵 小林洋平 田中祐気
この日は都合により、ビデオで登場した三浦。本作について「チェーホフの『三人姉妹』に出てくる『モスクワへ!モスクワへ!モスクワへ!』という台詞をもじってタイトルにした。理想郷がシベリアなのかモスクワなのかを考え、これまであまり使われた事がなかったチェーホフの短編小説を用いて、なぜ流刑地だったサハリン島へ探索に行ったのか、などを明るくコント風に描けたら」と伝えていた。
【美術・キッズプログラム、ダンス】
■『小金沢健人展 Naked Theatre -裸の劇場-』
世界的に活躍する美術作家・小金沢健人の大規模個展をKAATにて開催する。「KAATで上演されているものについてはまったくの門外漢。今日登壇されている方々の公演を一度も観た事がないくらい。こんな門外漢に劇場を使って展覧会を、と薦められました。初めて劇場を観たら何で扉が二つあるのか、部屋は真っ暗、真っ黒で、何かの装置があり、天井からは何かが吊るされている、空調は完全にコントロールされている。素人から見ると劇場は凄く面白いなと思い、劇場からすべての物をとっぱらって裸にしたいと考えました。この劇場を演出する『演出家』というのなら僕も今回は『演出家』の一人かもしれません」
小金沢健人
■『二分間の冒険』
原作:岡田淳 上演台本・演出:山本卓卓(範宙遊泳)
出演:百瀬朔 佐野瑞稀 下川恭平 亀上空花 小林那優 若松武史
「主催公演をお願いする演出家では最年少」と白井から紹介された山本は「原作は王道のファンタジーだけど、いろいろな細かい人間の様が詰まっている非常に豊かな作品だなと感銘を受けました。登場人物が小学生なので舞台でも実際に小学生を使いたいとオーディションをしました。子役を使うのは初めてですが、オーディションで僕の出した指示に眉をひそめたような子を選びました」コメント。「僕は、できる限りデジタルに、映像を駆使していきたいと思いますが、演劇はデジタル化していくと、不思議と結果的にアナログになるものなので、おいおい結果アナログじゃん! というツッコミを待っていたいと思います」と和ませた。
山本卓卓
■頭と口✕Defracto『妖怪ケマメ:L’ esprit des haricots poilus』
出演:渡邉尚(頭と口) Guillaume Martinet(Defracto) 野村誠
ダンス、ジャグリング、サーカスの垣根を越え各界から注目を集めるカンパニー「頭と口」が、日仏国際共同製作で作るのが今回の新作。渡邉は「ジャグリングは現代サーカスというヨーロッパで一大ジャンルとなっています。どんな文化でもジャグリングぽいものが生まれているんです。日本ではお手玉とかけん玉とか、蹴鞠もそうかも。こんな普遍的なものが何故注目されていないんだろう、と。Defractoでは新しいジャグリング文化を作ろうと以前から取り組んでいます。ダンスという枠組みに恥じないくらいの身体能力をジャグリングでは使います。ノンバーバルで伝わる作品の新作が日本初演となるので楽しみにしていてください」と笑顔を見せた。
渡邉尚
■『NIPPON・CHA!CHA!CHA!』
作:如月小春 振付・演出:山田うん
如月小春の戯曲を、「言葉と身体の間で行き来するもののもどかしさを感じながらやってきた。如月さんの想いに共感し、ダンスで表現することと共に演劇でしっかり表現したいと思い、2パターンで上演することにしました。30年前、私はまだダンス業界にはおらず、山一證券に入社し、倒産を経てバブルの絶頂と墜落を身をもって体験しました。あの頃の日本の精神性が今の日本社会にどう結びついてるのか、オリンピックが始まる年に何を未来に観るのか、過去に何を観るのかをお客さまに感じていただきたい」と期待させていた。
山田うん
発表会の最後に白井は「今年のKAATが充実した一年になるようにしたい。KAATの体力の限界に挑戦するような1年になるかと思います」と反物のように年間のラインナップが記載されている資料を見せながら決意を語っていた。
なお、提携公演として、快快、庭劇団ペニノ、Baobab、DULL-COLORED POP、別冊「根本宗子」など意欲的かつ魅力的な団体の公演も予定されている。
2019年のKAATに大きな期待をしたい。
取材・文・撮影=こむらさき

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