『映画刀剣乱舞』荒牧慶彦インタビュ
ー 2.5次元と舞台、映画の境界に立
つ“俳優”が見据える現在と未来とは

『映画刀剣乱舞』が1月18日(金)から封切られた。同作の原案である『刀剣乱舞-ONLINE-』は、名立たる刀剣が戦士へと姿を変えた“刀剣男士”を率い、歴史を守るために戦う刀剣育成シミュレーションゲーム。その展開はアニメ、舞台、コミックとさまざまなメディアに広がり、劇中の“刀剣男士”たちが、2018年の大みそかに放送された国民的番組『紅白歌合戦』に出演するまでに広がった。そんな中、初の実写化映画である『映画刀剣乱舞』には、三日月宗近役の鈴木拡樹をはじめとした、舞台版キャストの多くを起用。『MARS〜ただ、君を愛してる〜』や『暗黒女子』の耶雲哉治監督のメガホンをとり、『仮面ライダー』シリーズなどの特撮・アニメ作品を手がけてきた小林靖子氏が脚本を担当し、織田信長の死を修正しようとする“時間遡行軍”と、正しい歴史を守る刀剣男士たちの戦いを、どのメディアでも描かれなかったオリジナルストーリーで映像化している。
舞台版から続投するキャストの中でも、山姥切国広を演じた荒牧慶彦は、舞台『刀剣乱舞』全作に出演してきた俳優。また、『テニスの王子様』2ndシーズンにはじまり、「2.5次元」と呼ばれるゲーム・アニメの舞台化作品に数多く参加してきた。一方で、『DANCE!DANCEDANCE!!』から『シュウカツ3』まで、映画でもキャリアを重ねつつある。2.5次元、舞台、映画と“境界”に立つ荒牧は、『刀剣乱舞』の新たな展開に何を思うのか? 俳優としての現在から未来の展望まで、インタビューでじっくり語ってもらった。
舞台『刀剣乱舞』で培ってきた自信
荒牧慶彦  撮影=早川里美
――まずは、『刀剣乱舞』が実写映画化されると知った時のお気持ちと、ご自身が出演することになった際の感想を聞かせてください。
「映画化する」とは聞いていましたが、「誰が出るのか?」ということは、ぼくは全くイメージできなくて。「映画化するんだ。誰が出るんだろう?」くらいのことしか思っていなかったんです。日が経つに連れて情報が明らかになってきて、「舞台版のキャストが数名出る。そして、荒牧も出るんだよ」と(マネージャーに)聞かされて。「ええ!?」って驚きました。自分では、「山姥切が出るなら、あの俳優さんが演じるのかな?」とか、勝手に予想してたんですけど(笑)。だから、(出演が決まった時は)嬉しさと驚き、二つの気持ちがありました。
――荒牧さんは、『テニスの王子様』や『舞台刀剣乱舞』など、いわゆる2.5次元舞台を牽引している俳優さんのおひとりだと思います。その立場から、映画化という展開をどう思われているのか教えてください。
2.5次元と呼ばれる作品で、これほどの(大規模な)展開って、今までなかったと思うんです。だから、また一つ下、10代前半から20代の若い俳優さんたちにも夢を見せられるな、と。また、ファンのみなさんに対しても、2.5次元の可能性を広げられるんじゃないかと思います。
――荒牧さんも含め、キャストの多くが舞台版から引き続いて出演されています。「自分たちのやってきたことが認められたのかもしれない」という喜びもあったのでは?
その気持ちは、めちゃくちゃあります。もちろん2.5次元だけじゃなく、そのくくりをとっぱらった“舞台”というものが、どんどん盛り上がっていってくれるといいな、と。もちろん、2.5次元が入り口でもいいので、そこから色んなものに興味を持ってくださるファンが増えてくれると嬉しいです。
――これまで舞台を観ようと思わなかった方も、本作をきっかけに興味を持つかもしれないですね。2.5次元を代表する、プレッシャーみたいなものはありますか?
もちろん、ぼくだけじゃなく、監督も含めたみんなが「下手なものは見せられない」という気持ちを持っていると思います。でも、ぼくらには舞台で培ってきた自信があるので。この『映画刀剣乱舞』という作品に限っては、ほかの役者さんが演じるよりも、キャラクターへの愛や理解が深いと思います。『刀剣乱舞』の世界観を分かっているからこそ、よりぼくらに任せていただけたのが嬉しかったですし、「ぼくらなりの『刀剣乱舞』を全国の皆様に観てもらうだけだ!」と思います。自分たちのフィールドで挑戦させていただけた、という感じです。
(c)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会 (c)2015-2019 DMM GAMES/Nitroplus
――脚本を読んだときの感想を教えてください。
こんな歴史があったら面白いな、と思いました。ぼくはすごく歴史が好きなので……「豊臣秀吉が実は〇〇」みたいな陰謀論のようなものって、色々と話題になるじゃないですか。(脚本には)まさにぼくがワクワクするような陰謀論じみたものがあったので、単純に「よくこんなことを思いつくな」と、小林靖子さんの発想力に驚きました。
――舞台版とは、また違った魅力のある脚本ですよね。
“刀剣から見た歴史”が顕著に表れているな、と思いました。 (登場人物や時代背景が共通する)舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺は、 ぼくらが学んだ歴史があった上で“刀剣の想い”も描いていたんですが、今回の映画では、“刀剣だけが見ていた歴史”が物語になっているので。
――舞台と映像では、見せ方も演じ方も異なると思います。難しかった点はありますか?
単純に言うと、舞台のほうが大きく演じないと客席の後ろまで伝わらないということがあります。それをそのまま映像にしてしまうと、不快感、不自然さが出てしまうので、そこをすり合わせないといけない。舞台の場合は、公演が始まってしまえば、一本のストーリーをそのまま演じることになりますが、映像ではクライマックスから撮ったり、時系列ではない順で演じることになるので、気持ちの切り替えが難しかったです。クライマックスはこう撮ったんだけど、次のシーンを撮って映像を見たら、「思っていたのと違った」という経験は、みんなあると思います。「ここでこういう演技をするんだったら、クライマックスではこうしたほうがよかった」とか。もちろん、それぞれの場面でベストは尽くしてはいますが、そういうところはとても難しいな、と思いました。
――それは、どう乗り越えたのでしょう?
クライマックスを撮って、次に“前のシーン”を撮るとき。前のシーンを撮るときにアイデアが浮かんだとしても、時すでに遅しなので。だから、自分の中で一本の筋道を作っておいて、自分の中で矛盾が生じないように演じていく、というのが秘訣なのかな、と。
舞台と映画、それぞれの山姥切国広
荒牧慶彦  撮影=早川里美
――舞台のアクション監督は、栗田政明さん(倉田プロモーション)が担当されていました。映画では雲雀大輔(スタントチームGocoo)に変わっていますね。殺陣はどう違うのでしょう?
舞台では、絶対に当ててはいけないんです。やっぱり、ケガに繋がってしまうので。そういう意識があったので、(最初は)映画の撮影の時にも刀を当てなかったんです。蹴りやパンチもそうです。でも、「当ててこい!」と言われました。やっぱり、当てていかないと“生感”が出ない、と。その違いを埋めるのが凄く難しくて。どうしても寸止めしてしまったり、相手との距離を保ってしまう。だから、本当に勉強になりました。
――そのほかに苦労した点は?
舞台でやるのと、外でやるのでは全く違うな、と思いました。足場が砂利道だったりするので……舞台だと、すぐに切り返せるんですけど、同じことをやろうとしても、外だと足を取られてしまう。ローファーを履いているので、めちゃくちゃ滑るんですよ。構えていると、足が開いていって、勝手に大股になってしまったり(笑)。それでも枠の中に収めないといけなんですが、そこは慣れるしかなかったです。自分でザザザーッと動いてみて、「これぐらいかな?」と試してみたり。
――大変ですね。映画ならではの演出・撮影で印象的なことはありましたか?
最初にカメラワークを見せていただけた、というのはあります。Gocooメンバーの方々が、あらかじめ殺陣をビデオコンテにしてくださっていて。映像で編集したもので、「この殺陣はこういう風に見える」と説明してくださったので、「ここは顔が見えないから、手(振付)を気を付ければいいんだな」と意識できたので、すごく助かりました。
(c)2019「映画刀剣乱舞」製作委員会 (c)2015-2019 DMM GAMES/Nitroplus
――ご自身は、映画の山姥切国広をどう演じようと思われたのでしょう?
映画の山姥切は、近侍(※編註:審神者の傍に仕える、刀剣男士のリーダー的役割)ではなくて、三日月宗近との関係性が舞台版ほどは深くないので、その違いを意識したこと。あとは、舞台でオリジナルの成長を遂げていますが、そこを一度リセットして、映画としての山姥切国広の居方を考えました。山姥切国広は映画では、たぶん誰よりも本丸を見続けている刀剣です。だから、もちろん山姥切国広としての物語はあるんですが、ちょっと達観している部分があるんじゃないかな、と思いました。三日月に対しても疑問を抱くけれど、隊長の言うことだから従う。
――映画での、山姥切国広と三日月宗近の関係性とは、どんなものなのでしょうか?
(三日月宗近は)この本丸の近侍で、たぶん主から最も信頼されている。たぶん、刀剣男士たちにも信用されているけど、ちょっと謎のある刀剣だと認識しています。
――舞台からずっと演じてこられた山姥切国広は、荒牧さんにとってどういう存在なのでしょう?
舞台の『刀剣乱舞』は、『義伝 暁の独眼竜』までは山姥切国広の成長の物語でもあると思うんです。それと同時に、ぼく自身、荒牧慶彦の成長の物語だと思っていて。だから、ともに俳優人生を歩んできた“相棒”のようなものだと思っています。
――なるほど。ちなみに、山姥切国広以外で、荒牧さんが注目してもらいたい『映画刀剣乱舞』のキャラクターはどなたですか?
羽柴秀吉ですね! ぼくが脚本で読んだ印象と、八嶋(智人)さんが演じた秀吉の印象がまったく違っていて、面白かったです。“猿”らしさはありつつも、もうちょっとクールで、したたかさが上回っている秀吉なのかな、と思っていたんです。ところが、八嶋さんは、最初はコメディ色が強くて、だんだんとしたたかさが見えてくる演技をされていて。だから、より怖い秀吉に見える。これはいい秀吉だな、と。八嶋さんとは同じシーンで共演は出来なかったんですが、楽屋や外で世間話なんかはしました。普段から常に笑いを求めていらして、気配りもすごくされる方です。
“俳優”と“2.5次元俳優”の違いはあまりない
荒牧慶彦  撮影=早川里美
――2.5次元の役作りでは、声までゲームやアニメのキャラクターに寄せることもあると聞きました。ただ、それをそのまま映画でやると不自然に見えてしまうのでは?
そうですね。もちろん、もとのキャラクターに寄せていくのは当たり前なんですけど、それだけだとただの真似事になってしまいます。そうすると、誰が演じても同じになってしまう。『刀剣乱舞』での役作りは、自分がやるからこそ、山姥切国広の魅力やお客さんの解釈が広がる、そう思ってもらえるように(舞台で)作り上げてきました。だから、それぞれの三日月宗近だったり、山姥切国広だったり、へし切長谷部なので、(映画でも)違和感はないんじゃないかな、と思います。
――荒牧さんは、理論的に役作りするタイプなのでしょうか? それとも、役が乗り移る、いわゆる憑依型?
どちらかと言うと、乗り移るタイプなのかな、と思います。一つスイッチが入れば、その役になり切るというか。それは、舞台も映画も同じなんです。ただ、映画はそのスイッチの入れ方が難しいな、と思いました。やっぱり、待ち時間がどうしても多いので。これは、どうしようもないことなんですけど。照明や音声を準備したり、飛行機(がとおりすぎるのを)待ったり、曇りが晴れるまで待ったり……そこで集中力を切らさないようにするのが、あらためて難しいと思いました。
――それは、どうやって乗り越えるんでしょう?
いや、もうそれは精神力です(笑)。どうしようもないことなので。
――『映画刀剣乱舞』『シュウカツ』と、舞台以外にも積極的に取り組まれています。「2.5次元俳優」ではなく、俳優として色々なことに挑戦していきたいという想いがある?
そうですね。ここ最近で生まれた想いは、「色んなことをやってみたい」ということです。もちろん俳優を中心にしていきたいんですが、俳優以外のことにもチャレンジしていきたい、という欲も出てきています。ぼくの中では、俳優と2.5次元俳優との違いはあまりないと思っていて。今、そういう括りがあることは間違いないですし、それがあるからこそ広まってきたジャンルですけど、根本的な作り方は同じだと思います。
――荒牧さんが俳優を目指すために、最初に目指したきっかけがミュージカル『テニスの王子様』(テニミュ)だったというのが非常に興味深いです。なぜ、テニミュだったのでしょう?
俳優を目指そうと思ったタイミングが、結構遅かったんです。芸能界という意味では遅すぎる、人によっては手遅れと思うかもしれない年齢だったので。じゃあ、そこで芸能界でやっていくとしたら、何が必要なんだろうと考えたら、まずは知名度、ファンの獲得、人気度だな、と。そこからスタートしないと、就職することになると思いました。色々調べて考えた結果が、当時若手俳優の登竜門と言われていた『テニミュ』だったんです。
荒牧慶彦  撮影=早川里美
――合理的な考え方ですね。おそらく、『映画刀剣乱舞』で裾野が広がって、2.5次元というジャンルは今後も発展していくと思います。荒牧さんは10年後も、ずっとアニメ・ゲーム原作の舞台に立ち続けたいですか?
ぼくは、やり続けたいですね。昔からアニメ・ゲームが大好きで……そういう意味では、今まさに夢見続けてきた世界にいるんです。だから、ずーっと続けていきたいです。10年後となると40歳近くになっているので、さすがに若い役は難しいかもしれませんけど、それならそれで、別のキャラクターでやっていきたいと思っています。
――俳優さんを始められた当初は、あまり映画を観ることに興味がなかったとおっしゃっていました。最近は、よくご覧になられるんでしょうか?
そうですね。自分が演じる側になると、気づくこともあります。最近観た作品だと、『ボヘミアン・ラプソディ』とか、ああいう伝記映画をやってみたいな、と思います。
――伝記映画で演じてみたい日本の人物は?
波乱万丈な人生を演じてみたいですね。任天堂の元社長の岩田聡さんを演じてみたいです。子どもたちに夢を与えて、素晴らしいじゃないですか。あとは、尾崎豊さん。みんな歌ってましたよ、「15の夜」とか。(リアルタイムで活躍したのは)ひと世代前ですけど、ぼくらの世代も好きだと思います。
『映画刀剣乱舞』は公開中。

インタビュー・文=藤本 洋輔 撮影=早川里美

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