二代目松本白鸚、十代目松本幸四郎が
襲名披露で19都市を巡る! 『松竹大
歌舞伎』製作発表レポート

高麗屋としては37年ぶりであった三代同時襲名披露をした、二代目松本白鸚と十代目松本幸四郎が「松竹大歌舞伎」で、2019年3月31日から4月25日まで全国19都市を巡る。平成三十一年度(公社)全国公立文化施設協会主催で、『口上』、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』、『奴道成寺(やっこどうじょうじ)』が上演される。1月21日に東京都内で行われた製作発表の様子をお伝えする。
一期一会の公演。高麗屋なりの歌舞伎のおもてなしを。
二代目松本白鸚(右)と十代目松本幸四郎
松本白鸚は「昨年は高麗屋三代襲名を37年ぶりにさせていただきまして、皆様のおかげで、無事に終わりました。ありがとうございました」と感謝の言葉から切り出して、「今回は、まさに一期一会の公演です。その場その場、一瞬一瞬を大事に勤めなければと思います。本当に楽しみでございます」と話した。
 
松本幸四郎は「1日限りの公演で、全国を回らせていただきます。その1日で少しでも歌舞伎に興味を持っていただいたり、現実とはまた違う時間を楽しんでいただいたりと、唯一の時間にしていただくように勤めたいと思っています。襲名披露ということで、父と私で、高麗屋なりの歌舞伎のおもてなしをさせていただきますので、是非とも多くの方にご観劇いただきたいと思います」と語った。
 
なお、松竹の安孫子正・副社長/演劇本部長は「全国津々浦々の地を巡らせていただくことが、現在の歌舞伎の復興にも繋がっているということで、感謝しております。東京と同じレベルの同じ芝居を地方の皆さんにお届けすることが大事なんだと、私どもも先輩から伝えられております。条件は色々変わってきますが、その精神を持って地方の公演を行うという先輩からの伝えが生きております。この公演を通して、歌舞伎の公演が全国の皆さんにますますご支援いただけるように頑張って参りたいと思います」と挨拶した。
 
二代目松本白鸚
続いて、質疑応答が行われた。一部をご紹介する。
 
ーー今回の演目を選んだ理由を教えてください。 
安孫子:色々ご相談をさせていただきました。すでに代表的な演目はさせていただきまして、それと被らないようにして、高麗屋の芸に関するもの、そしてこれから新しく挑戦していくものを含めながら、今回はこの『菅原伝授手習鑑』と『奴道成寺』に決めさせていただきました。
ーーそれぞれお役についての意気込みをお願いします。 
白鸚:『口上』を一番最初に持ってきていただいたのは、先ほど一期一会と申しましたけれど、やはり長丁場の襲名披露の公演と違って、1日1日がお客様との舞台を通しての交流なので、大事に大事に一期一会で勤めたいという思いからです。『菅原伝授手習鑑 車引』の松王丸(※役名)は、度々勤めさせていただいていて、息子とも染五郎時代にやっていますが、お互いに幸四郎、白鸚と名前が変わってからは初めて。初めての『車引』をお見せすることができて、大変光栄です。

十代目松本幸四郎
幸四郎:やはり荒事の役というのは高麗屋代々、得意の芸として演じる役。襲名ご披露させていただくお役としてましては、昨年の演目も全てそうですが、これ以上にない高いハードルというところで探して、その上位の演目だと思っております。『奴道成寺』に関しては、曽祖父七代目幸四郎が『奴道成寺』を上演した時に作られた壺折(つぼおり)がありまして、それを身にまとって、演じたいと思っていました。いずれにいたしましても、高麗屋にとりましての大事な大事なお役でございます。それでまずは、私の第一歩を多くの方に見ていただきたいと思っております。
ーー千葉県香取市での上演があります。市民向けにメッセージをいただけますか?
白鸚:私としては、香取市の皆さんには本当によくしていただいて、感謝の気持ちを思っております。息子も何度か伺っていますが、十代目幸四郎としては初めてだと思います。長い長い脈々と流れたご縁・繋がりを感じつつ、本当に嬉しい気持ちでいっぱいです。1回きりの公演と申しましたけれども、それとはまた違った思いです。楽しみにして待っていてください。
幸四郎:ご縁のある場所で、そこで襲名ご披露をさせていただくのは、ありがたいことだと思いますし、その分プレッシャーを強く感じております。各地を回らせていただきまして、本当に精一杯勤めさせていただきたいと思っておりますが、香取市は一番頑張りたいと....(笑)。特別な思いで勤めさせていただく場所でもございますので、各地そうですけれども、香取市向けにということで、一番ということで勤めさせていただきたいと思います(笑)
歌舞伎はいろんな見方ができる。興味のあるものを探してみてほしい。
二代目松本白鸚(右)と十代目松本幸四郎
ーー武蔵野市民文化会館の者です。当会館ではおそらく初めての歌舞伎上演です。初めての方でも楽しめるポイントを教えてください。
白鸚:初めて歌舞伎をご覧になる方が多いのですね。私の大叔父の十七代目中村勘三郎という先輩がおりまして、よく言っていました。「歌舞伎だからすごいのではなくて、すごいから歌舞伎なんだよ」と。当人は名人でうまい役者でそういうことを言ってもいいんですけど、歌舞伎はどうご覧になっても結構なんです。歌舞伎を楽しんでいただければ。いろんな理由でお客様もいらっしゃると思いますけども、最初の『口上』で歌舞伎とはとお話をしましょうか。伺っておいてよかったです。心しておきます。初めてご覧になる方のために、ご説明をしたいと思います。ぜひ楽しんで、面白かったと思って、お帰りいただけるように努力をいたします。
 
幸四郎:武蔵野市民文化会館では特別に頑張りたいと思います(笑)。歌舞伎はいろんな見方があります。あえてナビをしないで見るのが、歌舞伎の見方ではないかと思います。自分が興味があるものを探しに来ていただくような感覚でご覧になると面白く感じていただくのではないかなと。
 
ストーリーを追うだけではなく、例えば、色彩であったり、色彩と言っても、衣装、道具、メイク、カツラなどいろいろありますし、音楽も生です。役者も生声でセリフを言います。また、今回の演目としては、女方がとても少ない演目ですが、でも男が女を演じる女方にも注目していただきたいですし、黒子を追っていただくのも一つの見方かもしれません。いろんな見方ができる歌舞伎で、何か一つ探しにいだたくような感覚で来ていたけると、お楽しみいただけるのではないかと思っています。
二代目松本白鸚
ーー先日、成田屋の来年の襲名会見がありました(詳しくはこちらの記事)。高麗屋の襲名がその口火を切るような形でしたが、この時期に地方を回る位置付けや受け止めを教えてください。
白鸚:団十郎とは大変近い関係で、今度襲名いたす団十郎も私の親類です。高麗屋三代襲名をきっかけに、歌舞伎の機運がどんどん上がっていってほしいと思っています。
幸四郎:彼と私ははとこ同士になるわけですが、年代も近いので、一生一緒にやっていく歌舞伎の戦友、仲間でございます。その中で、大きな大きなことが起こるのは、本当に嬉しいことでもあります。お互いが上に上にという風に思っていくことで、少しでも歌舞伎が盛り上がっていけるように、互いに刺激しあって、頑張っていけるようにしたいと思います。
父がすごいところは「メールアドレス」
ーー昨年一年間、襲名披露公演をされて、何か親子ながら発見した意外な一面などありますか?
白鸚:去年は1年365日のうち300日芝居していたような気持ちでした。私が一つだけ襲名を自分なりに決意したのは、染五郎という器から芸が溢れてしまって、幸四郎という器を変えたらば、新たにそこに芸が詰め込まれるんじゃないかなと申しましたが、それを着実に十代目は成し遂げて、幸四郎の器になっていると思っています。襲名興行中は無我夢中で、お互い無我夢中でした。十代目はそれ以上であったのではないでしょうか。
十代目松本幸四郎
幸四郎:やはり、父はすごいなと思ったところは、名前が変わりますと、いろんなものを変えていくことにはなるんですが、メールアドレスが、父は幸四郎の時から「高麗屋」だったんです。私は「染五郎」というアドレスにしていたので、そうか、やっぱりすごいなと……(笑)。変えなくてはいけないものを、最初から先見の明というものがあった。やはりすごいなと思いつつ、今はまだ私のメールアドレスは「染五郎」でございます(笑)
「平成最後」の舞台に臨む、その思いとは
ーー平成という時代を締めくくる最後の舞台になるかと思います。改めて、この舞台を行う気持ちを教えてください。
白鸚:いち歌舞伎役者が大仰なことを申しますけれども、私は年代や年号が変わっても、脈々と流れている精神は変わらないのではないかと思っています。また、変わらないようにしなくてはいけないのではないかなと。確かに一つの時代が終わり、平成最後の襲名をさせていただくという感慨はございますけれども、それ以降も幕は開いているわけなので、気持ちだけはずっと持続して、きっとこれは死ぬまで持続します。年号が変わる寂しさはございますけれども、その反面、やはり精神や魂はメラメラと燃えているという気持ちでございます。
 
幸四郎:染五郎としての舞台が終わって一番感じたのは、「明日こそなんとかする、今日こそ何とかする」という思いで舞台に立ち続けていたということではないかと思います。染五郎としての舞台が終わった時に、もう明日はないとくくりました。反省ができない後悔のような思いに駆られた時がありました。それから、いろんな出会い、いろんな経験をさせていただきまして、襲名披露をしていただいたと思っています。
 
今度は自分が松本幸四郎だと皆さんに知っていただけるように、舞台に立ち続けていきたいと思っております。平成が終わって新しい年号になることで、平成という一つの時代が括られるわけで、最後の最後まで舞台に立てるのはありがたいことだと思います。自分の考えを振り返ったり、新たな気持ちになる時間だと思いますので、大事に過ごしたいと思いますが、昭和、平成、新しい年号と3つの時代を生きることになるわけで、新しい年号に生まれ育っていく方に“古い人”だと思われないように、常に若くありたいと思います(笑)

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