ストレイテナーが幕張ワンマン『21s
t ANNIVERSARY ROCK BAND』でみせた
姿と"その先"へ繋いだもの

21st ANNIVERSARY ROCK BAND 2019.1.19 幕張イベントホール
以前のインタビューでもライブ中のMCでも、ホリエアツシ(Vo/Gt/Key)はこの幕張イベントホールでのワンマン『21st ANNIVERSARY ROCK BAND』を、20周年イヤーの総括的な内容ではなく“この先”を提示する内容にしたいと語っていた。実際、これまでの道程に想いを馳せるようなシーンは、冒頭のセッション──まずホリエがギターをかき鳴らし、そこにナカヤマシンペイ(Dr)→日向秀和(Ba)→大山純(Gt)とバンドへの加入順で音を重ねていくという胸アツ演出だった──くらいだ。セットリストもディスコグラフィからわりと満遍なく選曲されたものだったが、それぞれの楽曲を懐かしむというよりは今の4人のプレイヤビリティとアレンジで鳴らされることへの新鮮な驚きと歓びの方が大きかったように思う。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
それにしても稀有なバンドだ。キャラクターもバラバラで、個々に音楽活動や表現活動を行いながらもガッチリと一枚岩のようにまとまったメンバー。あまり邦楽的ではない(とされる)アプローチを好んでいた時期の曲も、歌を中心に据えた楽曲の増えた近年の曲も、ライブで並んで演奏されると一様にフロアを突き動かすことのできる事実。MCなどで見せるゆるい姿と、演奏中の耳目を奪われるスキルや痺れるほどクールな立ち振る舞いとのギャップもそう。何より、そういう立ち位置や音楽性の特異さがキャリアを重ねるうちにより際立ってきているのに、ファン層の裾野はむしろ広がっていること、まずそのあたりからしてなかなか類を見ない。
ストレイテナー・ナカヤマシンペイ 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
「幕張メッセのバーサーカーに捧ぐ!!」(ナカヤマ)
ライブは、普段はアンコールで披露されることの多い「BERSERKER TUNE」を冒頭に据え、大会場でもすさまじい圧を叩き出すナカヤマを筆頭に、強烈なビート感でもって会場を震撼させる流れから始まった。アレンジされた導入部で歌詞を変えるのが恒例の「Alternative Dancer」では、ホリエが<踊ろう “いつもの”僕らのように/幕張の夜に 愛のダンスを>と投げかけ、ワッと歓喜の声が上がる。のちのMCによれば緊張していたらしいライブ序盤だが、メンバー間で何度も視線を交わして笑みを浮かべながらキメを重ねていく演奏からはむしろ、“普段通り”という印象を受けた。いや、広大な会場すら圧倒する音の迫力と精緻なアンサンブルを両立しているという意味では、普段以上か。
ストレイテナー・ホリエアツシ 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
メランコリックな陶酔が激烈なダンスナンバーへと塗り変わる「Man-like Creatures」から、MVのセルフオマージュ的な映像のもと演奏された「Lightning」、内なる熱を解き放たせ昂揚へと誘う「Braver」へ向かう流れからは、アルバムでいうと『Nexus』『CREATURES』に収録された中期のレパートリーと、現状世に出た中では最も新しい楽曲の間で通底する美学や嗜好が顕在化。続く流れは中盤におけるクライマックスともいえるもので、アグレッシヴな展開を含んだ「SAD AND BEAUTIFUL WORLD」「冬の太陽」を寸分の狂いもない演奏でフィジカルに畳み掛けたあと、大きな歓声に迎えられた「TRAIN」ではその極まったアンサンブルのまま疾走を開始するのだから、もうたまらない。自分たちの楽曲やライブに対しても、ある意味ファンと同じような目線で見ているところがある彼らだけに、演奏がバッチリはまるたびにテンションが上がり、そのテンションが次なる名演を生むという好循環が生まれているのが、客席から見ていても伝わってくる。
ストレイテナー 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
「VANISH」(SE)とともに背後のスクリーンにシュールでサイケな映像が流れ、一旦ステージを後にしたメンバーたちは会場中央のセンターステージへと移動。ループする「VINISH」の後半部分でSEから生音への見事なリレーを魅せたあと、「瞬きをしない猫」「KILLER TUNE」「DISCOGRAPHY」とダンサブルな楽曲を3連投。観客との距離が近く音響設備などが簡易的にもなるサブステージではアコースティック系の楽曲を演奏するのが通常だが、そこであえてバキバキのダンス・アプローチをする捻くれっぷりが自分たちらしい、と笑っていたが、結果としてはメインステージ側スピーカーからの外音とイヤモニの音の時差が大きく、かなり苦戦した様子(笑)。それでも日向のうねりまくりスラップしまくりのベースと、ナカヤマがシンプルなセットから放つ4つ打ちの打音に、レーザーやミラーボール、テープの紙吹雪といった特効も冴え、会場全体を巨大なダンスフロアに変える盛り上がりを生んだのだった。
ストレイテナー×秦基博 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
メインステージに戻る4人にさりげなく加わって現れたのは、スペシャルゲストの秦基博だった。“冬の名曲”と自画自賛した挙句「あんまりハードルを上げない方がいいよね」と発言するなどリラックスしたトークのあと披露したのは、当然、両者が共作した「灯り」。既にテナーのライブでもホリエのソロ弾き語りでも演奏されているものの、ストレイテナー✕秦基博としてライブで披露するのは今回が初だ。アコギをつま弾きながら歌う秦に寄り添うようなホリエのピアノと歌声は素晴らしい相性で、声質そのものはわりと違うはずなのに倍音が近いのか、ハモる箇所では2つの声がスッと溶け合うような瞬間が何度もあった。さらには「灯り」のカップリングとしてテナーがカバーしたバージョン(“疾走鱗”とのこと)で「鱗(うろこ)」をともに歌い、サビの高音部を張り上げて歌うなど、秦の中に存在するロックボーカリストとしての一面まで垣間見える贅沢なコラボとなった。
ストレイテナー×秦基博 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
ライブは後半へと差し掛かり、ホリエと大山がギターフレーズを重ねてはじまったのは、昨年リリースされたベスト盤のファン投票で1位を獲得した「REMINDER」。間奏で逆光を背負ってシルエットになった4人が向かい合うシーンなど、エモーショナルな瞬間が何度もあり、見渡せば、ビッシリと埋まった会場後方の隅っこまでたくさんの手が掲げられている。
「いやあ、終わりが近づいてきたな……ありがとね」と名残惜しそうなホリエが、この日はストレイテナーのこの先を見せる日にしたかった、でも未来のことなんてわからないから、自分たちは自分たちを裏切らない音楽を作ってまたみんなと一緒に楽しいライブをするだけ、と続ける。さらに未来へ向けて確かに言えることとして、「ストレイテナーは今までも、そしてこれからもずっとこの4人でやりたいと思います!」と宣言。沸き起こる大歓声。そして演奏されたのは「The Future Is Now」だった。
ライブで聴くとグッとバンド感が増すこの曲が、彼らの行く先を照らすかのように輝かしく響いたのは言うまでもなく、「シャイな人は強制しません」とこれまた彼ららしい前置きをした上で「みんなの声を聴かせてください」と7000人のシンガロングを呼び込んだ「Melodic Storm」、「シーグラス」で本編は締めくくられた。
ストレイテナー・日向秀和 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
アンコールで再登場すると、肩の荷がある程度降りたのか、それまで以上にいつものストレイテナーだった……主にMCが。
20分くらいあったので要約すると、ライブ後によく「泣きそうになった」と感想をもらうが、「泣いた」じゃないのかと若干不服(?)に思う。映画で泣けるシーンは『インディペンデンス・デイ』の大統領が戦闘機に乗り込むシーン(日向)と『千と千尋の神隠し』で千がおにぎりを食べるシーン(ホリエ)。日向はジブリでは『紅の豚』が好きで、大山は『天空の城ラピュタ』が好き、などなど。明らかにフリートークな展開を、待ってましたとばかりに歓迎する場内には笑いが絶えない。そんな弛緩しまくった空気を、ひとたび演奏が始まれば一変させられるのはさすが。「From Noon Till Dawn」「羊の群れは丘を登る」の2曲がオーディエンスのテンションに再点火すると、その熱は冷めやらずダブルアンコールへと突入する。
ストレイテナー・大山純 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
「俺たちは立ち止まらずに鳴らし続けるので、あなたのこの先の人生でまた俺たちの音楽が鳴る日がくればいいなと思ってます」(ホリエ)
この日のために作ったという新曲の「スパイラル」は、ツアー中の風景や客席と思しきロードムービー風の映像をバックに、リスナーへの想いをストレートな言葉で紡ぎ、最後は「まだまだ続く旅の途中で、また会いましょう」と、初期から歌い継いできた「ROCKSTEADY」を決意と再会の願いとともに鳴らしきってステージを降りた。
ストレイテナー 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)
約3時間、全28曲。ホリエの言葉通り、過去を振り返り懐かしむのではなく、今の彼らが過去20年間の諸々を全て背負って立ち、現在進行形の表現をすることによって、まだ具体的にはアナウンスされていないこの先の展開にまで大きな期待を抱かせるライブだった。最後にもう一つ。少なくとも僕の眼には、ここ何年もずっと、ストレイテナーは次から次へ大きなキャパシティを目指すような、ロックバンドの出世レース的なところからは距離を置いているように映っていたし、僕もそういうスタンスが心地よくてZeppとか新木場コーストへ足を運んでいた。でも、この日のスケール感あるライブとパンパンに埋まった場内を見てしまったら、これだけワクワクさせられてしまったら。アリーナクラスの会場で演るテナーももっと観てみたいと思わずにいられない。キャリア20年を超えてなお、歩みを止めることなく、可能性は広がり続けている。
やっぱりストレイテナーは稀有なバンドだ。

取材・文=風間大洋 撮影=Photo by Viola Kam (V'z Twinkle)

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